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 暗い部屋で横になったら、急に自分が病人であるように雲雀は思えた。
 先ほどお休みを言ったばかりだというのに、何故かぐんと熱が上がったように思えて、雲雀は珍しくため息をついた。
 あのあと了平は自ら客用の布団を雲雀の部屋に運び、早々に就寝を言い渡した。せっかく了平が泊まるのに、あまり雲雀は面白くなかったが、さして反論もせずにベッドに横になった。
 熱があるのは事実だし、こうとなっては了平は彼にひたすら心配だけを抱くであろう。いくら雲雀が苦痛と同じように発熱に対して異常なまでの耐性を持っていると説明しても、了平は納得しない。そもそも理解できない。ならば説明するだけ無駄というものだ。
 床に布団を敷いた了平の気配を探っても、自分の荒くなり始めた呼気のせいで雲雀に彼の様子はわからなかった。それでもまだ眠ってはいないだろうことは察しがつく。雲雀を心配しながらまんじりともせずに布団に潜っているに違いない。
 解熱剤が効くにはまだ時間がかかるのか、雲雀の熱は下がる気配を見せない。むしろ横になって緊張が緩んだのか、逆に上がってしまったような気さえした。
 原因は身体への過度の負担と疲労か。
 雲雀は上掛けを口元まで引き上げて目を閉じた。
 瞼に浮かぶのは数時間前の光景だ。同じ部屋の同じベッドで、飽きもせずに了平と戯れた記憶は、匂いさえまざまざと思い出せるほどの新鮮さ。おそらく隣で布団に潜っている了平も似たようなことを考えているだろう。
 今日はなかなかうまくいった。
 流石に突き上げられただけではまだ達することはできないが、挿れられながらでも他への愛撫があれば、了平と同じだけの快楽を得ることができた。いや、下手をするとそれ以上かもしれない。
 内側を抉られて、ときどき身体が跳ね上がるほどの刺激を覚えることがある。じんと頭が痺れて、息を止めてしまうほどの。
 どう説明したらよいのかわからないが、何かが零れそうになるような快楽を覚えるのだ。それを零してしまうのがもったいなくて、もっとできるだけ長引かせたいと思うような、そんな快感。多分、それを上手くすれば、苦痛を取り除いて咬合だけで達することができるようになるのであろう。
 冷静に分析した雲雀の意見を聞いていた了平は、目を白黒させ、そのうえ微妙に顔を赤らめてそうかと呟いた。理解できていないことは間違いないが、これ以上説明しても雲雀のあけすけさにあてられて逆に恥ずかしくなってしまうだろう。
 だから雲雀はそれ以上無駄な言葉を費やすことはせず、了平を押し倒したのだった。
 おかげで今では疲労のために発熱し、せっかく二人でいるのに別々に横になっている。
 雲雀は眉根を寄せてくちびるを尖らせた。どうせ暗闇で見えはしないのだけど、了平に向けて眼光を鋭くする。もちろん了平は何も気付かず、部屋は静かなままだった。
 つまらないと雲雀は思った。段々熱が上がってきたせいか、妙に虫の居所が悪いことが自分でもわかった。わかったところで、思うままに振舞うのが彼のやりかただ。

「ねぇ」

 掠れた声で呼びかけると、了平が身じろいだ。

「……どうした?」

 反応がやや鈍いのは、雲雀を差し置いて眠りに落ちかけていたからか。ますます雲雀は気難しげに眉根を寄せ、暗闇にぼんやりと浮かぶ了平の布団を見つめた。

「そっちいっていい」

 願うでもなく媚びるでもなく命じるような言葉だったが、了平の返答はそっけなかった。

「だめだ」

 彼の言葉は雲雀の矜持を逆撫でしたが、了平は弁解しなかった。その代わり彼は暗闇で身を起こし、

「オレがそっちへ行く」

 だから大人しくしてろ、と。
 もそりと人が動く気配に今度は雲雀が黙り込んだ。思いがけない了平の返答に、片方の眉を上げながら。
 もう幾度も情を交わしたベッドに慣れた動作で了平はもぐりこみ、雲雀の横に寝そべった。普段は了平のほうが高い体温も、今は逆になっている。服越しにも雲雀の発熱を感じ取り、了平は憮然とした表情を浮かべた。

「………………」

 雲雀は手探りで了平の顔を暗闇に辿った。また難しい顔をしているのだろう。どうせ何も考えつかないくせに、無駄な努力というものだ。
 了平の耳を掴むようにして引き寄せると、雲雀は彼にくちびるを寄せた。一度目は外れ、くちびるの端にキスをした。二度目はもう外さず、ちゃんとくちづけられた。
 官能を呼び覚ますというより親愛を込めてわずかに舌を触れ合わせると、満足したように二人はくちびるを離した。それ以上は何もせず、何もできず、二人は素直に眠りに落ちていった。
 それでもう充分だったから。
 他人の気配がありながらも、何の警戒もせずに眠れたのは、雲雀にとって初めてのことだった。きっと今日はよく眠れるだろう。それが熱で消耗しているせいだけではないことを、雲雀は漠然と知っていた。





〔おしまい〕







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