いいやつ

 

 今日は、いいやつと飲んでる。僕があいつを勝手にそう呼んでいる。

 いいやつは、相変わらず気を使いまくる。 
「いやさ、俺はな、好きなんだよ? けど、お前楽しくなきゃしょうがないじゃん?」 
 ……ぶっちゃけ、昨日のわるものと何も変わらない。 

 いいやつも、悩む。 

「みんなさ、俺のこと、『いいやつ』って言ってくれんじゃん?」 
 ああ、実際、お前「いいやつ」だよ? 
「けどさ、そういってくれんのは、もちろん、嬉しいよ? けど、俺、何が『いいやつ』なんかわからないんだ。ってか、『どうでもいいやつ』なんじゃね?」 
 ……ばーか。 
「うわ、お前、そこでそれないじゃん」 
 ……いや、お前は「いいやつ」だと思われてんだしさ。何がいけないのよ? 
「俺は自分で思うほど、『いいやつ』じゃないぞ」 
 ……ばーか。もひとつおまけに、あほう。 
「……お前、適当に罵ってないか?」 
 ……ぎく。いやいやいやいや。お前は、やっぱ、あほうよ。 
「なんで?」 
 ……「いいやつ」は、相手にとっての問題じゃないか。 
「……うわ」 
 そだろ、結局さ。冷たい感じになるけどさ。 
「まあなぁ」 
 でも、お前、いいよ。 
「何、気持ち悪いぞ」 
 いや、そうだけど、仕方ないんだ。お前、やっぱいいよ。 


 いいやつは、昔、どうしようもない僕のために、本当にかけがえのないことをしてくれた。 
「当たり前じゃね?」 
 って言ってくれた。 
 それを言えるのは、いいやつしかいないし、世の中バカばっかりじゃないんだから、みんなそれを知っている。 
 バカはいいやつの方だ。 
 でも、気づかないのって、やっぱいいやつだからだ。 

 いいじゃないの、お前さ。 
 お前がわかってなくても、わかっていてもさ。 
 喜んでくれてんだしさ。 
 けどな。お前いっつも俺のこと心配してくれてんの、ホントは知ってんだ。俺、バカだからさ。 
 お前、そういうの、なかなかホントはできないんだよ? 
 まあ、お前にはわからんだろけどさ。 
 お前、俺に「他人の痛み感じすぎ」って言うけど、お前こそ、それ知ってんじゃん。ちくしょー。お前、先々歩いてるって感じで、ちょっとアレじゃねー? 
 って、そこで笑うかー。 
 お前、優しすぎんだよな、くそー。ずるいわー。 


 ってかさ、俺が「わるもん」で、お前は「いいやつ」じゃね? 
 けどさ。 
 けど、さ。 

 ふつーだよな。俺もお前も。 

 ……ごめん。酔った。俺何言ってんだろな? 
 ……知るかとか言うなよー。 


 僕らは黙ってグラスを上げた。 
 黄金色の液体は、安い店の照明に照らされて、ぼんやり揺れる。 

 揺れる揺れる揺れる。 

 バカはいつまでもバカで。
 黄金色の液体が、今日の僕らの子守唄。 


「あのな、みんなわかってもらいたいじゃん?」 
 だなー。 
「お前、わかってやれるか?」 
 さあなー。 
「お前、わかってもらえるか?」 
 だなー。 
「じゃ、帰るか」 
 おう。勘定はまかせとけ。 
「……いつも悪いな」 
 お前の遠慮のなさは、いいやつすぎて……ずりいな。 
「……すまん」 

 やっぱりバカはいつまでもバカで。 
 黄金色の液体が、今日も僕らの子守唄。 
 結局、僕らは気障でどうしょうもない、バカで。 
 誰かを苦しめながら酒でごまかして。 
 誰かに時として苦しめられても、酒でごまかして。 
 まあ、いつか笑えばいいじゃない? 

 取り返しのつかないこと、たくさんしたけど、 
 じゃ、元通りよりも、もっといいもの探してやろうじゃん。 
 そう思えるのは、酒の魔力か、友達の力か。 

 なんだっけ、酔ってきて、何書いてるのか、もう、わからない……。 

 結局、バカはいつまでもバカで。 
 黄金色の液体が、明日の僕らへの子守唄。

 

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mixiブログに書いたものを修正。
酔って好き勝手言うのは楽しいですよね。
(後悔することのが多いけど、やっぱり)
前のページ「わるもの」の続きでもあります。
多分、こっちは酔っ払いながら書いたと思います。
ナルな男のクサイ文章に仕上がってますが、
ちょっと地が混じってるので、妙にもやっとします。(笑)


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