もやもや

 

 「もやもや」がまたやって来た。最近、私のところには毎日のように「もやもや」がやってくる。
 なんでこの「もやもや」はただの27歳のOLの私を気にいってるんだろうな……。「もやもや」が来ると、私はいつも落ち込んでしまう……。

 珍しい早番の仕事の帰り道。明日はやっと休みだ。でも、私の仕事は休みが平日で、数少ない友達は仕事の日。
 友達……。随分結婚しちゃったなぁ。小さい子供を抱えていたり、旦那の面倒を見たり、みんな毎日大変そう……。でも、友達たちはみんな幸せそうに笑う。私はというと、仕事ばかりで出会いすら、ない。仕事行って、家に帰って、ぼんやりテレビ見て、寝る。休みの日は、本を読んだり、ちょっとした買い物をしてすごす。
 それだけ。

 仕事は忙しいけど、それなりに楽しい。でも、仕事は仕事。これがなかったら、今の私はどこにいてもいなくても一緒なんじゃないかな……。
 27歳。のんきな親が結婚の心配をしはじめた。このまま結婚できないんじゃないかなーって不安にもなる。

 趣味に生きている友達もいる。その人も、なんだか生き生きしている。うれしそうに面白い話をたくさん聞かせてくれる。私は、生き生き……していない。仕事場へ、早足で歩いて行くだけ。帰り道を、ゆっくり歩いて帰るだけ。

 やりたいことが、ない。私は、これからどうしたいんだろう?

 ……「もやもや」にとって私は随分居心地がいいらしい。
 いつの間にか、私の中に入ってきて、「もやもやもやもや」とささやき続ける。
 はぁ……。
「ため息ばっかりつくと幸せになれないぞ」
 昔私が好きだった人がそう言っていたことを思い出す。好きだった人かぁ。……はぁ。……だめだなぁ。

 彼が欲しいなぁと思う。でも、どうすれば彼ができるかなんてわからない。友達に電話をかけたけど、うまくつながらない。なんだろう。なんでもないのに、少し泣きそうになった。寂しいのかな……。わからない。
 目の前を歩くサラリーマンが自分の肩をとんとんと叩いていた。この人も疲れてるんだなぁ。サラリーマンが首をまわす。ぐるぐる。もう一回ぐる。
 疲れて……るんだな。
 私も首をまわすと、暮れかけた空が勢いよく流れた。

 少し暖かいの風が吹いている。私は公園のベンチに座って空を眺めている。少し寒いけど、なんだか動きたくなかった。暮れていく空に影になった雲が思ったより早く流れている。
 そうか、今日は早番だっけ。時計を見て納得する。

 毎日、空の色も見ないで生きてたんだな……。
 子供の頃、いつだったかどこだったか、すごく赤く染まった夕焼けを見たことがあった。なんだか怖かったのに、あまりに綺麗で目が離せなくて、空が暗くなるまで眺めていたことがある。そのせいか、学校の帰り道、なんとなくいつも空を見るようになったっけ……。
 雲がゆっくりと流れている空。光がほんの少ししかいない空。かすれていく飛行機雲。遠すぎて何の鳥かわからないけど、勢いよく飛ぶ鳥。雨の日の稲光。雪の降りてくる夜。

 そういえば、昔は私はいつも空を見ていた。私の頭のてっぺんの、もっともっとずっと上で、毎日ずっとあった空。いつから空も見なくなったのかな……。

 毎日空を見て、何かしら今思うと恥ずかしい夢を見て。友達と喋って。たったそれだけなのに、今みたいに悩んだりしなかった。寂しかったり、何年か先の私を心配したり、そんなことはなかった。今とは違うのかな……。あまり私は変わってないのにな……。
 すっかり暗くなった空に、月が浮かんでいた。まるい月が今日は随分明るかった。
 今日は……?
 あの頃、毎日月も見ていたっけ?
 昨日の月を思い出してみようと思ったけど、月を見ていたかどうかも怪しい。明るくて丸い月は綺麗で、単純に好きだ。
 綺麗だな……。
 いつの間にか「もやもや」がいなくなっていた。

 私がぼんやり空を見ていると、犬をつれた女の人がつられていっしょに空を見ていた。それから女の人は私を見て、にっこり笑って犬と一緒に走っていった。私も笑いかけてみた。なんだか、単純に嬉しかった。
 なんでもない毎日だけど、綺麗なものはいっぱいある。
 携帯電話が私を呼んだ。さっき電話した友達からだ。
 急いで電話に出る。
「もしもし? 今ね、外にいるんだけど。……うん。うん。月が綺麗だよー」

 

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随分以前に公開した作品を入れました。最初にこれを書いたのは5年以上前の気がします。
ちょっとしたきっかけで、気持ちがいい方向に変わることってありますよね。


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