『本日12時30分、東海地方に…』
「しかしまいったな…」
学生服に身を包み、シンジ・マリオネッターは呟いた。
「まさか戦争の真っ最中とは…」
視線の先では、でっけぇ怪獣と戦自の航空機の戦いが繰り広げられていた。


第一話『人形襲来』


『――で、どうするシンジ〜? 牛乳女来ないよ〜』
シンジの右肩に?まっているフランス人形――アル――は、何時も通りのあどけない笑顔でシンジを見上げた。
『……緊急時に遅れるとは何を考えておるのだ、この牛は。やはり調査通りの無能牛人のようだな』
呆れたように呟くのは、頭の上に乗っている白髪の人形――キョウ――だ。
『……巨乳なんて巨乳なんて巨乳なんて巨乳なんて…』
微妙に壊れているのは左肩の日本人形――キラ――である。
ちなみに他の二体は、シンジのセカンドバッグの中でお休み中だ。
「さ〜て、どうしようかな?」
何時もの貼り付けたような微笑を浮かべ、そう呟くシンジ。
ほんとにマイペースだな、お前ら。
結局、そこらのバイクを拝借して(盗んで)、ジオフロントを目指す事になった。
余談だが、シンジたちが去って二時間以上たってから某無能最低牛女がやって来たのだが、あっさりN2の藻屑に消えた。はっきり言ってどうでもいい事である。

「……どうするのだ?」
「初号機を使う」
「初号機を?レイはまだ動けんのだぞ?!」
「予備が届いた……問題ない……」
とまあ、あまり変わり映えしないので少し飛ばします。

「貴方がサード・チルドレンの碇シンジ君ね?」
「違います」
金髪マッドが大口を開けて固まった。
何とかジオフロントに辿り着いたシンジ一向。
ゲートの保安員に頼んで迎えを寄こしてもらい、来たのがこの金髪マッド――赤木リツコ女史――だった。
シンジとしては、このまま暫く彼女の意外な表情を眺めていたかったが、話が進まないので更に口を開く。
「僕の名前は『シンジ・マリオネッター』です。『碇』の名はとうの昔に捨てましたので、二度とその名前で呼ばないでください」
若干殺気を込めて言うシンジ。彼にとって、昔の名で呼ばれることは最大の侮辱に値する事の一つだからだ。
「そ、そう。ごめんなさいね」
思わずびびるリツコ。
「つ、ついて来てもらえるかしら? お父さんに会う前に見せたい物があるの」
「ええ、構いません(成る程、例の人形を僕に見せる気か…ふふふ、好都合だ)」
穏やかな外見に反して、心の中では悪魔真っ青な笑みを浮かべるシンジ。
実は、彼の中ではある計画が進行しているのだが、それはまだ秘密である。
半ば引き気味のリツコの後を追い、シンジたちはその場を後にした。
ちなみに道中、キラたちの事を聞かれたが、「単なるマスコットです」と誤魔化した。

「冬月…後を頼む」
そう言い残し、ゲンドウは発令所にある一人乗り昇降機に乗りこむ。
「十年ぶりの対面か……」
床に沈んでいくゲンドウを見送りながら、冬月は一人、感傷に浸った。
「副司令、目標が再び移動を始めました」
「よし、総員第一種戦闘配置!」
だが、すぐにそれを振り払い、オペレーター達へ号令を発するのだった。

ケージでは…
「暗いですね…。止められてるんですか、電気?」
「い、今点けるわ…」
見も蓋も無いシンジの言い草に、少々頭に来るリツコだが、報告とまったく違うこの少年の底知れない恐怖に、逆らえずにいるのだ。
周りが明るくなった。
そして、シンジの目の前に存在する、巨大な紫色の鬼の首。
「……へぇ」
淡白な反応だった。
少々カチンとくるが、気にしてはいられない。
リツコは誇らしげに、大声は張り上げた。
「これが人類の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号機よ!」
「それはそれは、ご大層な…」
半ば小馬鹿にしたような態度のシンジ。
だが内心では…
《…さて、どう思う? みんな》
《ふむ…。確かに、人間同様【心】と【魂】が存在しているな……しかし、解せぬな》
《ええ。【心】と【魂】が全く一致していませんね。【心】の方は全く穢れの無い、赤ちゃんのような【心】ですが、【魂】の方は…》
《まるで腐ったどぶ川みたく濁りまくってるね〜。そーとー歪んだ性質の持ち主だよ〜》
《ああ、多分それは僕の『母親だったもの』だよ。どうやらこの人造人間とやらは、肉親はインターフェイス代わりにするらしいからね。いい趣味してるよ全く》
《…まさか主、この人造人間の【心】を【六体目】に移植する気か?》
《…そうだと言ったら?》
《…いいかもしれませんね。これほど穢れの無い【心】は滅多にありません。私は賛成です》
《わたしも〜》
《で、キョウはどうする?》
《…我も、異存ありませぬ》
《そう♪ んじゃランとサイは事後承諾という事でいいとして…【計画】を実行しますかねぇ》
この間僅か三秒。
『計画』を実行…する前に、シンジはまず【茶番】を楽しむ事にした。
「…それで、この【きゅーきょくのひとがたへーき】とやらが、ヤクザもどきの仕事ですか?」
『そうだッ!』
唐突に響く声。
目をやれば其処には、ヒゲだらけのヤクザ面。
管制室のガラス越しに、此方を見下ろす碇ゲンドウの姿が存在していた。
あと、突っ込みは無しかい。
『久し振りだな、シンジ』
「ええ、かれこれ十年振りですね【碇ゲンドウ】氏」
相変わらずの貼り付けたような笑みで、ゲンドウのプレッシャーを真っ向から受け止めるシンジ。
人を見る目に長けた人物が此処に居たらこう言うだろう…
『器が違いすぎる』、と。
『……出撃』
予想と全く違うシンジの態度に戸惑いながらも、シナリオ通りの台詞を吐くゲンドウ。
「…意味が分かりませんね。日本語は正しく、ちゃんと主語を用いて使いませんとね。ゲンドウ氏」
小馬鹿にしたような視線を向けるシンジ。
ちなみに、人形たちは少しも騒がず、不気味なくらい黙っていた。
何故なら……
《う、嘘…マスターの父親が【アレ!】なんて……気高く御美しいマスターの遺伝子の半分が【アレ!】で出来ているなんて…そんな嘘よ出鱈目よ偽りよ偽造紙幣よ…》
壊れまくっているキラ。
《……生命の神秘とは、…我々の想像を遥かに超えているのだな…》
妙に達観しているキョウ。
《……半魚人?》
どういう思考回路してるんだ、コイツは?
……などなど、ショックが大きすぎて、喋る余裕が無かったのだ。
話を元に戻そう。
「出撃!? 零号機は凍結中です! まさか、初号機を使うつもりなんですか?」
唐突に現れる、謎の【人面牛】。
N2に吹っ飛ばされたはずの一応作戦部長の【葛城ミサト】である。
使徒への執念と、DG細胞並みの再生力が、彼女を復活へと導いたのだ。
……本当に生物か、このナマモノは?
「ほかに方法が無いわ」
「ちょっとレイはまだ動かせないわ、パイロットがいないわよ!!」
「さっき届いたわ」
「まさか」
「マジなの」
「でも、レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょ!! 今きたばかりのこの子にはとても無理よ!」
「座っていればいいわ、それ以上は望みません」
「…けどっ!」
「今は使徒撃退が最優先事項です。その為には誰であれエヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法はないわ……解っているはずよ。葛城一尉」
「……そうね」
本人を置いて、先へと進む二人のやり取り。
シンジはそれを、先程から変わらない貼り付けたような笑みで【観賞】していた。
愚かな二体の【人形】の織り成す、小さな茶番劇を。
……これから起こるであろう、本幕に対する期待を込めて…
「なるほどね……つまりこの僕に、【きゅーきょくのひとがたへーき】エヴァンゲリオンとやらに乗って、あの化け物と戦え……と言いたいわけですかな?」
『そうだ』
嘲りを含んだシンジの言葉に、何の反応も返さず簡潔に答えるゲンドウ。
その顔は、更に醜く歪んでいた。
「…ふざけてますね、この組織は。何の訓練もしていない【只の一般人】であるこの僕に何が出来ると?」
『説明を受けろ』
「……話になりませんね」
呆れたように呟くシンジ。
『乗るなら早くしろ!――でなければ、帰れ!!』
「――では、そうさせて貰います」
さっと踵を返すシンジ。足はケージの出口へと向いている。
ゲンドウは気にしたそぶりも見せず、内線に連絡を入れていた。
【茶番】に登場する【新たな人形】を呼び出すために…
「ま、待ちなさい!」
慌ててシンジに声をかけるミサト。
呼ばれたシンジは、人を小馬鹿にしたような微笑を崩さず、答えた。
「何か、用ですか?」
「何か用ですか、じゃ無いわよ! あなた、何のために此処に来たの!?」
「何の為って……こんな電報紛いの頭悪そうな手紙と写真の主の間抜け面を拝みに来ただけですよ」
そう言って、ポケットから手紙とミサトの写真を取り出すシンジ。
しかも大量に。
からかいのネタとして、とりあえず300セットぐらいコピーしてきたのだ。
そうれっと辺りにばら撒くシンジ。
ちなみに某金髪技術部長は、親友と上司の非常識ぶりに、頭を抱えていた。
更にケージに居た整備員の殆どがこれを拾い、八割が転職を考え、二割が辞めたらしい。
…また話が逸れた。
「これに乗らなければ、あなたはここでは必要の無い存在なのよ」
「別に、あなた方なんかに必要とされたくないですし」
「逃げちゃだめよ、お父さんから、何よりも自分から」
「……救い難い愚か者だな…」
偽善に走る無能者を、半ば呆れた目で見るシンジ。
いかに彼でも、こう言った頭のイカレタ人間以下を相手にするのは、疲れるのだ。
そうこうやってる内に、一台のストレッチャーがケイジに運び込まれてくる。
その上には、蒼銀の髪をもつ、奇妙な衣装と包帯に身を包む、少女の姿。
【新たな人形】の登場である。
「レイ、予備が使えなくなった。もう一度だ」
「………はい」
ゲンドウの命令に、苦しげなうめきを上げながらも、従う少女。
それが自分の存在意義であるかのように。
「シンジくん! あなたが乗らなければ、傷ついたあの子が乗るのよ、恥ずかしくないの!!」
ミサトは、シンジに怒鳴りつけるかのように――いや、怒鳴りつけた。
「ええ。見たところ頭蓋骨骨折及び両腕部骨折――おや、足と肋骨、それに内蔵にも損傷がありますね。早々に処置をしないと、不味い事になりますよ」
すらすらと少女の容態を答えるシンジ。
「だったら――」
「勘違いしていませんか、あなた?」
激昂するミサトに、冷たい視線を投げかけるシンジ。
「アレにあの子を乗せるのはあなた方自身だ。仮に僕を乗せたとしても、【生贄】が僕に代わるだけで、あなた方が子供を犠牲に生き延びたという事実は変わりませんよ?――よかったですね、【人類の為に】という免罪符が存在してて。僕や彼女が死んだとしても、その一言で罪から逃れられるんだから」
本当に面白そうに、言葉を並べるシンジ。
周囲の大人たちには、顔を青くしている。
――髭面と金髪と無能牛を除く。
それどころか、牛は怒りで顔を真っ赤に染め上げていた。
――餓鬼が屁理屈こきやがって――
相当屈折した思考の持ち主である。自分が悪いとは欠片も思っていない。
『もういい、葛城一尉。人類の存亡をかけた戦いに、臆病者は不要だ』
――どっちが臆病者だか。
シンジは嘲笑した、目の前の臆病者を。
サングラスで視線を隠し、髭と独特のポ−ズで表情を隠し、それが無いとまともに人と向かい合えない愚かな男を。
その時――
揺れた。
轟音がケイジに響き、天井の一角が崩れ、角材が落下してきた。 
――まるで狙いすましたかのようにシンジと少女の頭上めがけて。
「危ない!」
一応体面だけ取り繕うミサト。
内心ではシンジだけ潰れろッ!、とか考えていたりする。
そして――

ぐしゃ。

嫌な音が、辺りに響いた。
目をやると其処には、角材の下から覗く『蒼銀の髪』。
『れ、レイィィィッィィィィィィッ!?』
悲痛なゲンドウの声が、スピーカー越しに響いた。
他の職員は、目の前の惨事に、声も出ない。
「可哀相に…こんな所に引っ張り出されなきゃ、もう少し長生きできたのに…。安らかに成仏してね」
アーメンと十字を切るシンジ。
ちなみに、シンジは目にも留まらぬ速さで避けている。
勿論、シンジは少女――綾波レイ――の秘密を知っている。
何故助けなかった、それは――
――また生き返るし、他の人間がどうなろうと知ったこっちゃ無い――
と、いうわけなのだ。
「…い、急いでレイを集中治療室にッ!」
内心慌てつつも、冷静を振舞い指示を飛ばすリツコ。
【三人目】が出て来る時、無用な混乱を避ける為だ。
「…さて、忙しそうですし、僕はここいらでお暇させて貰いますよ」
『……ッ!? 葛城一尉!! サード・チルドレンをエントリープラグに放りこめ!!』
逃がすものかと、ゲンドウの指示が飛ぶ。
あっという間に、ミサトを筆頭に、黒服数十名がシンジを取り囲んだ。
「…退いてくれませんか?」
「そうは行かないわ。シンジ君、乗りなさい」
威圧的に命令するミサト。
それに対してシンジは――

……クス

「「「「ッ!?」」」」
――悪魔のような嘲笑を以って、ミサトたちを見据える。
その目は――あまりにも冷たく、狂気に満ちていた。
「…さて、そろそろ【お芝居】は止めましょうか」
恐怖。
それのみを感じさせる声。
この場に居る全員が、動けなくなっていた。
「……始めに謝っておきましょう。始めっから僕は、帰る気などサラサラありませんでした」
「――!? じゃあエヴァに乗って「――しかし」く…れ……」
シンジの言葉に喜びを見出すミサトだが、次の言葉を聞き喜びは――怒りへと変わった。
「あなたたちの様な【下衆ども】に従う気も、サラサラありません」
言い切るシンジ。
次の瞬間――
「確保ッ!!」
憤怒の表情で号令をかけるミサト。
襲い掛かる黒服。
――しかし!!

どしゅッ。

鈍い音が辺りに響く。
一拍遅れて、何人かの黒服の首が空中へと舞い、地面に落ちる。
――そして残るは、辺りを染め上げる真紅の鮮血が迸る、【人間だった】モノ。
其処に居る全員が、突然の出来事に停止していた。
――いや、一人と五体を除いて。
「……漸くお目覚めかい、ラン?」
『嫌味な野郎だな。間に合ったからいいだろうによ、細かいことをぐちぐちと…』
『オマエガオオザッパスギルンダヨ、コノノーミソシワナシアタマ』
『――って、お前も眠り込んでたろうがッ!?』
「おやおや、サイもか。二人とも、おはよう」
『――呑気に挨拶している場合ではないぞ、主よ。とっととこの無礼者どもを片付けねば――』
『髭は嫌髭は嫌髭は嫌髭は嫌髭は嫌髭は嫌髭は嫌…』
『う〜ん、やっぱりトロル…いやいやグールかな? 人間じゃないのは間違いないんだけどな〜』
『ええ〜いッ! とっとと正気に戻らぬか、このうつけども!!』
ぽか! ぽか!
『ふえ〜ん! 痛いよキョウちゃ〜ん』
『いたたたた……はッ! 此処は何処、私は今まで何を!』
……状況分かってますか?
NERVの皆さんはボーゼンとシンジたちの漫才を見ている。
無理も無い。いきなり人形が勝手に動き出して人間顔負けに行動しているのだから。
「さて、皆に指令を伝えるよ。準備はいい?」
『はい!』
『おう!』
『リョウカイ』
『は〜い』
『はっ!』
「僕の用事が終わるまで、この人たちの相手をしていてくれないかな? あそこに居る髭と金髪博士と無能牛以外は“始末”していいから。――無能牛も殺さない程度に痛めつけていいよ。…返事は?」
『『『『『YES、【人形遣い(マイマスター)】シンジ・マリオネッター!』』』』』
「…さて、始めてくれ」
ニヤリと微笑むシンジ。
その言葉を契機に、五体の人形たちは、殺戮を始めた。

「…は、はんッ! たかがお人形で、私たちが殺せると思うのッ!?」
「ええ。少なくとも、あなたたちの数京倍信頼できますよ……いや、比べるのもおこがましい」
シンジの嘲りに、ミサトが切れた。
「――ふっざけんじゃないわよッ! このクソ餓鬼がッ!!」
手にしていたハンドガンの銃口を向け、引き金を引く。が――しかしその瞬間、

鋭利な金属音とともに、ミサトの手首が宙を舞っていた。

「ぎ…ギャヤアアァァァァァァッァァァァァァアァァアッ!!」
この世のものとは思えない叫び声を上げるミサト。
手を失いし狂獣の前に佇むのは、道士風の服を身に纏った人形【決闘者】ランである。
――彼女の右手の指が、鈍い輝きを放つ。
『――けッ! シンジに銃を向けるからそういう目に遭うんだよ、この売女!』
そう言って、次に目を向けるは黒服たち。もうミサトには、戦闘力は無い。
『お前らも覚悟しとけ。俺の名前は【決闘者】ラン。俺の体は全身刃物――触れただけでスッパリ逝くぜ』
言葉とほぼ同時に、右手と左手が大振りの刃に変化していく。
『…さあ、殺し合おうぜッ!』
ランの姿が掻き消え、一陣の風が舞う。
『…物足りねぇよ』
風が途絶えた瞬間、何人もの黒服の体に線が走り、バラバラになっていった。

『くすくす♪ おじちゃんたちの相手はわたしだよ〜』
無邪気に微笑むフランス人形、【指揮者】アルである。
右手に自分の身長よりも長い銀の指揮棒を握り、男たちの眼前に浮かんでいた。
「かかれッ!」
ある黒服が号令を飛ばす――しかし、
誰一人、動かない。
「ぐぅ、な、何故体が動かない!?」
『あははは〜。無駄だよ〜♪』
嬉しそうに笑うアル。その目には全く、悪意は無い。
人形たちはある意味、純粋なのだ。
『だっておじちゃんたちは、もう【拝聴者】であり、【舞台俳優】でもあるんだからっ♪』
アルの言葉と同時に、何処からか音楽が流れ始める。曲名は――
『さて、皆様ようこそ御出で下さいました。これより【指揮者】アルによる殺人組曲を披露致しますので、皆様最後まで息絶える事無く、ご拝聴くださいませ』
何時の間にか、アルの真下に小さなモノが沢山、蠢いていた。
人形だ。
黒服一人一人に似せた、小さな小さな人形だ。
アルが指揮棒を振り上げ、独特な拍子を刻む。小さな人形たちは、指揮棒に反応し、踊る。
動けなかった黒服たちも、人形と同じ踊りを踊り始める。
人形と違うのは、大きさと恐怖に引き攣った表情。其れだけである。
『…まずは右足』
そう呟くと、アルは指揮棒の刻む拍子を変えた。
曲がハイテンポになり、人形と黒服の動きも速くなる。
――そして、人形の内一体が、拳銃を抜いた。
人形に対応している黒服も、同じように抜く。
そして一発、目の前の黒服の右足に放った。
それを皮切りに、他の人形たちも銃を抜き、目の前に居るやつの右足目掛けて撃った。
黒服も同様だ。
しかし誰一人倒れなかった。
何故なら、人形が倒れなかったからだ。
最早、どっちが人形でどっちが人間か、分からない。
次は左足、左手、右手、右腿、左腿、そして脇腹。
アルが呟き、指揮棒を振るうだけで、黒服たちは同士討ちを始めた。
…曲はもう、フイナーレに入っていた。
黒服たちは、虫の息である。
『…………♪』
アルは無言で、指揮棒を振り上げ、一気に振り下ろした。
ジャンッ! ズキュウゥゥゥゥ……ン………ぐちゃっ。
…という、一際でかい音を残し、曲は終わった。
――同時に黒服たちの命も、終わりを告げた。
全ての黒服が、穴の開いた右手で銃を握り、自らの頭を撃ち抜いたからだ。
噎せ返るような血の臭いと、先程まで響いていた【拝聴者】たちの【歓声(断末魔)】に、アルは一際可愛い笑顔を浮かべ一言、『……アンコールは要らないみたいだね♪』

『……無様だな』
呟くのは白髪の人形、【魔術師】キョウ。
――二十三人目――
彼女が始末した数である。
始末していく端から、まるでゴキブリみたいに数が補充されていくのだ。
この場に、何人居るかもさえ、もうはっきりしていない。
そうこうしている内に、また何人かの黒服が銃を向けている。
…うっとおしい事この上ない。
『……邪魔だ』
そう言って、キョウは黒服を【睨みつける】。
――そう、彼女の瞳は一種の魔眼。
影響を出さぬ為通常は閉じているが、戦闘になれば遠慮は要らない。
場に存在する数多の精霊たちを見出し、使役する銀の瞳。
術を司りし【魔術眼】。それが彼女の瞳である。
キョウは黒服たちの周囲に存在する【炎の精霊】に干渉し、ある術式を組み立てる。
一秒にも満たぬ時間で、【術式】は【術】へと成長する。
『……燃えろ、【滅却炎(ヴァニシング・フレイム)】
断末魔を上げる隙も無く、黒服たちは塵一つ残さず燃え尽きた。
そこには、何も残っていない。
――二十八人目――

『…サテ、サイバンヲハジメルゾ。コノゴミムシドモ』
大きな本に乗り宙に浮かぶ緑髪の人形、【審判者】サイ。
彼女の能力は名前の通り、【裁き】である。
『――『殺人』ハモチロン『強姦』、『窃盗』、『暴行』……キリガナイナ。アトハソノタモロモロ、ト』
宙に浮くサイ目掛けて銃を撃つ黒服たちだが、銃弾は悉く見えない【何か】に弾かれ、一つも当たらない。
『……ムダダゼ。ココハ【法廷】、オマエラ【被告人】ハナンノチカラモモッチャイナイ。オトナシク【審判者】デアルオレニサバカレナ』
黒服たちは聞く耳持たず、一心不乱に撃ちまくる。
『……ヤレヤレ、バカナヤツラダ。…オット、ココデ【告発】ガハイルゼ』
呆れたように黒服たちを眺めるサイ。
そして、本のある行を指でなぞり、壮絶な笑みを浮かべた。
――次の瞬間、

タスケ…て …タス……けて… た…ス……け…
何で…オレを……ころ…した ……な…んで…殺したぁッ!…
うちのこを…返して……
おかぁさぁん……おかぁさぁん……おかぁさぁん……
痛いよぉ……イタイヨォ……痛いよぉっ!?…
ギャヤァァァァァァァッァァアッァァァ…………

空間に響く、数多の声。
それは生者では有り得ない声たち。
【死】そのものである声たち。
言い知れぬ恐怖に囚われ、黒服たちの動きが止まる。
声は、まだ響く。
『コイツラハオマエタチノオカシタツミノ【犠牲者】タチダ。コイツラノオンネンガ、【告発】トナッテコノヨニグゲンシタンダゼ。オモシロイダロ?』
嘲るようなサイの問いに、黒服たちは答えない。
否、答えられない。
『…サテ、フツウココデ【弁護】ガハイルンダガ、メンドウナンデトバス。――ハイッタトシテモ、ツミハカワランシ』
それでいいのか、【審判者】?
『…【針地獄の刑】ヲ、イイワタス』
壮絶な、笑み。
刹那、何処からともなく現れたありとあらゆる拷問器具が黒服たちを取り囲んだ。
全ての器具に共通する事は只一つ、【針付き】である。
『モダエジネ、クルイジネ、カラダカラチィドバドバナガシテ、コウカイシキレナイホドクヤンデ、シニヤガレ』
残忍な微笑で、黒服たちの【刑罰】を眺めるサイ。
辺りには、血の華が咲いていた。
『頑張りませんと…』
健気な日本人形、【門番】キラ。
ちなみに何故か彼女の周りは他の人形たちとは違い、血に汚れていなかった。
――血液だけではなく、倒したはずの黒服の死体も無い。
何故なら――
『…しつこいですよ?』
向かってくる黒服に冷ややかな視線を投げかけつつ、キラは虚空に手を伸ばす。
何も無いはずのそこには、一振りの大きな【鍵】が浮かんでいた。
キラはそれを、優雅な手つきで、空中に差し込んだ。
――転瞬、鍵を中心に巨大な【扉】が現れた。
古めかしい円形のソレは、大きな唸りを立てて、ゆっくりと開く。
刹那、扉の隙間から何十、何百もの【黒い手】のようなものが這いずり出て来て、黒服たちを引っ掴んでいく。
黒服たちは悲痛な声を上げ、扉の向こうに消えていった。
役目を果たした扉は、再び虚空へと還っていく。
キラの周りに居た黒服は、一人残さず消えていた。
『…私の能力は【鍵】と【扉】の管理。――【鍵】は【扉】を誘い、【扉】はありとあらゆる場所を繋ぎます。先程の【影の手(シャドウ・ハンズ)】も【扉】の向こうの何処かに住まう生き物の一つ。…マスターに害為す者は、私が許しません』
口ではこうだが…
(マスター、私頑張ってます。――あとで可愛がってくださいね(はぁと))
……能力は高いが、妄想爆発なキラちゃん。
妄想に耽りつつも、黒服を掃討している手は鈍っていない。
…流石である。

「――皆、頑張ってるみたいだね♪」
楽しそうに惨劇を見つめているのは【人形遣い】シンジ・マリオネッターその人である。
ちなみに彼の足元に、一人の女性が倒れている。
赤木リツコである。
役が減ったら面白くないので、安全地帯である此処にシンジが転がして置いたのだ。
ちなみに手首を切り飛ばされた牛は、何とか止血できたものの、痛みが凄まじいらしくそこら辺をのた打ち回っている。
全く台詞の無い髭はと言うと――台詞が無いわけである、とっくの昔に逃げていた。
まあ、今逃げても近い将来始末されるんだけどね。
「さて、と」
面白そうな笑みを浮かべ、シンジは目の前の物体――エヴァンゲリオン初号機――を見上げた。
「『計画』、開始♪」
――まるで新しい玩具を貰った子供のような笑みで。



あとがき
ガーゴイルです。
第一話完成!
これからも頑張ります!
…けど、年内更新できるかなぁ?(汗



修正バージョンあとがき
修正完了。
一寸しか変わってないけど修正バージョンです!
頑張って次ぎ行ってみよう!


読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます



     

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