壁
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この更衣室って古いじゃない? ロッカーは新しいけどさ、建物すごく古いじゃない?
ムカシね、ものすごく腕のいい人がここを建てたの。だからこの更衣室、建物だけは古いの。昭和の前からあるって話もあるんだけど、多分ホントね。 で、この更衣室の話、知ってる? これね、ちょこっとムカシの話なんだけど。 左官屋さんがいたの。腕のすごくいい。あ、左官屋ってのはね、壁を塗る人よ、壁。コテみたいなんで、こう、壁を塗り固めてる人。修理屋さんみたいな感じ? どんなボロイ壁とかもね、その左官屋さんにかかったらあっという間に直るの。その人、すごく色白でね、ちょっと気味が悪いんだけど仕事の腕は確かなの。色白だから気味悪いってんじゃなくてね……、なんていうか……。無口で、どこ見てるかわからなくて。でね、友達とちょっと賭けをしたの。ちょうど、その左官屋さんがウチの学校の修理に来ててさ。私が、その左官屋さんを誘惑して。惚れられたら勝ちで、無視されたら巻け。 え? 私はその左官屋さんは好きでもなんでもなかったわ。アミダで決めたの。アミダくじは知ってる? ああ、知ってるわよね、そりゃ。あはは。 更衣室が使えないのは知ってるけど、わざと着替えに入ったの。え? 見せないわよ、そりゃ恥ずかしいもの。でも、ちょこっとだけ着替え始めるフリしたの。左官屋さんが休憩から戻りそうなタイミング狙ってね。で、私が「きゃ」って言って……。 左官屋さん、すごく丁寧に謝ってた。「まこと、申し訳ない!」ってね。ちょっと悪い気がしたから、一回お弁当を差し入れしたわ。まあ、それも作戦だったんだけどね。あは。 まあ、うまく行ったんだ。 二人でいる時、彼はいつもこう言ってたの。 「私は女子のこと、わからない。まこと、申し訳ない」 ゲロゲロだった。 でも、私はよく仕事を見に行ってたの。更衣室は一番最後だったなぁ。校舎から順番にね。部活がなかったら立ち入り禁止だったんだろうけど、弓道場ってここしかなかったからね。あ、まあ、私は留年してるからね。結局。みんなは知らないんだろうけどさ。 そうそう。一回お弁当を差し入れしたって言ったでしょ? でね、お弁当箱を返してもらいにいったのね。そしたら、その人、なんて言ったと思う? 「埋めてしまいました、まこと、申し訳ない」 だって。 そりゃ「何で?」って聞くじゃない? 聞くじゃん? そしたらさ、そいつ。 「大事なものは、自分の一番の仕事と共にいて欲しいから」って。 頭にきちゃった。そりゃ好きでもないけどさ、お弁当作ったげたら食べてよね。ほんと。まったく。聞いてみたらさ、そいつ、今までいろんな場所にいろんなタカラモノを埋めたんだって。 「あの、愛してます。まこと、申し訳ない」 顔を真っ赤にして、そういいながら、私の目の前に蛇の抜け殻を……。 私、悲鳴あげちゃった。気持ち悪いじゃない。左官屋さんも、蛇の抜け殻も……。 でも、それを見て、さらに自慢げに。 「虫もたくさんです。専用の薬も持ってます。すぐ持ってきますから!」 もう、怖くて仕方なくて。首を振るしかできなかったわ。半分泣きかけてたしね。怖いじゃない。でね、左官屋さん。私に嫌われたって思って……。 「そうですか、ダメですね。でも、いい思い出ができました」 左官屋さん、それで子供みたいにわんわん泣き出してさ。それで、なんかすっごくむかついたのね。私。 で、ほったらかしにしてたらさ、左官屋さん、いきなり私の両手を掴んだの。で、今から埋めようとしてる壁にすっと私を押し込んだの。さすが玄人ね。モノを埋めるのに、彼ほどの玄人はいないわよ。私は自然と「ああ、埋められるんだ」って思うものの、抵抗もできなかった。ううん、抵抗する気すらなかった。それくらい自然だったの。 「いい思い出、私は残します」 そういいながら、私も埋められたの。そう。ここに。 最後の最後まで、気持ち悪かった。鼻の穴が膨らんでたわ。なんかすごいヨゴレとか見えて……ああ、気持ち悪い……。 でも、私は何もできなかった。体中に壁の材料が塗られたわ。多分、あの材料には何か入っていたのね。私は何もできなかった。私はあっという間に、埋められたの。冷静に考えたら、虫と同じように眠らされてたんだろうね。 ……でさ。でさでさ、いつまで一人で喋ってたらいいのよぉ? 誰か、聞いてよ、返事してよぉ……。私、もお誰もからかわないよ? ちゃんと今の若い子の喋り方も覚えたんだからぁ。そら、髪の毛とか、多分もうないから、見た目じゃムリメだけどぉ。 私のこと見なくていいからさ。ちょっとくらい割れてもいいからさ、出して……。 お願い、出してよぉ……! ……出してぇ……。 |
mixiブログに書いたものを修正。
ホラーは嫌いです。
自分で書いたら怖くないかな……って思ったけど、
結構こういう怪談あるんだと、後日知ることに……。
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