■□■ ミラクル11デイズ □■□






「……ただいま戻りました」

 草壁が応接室に戻ると、雲雀は何故か上機嫌で鉛筆を削っていた。理由はわからないが、気分屋の委員長であるので、草壁は特に気にも留めなかった。
 委員長の機嫌が良くて悪いわけがない。応接室には何故か突然、鞭を持った金髪の外国人がいたり、ペンギンがいたりするくらいであるから、草壁は最早滅多なことでは動揺などしなかった。

「先ほど野球部の山本とすれ違いました。何やら呆けた様子で、顔を腫らしておりましたが……」

「どうでもいいよ」

 野球部のエースが何をしたかは知らないが、原因が雲雀にあることは間違いなく、無関心な返答に草壁はむしろやはりと納得したくらいだ。ならばこの話題は避けるべき、と胸中に呟いた草壁は、雲雀の執務机に乗ったアルバムに目を留めた。

「これは……?」

 草壁が手に取ったのは三十年以上前の卒業アルバムだった。何気なくページをめくると、癖がついてしまっているのか、卒業生の集合写真のページが開いた。校舎を背景に集まった学ランとセーラー服の群れ。その頭上には、合成された雲雀そっくりの少年の写真が載っている。

「ああ、父上のアルバムですか」

 今現在目の前にいる委員長とそっくり同じ顔の少年の写真を見て合点のいった草壁の言葉に、雲雀はまあねと答えた。その声には笑いの微粒子が含まれており、口元は意地悪気に微笑んでいる。
 それで草壁は先ほどこの部屋で何が起こったのか、大体の察しがついた。なるほど雲雀の機嫌がいいわけである。山本には気の毒だが、委員長がご機嫌になってくれるのならば、やむをえない犠牲だ。
 ここぞとばかりに芳しくない報告を終えた草壁は、何かに気付いたように中空に視線を走らせた。

「そう言えば委員長、もうすぐお誕生日ですね」

 まもなく始まる大型連休最後の日が、雲雀の誕生日である。学校が休みになる前に、その日を祝うのが毎年の恒例となっていた。
 草壁の話を雲雀はえんぴつをいじりながら退屈そうに聞いていたが、何か欲しいものはありませんかと問いかけられると、出かかったあくびを呑みこんで呟いた。

「……お寿司」





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