291 名前:とらわれの螺旋 1/5 :2006/11/11(土) 03:58:36 ID:RcnJiOun0
投下します。今回も導入のみとなっています。それでも良ければ。

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――翌日、学校を終えて。
 流は事前に情報を集め、舜がよく来るという繁華街へと来ていた。
 ゲーセンやファーストフード店などを見て回り、舜がいないかを確認する。
 今日は来ていないのだろうか。それなら、とりあえず今日は帰るしか……。
 そう、流が思い始めたその時、前方から激しい悲鳴と物音が聞こえてきた。
 舜だ。その予感に走り始める。程なくして、その現場に到着した。そして、予感が当たったことを知る。
 一対五。そんな人数であったことは、そいつの足元に転がっている連中を見れば分かる。
 なのに舜は、呼吸一つ乱していない。その様子を見ながら、流は小さく肩を震わせた。
「舜!」
 声を張り上げ、名前を呼ぶ。ピクリと舜の肩が揺れ、こちらを向いた。
「アンタ昨日の……」
 驚いた様子でこちらを見る舜の方に、ゆっくりと足を進ませていく。近くで見ればよく分かった。
「間違いないようだな、舜」
 そう言うと、舜は大きな目を幾度か瞬かせた。
「アンタ、何で俺の名前知ってるんだ?」
 何故だと? 舜は自分のことなど忘れてしまったというのだろうか。俺は片時も、忘れなかったというのに。
「俺を忘れたか。俺の名は……流だ」
 名前を言う寸前、舌が硬直した。忘れられていたら、という想いが胸に過ぎる。
 祈るような気持ちで、拳を握った。
 そして、どうやらその心配は杞憂だったらしい。
「流……? まさか、本当にあの、流なのか……?」
 再会を喜ぶ気持ちが、舜の表情に湧いてくるように流には見えた。だがしかし、祖のみに纏った警戒が緩む様子はない。


292 名前:とらわれの螺旋 2/5 :2006/11/11(土) 03:59:38 ID:RcnJiOun0
 本当にこいつは変わらないなと、流はしみじみと考えていた。
 流は握った拳を舜に向けて差し出し、腰を落として身構える。それを見て舜は、幾度も瞬きをした。
「なんだよ流。その構えはよ」
「お手合わせ願おう」
 そう告げると、舜は再び驚いたようだった。
「……なんでアンタとそんなことしなくちゃいけねーんだよ。別に俺は、アンタと喧嘩する理由なんてないぜ」
 呆れたようにそう言う舜に向かい、流は何も言わずに殴りかかった。しかし舜はそれ予測していたらしくひらりと避けて見せ、流の拳はむなしく空を掻くのみだった。
 しかしそんなことは分かっていた。流は口の端をニヤリと引き上げると、再び舜と対峙した。
「さあ、お前もかかってこい」
「……俺が新参だからとか言うわけのわからねー理由でしょっちゅう殴りかかられるけどよー、一体、お前までなんなんだよ」
 舜は呆れたような顔をしたが、やがて拳を握り、身構えた。流はそれを見て、精神がざわめくのを感じる。
 ……こいつは、強いな。目を見れば分かる。だが……負ける気はしない。
 舜の拳をギリギリで避け、こちらも蹴りを繰り出す。それも紙一重で避けられ、鋭い突きが来る。敢えて掌で受け止め、膝を跳ね上げた。肘でのブロック。そこから、額が飛んできた。
――ゴッ!
 一瞬、視界がぶれた。しかし意識を失うのを堪え、こちらも額を叩き付ける。
「……くっ!」
 舜は怯んだ様子を見せたが、それでも諦めることなく肩で反撃してきた。それも同じく肩でガードし、空いた脇腹に拳を突き入れる。それは、打点をずらされた。


293 名前:とらわれの螺旋 3/5 :2006/11/11(土) 04:00:16 ID:RcnJiOun0
「……つええ」
 舜の呟きが聞こえたが、流は攻撃の手を休めることはない。
 一旦距離を空け、大きく顔面めがけて足を振り上げる。それは片腕で防御されたが、構わず力任せに振り抜いた。
「うあっ!」
 舜がバランスを崩し、大きな隙が出来る。流がそれを、見逃すことはなかった。
 一瞬にして懐に飛び込み、腕を取り、投げ飛ばす。背中から地面に叩き付けられ、舜の顔が歪む。
「うあ……クソ……」
 藻掻いて起き上がろうとする身体に、足を踏み降ろす。薄い笑みを浮かべ、舜を見下ろした。
「寝てろ」
 いっそ優しいほどの声音で囁いて、顎を蹴り上げる。舜が意識を失ったのを確認し、流は携帯を取り出して迎えを呼んだ。

――会いたかったぞ………舜。




294 名前:とらわれの螺旋 4/5 :2006/11/11(土) 04:01:19 ID:RcnJiOun0


――とても広大な屋敷の片隅で。
 流は舜が膝を抱え、蹲るのをじっと見下ろしていた。
 一週間後に親戚が迎えに来るから、それまでうちで面倒を見ることになった。
 流の父親は、舜を連れてきたときそんな説明をしていた。どうしてそうなったかはよく分からないが、なんでも舜の父親は流の父親の部下だったらしい。
 それで、僅かな間だけでも面倒を見てやるという話になったそうだ。
 仲良くしてやれと流はいわれたが、正直どうすればいいのかなんてよく分からない。ただ、この舜という少年に興味はあった。
 両親を亡くしたばかりだというのに泣く様子もなく、殆ど何も口にせずにじっとこうして蹲っている、まだ幼い少年。その目はギラギラと光り、まるで手負いの獣のように、辺りをずっと警戒していた。
 ……泣けばいいのに。
 どうして堪えたりするんだろう。自分の感情を抑えることなく、哀しいなら哀しいと叫んで、泣けばいいのに。
「……なけばいいのに。どうしてがまんするの? くるしくないの? こわれちゃうよ、ねえ」


295 名前:とらわれの螺旋 5/5 :2006/11/11(土) 04:03:22 ID:RcnJiOun0
 壊れて欲しくないのに。このままじゃ、危ないのに。
 そう告げると、舜が顔を上げた。その頬に流は、そっと手を伸ばす。
「くるしいときは、ないてもいいんだよ」
 そう囁くと、舜の目に涙が滲んだ。もう少しで、表面張力が限界を超えてあふれ出すだろう。流はそう思った。
 しかし流の予想とは違い、舜は乱暴に目を拭うと、ホンの小さく、微かに微笑んだのだった。
「……だいじょうぶ、だから」
 今にも消え入りそうな声に、流はこれ以上何も言えなくなってしまった。そっと舜の部屋を出て、戸を閉める。
 流は閉まった戸の向こうにいるであろう舜を思い、困惑げにこう呟いた。

「ぼく、えがおがみたかったんだっけ……」



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今回ここまでです。
初仕事さん、今後の展開にwktkしています!
どうなるのか、凄いドキドキです。
そしてリレーの皆さん乙です。楽しんで読んでます。

296 名前:風と木の名無しさん:2006/11/11(土) 09:37:22 ID:DeaiaUzT0
螺旋タンおつ!
きれいでやさしい気持ちがなぜこうなった。
続きwktkだ!

297 名前:初仕事13:2006/11/11(土) 12:40:46 ID:RfkoMnO80
シャワー室は一人で入るのが精一杯の広さだ。湯船が恋しい。普段、湯船につかる
ことなんてあまりないのに、今はなんとなく、お湯の中でゆったりしたい気分だ。
顔中になすりつけられたツメカミの匂いが、狭い部屋にこもった湯気に運ばれて充満
していくみたいな気がした。早く洗いたい。おえ、とえづくと、僕は大急ぎでつなぎを
脱ぎ捨てた。
このつなぎ、ホントに変な形してる。襟元からずーっとスナップボタンで、足首までが
開くようになってるんだ。両足の内側が全部ボタン。だから、ばばばっと引っ張って
外せば、魚の開きみたいに全開に出来るはず。まあ、着るときは脚の部分は閉じたまま、
普通のズボンみたいに穿いてるけど。
すぽっと脱いで、クローゼットの中に放り投げる。洗濯物を下に置く、っていうか放り込む
ようになってて、新しいタオルとつなぎが上の棚に補充される。
この奥の壁は隣の部屋と繋がってる。けど鍵がかかってるから脱走は無理。と言っても、
やめたいって願い出ればすぐ解放してもらえるから、誰も無理に逃げ出そうとは思わない
だろうね。事実、5日で出てったヤツがいるんだし。
湯の感触が心地いい。こうやってさっきまでガチャメも浴びてたんだな、と今までに思いも
しなかったことを考える。ここで唯一、ひとりきりになれる空間が嬉しい。そっぽ向いて、
動物園の動物みたいにすごすのにすっかり慣れたと思ってたけど、やっぱりちょっと
辛くなってきた。一人になれるって結構大事なことなんだな。
そこまで思ってから、ふと疑問がわいた。ガチャメ、何もわざわざあんな目立つやり方
しなくても、シャワーのときに済ませればよかったんじゃないか?
僕だって、ちょっと…と思ったらシャワーの時に処理してる。それともガチャメくらいの
年になると、ここに閉じこもってから今まで我慢出来ちゃってたってこと? シャワー室
でもやってる上に、あえてあんな目立つことしたっていうんなら…まさか、挑発してる?
誰を。そうだよ、揉め事起こしてなんになるんだよ。なに考えてるんだ、僕は。

298 名前:初仕事14:2006/11/11(土) 12:41:34 ID:RfkoMnO80
シャワーから出ると、至極ご機嫌なツメカミの姿が目に入った。アイツ、ガチャメと
エサを交換したんだな。シリアルバーの包装が脇に散らばってる。まったくアイツ
だけだよ、あんなにごみだらけにするのは。
ここはさすがに、掃除の人は入ってこない。一応閉鎖空間ってことで、監禁生活
なんだから。消耗品の補充はあっても、ごみやなんかは自分達で排出しなくちゃ
ならない。なのにアイツときたら、指の皮はぺっぺやるし、食べカスはほったらかし。
こういうヤツを一人混ぜ込んでおいて、トラブルになるのを観察してるんだろうか。
でも。ここまでして居座るのは、金ほしさなんだよな。そう思ったらなんだか、あの
ツメカミですら哀れに思えてきた。あんなにイライラしててもリタイヤしない。僕を
はけ口に苛めながらゼリーだけの毎日に耐えて、出て行かない。きっとすごく
困ってるんだ…。まずい、こういうところが悪いんだ。すぐほだされるって言うか、
なし崩しになってしまうところ。そこがいいって、あの採用の人は言ってくれたけど。
一体どういう意味なんだろう。
定位置に座り込むと、ガチャメの手元に目がいった。僕が壁を背に腰を下ろすと、
ほぼ正面になる所に彼が座ってる。銀色の小さなパーツを、指先でいじっている。
磁石でくっつく小さなパズル。氷のかけらみたいに光るそれを、少しずつ上へと
積み上げて塔のように伸ばしている。氷の城。時折、ちゃら、と崩れ落ちるのを
僕は思わず目で追う。ふと気づくと、手はそのままに彼の目が僕をじっととらえて
いた。気づかないうちに見つめられてた。僕は目を瞬いて逸らす。なんだよ、
これじゃ好きな子に見とれてぼーっとしてたヤツみたいじゃないか。
ごまかそうとヒッツレに目をやれば、ヤツは早々と寝てた。横になって、軽く曲げた
脚の間に両手を挟みこんでる。こっちに尻を向けてるから、股の間からちょろっと
手の先が覗いててなんだかマヌケでかわいい。そうそう、アイツがストレッチとか
やってると、脚のボタンの隙間から中が見えないかとちょっと気になるんだよな。
なんせ下着なんて着けてないから、見えちゃったら結構気まずい。僕より三つ四つ
年下らしく見えるヤツは、そういうとこが無防備で、ちょっと気になったりする。

299 名前:初仕事15:2006/11/11(土) 12:42:39 ID:RfkoMnO80
体を揺すられて目が覚めた。いつのまにか寝入ってたんだ。
「おい。おい、ホクロ」
まずい、ツメカミだ。なんだか声を殺してる。みんな寝てるってことだろう。
ぼんやり考えてると、唐突に股のボタンをばりばりと開かれた。
「なっ!」
「うるせえよ。黙ってろ」
「なにっ…ちょ、やめてよっ」
ツメカミの手をなぎはらおうと滅茶苦茶にもがいた。チッ、と舌打ちすると、ヤツは
僕の上に馬乗りになって、顔をグーで殴った。痛い…痛いってこれは、さすがに。
「いが…」
「だから言ってんだろ、静かにしろって」
そう言うとツメカミは、全身で僕の上にのしかかってきた。顔のすぐそばで囁く。
「お前さあ、あれだろ。ホモだろ」
反射的に僕はヤツをキッとにらみつけた。殴られた口元が痛くて手を当てたまま。
「何言っ…」
「なあ、ケツ貸せよ。お前さ、ヤラれ慣れてんだろ。今日の顔見てわかったぞ」
僕は滅茶苦茶に首を振る。何言ってんだよコイツ。なんだよヤラれ慣れてるって。
「とーぼけんなよ。なあ、たまってんだよ。口だけじゃ足りねえ、マジで」
すり寄るような声で言いながら、ボタンの間を割って入った手が僕の尻を撫で
まわしてくる。
「や…め…っ、やだっ!いやだっ」
「ここんとこ、使えんだろ? 男でもさあ…なあ、女よりイイって言うじゃん」
「やーめーろっ!」
ヤツの手が腿に滑り込んで、下からざらざらと撫で上げていく。指先が荒れてる。
あれだけ噛みちぎってれば当然だろうな。這いのぼる手が、段々と指先に力を
入れて、僕の割れ目に沿ってくる。
「やめろって!やめろ!やだ!」

300 名前:初仕事16:2006/11/11(土) 12:43:28 ID:RfkoMnO80
もがく僕の腰を、ツメカミはがっちりと抱え込んで離さない。ああ、中途半端な抵抗は
きっと火に油なんだろうな。かと言って抵抗しないわけにはいかないし。
「さっき洗ったばっかだもんなあ。キレーじゃん。舐めてやってもいいくらいだぜ」
そんなこと言いながらヤツは僕の後ろに指を突き立てた。うねうねと入り口でうごめかせ
てから、ぐっと力を込めてねじ込んでくる。
「やーめっ…い、あ…だっ」
つかみどころのない床に爪を立てて、僕は叫んだ。ちょっとだけガチャメに目をやる。
壁の方を向いて寝てる。もっと声を上げれば起きて助けてくれるだろうか。それとも…
「叫べば?お客さん増えるぜ。見られてるとこでヤラれるのもいいんじゃね?」
そうだよな。助けてくれるとは限らない。一瞬、力が抜けた僕の体を、ツメカミは
やすやすと引っ張り寄せる。
「そうそう、素直になんなよ。優しくしてやるからさ」
自分の前を開いて、トイレのときみたいにアレを引っ張り出す。無理だよ。固くなった
ものを無理やり突きたててくる。無理だってそんなの、入るわけない。
「いっ…あっ、やめ…!やめろぉっ」
「じっとしろよ、入んねえ…ほら、ぜってー気持ちいいから」
「わけわかんな…痛い!痛いよっ」
ツメカミがまた、チッと派手な舌打ちをする。僕は息を荒げて床に這いつくばる。
どうにかして、這って逃げようと床をかく。そのとき、じっと刺すような視線に気づいた。
ヒッツレが目を開けてこっちを見てる。眠っていた姿勢のまま、首をこっちに向けて、
じっと見据えている。
「よぉ。それ、取ってよ」
ツメカミが腕を伸ばして、手招きするようにした。ヒッツレの近くの壁際に、ゼリーが一個
落っこちてる。今日受け取ったときにツメカミが投げつけて滑っていったあれだ。
何するつもりだろう。ヒッツレ、やめて。助けてよ僕を。けれど彼に呼びかけるための名前も
なくて、僕は拒絶するように首を振り続けることしかできない。



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