■□■ ミラクル5デイズ □■□






 ある夜のこと、山本は寝室のベッドの足元に何か丸い物が転がっているのに気が付いた。風呂上がりにビールでも飲もうとリビングを横切っていた山本は、寝室の暗がりを覗いて首を傾げた。
 さっきまでは確かになかったのに、一体何だろうかと不思議に思いつつ、身体に染み付いた習性で足音を殺して寝室に近付く。すぐ向こうのリビングでは雲雀が退屈そうにテレビを見ているくらいだから、危険なものではないだろうことは初めからわかっていたが、マフィアとしての癖なのだから仕方がない。

「……おっ」

 抜き足差し足で寝室に踏み込んだ山本は、明るい声を上げかけて慌てて口を閉ざした。ゆっくりとしゃがみ込んだ彼の足もとには、茶色い毛玉が転がっている。否、それは山本の匣動物の次郎である。現実の犬種で言えば秋田犬である次郎は、小山ほどもある身体を丸めて安らかに眠っていた。
 しかしそれだけではなかった。次郎のゆったりと上下する腹に乗り上げるように、雲雀の匣動物のロールが添い寝している。さらに頭と背中には、青燕の小次郎と、ヒバードまでが足を埋めるようにして止まり、気持ち良さそうに目を閉じていた。
 動物たちの愛らしい寝姿に相好を崩すと、山本は来たときと同じようにそっとその場を離れた。そのまま足音を殺してリビングへ向かうと、ソファに腰を下して最早眠くなりかかっているらしい雲雀の背後から腕を回して肩を抱き、その首筋に顔を埋めた。

「ヒバリ、あれ見たか?」

 上機嫌で頬擦りしてくる山本を、いつも通り雲雀は一顧だにしない。しかし山本も慣れたもので、冷やかな雲雀の反応など気にも留めなかった。

「アンタんとこのハリネズミとヒバードと、次郎と小次郎が一緒に丸くなっててさ〜。ほんっとかわいいのな!」

 絵に描いたような親馬鹿ぶりを発揮する山本に、相変わらず雲雀はつれない。

「だから何」

 語尾の上がらぬ独特の問いかけを口にする雲雀に、山本は苦笑した。そのまま目の前の耳朶をいたずらにくちびるで食むと、柳眉をひそめて雲雀が振り返り、今度はそのくちびるを山本は吸った。どうやら機嫌が悪くはなかったらしく、雲雀はひょいと眉毛を上げただけで、抵抗せずに素直に瞼を閉じた。





 そして後日、山本は見た。
 いつの間に撮ったのか、雲雀の携帯電話の待ち受け画面が、あの日の毛玉オールスターズの寝姿写真になっているのを。





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