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「あっ、や……くぅ…………」
密やかな吐息に混じり、快楽に染まった声が漏れる。鼻にかかったような甘ったるい声が自分のものとは信じ難く、ツナは耳を塞ぐかわりに獄寺に抱きついた。獄寺はくちびるに笑みを刻み、上気したツナの頬にあやすようなキスをする。それでもツナを苛む手を休めようとはしない。裸で抱き合い、腰を引きよせ、お互いの高ぶりをこすり合わせて絶頂を求めている。
ひくん、とツナの背が跳ねた。獄寺の腕のなかに収まる身体は、強く凝って緊張する。それと同時に獄寺の手のなかの熱塊が弾け、彼の手をしとどに濡らした。
「ぁあ…………」
何かを惜しむような無意識のツナのため息に、獄寺は満足げにキスを贈る。ツナのくちびるは獄寺のキスを受け入れ、浅く差し入れられた舌を吸った。乳飲み子を思わせる無垢な仕草にますます獄寺の笑みは深くなる。それと連動するかのようにツナの身体は緊張から弛緩へと移行する。獄寺の手と、ツナの腹部を濡らす体液も、温度を失って零れおちた。
「………………」
胸で息をするツナの頬に、瞼に、額にとくちづけると、獄寺は身を起こした。余裕ながらも上機嫌がうかがえる彼は、楽しげに自分の右手を見下ろした。つい今しがたまでお互いを愛撫していた右手は、混じり合った体液に濡れて汚れている。楽しげな獄寺をぼんやりと見上げていたツナは、当たり前のように獄寺がその手を舐めたのを見て驚愕した。
「ごっ、獄寺くん!」
気だるい身体をおして止めに入るツナを、獄寺がきょとんと見返す。親に見咎められた幼児のように無垢だが、彼の舐めているものは飴ではない。
「ダメだよ、そんなの舐めちゃ!」
「え、何でっスか?」
「何でって……」
恥ずかしいから、とは言えずに口ごもるツナの隙を突き、獄寺がキスをする。再び抱き寄せられ、くちびるを吸われたツナは面喰ってしまい反応ができない。それをいいことに獄寺は舌を滑り込ませ、ツナの口腔を蹂躙する。上顎を舌先でなぞられ、ぞくりとした官能がツナの背筋を這い上った。
ツナが背筋を震わせるのを見逃さず、獄寺は再びその下腹部にいたずらをしかける。欲望を吐き出したばかりの性器をやわらかに握り、再びしごき始めたのだ。
「あっ、待って……」
呼吸の合間に懇願しても、獄寺は笑って取り合わない。彼の笑顔に弱いらしいと自覚したばかりのツナはたまらず、目をつむってその首にしがみついた。
自分の精液に濡れた手でいたずらされ、ツナの欲望は再び頭をもたげ始めた。獄寺は楽しげにツナにキスを繰り返し、そっとベッドに押し倒す。
くちびるだけでなく顎や耳元、喉や鎖骨、薄い胸や手首にまでくちづけられ、ツナの身体はどんどん力が入らなくなっていった。先ほどさんざんに散らされて、すっかり赤く熟れた胸のしこりを吸われ、ツナのくちびるを吐息が濡らす。甘ったるい声を上げるのは恥ずかしいが、そうすると獄寺が喜ぶのだとツナは知った。だから隠さぬようにと思いつつも、やはり恥ずかしさが先に立つ。
飽きもせず胸の突起を舐めしゃぶりながら、獄寺は力の抜けたツナの膝を割り開く。性器をいじくっていた指はその皮膚を辿り、後背のまろみをもてあそび、更に奥へと辿りついた。
自身の蜜で濡れそぼったすぼまりに触れられると、ツナの身体が緊張に震えた。先ほどじっくりくちびると舌で舐めとかされて、怯えや羞恥心はもう消えたものと思っていたのだが、まだまだ自然には受け入れられないようだ。
不安げに顔を上げると、獄寺と目が合った。獄寺はいつだってツナを見つめている。ツナの恥じらいがかえって嬉しいのか、優しげに笑う獄寺は自然体である。ツナを慕ってやまないあの笑顔だ。
無邪気な笑顔を浮かべたまま、獄寺はツナのなかに指を差し入れる。ぬぷっと音がしたような気がして、耐えきれずにツナは眼をつむる。しかしそうすると獄寺の長い指が内側を埋める感触がよりわかるようで、学習しない自分に腹が立った。
なかに入っていた指が今度はゆっくりと引き抜かれ、けれどそれに例えようもない快感を覚えてしまい、ツナは狼狽して両手を顔で覆った。何故それを気持ちいいと感じてしまうのか、それがわからないのだ。自分の身体の変化に戸惑うツナを獄寺が窺う。十代目、と呼ばれて目を開くと、心配げな獄寺に見降ろされていた。
「辛いですか? やっぱやめときますか?」
自分の欲望を優先することなどせず、心からツナを気遣う獄寺は、もうやめると言っても怒ることはないだろう。少しがっかりはするかもしれないが、それよりもツナの体調を心配するだろう。だから嫌なら嫌と言っていいのだ。
それを知っているツナは困ったように笑い、
「……大丈夫。ちゃんと、しようよ」
声を震わせることもなく言い切ったツナに、嬉しそうに獄寺は抱きつく。首筋に額をすりつけるような仕草が動物的で愛らしく、ツナは笑った。やはりこれは獄寺の癖なのだ。
嬉しさを全身で表したまま、獄寺はツナの横顔に何度もキスをした。安心させるような、喜びと愛しさを表現するような、可愛らしいキスだ。ちゅ、ちゅ、と音を立てるキスは見事にツナの心を安定させる。表情の和らいだツナが改めて背中に手を回すと、身を起こした獄寺が愛情に溢れた眼差しを向けてきた。
いつになく穏やかな笑みを浮かべる獄寺は大変に美しく、ツナも同じように微笑み返す。獄寺は目を閉じてくちびるを重ね、ツナも喜んでそれを受け入れた。今この瞬間、獄寺を独占しているという事実が、ツナはとても嬉しかった。
優しいキスを繰り返しながら、獄寺はそっと自身をツナの秘所にあてがった。わずかに緊張を見せたものの、ツナは獄寺のキスに応えることで意思を表した。
稚拙ながらも夢中で舌を絡ませるツナの行動に勇気付けられて、獄寺はゆっくりと腰を推し進める。本来愛撫を受けることを目的としていない末梢器官は、それでも徐々に獄寺を咥え込んでいった。
肉を押し開かれ、熱の楔を埋め込まれて、ツナは息をつめる。体内に侵入する熱の塊が、奇妙な圧迫感で下半身を苛んだ。しかしそれこそが獄寺に抱かれている証なのだと思うと、恐ろしくはない。
キスの合間に何度も何度も、掠れた声で獄寺はツナを呼ぶ。その度に愛情が増すようで、ツナは何だかくすぐったいような気持ちになった。奥まで入り込んだ楔は猛々しいほどなのに、顔中に降らされるキスや、抱き締める腕の何と優しいことか。逸る気持ちを押し付けるのではなく、あくまでツナを気遣う獄寺の心が嬉しかった。
「んっ……、ぁ……」
馴染むのを待って、ゆっくりと獄寺が自身を引きぬいた。
内壁が引きずられる感触。
何かざわざわとしたものが、ツナの背筋を駆け上る。
「あ、や…………」
ギリギリまで引き抜かれ、無意識にツナは呟いた。けれどそれは苦痛のためではない。獄寺が出て行ってしまうのではと思ったからだ。
しかしそうではなく、獄寺は再び侵入を開始する。先端のふくらみが肉を押し分け、ツナの最奥を穿つ。そして再び最も締め付けの激しい場所まで引き抜くのだ。
「っ…………」
獄寺が苦しげに呻き、眉根を寄せるのをツナは見た。快楽に苛まれているのはツナだけではなく、獄寺もまた興奮に煽られているのだ。
苦しげに眉根を寄せ、わずかに奥歯を噛んだ獄寺の表情は、驚くほど甘いものだった。快楽に耐える彼の表情に思わずツナは見惚れる。今その表情をさせているのが自分なのだと思うと、誇らしいようで嬉しかった。
獄寺の艶めいた表情に煽られ、ツナの身体が反応する。窄まりの締め付けは激しくなり、密着した二人のあいだでツナ自身が熱を持った。最早ツナはそれを恥ずかしいとは思わず、積極的に腰を押し付けた。拙いながらも獄寺を喜ばせようとするツナの望みが嬉しいのか、それに応えるように獄寺も彼を穿つ。最奥まで打ち込まれた楔が、潮が引くように去ってゆく感覚に、無意識にツナは咽喉を鳴らしていた。
「……や……ん、ぁ……」
次第に早くなる獄寺の動きに、ツナは身を捩って快楽をやり過ごす。汗に濡れる身体がすべり、キャンドルの火影のせいか目を覆いたくなるほど艶かしい。積極的に押し付けた腰の高ぶりは、獄寺の腹部をはしたなく濡らしていた。
「う……あっ、……ん……」
うねるように突き上げられ、息も絶え絶えにツナは喘ぐ。獄寺の胸に、先ほど散々なぶられた胸の突起がこすれて気持ちいい。彼の腹部に当たる自身もすでに濡れそぼり、限界まで膨らんでいた。
ツナは必死で獄寺にすがりつき、快楽を貪った。遅れてやって来た貫かれる快感と、引き抜かれる快楽が脳髄をかき乱す。背筋を這いのぼるざわめきは、心臓を乱して苦しいくらいだ。そして何より体内を荒れ狂う熱い血潮が、腰に集ってついに弾けた。
「も……や、あっ !!」
無意識に一際高い声をあげ、ツナは絶頂を味わった。限界まで高められたものが解き放たれる快感。そして同時に限界を迎えた獄寺に抱き締められる喜び。荒れ狂う血潮は快楽の微粒子を全身に運び、甘く優しいもので彼らを満たした。
指先まで痺れるような満足を得て、ツナは微笑を浮かべたまま失墜してゆく。荒い息をつき、背筋を振るわせた獄寺もまた同じ。お互いを満たしあった二人は、示し合わせるでもなく同時に目を開き、見詰め合った。お互いだけを映す瞳は優しくて、何よりも尊い感情で満たされていた。
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