Dress Or Groom
この家においてある青のストライプのパジャマに袖を通す。
いつもの通りにボタンをしめようとして、おれは手を止めた。
あ・・・手つかっちゃだめなんだった・・・。
三日前のやけどのせいで、手にはまだ包帯が巻かれている。
ん・・・と・・・。
とりあえずおれはリビングにいるゾロに声をかけた。
「ゾロー、ボタンしめらんねェ!」
返事がない。
しょうがないので、半分途中のままおれはリビングをのぞいた。
ゾロは膝の上の猫をかまっていた。
「ぞろー・・・」
「ん?どうした、ルフィ」
首だけ回して応じてくれる。
「ボタン、手ェ使わねェとしめらんねェ」
情けない声で言ってみたら、ゾロは優しい笑顔を浮かべた。
「ほら、こっちこい。つけてやっから」
そういって手招きしてくる。
「うん」
おれはずるずるとソファのほうにいった。
くぁぁ・・・と猫があくびをした。
「あ、ルフィ少しかがめ。それじゃ、手が届かねェよ」
「うん」
猫を膝の上に乗せているのでゾロは立ち上がらない。
ゾロの大きな手が、一個ずつボタンをしめていく。
百個ぐらいボタンがあればいいのに・・・とおれは思った。
そうすればもっと長く、ゾロの手を独占できるから。
でも、撫でてくれる手を失った猫が、かりかりとゾロの胸にじゃれついた。
「こら、ユキ」
ゾロは手を止めて、ユキの喉下をくすぐる。
ユキは満足し、膝の上で目を細めた。
・・・・・・・・・。
面白くねェ。
おれはユキをひょいっと抱えあげてゾロの膝から下ろし、くるっと反転してそこに収まった。
「・・・なにしてんだ、お前」
苦笑交じりの低い声が後ろから聞こえる。
そして、おれを抱きかかえるようにして、ボタンの続きを始めてくれる。
「しししし」
独り占め。
でも、ユキも黙ってはいなかった。
にぃっ!と一鳴きしておれに飛び掛ってきたんだ!
「うわっ!!」
めずらしく、やわらかい毛が逆立っている。
「なんだよ!ユキっ!!やんのかっ?!」
「ふにぃっ!!」
おれはユキを睨みつける。
ユキもおれを睨みつける。
先手はユキに奪われた。
小さな爪がおれの顔を掠める。
でもおれだってゾロの膝を譲る気はねェから、意地でもここはどかねェぞ!!
必死になって応戦してたら、後ろからゾロがユキをつまみあげた。
「・・・二匹で、人の上で暴れてんじゃねェよ・・・」
にゃあ、とユキが小さく鳴いた。
おれもおとなしく座りなおした。
ゾロはそのまま仔猫を左肩にのせる。
「これならいいだろ」
後ろからごろごろ喉を鳴らすのが聞こえた。
おれはなんだかユキがうらやましかった。
「なんだよゾロ。ユキばっかりかまって・・・」
「あ?」
「おれよりユキのがいいんだろ」
そういって、後ろを睨みつけてやったら、ゾロはいきなり笑いだした。
「・・・なんだよ」
さらに不機嫌になって、おれはゾロの顔が見えるように体をひねった。
「・・・く・・・あははは・・・!!なにユキに妬いてんだよ?」
「違ェ!!」
「あーはいはい。んとに、うちの猫たちは独占欲が強くて困る。・・・ついでに甘えたがりだしな」
そういいながらゾロはユキにキスすると、肩からソファの上におろした。
ユキはおとなしくソファの上でまるくなる。
「ほら、顔みせてみろ」
ゾロの手がおれの顔に触れる。
「引っかき傷になってんな」
そう呟くとおれの頬をいきなり舐めたんだ。
「いきなりそうゆうことすんなよっ!!」
おれは慌ててゾロから顔をひきはがした。
ゾロはにやりといじわるな笑いを浮かべる。
「なに、反応してんだよ。消毒だよ消毒」
「・・・してねェ!!」
「あーはいはい。ほら、まだ終わってねェよ」
「・・・う・・・」
小さな傷をゾロがなぞる。
傷の痛みよりも、そっちのほうが熱かった。
「ん・・・も、いいって」
「まだ、・・・ここにもある」
そういってゾロは首筋にも舌を。
「んにゃー!・・・くすぐってェよ!」
「・・・ねこ・・・」
ゾロが笑うと首筋に息がかかってさらにくすぐってェ。
なんか恥ずかしくて、おれはゾロに話しかける。
「・・・おれが猫ならゾロは犬だな」
「なんで」
「だって犬って舐めるだろ?・・・ってそんなとこひっかかれてねェよ」
きづけばゾロは鎖骨に唇を沿わせていて。
「あー・・・こんなかっこでおれを誘惑したお前が悪い」
ゾロは適当に答えてきた。
おれはボタンが上から三つしまってなくて、ほとんど肌をさらしている自分の姿に気がついた。
・・・それって、誘惑になるのかよ・・・
「ボタンしめてねェのはゾロが悪いんだろっ!!」
「あー・・・なんでもいい」
ゾロはさらに適当にあしらう。
その間もゾロはおれの肌に触れていて。
「せっかくパジャマきたのに・・・」
触れられたとこの熱に、くらくらしながらもそう言ってみる。
ゾロはおれの耳を舐めて、
「ちゃんと着せてやるから・・・」
四つめのボタンをはずしながら、おれのダイスキな低い声で、そう囁いた。