■□■ ミラクルファイナルデイズ □■□
「ヒバリ、誕生日おめでとう!」
日付をまたぐなり大喜びで告げた山本は、いつも通りの冷たい雲雀の反応に迎えられた。しかしそれも予想の範囲内で、山本はまるで気にした様子もない。それどころか書類に目を落したままきれいに無視を決め込む雲雀の隣に勢いよく腰を下ろし、
「あー、今日でミラクルトゥエルヴデイズもおしまいか〜」
語尾になるにつけトーンダウンした声で意気消沈を示し、山本はクッションを抱え込みながら甘えるように雲雀の肩に頭を凭せ掛ける。左肩にのしかかった重みを拒否して雲雀は身体を右へとずらすと、柳眉を顰めて山本を見た。
「何それ」
先日より独り言のように山本が繰り返すミラクル何とやらに、雲雀は反応したようだ。
「んー? あのな、オレとヒバリが同い年になる奇跡の12日間のことなのな」
肩を貸してもらえなくても山本のご機嫌が崩れないのは、今日がまだその奇跡の最終日であるからだ。ところが山本のご機嫌を嘲笑うかのように、雲雀は片眉を跳ね上げてあからさまに山本を見下す表情を浮かべた。
「君、馬鹿じゃない?」
語尾の上がった明確な問いかけは、揶揄を通り越して嘲弄である。いっそ憐れみさえ交えた雲雀の視線に、さすがの山本もムッとした。奇跡の日々を否定する輩は、例え雲雀でも許すわけにはいかない。
「何だよ、オレが勝手に祝ってるだけなんだから、いいじゃねーか」
どうせ雲雀が同意してくれないことなど、確認するまでもなく知っていた。だからせめて一人で勝手に祝うくらい許してくれてもいいではないか。
年甲斐もなく頬を膨らませる山本を、益々呆れたように雲雀は見つめた。そうじゃなくて、と前置きした雲雀は、
「僕と君が同じ歳になるのは、11日間だろ」
4月24日から5月4日までの11日間。5月5日を迎えれば、雲雀は再び年上になる。
「…………」
雲雀の指摘に指を折って日数を確認した山本は、目を見開いて硬直した。彼がようやくその間違いに気付いたのは、雲雀と出会って11年目の春だった。
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