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「リーマス、行くぞ」

 別荘を見上げて先ほどから身動き一つしないリーマスに、遠慮がちに優しくシリウスは呼びかけた。彼の声にようやくリーマスは振り返り、後ろ髪を引かれる様子でシリウスのあとに従った。
 召使たちの挨拶を受けて馬車に乗り込むと、持っていたステッキで天井を叩き、シリウスは御者に出発するよう合図した。馬車はゆっくりと走り出し、見送る召使たちも夏の時間を過ごした別荘も段々と遠くなっていった。
 それでもリーマスは馬車の後ろにある窓を振り返り、林の中に消えた別荘を長いこと見つめていた。彼の大切な思い出と、幸せな日々のつまった場所が遠ざかってゆく。それが悲しいのかそれとも単に未練があるだけなのか、シリウスにはわからなかった。ただ彼が出来たことは、リーマスの手を握ることだけ。

「………………」

 膝の上の手を握られて、リーマスは夢から覚めるようにシリウスを振り返った。そこにいる思い出ではない現実の存在に、彼は微笑を向けた。大丈夫と言うかのような微笑に、シリウスも同じように笑いかける。
 リーマスはもう一度だけ背後の窓に目を向けると、隣に座ったシリウスの肩に頭をもたせ掛けた。シリウスの手を握り返し、どこか満足そうに微笑んで目を瞑ると、二度と背後を振り返ろうとはしなかった。








〔終幕〕







16   あとがき




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