■□■ ミラクル10デイズ □■□






 ベッドにぐったりと身を投げ出して、山本は荒い息を整えようと努力した。天井を見上げ、その板目を数える。スポーツで鍛えた身体は頑健であるが、300mを全力疾走したのと同じだけの体力を消耗するらしい行為の直後では、なかなか思うように呼吸は整わない。
 玄関をくぐるなり理性も我慢も限界を迎えて、もつれるように抱き合い、部屋に転がり込んだのはつい先ほどのこと。電燈もろくに点けず、衣服を脱ぐ間も惜しんで、必要最低限だけ素肌を晒して繋がり合った。何とかベッドには辿りついたが、なりふり構わず求め合って、移動中も身体のどこかを必ず触れ合わせ、できるだけくちづけもやめずにいたせいで、寝室に着くまでに身体をあちこちにぶつけてしまった。まず間違いなく痣になるだろう。
 いい大人が何をやっているのだろう。酸素のまわり始めた頭で山本は後悔した。お互いむしるようにした服はボロボロだし、汗やら体液やらで汚れてしまっていることだろう。相手のシャツを引き裂いた音が、まだ耳の奥に残っている。
 耳触りの悪いその音は山本の興奮を煽り、お互いの荒い吐息や、繋がり合った下腹部を打ちつける音、自らを慰める擦過音が理性を吹き飛ばしたのだ。
 激情に駆られて分別をなくすのはもうやめよう。整い始めた呼吸のもと、山本は決意する。何しろ汚れ破れた衣服のまま帰らねばならないのはあまりに間抜けであるし、きちんと準備をせずに交われば、相手へのダメージが深い。せっかく久々に会えたのに、事が済んだらもうお終いで、余韻を楽しむ暇は与えられず、山本は帰らねばならない。下手をすればその前に、服を弁償しろと難癖をつけられる可能性もある。疲れてボロボロになって強制退出させられるのに、それではあんまりではないか。
 もうやめよう、と心に誓った山本を、不意に隣で寝そべっていた雲雀が呼んだ。
 首だけを動かして山本が振り返ると、羽毛布団に半身を埋もれた雲雀は、蕩けた視線で山本を見つめていた。

「ねぇ」

「んー?」

「今の、もう一回してよ」

 すごくよかった、と囁く怠惰の滲んだ甘ったるい口調は、山本の決意を吹き飛ばすのに充分な威力だった。





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