『人間のつがう方法』
照明を絞ったやたらにムーディーな寝室の中で、シリウスは真面目腐ってリーマスに言った。
「よし、じゃあリーマス、もし嫌だったり、痛かったりしたらすぐに言うんだぞ」
子供に言い聞かせるような調子のシリウスに、ベッドの上にちょこんと正座したリーマスは神妙な面持ちで頷いた。その様子がまたシリウスの煩悩にクリティカルヒットで、彼は一人で悶えそうになるのをじっと耐えた。
「よし、じゃあ、こっちおいで」
いつも通り手招いてリーマスを呼び寄せると、シリウスは彼の細い腰を抱いてちゅっちゅっとキスを繰り返す。恐がらせないようにという配慮であろう。リーマスはちょっと緊張気味でそれを受けていたが、少しずつ深くなってきた口付けに大人しくくちびるを開いた。
いくら生殖方法の違う人魚でも、キスくらいはするから、経験はなくともその程度のことはわかる。この間は吃驚して混乱してしまったが、覚悟すれば何てことは無い。
とリーマスは思っているのだが、やはりほぼ初めてのことに余裕の無い様子である。それがまたツボらしいシリウスは面白がって丹念にキスを繰り返す。いいかげん息継ぎが困難になったのを見計らって解放してやると、リーマスは大きく息をついて涙目でシリウスを見上げた。無意識らしいその様子に思わず襲い掛かりそうになるのをグッと堪えて、
「あー、じゃあ、服脱ごうな」
そう言ってシリウスがシャツに手を掛けると、リーマスは不思議そうに自分で脱げると言った。だがシリウスは人差し指を立ててチッチッチッと舌を鳴らすと、
「脱がす楽しみってもんがあるんだよ」
と言ってやんわりとリーマスの手を押し止めた。
プチプチと音を立ててボタンを外されながら、人間ってよくわからないとリーマスは思ったが、何だか自分が非常に興奮していることはわかっていた。再びシリウスにキスをされて、今度はそれに上手く応えようとしながらも、耳たぶや首筋を指で撫でられるたびに呼吸が乱れてしまった。擦り付けられるくちびるが段々敏感になっていくのが自分でもよくわかる。
「リーマス、声出していいんだぞ」
鎖骨に歯を立てられながらそんなことを言われてもリーマスにはどうしていいのかわからない。彼が困惑する間にも横暴で優しい掌が胸を撫でてゆく。素肌をくちびるに辿られて吐息は漏れるが、声を出すというのはどういうことなのだろうか。
わからないまま苦悶に似た初めての快楽の表情を浮かべるリーマスの胸に、点々とシリウスはくちびるのあとを伸してゆく。普段その存在などまるで意識しない小さな乳首に吸い付くと、リーマスが頭をあげる気配がした。
「……どうしてそんなとこ舐めるの?」
吐息に濡れた無邪気な問い掛けに欲情を煽られてシリウスは笑った。彼は細くしっとりとしたリーマスの腰を官能を呼び起こすように撫でながら、
「そのうちわかるようになるよ」
そうささやいて再びそこを口に含む。指と舌とくちびるに嬲られてかすかに張り詰めたその部分は、普段より赤くなったようだ。白い肌にそこだけ淫らに色付いた部分は、慣れない愛撫に腫れはじめ、リーマスに痛いような気持ち良いような奇妙な感覚を覚えさせた。
尚もその小さな器官をくちびるで弄ばれながら、リーマスは荒い息をついて無意識にシーツを握り締めた。胸の上でシリウスが動くたびに彼の髪が肌を刺激してくすぐったい。いつもは乾いた掌も、今は熱を孕んでリーマスを翻弄する。人間はいつもこんなことをしているのかと思うと、リーマスは呆れるような羨ましいような気分になった。
いつの間にかシリウスのくちびるは骨の浮いた腹部に移行し、リーマスは少し物足りないような惜しい気がしてきた。けれどさきほどまで散々舐め嬲られていたその部分はぷっくりと腫れあがり、これ以上の愛撫は苦痛であろうとシリウスは判断したのだ。
彼のくちびるはそれこそ肉の薄いリーマスの腹部を丹念に味わう。形のいい臍の周りにキスをしたら、声こそあげないがリーマスが顕著に反応した。
「……シリウス」
恨めしいようなリーマスの声に顔を上げたシリウスは、にやりと笑って身体を起こした。初めての割に反応の悪くないリーマスは、濡れた目でシリウスに何かを訴えている。もちろんそんなことわかっているシリウスは、リーマスと一緒に横になって彼の腰を抱き寄せた。
「ここ、か?」
シリウスがやんわりと下腹部に手をやると、リーマスは苦しそうに眉根を寄せた。初めてでも、愛撫には充分反応している。シリウスは楽しそうにリーマスの服をくつろげると、長い指を忍ばせた。
「……うぅっ…………」
誰にも教えられたことが無いせいで、どんな声をあげて良いのかわからないリーマスは押し殺したようにうめいた。敏感な部分に指が絡み付いて、そっと撫でられているのだ。人間の脚を手に入れて、初めてそれを目にしたとき、リーマスは吃驚したものだ。それが今、こんな風になるとは。
「ああ、ほら、濡れてきたぞ」
嘲るような、それでいて愛情に満ちた声でシリウスは囁き、快感に喘ぐリーマスの耳をかじる。確信的で悪戯な指に弄ばれ、リーマスは思わず腰が引けてしまう。だが、逃げを打つ腰を抱いた腕に阻まれて、逃げ出すことは不可能だ。その間もシリウスは目を開くことも出来ないリーマスに、今彼がどんな状況か低く掠れた声で告げるのだ。
「ほら、段々大きくなってきた。自分ので濡れて、凄く気持ち良いだろ?」
くすくすと笑うシリウスの吐息が耳にかかるのでさえもうリーマスには駄目で、彼は自分が何かを呟くのを聞いた。それと同時に腰の辺りに集まっていた熱が一気に弾け、リーマスは息を止めて背を仰け反らせたのだった。
一度絶頂を迎えたリーマスはぐったりとしてシリウスの腕に収まっている。頬を紅潮させた彼があんまりにも可愛くて、シリウスは惜しみなくリーマスにキスを贈った。
「ん…………」
リーマスは億劫そうに目を開くとシリウスを見たが、すぐに再び目を閉じてしまった。それに怒るでもなくむしろ満足気に微笑んでシリウスは身体を離した。ベッドに横たわったリーマスは枕を引き寄せて頭を乗せると、疲れたようにため息をついた。
リーマスが目を開けると、シリウスが隣で自分の手についたものを舐めていた。何でそんなものを舐めるのか不思議に思ってリーマスは問い掛けた。どうせ子供が出来るわけでもないのに。
「ん? ああ、だって、お前の初めてのだから」
そう言ってシリウスは悪戯っぽく笑う。せっかくだから、味わっておこうかと思って、と。
「いいよ、そんなの。早く拭きなよ」
流石に恥かしくてリーマスが言うと、快活に笑ってシリウスは言うとおりにしてくれた。彼はタオルで手を拭うと、何故かリーマスの脚を広げさせようとした。
「ぬるぬるして気持ち悪いだろ?」
シリウスは強引にリーマスを押し止めると、服を脱がして脚を開かせた。あう、とリーマスが情けない声を出したが、聞こえない振りをして身体を拭う。
「疲れたか?」
「……うん、ちょっと」
衣服を剥ぎ取られて居心地が悪いのかリーマスは毛布を引き寄せて肩まで被ってしまった。せっかくの眼福が、とはシリウスは言わずに、テーブルから紅茶とチョコレートの入った皿を持ってきてくれた。
「わぁ……」
途端にご機嫌になったリーマスは繊細な細工のチョコを頬張る。こういうときリーマスは子供っぽくて可愛いとシリウスは飽きもせずに思うのだ。
例え中身がイカ墨より真っ黒であったとしても。
シリウスはにこにことご満悦の様子でチョコを食べるリーマスの頭をなでなですると、
「美味いか?」
「うん、美味い」
シリウスは笑ってリーマスの顎に手をやると、ちゅーっとキスをする。ぬるりと忍び込んできた舌が食べかけのチョコを掬って行くと、リーマスはあーっと声を出して頬を膨らました。
「ぼくのを取るなよ!」
殿下のくせに意地汚い、とリーマスは腹を立てる。その微妙にずれた感覚にシリウス笑って悪い悪いと謝った。
「おいで」
リーマスがちゃんと紅茶を飲み干すのを待ってシリウスは彼を抱き寄せた。抱き寄せておいておいでも何もないのだが、ぎゅっと抱き締められて、リーマスも何故か負けじと抱き返す。されてばかりは彼の性に合わないのだ。
だから再びキスをされながらそこをまさぐられたとき、リーマスは眉根を寄せつつも、
「シリウスのは? ぼくもする」
と言ってシリウスを喜ばせた。
「撫でるだけでいいから、緊張しなくていいぞ」
そんなシリウスの言葉に真剣に頷きながら、リーマスは自分のとは大きさの違う他人のそれに初めて触れた。恐る恐る、できるだけいいつけどおりにしようとするリーマスの真剣な表情が可笑しくて、シリウスは声を出さずに笑った。
一方リーマスは初めて触れるその熱い感触に、吃驚したように手を引いたが、再びそっと手を添えた。下からなぞるように触れると、シリウスが髪にキスをくれた。それでいいということだろう。自分ばかりがはしたない姿をさらすのが嫌でリーマスは一生懸命シリウスを楽しませようとする。シリウスはニヤニヤと笑ってリーマスのぎこちない愛撫を受けており、時折彼の勇気を誉めるように額や頬にキスを落した。
「リーマス、こっち向けよ」
言い聞かせるような声に導かれて顔を上げたリーマスの顎を指先で仰向かせ、シリウスはくちびるを寄せる。先ほどと同じようにキスを交わしながら、それでも懸命に手を動かそうとするリーマスが一瞬ビクッと身体を震わせた。
「あ…………」
くちびるが離れたわずかな間に漏れた声には戸惑いが多く含まれており、再びシリウスのくちびるによって塞がれると、彼は眉根を寄せて何かに耐えるような表情をした。それはキスと共にシリウスに仕掛けられた、リーマス自身への愛撫に反応したからである。シリウスのそれを高めるうちに、リーマスが自分でも気付かぬ内に彼自身もまた再び頭をもたげていたのだ。
「シ、シリウス……」
制止とも煽情ともつかぬ声でリーマスは呟き、シリウスとの行為にのめり込む。先ほど手でされただけでもあれほど良かったのに、キスをしながらするのがこんなにいいだなんて。夢中でシリウスの舌を吸いながら思わず腰を擦り寄せそうになる自分にリーマスは気付いていない。
「あっ……」
そうリーマスが恨めしげな声をあげたのは、シリウスがキスも愛撫も止めて身体を離してしまったからだ。途中で放りだされたようなリーマスは膨れっ面をしてシリウスを見上げたが、彼は悪戯っぽく笑って、
「まぁ、待てって。もっと良くしてやるから」
そう言って疑わしい視線を向けるリーマスにベッドに仰向けになるよう促した。ここまで来たら一々恥らってはいられないリーマスは、もうどうにでもなれとばかりにベッドに大の字になる。その子供っぽいご立腹の様子にシリウスは苦笑し、
「こらこら、もう少し慎みを持てよな」
そんなことを言いつつシャツを脱ぎ捨てると、ベッドに上がって再びリーマスの全身にキスを落した。
「えっ、ちょっとシリウス……!」
リーマスが吃驚したような声をあげたのは、シリウスが今まで指先で弄んでいたその部分に口付けをしたからだ。
「ん? どうかしたか?」
「どうって、あっ……」
困惑したリーマスが何か言う前にシリウスは彼自身に舌を這わせる。ぬるっとした初めての感触にリーマスは思わず力任せにシーツを掴んだ。それに気を良くしたのか、シリウスは更にリーマス自身を舐め上げる。無意識に閉じかける脚を押し広げさせ、付け根を強く吸い上げ、まだ成熟しきらない幹の根元からくちびるで甘噛みをくりかえす。小さなまろみを口に含み、零れはじめた蜜を吸い上げる。
リーマスは最早文句を言うことも出来ずにくちびるを噛んで刺激に耐えている。何もかもが初めての彼にとって、それはあまりにも強すぎる刺激で、シリウスが敏感な先端を口に含むと、彼はあっけなく陥落してしまったのだった。
思いがけず解放されてしまったそれに眉を顰めるでもなく、シリウスはリーマスが満足するまでそれを吸い上げた。残滓を一つ残らず吸い上げるようにして口を離すと、自分のくちびるに付いたものまで綺麗に舐め取ってシリウスはそれを飲み下した。咽喉に絡むが、気になるほどではない。
リーマスはぐったりとして胸で呼吸を繰り返しながら、力の無い目でシリウスを見上げた。シリウスは艶然と微笑むと、そっとリーマスにキスをした。滑り込んできた舌に自身の味を含まされて、リーマスはくちびるを離したシリウスを恨めしそうに睨みつけた。
「……酷いじゃないか」
「何が?」
愛しげにリーマスの髪を梳きながら問うシリウスに、くちびるを尖らせて、
「君は良くなってないじゃないか」
負け惜しみに近いその言葉に、シリウスは嬉しそうに笑い、リーマスの額にキスを落した。
「いや、良かったさ。これからもっと良くしてもらう」
「本当に?」
「まあね。でも、嫌だったらちゃんと言えよ?」
不承不承に見えるように、そのくせ本当は好奇心で一杯のリーマスはゆっくりと頷いた。そんな彼を抱き締めると、シリウスは再びリーマスに細い脚を広げさせた。その付け根に用意しておいた香油を垂らすと、指先で優しく塗り広げていく。一応初めに話は聞いていたリーマスは息を飲んで目を瞑った。
シリウスの指先はリーマスを怯えさせないようにか、もどかしいほど優しくその部分を撫で擦っている。固い蕾を花開かせるように、くすぐったいような刺激がリーマスの背筋を這い登る。しっとりと汗に濡れた内腿や、白い腹部にキスを繰り返す。目の前にあるリーマスの性器は再び硬く張り詰め出していて、シリウスは楽しげに自分のくちびるを舐めた。
「あ…………」
つぷっと指を差し入れると、リーマスが困ったような声を出した。だが、嫌がっているわけではなく、初めての感覚に戸惑っているのだ。入り口をそっと押し広げる奇妙な圧迫感。奥まで入ったものがゆっくり引き抜かれるのに、何故か背筋がざわめくのを感じる。これは多分、気持ちがいいのだろう。初めてなのに、こんなに気持ち良くていいのだろうか。
奇妙な焦りと羞恥心に顔を真っ赤に染めるリーマスの身体をほぐしながら、シリウスは喜んで彼自身に再び口付けた。リーマスはむぅとかううとか色気の無い声を出したが、それがまた新鮮でシリウスには面白かった。
指を増やしてよく慣れさせ、舌で性器を愛撫すると、リーマスの身体が顕著に反応する。それと同時に咥え込ませた指がきゅっと締め付けられる。おそらく自慰すらしたことのないリーマスを自分が開くのだと思うと、シリウスは自然と笑みが零れた。
不思議なことにリーマスは頭部以外に毛髪が無い。腕も脚も子供のようにつるんとして、今シリウスがくちびるで愛撫している大事な部分もきれいなものだ。多分これは種族の違いか、もしくは例の魔法使いのディティールに拘らないやっつけ仕事のせいなのだろうが、中々面白いとシリウスは思った。
「リーマス、大丈夫か?」
ほとんど呆然としたリーマスを見下ろしてシリウスは問い掛けた。ベッドの上でリーマスはとろんとした眸でシリウスを見上げ、何を言われたのかも良くわかっていないようなのにこくんと頷いた。
「本当に大丈夫か? 止めておこうか?」
しかしリーマスはいい、と首を横に振る。
「大丈夫だから、早くしようよ」
ほとんど意地を張った子供のようだが、それがまた可愛くてシリウスはリーマスをぎゅっと抱き締めた。
腰の下に小さなクッションを当ててやり、緊張をほぐすように身体を優しく撫でてやる。少しだけがまんな、と言うと、リーマスはキスをしてくれとねだった。その方が気がまぎれるから、と。
「ん…………」
お望みどおりキスをしながらそっと身体を押し進めると、リーマスが苦しそうに声を出した。身体が強張るのがわかる。だがシリウスは逆にリーマスを抱き寄せて更に身体を推し進めた。
「う〜、シリウス……」
リーマスはキスの合間にシリウスに弱々しい声で呼びかけ、背中に爪を立てた。奥まで押し入ったシリウスはため息をついてリーマスを見下ろす。
「リーマス、大丈夫か?」
額に張り付いた髪をかきあげてくれながら問い掛けるシリウスに、リーマスはすこし引き攣った笑顔を向けた。
「君は、さっきからそればっかだね」
大丈夫だよ、と言うリーマスは気丈で、シリウスも思わず微笑を浮かべた。初めて尽くしにさぞや混乱しているだろうに、健気なことだ。思わず一人で盛り上がってシリウスはぎゅーっとリーマスを抱きしめ、しみじみ彼が愛しいと思った。
今日何度目かわからない嫌だったら言えよ、という忠告を口にしてから、シリウスはゆっくりと動き始めた。それは不思議な感覚で、リーマスはシリウスの背中に腕を回しながら変な声を出さないようにするのに精一杯だった。それが色っぽいならばいいかもしれないが、多分妙な呻き声になるだろうことはわかっていたから。
それでもリーマスが自分でも不思議なのは、シリウスにそうされているとき、苦しくても妙に嬉しいような気がすることだ。こんなことをシリウスに言ったら狂喜して何をされるかわからないので黙っておくが、素肌を合わせることがこんなにも気持ち良いとは思わなかった。
奥を突かれるより引き抜かれる方に背筋を妖しい感覚が駆け上がり、リーマスは悩ましげに柳眉を顰めた。顔や声を取り繕っている余裕は無い。しかしそれはシリウスも同じであるらしく、彼は額に汗を浮かべて快楽に耐えるような表情を浮かべていた。
そのいつもと違う真剣な表情を見上げて、リーマスは彼にあんな表情をさせているのが自分なのだと思うと奇妙な喜びがこみ上げてきた。苦痛に耐えるように眉根を寄せて、真剣な眼差しがときどき揺れる。そんな風にさせているのが自分なのだと思うと、リーマスは欲情するのを感じた。自らシリウスに脚を絡め、キスをねだって目を瞑る。先ほどシリウスの口腔で達した自身に初めて自ら指を絡めて、恥かしげもなく擦り上げた。
「あっ、シリウス、シリウス……」
甘い声で呼びかけると、応える代わりにぎゅっと抱き締められた。このままではどうにかなってしまいそうで、リーマスは生まれて初めて泣き出したいほどの快楽を味わったのだった。
「リーマス、愛してるぞ〜」
あんなに大変そうだったのに、すっかり回復したシリウスはそんなことを何度も言いながらリーマスを抱き締める。今度こそ本当に脱力してしまったリーマスはそれを嫌がる気力も無い。
ベッドの上でシリウスに抱き締められながら、じんじんするような快感の名残を味わって、ぽーっとしたようにどこか遠くを見つめていた。
「なぁ、リーマス、お前は?」
なぁなぁとしつこく尋ねるシリウスに、リーマスは仕方なくうんと頷いた。
「愛してるよ……」
「ほんとか? 俺のこと大好きか?」
「うん、大好き……」
だからもう寝かせて、とでも言いたげなリーマスをやっぱり可愛い可愛いと抱きながら、一人で元気なシリウスは嬉しそうに笑っていた。
翌日、目覚めたシリウスは隣でくーくー寝息を立てるリーマスの顔を見てふと考え込んだ。幸せそうに眠るリーマスの顔はつるんとしたもので、子供みたいに可愛いと思う。
後になってシリウスは寝ぼけ眼を擦るリーマスに聞いてみたのだが、
「え、髭? ううん、まだ生えないよ」
リーマスは不思議そうにシリウスに言った。
やはり、と思ったものの、まだという枕詞が気になって再び尋ねると、
「髭はね、結婚すると生えてくるんだ。結婚が一人前の証拠だからね」
そんなわけでリーマスはまだ髭が生えないのである。ということはつまり、シリウスと一緒にいるかぎり、リーマスは一人前にはなれないということか。
「まぁ、そうだけど、別に髭くらいどうでもいいし」
「まったくだよな、髭なんて、毎朝剃るのも面倒だしな!」
シリウスは笑って力説したが、明らかに童顔のリーマスの髭面なんぞちっとも見たくないと思ったことは、本人には秘密なのであった。
〔おしまい〕
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