其ノ十一 闇に延びた導火線

 少年はファーストフード店のテーブルに並べられた、いくつかのスナップから一枚だけ手にとると、しげしげとそれを眺めた。スナップは先ほどまで向かいに座っていたグラード学院の高等部生から買ったもので、そこには顔立ちの整った少年が、学ランを着て微笑んでいる姿が写っていた。
 隠し撮りにしては、写りが良かった。お陰でかなりの金額を払う羽目になったが……。
「いくら美少年だからって、男の写真を持ち歩くなんて気持ちわりーな。」
 少年は嫌なものでも見るように、並べられたスナップ写真を順番に眺めた。

 グラード学院はそこそこ名の知れた学校だった。あそこの生徒は皆、あいつみたいな冴えないガリ勉ばかりなのだろうか。こそこそと隠し撮りした学院のアイドルの写真を、定期入れに仕舞い込んでいるような。
 いや、それはきっと偏見だろう。
 少年は写真を潰れた学生鞄に仕舞った。
 写真に写っている人物こそ、不良の頂点に君臨する"あの少年"なのだ。
「こんな所で優等生やってたとはな……。」
 ブラックホール外部の人間でこの事実を知る者は、自分を含めて恐らく三人しかいないはずだ。その内の一人は今年でチームを引退し、もう一人は不良といっても、あまりパッとしない男だった。
 つまり、この切り札を有効に活用できるのは、自分だけなのだ。自分の所属しているチームのヘッドでさえ、少年の素顔は見ていない。

 あの抗争の晩、自分たちの目の前で、ヘッドは狂乱怒濤の頭だという男に、たった一撃でやられてしまった。あまりの呆気なさに、呆れ返ったものだ。
 少年は煙草を取り出して火をつけた。あんなやつの下で、使い走りになっているのも今だけだ。自分には、チームのヘッドになる資質がある。
 そして、やはり天は自分に味方したのだ。少年は煙を深々と吸い込んで、口の端を歪めた。

 春休みの前、ヘッドから突然、紅龍会の若い組員を紹介された。自分が少年の素顔を知っているからだ。
 それからというもの、食事に誘ってもらったり、事務所に連れていってもらったり、男とは交流が続いている。ヘッドでさえ、組の人間との個人的な付き合いなどないだろう。こんな経験が出来るのは姫くらいだ。
 だが、姫は紅龍会と対立している、ハナダ組という組織の味方についたと、男から聞いた。紅龍会は、広域暴力団系列の二次団体だ。そんな大世帯に敵対するとは、全国に点在する組織を全て敵に回すようなものだ。
 不意に込み上げてきた興奮に、少年は小さく胸を震わせていた。
 あんなひ弱な少年など、自分なら片手で始末できる。だが、狂乱怒濤のヘッド……一輝とかいう、あの男は強そうだった。
 しかしいくら喧嘩が強くても、所詮は素人だ。自分の背後には暴力団が付いているのだ。
 紅龍会は、ハナダ組を懲らしめる為に、ブラックホールを潰そうとしているに違いなかった。その計画を成功させる為に、自分の協力を求めてきたのだ。

 少年は鞄の中に手を入れ、白い布地に包まれた物を触った。
 硬くてずしりと重いそれは、紅龍会の男に代償として貰った、小型の改造銃だった。
 むやみに持ち歩くなと言われたが、少年は肌身離さずこうして持ち歩いている。銃を持っている事が妙に誇らしく、それだけで誰よりも強くなった気がした。
 狂犬という異名で恐れられている、あの狂乱のヘッドの息の根を止める事さえ、これを使えば、一瞬にして成し遂げる事ができる。
 銃を構え、狂乱のヘッドの額に銃口をあてる……こいつの冷たい感触に、あいつはきっと驚愕して、額に冷や汗を浮かべることだろう。
 そして、あいつは自分の前に跪くのだ。
 少年は何者にも負けない力を、手に入れたような気がしていた。
「実際、ぶっぱなして年少入るなんて、ご免だけどな。」
 ぶっぱなす、なんて少し格好いい言い回しである。
 少年は想像の世界に浸りながら、低く笑った。



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