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 大きく息をついた源泉が身体を起こして脱ぎ散らかした服のほうに手を伸ばした。汗ばんだ肌、どこか緩んだ表情。隣に横たわるアキラも伸びをして身体を起こす。白い肌の上には赤い鬱血が浮き、目を逸らしたくなるような艶かしさがあった。

「…………しまった」

 引き寄せた服のポケットをあちこち叩いていた源泉は煙草はジャケットの中だということを思い出して盛大にため息をついた。今こそが煙草の最も美味いときなのに、手元に無いだなんて。どうしてジャケットなどに突っ込んでしまったのか自分の迂闊さを呪いながらも、アキラの傍を離れる気にはなれずに頭をかく。そんな源泉にしなだれかかったアキラは、何かに気付いたように手を伸ばした。

「って、おいおいおいおい…………」

 アキラが思いがけず源泉の下腹部に手を伸ばすので、慌てて声を上げたがもう遅かった。彼は躊躇いも恥じらいも無く源泉自身を手に取ると、身を屈めて口に含んだのだ。うわっと叫びそうになるのをどうにか堪えて、源泉は困ったようにアキラを見た。

「おいおい、お前さんなぁ…………」

 絡み付いた欲望の残滓を舐め取るようなアキラの行為に、額に手をやって弱りきった様子で声をかけた。が、もちろんアキラは相手にしなかった。

「大丈夫、まだ硬い」

 あっけらかんと言い放つアキラ。子供と言うのはときとして恐るべき生物だ。

「……あのなぁ、ちっとは俺の年齢も考えてくれよ」

「アンタこそ、俺の年齢を考えてくれよ」

 源泉の腰間から顔を上げたアキラはにやりと笑う。元来笑顔など滅多に見せないアキラであるだけに、こういうとき源泉は何も言い返せない。第一、アキラにあれこれ教え込んだのは源泉であるのだから。
 降参とでも言うように源泉が手を上げたので、勝ち誇ったように鼻で笑ってアキラは行為を再開した。ついさっきまで自分の中に潜り込んでいた肉塊。アキラが舌を使うたびに硬度を増してゆくそれを丁寧に舐め上げる。根元から先端へ、裏筋の血管を辿るように。
 敏感な括れを舌先でくすぐられて、源泉は目を眇めて行為に夢中になっているアキラを見つめた。初めのころは完全にイニシアチブを源泉に取られていることに一々憮然としていたのに、今ではこれだ。流石はBl@sterで優勝するだけのことはある。見事な運動神経と負けん気のたまものか、アキラの上達は早かった。
 覚え初めのころ、源泉の脚の間にちょこんと陣取って、懸命に教えられた愛撫を施そうとするアキラは見ていて面白かった。あんまり真剣な表情をしているので、気の毒に思うことさえあった。いや、むしろ癇癪を起こして噛み付かれはしないかと疑ったこともある。それでも懸命に源泉を気持ちよくさせようと頑張っている姿を見ると、いじらしいようで可愛いというのが源泉の正直な感想だ。もしそんなことを考えていると知れたら、軽蔑したように見下げられて、しばらく口をきいてもらえない可能性が非常に高いため、口が裂けても本人には言えないことだが。
 そのアキラはすっかり上達して、今では源泉を困らせるほどになった。赤い舌を使って見せ付けるように性器を舐めねぶり、硬く立ち上がるほどに満足げな微笑を薄っすらと浮かべる。敏相応の子供っぽさと、妖艶なまでの媚態が同居し、源泉を魅了してやまない。わざとだろう淫猥な水音を立てて舌を使いながら、時折目を上げて源泉を誘うように笑う。薄いくちびるが淫らな体液に濡れて、目眩を感じるほどに美しい。
 その表情をカメラに収めてみたいと思う。だが、多分アキラは烈火の如く、否、永久凍土の怒りをこめて拒絶することだろう。勿体ない話だ。

「…………ここ、汚れてる」

 ふいにアキラが言った。指差す先に、源泉の褐色の肌の上に散った彼の体液が一滴。アキラは滑るように身を起こすと、源泉の腹の上に覆いかぶさる。腹部を汚す自身の欲望に顔を近付け、そっと舐め取る。皮膚をついばみ、音を立て、くちびるは肌の上を辿る。乾ききらないアキラの髪が肌の上を辿るのがくすぐったく、源泉は彼の頭を撫でた。
 いつの間にかくちびるは胸に達していた。幾つかの鬱血の跡が肌に残り、満足そうにアキラはくちびるを舐める。身体を押し付けるとアキラの腹部に固いものが当たり、彼は指先でそれを愛撫した。
 源泉が熱いため息をつくのがわかる。上目遣いに見上げた源泉は、目を閉じて快楽に耐えている。眉間に寄った皺が、唾液を嚥下するために上下する咽喉仏が、男性的な色気がアキラに興奮を覚えさせた。
 ちゅっと音を立ててアキラは源泉の胸の突起を吸い上げた。源泉が目を開ける。固執したように愛撫を繰り返すアキラ。彼の胸は源泉のせいでどこもかしこもすっかり感じやすくなっている。同じようにアキラがこうし続けたら、源泉も感じるようになるだろうか。
 大体アキラが何を考えているのかわかった源泉は、何も言わずに彼の頭を撫でた。どうせそのうち飽きてやめるだろう。無駄な努力ほどアキラが嫌うものは無い。
 源泉が胸の中で百二十まで数えたとき、ついに飽きたのかアキラが顔を上げた。口元を拭ったアキラは、小首を傾げて源泉を見上げる。眼が合うと、やや憮然とした表情を浮かべて源泉を押し倒した。

「あんまり無茶するなよ」

 大人しく押し倒された源泉が言うと、煩いという言葉が返ってきた。愛情込めた見事な返答に源泉は苦笑し、自分の腹部に跨ったアキラを楽しげに見つめた。

「んっ…………」

 息をつめてアキラは源泉自身の上に腰を落としてゆく。硬い楔が肉を割る感覚。内側の粘膜に熱がこすり付けられ、根元まで咥え込んだときには思わず大きなため息をついていた。硬く大きな肉の塊が自分の中にあるのだと思うと、いつも妙な感覚を覚える。アキラは白い腹部に手をやって源泉の形を探るように腹を圧迫した。

「ん、どうした?」

 触診するように自分の腹部を撫でるアキラを不思議そうに源泉が見つめている。おそらく彼にこの感覚がわかることは生涯無いだろう。浮気でもしない限り、アキラにだって源泉の感覚はわからないのだが。

「別に」

 ぶっきらぼうに言い捨てて、アキラは腰を浮かせた。内側を擦る熱の感覚。引き抜かれる快楽は得がたいものがある。くちびるを噛んで沸き起こる快楽に耐えながら、アキラは滑らかに腰を揺らした。彼の細い腰はすでに自分の快楽の坩堝を熟知していて、好きなようにそれを貪った。眼前で展開される素晴らしい眺めに源泉は薄く笑い、褒めるようにアキラの腿を撫でさする。掌に吸い付くような肌の感触。息を乱し始めたアキラの媚態が、何より源泉を楽しませた。

「んっ……あっ…………」

 無意識に眉根を寄せるアキラ。濡れたくちびるを舌先で舐め取る。右手を源泉の胸につき、左手で自身を愛撫する。当の昔にすっかり勃ち上がった自身は、やすやすと手を濡らした。
 うねるような内側の粘膜。細い腰に手を添えてアキラを支えてやりながら、源泉も彼を突き上げる。あっと声を上げてアキラは身を竦め、煌くような目で源泉を睨み付けた。思いがけず強い快楽を突きつけられたせいか、眦に涙が溜まっている。あの涙を舌先で舐め取ったら、さぞや甘露の味がすることだろう。
 源泉の微笑に気付いたアキラは、眉を顰めて息を整えた。もう少しくらい煽ってやらねば気が済まぬ。アキラは腰を浮かせると、根元まで源泉を咥え込んだ。最奥まで迎えこんだ熱塊。それを下腹部に力を込めて徐々に引き抜いてゆく。

「う、わっ…………」

 源泉の表情が変わった。食いちぎられそうなほど締めつけられて、思わず身体を起こす。緩急をつけて彼を締め付けながら、アキラはさも楽しげに笑みを浮かべた。
仕返しのつもりだった。普段は大人ぶってアキラを子ども扱いする源泉に、思い知らせてやりたいと思った。それは見事に成功し、源泉は余裕の無い様子で慌ててアキラをかき抱く。いい様だと思った。けれど半面ではちゃんとわかってもいる。アキラの思惑に源泉がわざと乗ってきてくれたことを。そしてこれがあくまで楽しむべきスキンシップの一環であることを。

「い、いいかげんにしろよっ…………!」

 耳元で源泉が言う声がしたと思った瞬間、アキラの視界は一転した。源泉の背後に見えていたはずの壁が天井に移り、気付いたときには背中にベッドを感じていた。床に直接置かれたマットレスのスプリングが抗議の音を立てる。うわっと声を上げかけたアキラのくちびるを源泉のそれが塞ぎ、強い力で突き上げられた。

「……っ…………」

 思わず迸った声は源泉のくちびるに奪われた。アキラの脚を担ぎ上げるようにした源泉は、叩きつけるように腰を穿つ。肌のぶつかる音が響き、指の先が白くなるほど強くアキラはシーツを掴んでいた。
 腹の内側を抉られるたびに電撃のような痺れが駆け巡る。全身に広がるそれは細胞の一つ一つを破壊し、そして再生するようだ。

「うぁあっ…………」

 アキラは顎を仰け反らせ、くちびるの端から零れた唾液を源泉が舐め取る。尖り気味の顎に歯を立てられて、アキラは身を震わせた。身体の内側から肉がどろどろに溶け出してゆくようだ。源泉と繋がった部分の感覚はすでに覚束ないのに、そこから熱が伝播して身体の隅々までを焼いてゆく。いつの間にか源泉の指がアキラの身体の中心を弄び、昂ぶりは一気に鋭さを増した。
 悲鳴を上げたように思う。もしかしたら、声にはならなかったかもしれない。アキラは背をしならせ、頂点に達した昂揚が迸るのに耐えた。白い背中は源泉の腕の中でビクビクと跳ね、汗に濡れてベッドに沈み込んだ。
 甘い興奮の波間に漂う心地。体内に注ぎ込まれる源泉の欲望を感じて、自然とアキラは笑みを浮かべた。汗ばんだ源泉の身体。耳元に聞こえる荒い息遣いや、圧し掛かる体重さえもが快い。源泉はアキラを抱き寄せて、いつものように軽い口付けを交わした。
 濡れた皮膚を挟んで熱い血の奔流が伝わってくる。いつまでもこうしていられたらいいのに、とアキラもこのときばかりは埒も無い空想にまどろんだ。
 長いことそうして余韻を楽しんだあと、名残惜しげにアキラの中から抜け出した源泉が彼を見つめた。

「アキラ、大丈夫か?」

 アンタこそ、とはアキラは言わず、目を上げて頷く。源泉はホッとしたように微笑むと、視線をベッドの外に向けた。おそらく煙草を求めてジャケットを見上げているのだろう。煙草は欲しいが、離れるのは惜しく、どうしようか迷っているといったところか。
 毛布に埋めた口元でアキラは笑い、源泉の脚を蹴飛ばした。

「いてっ…………」

 不満そうに源泉はアキラを見たが、彼は取り合わずに身体を起こした。

「煙草吸うなら吸えよ。シャワー浴びてくる」

 アキラは無造作に源泉を乗り越えてベッドの端に腰を下ろすと、投げ捨ててあったタオルを取った。源泉が目を逸らすのがわかったが、気にせず脚の間を拭う。腰はだるく重く、全身が疲労していたが、気分はよかった。久々に晴れやかな気分だった。

「そしたら、連れてってくれるんだろ?」

 唐突なアキラの問いかけに怪訝そうに源泉は振り返る。裸のまま壁際のジャケットまで歩いていったアキラは胸のポケットから煙草とライターを取り出すと、源泉に投げてよこした。未だ何のことかわからないといった様子の彼ににやりと笑いかけ、

「中華」

 滅多に見られないアキラの笑顔を散々見たせいか、それともすっかり一本取られてしまったからなのか、源泉は煙草を一本咥えると嬉しそうに破顔した。





〔おわり〕







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