午後の陽だまり〜語る
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何の予定もない、日曜日の午後。私が花屋なんかに足を運ぶ女じゃないのは、自分でもよくわかっているのだけれど、何でだろう? ほんの気まぐれ? 気がついたら愛想のいい可愛い女の子の店員さんに、花束を包装してもらっていた。
カランコエという名前らしい。一輪だけではなく、一つの株からたくさんの花が咲いて、華やかに咲いてくれるらしい。もうすぐ、たくさんの花をつけてくれるそうだ。 「花言葉は『幸せを告げる』って意味がありますよおー」 店員さんが、とても嬉しそうに説明してくれる。いいお店だなーと思いながら、初めて育てる花をどうやって扱っていいのかわからず、そっと抱えて家に向かう。 住んでいる部屋に、ベランダなんてものはないから、とりあえず陽が当たるように、小さなテーブルをひきずってきて、窓際に置いて、鉢を載せてみた。太陽の光が一番当たる場所を選んだのだけど、光が当たっていると、葉が、蕾が、なんだか嬉しそうに見える。案外、いい買い物だったのかもしれない。 「お水、これくらいでいいのかな?」 (……) 「多分、いいんだよね? 店員さん、そう言ってたし」 (……) 「えっと……、えっと、その、あのね」 (……) 「ほら、植物はお話したげるといいって、ほら、言う……じゃない?」 (……) 「あ、ごめん、偉そうな感じ、かな?『話したげる』なんて、ねえ」 (……) 「い、意外と気分いいね、こういうのも」 ゆらりと蕾がかすかに揺れた。 「あら、ふふ。返事してくれてるのかな」 (……) 「なんでだろうね、あなた、この部屋に来て欲しかったの」 (……) 「あのね、好きな人いたの」 (……) 「ごめん、唐突だったかな」 (……) 「でも、いっか。自分勝手だけど、お話させてね」 (……いいよ。聞かせて) 「好きな人にね、『ずっと一緒にいたいな』って言ったんだ」 (……そうなんだ、素直な気持ち言えたのね) 「でも、その人……、あ、ごめんね、わけわかんないね。もう少しお水いる?」 (……もうちょっとだけでいいよ) 「うーん、多分、これくらいと思うけど、もう少しだけにしとくね」 (……ありがとう、ちょうどいいよ) 「えっと、どこから話せばいいのかな」 (……) 「最初は、すごく腹の立つ男だったのね……」 最初は何してるんだろうって思いながら、カランコエに話しかけていたんだけれど、誰も見ていない部屋で、そっと気持ちを話していると、自然と自分の気持ちが整理されたり、自分自身で「え? そんなこと考えてるんだ」ということに気づかされたりもした。いつの間にか、私はカランコエを「香織さん」と呼ぶようになった。お花だから、「香織さん」と、単純につけてしまった。 「香織さん、ただいま」 (……おかえり) 「あのね、友達がすごくおいしいケーキ屋さん、教えてくれたんだ。底がサクサクの生地でね、ふわっとしたチーズケーキ部分……うーん、なんて言えばいいのかな、で、レーズンがぽろぽろってしてるの」 (……嬉しそうね) 「香織さんも、おいしいお水召し上がってね」 (……水道のお水でいいのに、いつもステキなお水をくれてありがとう……) 「香織さん、嬉しそうだよ」 (……本当に嬉しいよ) 「ねえ、香織さん。香織さんに会って、まだそんなにたってないのに、何かずっと一緒にいる感じがするよ」 ……ずっと一緒にいたんだよ、きっと。 「……こんなこと言ってるの、私の周りの人が聞いたらびっくりするかな」 (……そうなの? ……私は嬉しいよ) 「今日も綺麗だよ、ありがとう」 (……うん。あったかくて気持ちがいいよ、ありがとう) 私は香織さんと暮らし始めた。あまり長く持たない花かもしれないけれど、花がらを早めに摘み取ったりしながら、一緒にいる間は話相手になってもらっていた。花の3割くらい枯れたら、その茎を切らなければいけないけど……。 「ごめんね、切らせてね」 (……大丈夫。もっと咲かせてあげる) 何故だか、香織さんは、少し嬉しそうに花を揺らしてくれた。私の都合のいい想像なのかな……。でも、香織さんは今日も綺麗に花をさかせてくれている。 |
mixiブログに書いたものを修正。(ほとんどそればっかですが)
花の知識もないのに、検索で調べて書いています。次のページに続編があります。
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