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「……で、どうしてこうなるんだ?」

 思わず山本が嘆いたのは、寝室のベッドの上でのことである。両足を投げ出してベッドに座った山本は、両の腕を背後で拘束されていた。彼の手首を戒めるのは手錠である。冷たく軋む金属音に思わずため息が零れる。布団ではなく長く座っていても負担が少ないベッドだったことがせめてもの救いか。

「さぁ、何となく」

 自分の行動の理不尽さを気まぐれで済ませた雲雀は、山本の足を跨いで座ったまま、薄っすら笑って彼を見下ろしている。悔しいが、そういう風に笑っている雲雀はとても美しく、山本は腹立たしさを忘れてつい見蕩れた。これも全ては惚れた弱味である。しかしそれでもやはり悔しくて、

「じゃあさ、こうしようぜ」

「?」

「アンタ、目隠ししてくれよ」

 オレに、じゃなくてアンタが、と山本は言う。その提案に雲雀は子供のような仕草で小首を傾げた。

「どうして僕がそんなことしなきゃいけないの?」

 最もな発言である。しかしここで引いてはならない。山本はすぐさま口を開き、

「だってこれじゃフェアじゃねぇじゃん。アンタにも何かハンデがないと」

 別段勝負事ではないのだから、フェアもハンデもあったものではない。だが苦し紛れの山本の言葉に、雲雀は少しのあいだ考え込んだ末、

「わかった」

 意外にも納得したらしい。雲雀は呆気にとられる山本の首に手を伸ばし、ネクタイを取り払った。それを自らの目に当てて巻きつけ、後頭部で縛る。その手つきに迷いはなく、何の疑問も抱いてはいないようだ。雲雀のこういう気まぐれな部分は何年付き合っても慣れないが、そこが雲雀の雲雀たるゆえんでもあり、山本には不快ではなかった。
 渋い臙脂色のネクタイを目に巻いた雲雀は、具合を確かめるようにあちこちに顔を向けながら、
「……それで、どうすればいいの?」

「へ? あ、うん」

 まさかそうくるとは思っていなかった山本は、つい間抜けな返答をする。すると雲雀は音を聞き取ろうとするかのように、耳を山本のほうに向けた。なるほど、どうやら本当に見えていないらしい。山本は自分に跨ったまま大人しく待っている雲雀が急に愛らしく思えた。

「ヒバリ、ちゅーして」

 子供っぽい山本の言葉に、雲雀はわかったと言うように小さく頷く。奇妙に素直なのは、視覚を奪われているせいで圧倒的に情報量が少ないからだろうか。あるいは、単に今日はそういう気分なのか。
 自分の置かれた状況を最大限に楽しむことを得意とする山本の身体のラインを手で辿るようにしながら、雲雀はゆっくりと身を乗り出した。掌で胸を辿り、首の位置を確かめ、顔に触れる。掌を頬に宛がい、親指でくちびるの場所を探るので、山本は悪戯に指先を口に含んだ。格闘を得意とする雲雀の指はどれも硬く、舌先でつついても怯むことはない。
 熱い舌に親指を舐めしゃぶられても、雲雀は嫌がる素振りを見せなかった。もう片方の手も山本の頬に添え、親指への愛撫をたよりにくちびるを寄せる。山本の口端にくちづけ、そのまま皮膚を辿る。そうなってはもう山本も指を愛撫している場合ではなく、親指を解放して雲雀のくちびるを受け入れた。

「ん…………」

 ようやくくちびるが重なって、雲雀は満足気な吐息を漏らした。敏感な皮膚をすり合わせ、軽く吸い、弾力を確かめ合う。頃合を見てくちびるを開いてやると、雲雀の舌が滑り込んできた。彼の舌は薄く、なめらかで器用だ。その柔らかな肉が甘いことを知っている山本は、喜んで彼の舌を吸う。滑り込んできた舌が歯列を確かめるように蠢き、山本の舌に触れる。その舌を絡め取り、強く吸い上げながらやんわりと歯を立てれば、雲雀の身体が歓喜に打ち震えるのがわかった。ああ、感じているのだな、と思うと山本は嬉しく、無意識に笑みを浮かべていた。
 思う存分くちづけを交わして、ままならなくなった呼吸のために雲雀はくちびるを離した。

「………………」

 胸で大きく息をついた雲雀は、山本の首を抱いてその逞しい肩に顔を埋める。忙しなく上下する胸を感じ、その背を慰撫してやりたい衝動に駆られながらも、腕を拘束された山本にはどうすることもできない。目の前のうなじに音を立ててくちづけを落としてやるのが、せめてもの慰めだった。

「なぁ、ヒバリ。苦しくないか?」

 山本の問いかけに雲雀が少しだけ耳を傾ける。どういう意味かということだろう。だから山本はわずかに腰を動かすことで言葉の意味を示して見せた。彼の腹部に当たる雲雀の下腹部が、すでに熱を持っているだろうことを示唆しているのだ。

 腰を押し付けられ、雲雀は息を呑んだ。しかし深く息を吸ってやり過ごすと、

「……君のも当たってる」

 言いながら仕返しのように腰を摺り寄せてきた。おかげでとっくに硬くなっていた欲塊はさらに膨張の兆しを見せ、山本は苦しげに呻いた。もう狭苦しい布のなかでは我慢できない。だが彼に自由はなく、解放を得るには気まぐれな恋人に頼むしかないのだ。
 山本もまた大きく息をして呼吸を整えると、余裕の笑みを作って雲雀に囁きかけた。

「じゃあさ、脱がしてくれよ」

 相手が見えるはずがなくとも、そうして表情を作ることは重要なのである。表情は声を作り、声は感情を乗せる。雲雀はそれを聴き、山本の様子を推測する。だから気を抜くわけにはいかない。たとえそれが強がりであるとしても。
 声調で相手の状態を判断しているであろう雲雀は、声に含まれた微笑の微粒子を聞き取って、不服そうにくちびるを尖らせた。しかしそれも彼なりの密事の楽しみかたの一つで、本気で怒っているわけではない。その証拠に雲雀は山本の首を抱いていた腕を下ろし、その広い胸を辿った。先ほどよりも熱を帯びた掌が胸を辿り、シャツのボタンを外してゆく。視覚を奪われた暗闇のなかでボタンを探り出す指の動きはたどたどしく、まるで物慣れぬ情事に戸惑い、恥らっているようである。むろん、全てはお互いを昂ぶらせるための演技にすぎないのだが。
 思っていた以上に雲雀が乗り気であるらしいことが山本は嬉しく、ボタンを外すのに集中している彼の頬や額にくちづけを贈った。どうやら見えていないのは本当であるらしく、雲雀は無防備にくちづけを受け、思いがけない山本の行動に少しだけ驚いたようである。だからといって何か反応するわけでもなく、ゆっくりとボタンを外し終えると、肌蹴た胸に手を差し入れた。そのままシャツを滑り落とそうとして、山本が腕を拘束されていることを思い出したらしく、クスッと笑って手を引き下ろす。自分の行動の結果に対して自嘲というほどではないにしろ、おかしさを示す雲雀を山本は初めて見た。彼は暗闇のなかにいて、山本の視線があることを半分失念しているのだろうか。
 まじまじと見つめる視線に気付かぬまま、雲雀の手は山本の硬い腹部を辿り、腰へと到達する。慎重な手つきでベルトを外し、ジッパーを下げると、その音がやけに耳についた。いかにもいやらしいことをしているようで、後ろめたいような興奮が沸き起こった。
 期待に呼吸の速くなりつつある雲雀は、筋肉の陰影の濃い山本の腹部を伝い、下着のなかに手を差し入れる。なかではとっくに硬くなった欲望が解放を待ちわびていて、思いがけない大きさに雲雀は小さくワオと呟いて楽しげに咽喉の奥で笑った。実のところ、山本自身などもうとっくに見慣れているであろうに、今は想像のなかでしか物事を把握できないため、現実との差異が彼を楽しませるのだろう。
 雲雀は丁寧な手つきで引き出した山本自身を、両手でそっと包み込んだ。軽く握り込んでその大きさや、脈動を確かめるようである。初めて男を愛撫するような神妙な様子に、山本は相好が崩れ、思わず声を出して笑いそうになるのを必死で堪えた。何故なら今の雲雀にとっては山本の笑い声は侮辱と受け取られるであろうから。本当は愛しくてたまらず零れそうになる笑みなのだが、目の見えぬ雲雀にそれを察することはできないだろう。

「……ヒバリ、それ好き?」

 溢れんばかりの愛情を込めた山本の声に、雲雀は顔を上げる。顎を上げて何かを待ち望むので、山本は首を伸ばしてそのくちびるを吸った。彼の判断は正しく報われ、雲雀は口元を笑ませて三度くちづけを交わした。

「好きだよ。硬くて、大きくて、気持ちいい」

 くちづけを終えると雲雀は楽しげに言い、手のなかのものを撫で上げた。ゆるゆると敏感な部分を刺激され、山本の背筋をゾクリとした快感が這い登る。両手が自由なら、このまま雲雀を押し倒して強引に交わってしまいたいところである。
 しかし現実はそうもいかないので、山本は息を整えて雲雀に提案した。

「なぁ、アンタのも見せてよ」

 甘えるような山本のおねだりに、彼のものを弄んでいた雲雀の手が止まる。目隠しのせいかとかく表情の薄い雲雀は、やはりこくんと頷いて腰を上げた。
 膝立ちになった雲雀は着物の裾に手を差し入れ、下着を引きずり下ろす。片方ずつ膝を上げ、器用に下着を脱ぐと、いらないものを放り捨てる仕草で床に落とした。
 小さな子供の着替えを見ているような錯覚に山本は苦笑しかけて、慌ててて口をつぐんだ。雲雀は何か気配を察したようだが、山本が何も言わないので興味を失ったようである。再び彼の腰を跨いで座ると、乱れた着物の裾をさらに掻き分け、山本同様期待に膨れ上がった自身を引き出した。








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