復讐はウィスキーボンボンより甘い






 雪の深々と降り積もる夕方、グリフィンドール塔の自室でピーターと宿題を片付けていたリーマスは、扉の開閉する音にクッキーを咥えたまま顔を上げた。

「あ、ひりうふおはえひ〜」

「……お前、口の中無くなってから喋れよ」

 丸めた羊皮紙を片手にやって来たシリウスは目を眇めて嫌そうに口をきく。

「お帰り、早かったね」

 先にクッキーを飲み込んだピーターが口許を拭いながら上背の高いシリウスを見上げた。
 何故か丸めた羊皮紙でポンポンと自分の肩を叩いていたシリウスは、疲れたようにため息をついた。

「まーな。めんどくさいから、もうハイハイ言っておいたんだよ」

 昨夜明け方までプラモデルを手作りしていたシリウスは、赤い目をこすってあくびをかます。今日の授業を眠って過ごしていたことが教授にバレ、呼び出しを喰らっていたのである。だがそんなことで一々反省するシリウスではなく、今も面倒くさそうに提出を終えた羊皮紙を手持ち無沙汰に遊んでいた。それからふと、

「あれ、ジムの野郎は?」

 ボリボリと首を掻きながら当たりを見回したシリウスに、ピーターとリーマスは顔を見合わせてくすくすと笑った。こういった忍び笑いが好きではないシリウスはむっとして口角を引き結んだが、振り返ったリーマスにしーっとくちびるに人差し指を当ててウィンクされては文句を垂れるわけにいかない。何事かと首を傾げるシリウスに、今度はピーターがあっちとジェームズのベッドの方を指差した。

「…………?」

 意味がわからずシリウスは首を傾げつつもベッドに向かう。背後では再び二人の忍び笑い。取りあえず足音を立てないように近づくと、ベッドの陰になっている小さなテーブルに、突っ伏すようにした広い背中が見えた。
 これはもしやと近づくと、それは案の定ジェームズの背中で、彼は自分の腕を枕に眼鏡をかけたまま眠りこけていたのだ。

「………………」

 暫く無言でその寝顔を見下ろしていたシリウスだったが、何を思ったのか突然ポンと手を打つと、忍び足で自分のベッドに向かった。
 その余りにも怪しい行動に不審げにリーマスとピーターが見守る中、シリウスは自分のベッドの下からトランクを引っ張り出すと、深い緑色の壜とグラスを取り出した。

「あ、シリウスそれって……」

 精一杯の小声でピーターが遠くから囁きかける。すると今度はシリウスがくちびるに人差し指を当ててしーっと促した。彼は壜のキャップを外すと、コポコポと小気味良い音を立てて液体をグラスに注ぎ、一口飲んではニヤリと笑った。
 それはシリウス秘蔵のナポレオンだった。いつも何かアルコール類を隠し持っているシリウスだが、何だって今になって急に取り出すのかとリーマスも首を傾げる。
 するとシリウスは再び忍び足でジェームズに近寄っていった。彼は親友がぐっすり眠っていることを注意深く確認する。いつもよりあどけない表情に見えるのは、眠っているせいか。多分、クィディッチの基礎練習でみっちり絞られ、よほど疲れて眠り込んでしまったのだろう。普段ならばこんなところでうたた寝などせずに、すぐ隣にあるベッドに潜り込むだろうから。こんな機会は滅多に無い。
 ニタリと笑ったシリウスは壜をテーブルに置くと、ジェームズの右手をそっと取った。少し泥のついた右手。それに飲みかけの酒の入ったグラスを握らせてテーブルに置くと、何故か手をわきわきさせながらシリウスは上半身を仰け反らせた。
 シリウスは自分の顎に手を当てると、芸術家気取りでう〜んと考えこむ。どうもひとつパンチが足りない。後何か一つ、と呟きながら辺りを見回したシリウスは、ベッドの上に無造作に乗っていたジェームズのネクタイに目を留めた。
 これだ、とでも言うように指を鳴らしたシリウスはネクタイを掴むと、何故か自分の首にかけた。

「……何してるのかな?」

「多分、自分の首でやんないと締められないんだよ」

 向こうではピーターとリーマスがそんなことを囁きあっている。二人はシリウスの行動に興味津々だ。
 一方ネクタイを結び終えたシリウスは自分の首からそれを外すと、何故かジェームズの額にそれをかける。入念に位置を確認してからできるだけそっと締めていく。最後にマグルのもので写真を撮れば、やさぐれ酔っ払い学生のできあがり。






 翌日、身に覚えのない飲酒について寮監に雷を落とされながら、ジェームズ・ポッターはさかんに首を傾げていたという。






〔完〕





[罰ゲーム]







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