火を貸してください
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ポーチの中にタバコが1箱と、ライターが一つ。
歩きながらタバコを出して、口にくわえてライターを出す。自然に足が止まる。 よく見るポイステオヤジよろしく、手で風よけを作って、カチッカチッとライターをいじる。 タバコの先がちろっと赤くなるけど、火はなかなかついてくれない。ああ、吸い込むんだっけ。 突然、喉にケムリがくる。むせる。 タバコとコーヒーは合うよ、と聞いたので、缶コーヒーを買う。口には火のついたタバコ。 取り出し口から缶をとろうとした時、ケムリが目に入って痛い。慌てて息を吸い込んで、そのケムリにむせる。 口からタバコがこぼれ落ちた。 フィルターの先に、べったり口紅がついている。 ああ、汚いなぁと思った。 ちょっと涙が出た。 「強がるからだよ。もっと弱音出していいよ」 優しい顔をして、あの男が言った言葉を思い出した。 思い出したら、すごく腹が立ってきた。 あの男はボランティアに精を出している。 「誰かが喜ぶ顔が見たいから」とか言う。 それも本心だろうけど、でも、あの男に助けられて心から感謝する人はいるのだろうか? 本気で、弱い者を助けようと思っているんだろうか? 本気で、弱い者を助けられると思っているんだろうか? タバコを取り出した。 ライターを今度は上手につけることができた。 軽く、すっと息を吸うようにケムリを口に入れてみた。 ゆっくりと吐き出した。 なんでだろう? 白い煙が出ない。出せない。 提出書類が、出ない。出せない。 謝罪の言葉がうまく出ない。出せない。 いつしか、受けている嫌がらせを言葉に出せない。出ない。うまく言えない。 あの男に、「そういうことして欲しいんじゃない」って言葉がうまく出ない。出せない。 ホントに知って欲しい人に、今の気持ちを言う勇気が、出ない、出せない。 あの男に感づかれて、悔しい気持ちを、表に出せない。 火を、貸してください。 私の欲しい、一番のピンポイントに。 ちょっとしたワガママ。 せめて、タバコに火をつけて、ちょっとむせた。 ケムリにむせて、視界が滲んだ。 大きな月が目に入る。滲んでも綺麗だろうなと思ったので、絶対に見てやるもんか、と思った。 ふん。 ところで、燃え尽きたタバコって、どこに捨てたらいいんだろう? |
mixiブログに書いたものを修正。タバコ、多いね……。
「正しいこと」に目を向けすぎて、気持ちを踏みにじってしまう失敗は誰しもある気がする。
問題は、それを指摘されても素直に聞きたくないってことにあるんだよね。
自分の価値観の中の「正さ」がどれだけ脆いものか……。
誰かを傷つけてまで「正さ」を守る人が大嫌いです。自分がそうだったから。
……今も、これからも、そうかもしれないけど、せめてちょっとずつ。
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