あっち
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パパが自転車を買ってくれた。
パパは僕よりも本気で自転車を選んでくれる。それはいいんだけど、僕はパパが熱くなりすぎて、ちょっと疲れ気味だった。 「今は36段変速とかあるんだなぁ」 パパ自身が乗ってみたいんじゃないだろうか。値段を何度も見て軽くため息。 小学校3年だし、運動はダメだけど頑張って普通に自転車に乗れるように頑張った。 一緒に練習をしていた3つ下の妹がもう少しで乗れそうになったのを見て、僕は本気を出したんだ。まあ、3年生だしね。 「今度の日曜、サイクリングしよう!」 パパはそれはもう嬉しそうにママに何度も、お弁当のおかずをあれこれ注文していた。ママもなんだか嬉しそうだった。 その、今度の日曜は、雨だった。もちろん、お弁当はなし。 妹は普通に部屋でマンガを読んでいて、パパはテレビでマラソンを見ていた。僕も一緒に見ていたけど、結局何が面白いのかわからなくて、妹のマンガを借りて読んでいた。 おやつの時間が終わると、パパが「本屋に行く」とママに言った。僕は急いで、自転車の鍵を取りに行った。 「僕も!」 パパは嬉しそうに「自転車はムリだろ」と言ったけれど、ドアを開けてみたら、雨は降っていなかった。少し晴れてるところも空にあった。さっき、雨の音がしなくなっていたから、僕はパパを喜ばせてマンガの続きを買ってもらおうと思っていた。 外に出ると、パパが「おー」と上ばかり見ている。 僕はパパに「早く行こう」と言ったけど、パパは「ちょいまちな」とばかり。 仕方ないから僕も上を見たら、虹がいた。 「おー」 虹は7色ってゲームとかに出てくるけど、実際は4つくらいしかないみたいだ。パパは僕の頭に手を置いた。 「なあ、虹の根っこって見たことあるか?」 僕は「ない」と答えた。 「そっかー。虹の根っこをつかんだら、願い事かなうってのも知らないか?」 僕は本当は知らないけど、恥ずかしいから「知ってる」って答えた。 「じゃあ、虹が溶ける前に、急ぐか?」 パパはタバコを水溜りに投げた。ジュッっていう音がする。いけないんだー。でも、僕はそれどころじゃない。 「本は帰りにしよう!」 「虹の根っこに買ってもらうか」 僕とパパは、虹の根っこに向かって全力で漕ぎ出した。 「ねえ、パパ、こっちであってんの?」 一生懸命こぎながら僕はパパに聞いてみた。 「ああ、あってる。あっちだよ」 パパはまっすぐ向こうを指さした。 僕とパパは、あっちに向かって進む、進む。 |
mixiブログに書いたものを修正。
最近、虹って見てないなーって思ったけど、虹の出ている時間に外にいないからですね。
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