■□■ ミラクル7デイズ □■□
「ヒバリ、聞いてくれよ!」
部屋に入るなり情けない声で叫んだ山本に、お気入りのDVDを見ていた雲雀は即答した。
「いやだ」
低くよく通る耳触りのいい声で拒絶しても、慣れたものかそれとももともとの性格か、山本は雲雀のつれない態度になど構わず、手にしていた買い物袋をソファに置くと、わざとらしい大仰な身振りで雲雀の膝に取りすがった。
「そんなこと言うなよなー」
今にも泣きそうな上ずった声を出す山本には一瞥もくれず、雲雀はテレビを注視している。画面のなかでは若き日の談志が、十八番を披露している真っ最中だった。
断固として無視を決め込む雲雀であったが、床に膝をついてその脚に取りすがった山本は、全く気にせず話を続けた。
「それがさー、もう最悪なのな。先週までローマにいたんだけど、ようやく帰ってこれたと思ったら、自宅のプランターが全滅でさ」
グスンと鼻を鳴らした山本が勝手に話したことによると、一ヶ月近く放置していた自家菜園代わりのプランターが、帰宅したときには全てダメになっていたらしい。出かける際にはファミリーの人間に世話を頼んでおいたのだが、異国の植物の世話は意外と難しかったらしく、面目ないと謝られてしまった。その場では笑って許したものの、せっかく育てた紫蘇やミツバが全滅した痛手は大きく、その悲しみを共有できるのは雲雀だけ、とばかりに山本は訴えたのだ。
「あーあ、上手くいったら梅しそご飯にしてヒバリに食わせてやろうと思ってたのに」
三つ葉はお吸い物に入れて、とうなだれつつ呟く山本を相変わらず雲雀は一顧だにしなかった。が、何か思うところはあったのか、その年の山本の誕生日にはダンボール箱一杯の乾燥赤紫蘇が届けられたという。むろん、配達者は草壁であった。
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