馬車に揺らされながらガブリエルはぼんやりと外を見た。

名前を見た後でも、自分のこの青い髪を好きになれたことはなく、部屋に篭っていた。

窓から見る景色と、時折散歩する己の屋敷の庭以外の外なんて久しぶりだ。

会話などなく、ぼんやりと時間だけが過ぎていく。

この郊外から出たことはなく、だんだんと変わる景色に不安は隠せない。

 

「……女王陛下の前では……そんなみすぼらしい格好はやめて頂戴」

「っ……は、い……」

 

顔を隠すように被ったローブのフードをぎゅ、と深く握り締める。

黒いローブは外に出るときにかならず被っている、故にその事が醜聞として外に流れている事は知っている。

その事に対する罪悪感はあるものの、己の髪について言われるよりもいい。

どうしても、怖いのだ。

母のように畏怖の目でみられるのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは女王陛下に挨拶をしなければいけない。

初めて訪れる城の豪勢さに圧倒されながら、馬車から降りると、意を結して進み始めた。

規則正しく並ぶ衛兵たちはガブリエルの奇怪な格好に何の反応も見せず無表情に歩みを見守る。

赤の絨毯が敷き詰められた長い回廊を一歩一歩踏みしめるかのように進む。

やがてたどり着いた先は大きな扉だった。

両端に立っていた衛兵たちが静かにゆっくりとその重厚な扉を開ける。

その先に広がったのは――純白の世界。

 

「ガブリエル!」

「女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」

 

嬉しそうに駆け寄ってきた妙齢の美女にガブリエルは慌ててひざを折る。

そしてフードに手をかけたところで、白い手に止められた。

 

「無理強いはしないよ、ガブリエル。お前の鮮やかな蒼を見れないのは残念ではあるがね」

 

そう言って目の前の女性は笑う。

隣の母親は心配そうに女王とガブリエルと交互に見つめている。

女王の艶やかな黒髪は何色にも侵されない―絶対だ。

 

「私のわがままを聞いてもらって悪いな。メロスコット男爵夫人。本当に久しいなガブリエル。息災で何よりだ」

「陛下……お招きありがとうございます」

「それで、目下の宿はミカエルの所かい?」

 

その言葉にガブリエルの体が小さく震える。

はい、と小さく返事をすると女王は思案げに、そうか、と言った。

怪訝そうにしているが、何も聞く気はないのか女王はもう一度笑った。

 

「短い滞在だが楽しむがいい。何も花婿探しに呼んだわけではないからな」

「陛下のご好意感謝いたします。それでは……失礼いたします」

 

深くお辞儀をするとゆっくりと立ち上がる。

女王の漆黒の瞳はガブリエルの思想を読み取るようにするどく光る。

それだけで緊張に足が竦みそうになる。

 

「……ミカエルに……よろしくといっておいてくれないかい。私から」

「は、い……かしこまりました……」

 

喉から搾り出すように返事をするとガブリエルは城を後にした。

 

 

 

 

 

 

15th/Sep/07

 

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