■□■ ミラクル2デイズ □■□






 イタリアに渡って以来、山本は通販に嵌っている。何故ならネットの世界であれば、イタリアでは手に入らない日本由来の品々を、簡単に入手することができるからだ。
 そんな風にして手に入れたホットプレートを片手に山本が雲雀の家を訪れたのは、五月の初めのことである。もうすぐ雲雀の誕生日であるし、何か欲しいものはないかと訊いたところ、焼きそばという単刀直入にして簡潔極まる返答があったためだ。
 雲雀の経営する日本食材の輸入販売店で麺を購入し、意気揚々と山本はやってきた。今日は焼きそばにして、ついでに明日の朝ごはん用の焼きそばパンも作っておこう。ホットプレートがあればホットケーキももんじゃも焼けるし、何かと便利極まりない。
 食卓に具材を並べて調理を始めた山本を、雲雀は興味津々で見守っている。目の前で料理ができるのがホットプレートの醍醐味だ。最高級品の材料とは言えないけれど、異国で食べる焼きそばの味はどれほど美味いことだろうか。
 香ばしい匂いに機嫌を良くし、山本は皿を取ろうと腕を伸ばした。そのときだった。山本の肘がホットプレート脇に置いてあったりんごのソーダの壜にぶつかった。家族が作ったものだと部下がくれたリンゴのシロップを、炭酸で割ったものである。焼きそばと言えば屋台であり、屋台で食べるジャンクフードには炭酸飲料がつきものである。ゆえに持ち込んだソーダだったが、それが災いした。

「あっ!」

 と山本が叫んだときにはすでに遅く、ソーダの壜は倒れ、ホットプレートの焼きそばにかかってしまった。
 あわてて壜を起こすも、ホットプレートではジュワッと小気味いい音をたてて、ソーダが煮立っている。もちろん焼きそばへの被害は否めない。そんな大量にかかったわけではないけれど、雲雀に食べさせるわけにはいかなくなってしまった。

「あーあ。ごめんな、ヒバリ」

 すぐ新しい麺を買ってくるから、と肩を落とす山本に、しかし雲雀はかぶりを振った。

「別に、問題ないよ」

 言うなり立ち上がった雲雀は、山本からヘラを引ったくり、焼きそばにソースを投入すると、ガッショガッショとリズミカルな音を立てて混ぜ始めたではないか。そして水分が飛ぶと勝手に皿に取り分け、文句も言わずにきれいに平らげた。

「ごちそうさま」

 何食わぬ顔で言った雲雀に改めて惚れ直すとともに、こういうときの雲雀は本当に男らしいと山本は思った。





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