- 471 名前:テュランの筏3/12:2007/01/15(月) 12:04:07 ID:QLszGM7g0
- なんていとおしいのだろう。屈辱にあまんじる事なく、手に入れた水は。
だが、喜びもつかの間。明るくなった海上を、楊玲の喘ぎ声が支配する。いかだが軋む。
こぼれる熱い息の音に、僕は逃げ場もないのにそれを探してしまう。
クリフがタープを広げて隙間を作る。僕はその中に逃げこんだ。
「雨、降ったのにっ……楊玲だって気付いてたのに。
今日は何もしなくても、よかったのに。なんでなんだろう……楊玲」
僕はどうにも理解出来ない疑問と、それから深い悲しみにただただ胸がつまった。
「あと少しで助かるのに……もう自分をおとしめる事ないのに。
雨が降って何するかも考えられないくらい、心が壊れちゃってるっ……
ねぇ、クリフ。楊玲はもとに戻るよね。
僕たちは何も出来なかったけど、助かって、日常の生活にもどれば……」
ピタ、とクリフの手がとまる。
「その事なんだけど、智士……何から話せばいいのか。
あまりいいニュースは与えられそうにない。でも、話しておかなくちゃいけない。
最初は……頼みごとからだ。聞いてくれるか?」
「そんな言い方されたら、断れないよ。何?」
「今ある水と食料で、今日をいれて四日間耐えてほしい」
僕の意に反して胃袋がギュウと鳴った。生唾がゴクリと喉を落ちていった。
この返事をするには……鉄製の意思が必要だった。
「……分かった」
「悪いな。俺の勝手な頼みで」
- 472 名前:テュランの筏4/12:2007/01/15(月) 12:05:25 ID:QLszGM7g0
- 「ううん、でも何か計画しているなら話して欲しいな。心構えが、違うからね」
計画、のところで僕は声をひそめる。
「……いや、別に。もう小細工は、なにもない」
「そうなんだ。それならそれでいいけど」
意外な気もしたが、僕はそれ以上追及しなかった。
なのにクリフは口を開きかけては閉じ、
視線をそらしては、あらぬ方向へ泳がし、落ち着かない。
「……どうしたの、クリフ?」
僕の問いに、言いづらそうな表情をしていたクリフは、ささやくように発した。
「智士が汚されるのを見たくない……俺の勝手な頼みだ」
「え、あ……」
口をついて出るのは、意味不明なきれっぱしばかり。
胸はコトン、コトンと沸騰する鍋のようにやかましく、
頭の中に真っ白なゆげを吹き立てて、考えがまとまらない。
僕は、心があふれそうなほどの歓喜を抱いていた。
固形食料の箱を取り出す。内の片方をクリフに差しだした。
「じゃ、僕もクリフに勝手な願いをするよ。これ受けとって。
あと数日間を一緒に乗り切ろう……僕も見たくない。クリフが汚されるのを」
長い長い沈黙の後、クリフは手を伸ばして、受け取ってくれた。
白く並ぶ歯を見せ、チャームポイントの八重歯を輝かせて。
「分かった……二人でがんばろう。乗り切ろう」
僕は嬉しさのあまり、クリフの手をぎゅっとにぎりしめていた。
- 473 名前:テュランの筏5/12:2007/01/15(月) 12:06:46 ID:QLszGM7g0
- その後の会話も、タープにくるまったままだった。
太陽は燃えさかり、昼間に近づくにつれて蒸してきたが、
そうでもしなければ、とても話せた内容ではなかったのだ。
「……藤吾が、選んでいた?」
そうだ、と真剣な顔でクリフはうなづく。
「海に投げ出され……板のきれっぱしにしがみ付いたり、
救命胴衣で浮かんでいる乗客の間を、藤吾はいかだで渡っていた。
少年の頭部を見かけると、近づき持ち上げ、見定めて……そのまま海に沈められた。
誰も浮き上がってこなかった。何人か見た、そうして殺されている乗客を。
コンタクトをなくしてぼやけていた風景だけど、あの白いスーツの腕だけは忘れない。
俺のところに来たとき……ああ、もうだめだなって、そこで意識を失った」
クリフは言葉を切って、水平線の向こうを強い瞳で見た。
僕は答えるすべを失っていた。それがどういう意味なのか……考えたくなかった。
いやでも遅かれ早かれ分かるのだろう。でも少しでも先にのばしたかった。
僕が青ざめ押し黙ったのを見て、クリフはいたわるように髪をなでてくれた。
唇をしめらせるていどの水をふくみ、四等分したクッキーの一片を放りこみ、
後はお互い無口ぎみに、エネルギーを消耗しない行動をとった。
黙ってタープにくるまり、身体を横たえる。
なかなか訪れない眠りの中、藤吾の時計の音を聞き、僕は星座の観察を行なった。
忘れないうちに、クリフに告げ、彼は厳しい表情で床の模様をふやしていった。
- 474 名前:テュランの筏〜海市6/12:2007/01/15(月) 12:11:29 ID:QLszGM7g0
- * * *
成熟過程の性器を含ませられた藤吾は、朝小一時間かけてセットする髪を乱暴につかまれ
左右に引かれ、頬を挟まれ、顎を押さえられた。
黒髪の少年から、舌を使え、歯を立てるななどの指示はない。
己で好きなように藤吾の頭部をもてあそび、快感を得ているようだ。
紅潮して、目を細めている。
藤吾は忌まわしい行為を強いられる現状と、卑猥なものを咥えさせられる恥辱に、
当然怒りも覚えたし、抵抗も考えた。
だが、彼には最後の一線があった。
教師と生徒。この場で「正当防衛」を行い、生徒らの将来をつぶす権利を、
果たして自分は持ち合わせているのか。
結論などは出ない。ただただその時は、されるがままになっていた。
熱気をまとったものとこすれあい、藤吾の口内には蒸気か何かで水気が現れている。
律動的に腰を動かし快楽を求める少年の動作は、
そのたびにジュプジュプと淫靡な音を立てた。
膨れ上がるペニスに、気管をふさがれかけ、藤吾は苦しげに息を吐きだした。
「それそれ、その顔。絶対教壇じゃ拝めない表情だね……っ!」
同時に藤吾の口蓋に、熱くねっとりした迸りがはりついた。
わずかに粘質を持ちあわすも、非常に緩慢に垂れるその動きは、藤吾を嫌悪感に陥らせた。
- 475 名前:テュランの筏〜海市7/12:2007/01/15(月) 12:12:22 ID:QLszGM7g0
- 「ちゃんと飲んでくれよ、おっさん。
あんたほんとうに、それしか飲むものないんだから」
ペニスもしまわず、黒髪は藤吾の鼻をつまみ、手の平に顎を乗せて、大きく傾かせた。
「ぐ……っ、ん、ぐぅ」
首を振って拒否を示す仕草すら、許されない。
少年はニヤニヤと笑って、藤吾の喉が動くのを待ち構える。
傾きにそって、落ちてくる。熱を口内にはりつけて、ねっとりと形を変えながら、
喉を焼きつかせてくだるそれを……藤吾は、この先何度も飲まされる事になる。
一度尿意を訴えた時、防空壕の間取りは理解していた。
縄と見張りつきで歩きまわされた通路は、非常に狭い。天井も低く圧迫している。
閉鎖された扉が多く、使える部屋の数は少ない。
入口は、崩れた土砂と折れた木材で完璧に埋もれていた。
彼らが排泄に利用している部屋は、手前に浅い穴が、
部屋の奥には黒々とした底の見えない空洞が横たわり、冷たい風が吹き込んでいた。
その先は、自然の洞穴なのだろう。
窒息死の不安は拭われたが、逃れられない事に代わりはなかった。
最初の部屋に戻り、再び拘束される。藤吾は再び喉の渇きを覚え始めていた。
部屋の少年二人は、飲料のボトルを傾け、スナックや駄菓子をかじっている。
棚上の古びた時計は、金曜日の深夜であると告げている。
盤で時間の経過を知ると、空腹もまた襲い掛かってきた。
- 476 名前:テュランの筏〜海市8/12:2007/01/15(月) 12:13:12 ID:QLszGM7g0
- 扉の開く音がした。藤吾はまだ閉じ込められた生徒が居たのだと、そちらを向いた。
「クニちゃ……じゃない、おい、国山、おせーぞ」
黒い髪の少年が立ち上がり、口汚く罵った。ヨウも視線をやっている。
「すみません、榊さん」
小柄な国山少年はペコペコと頭を下げた。
他二人の少年と違って、制服のボタンはきっちり止められ、襟もピンとしている。
物腰や口調から連想するのは気品や優等生といった単語だ。
はっきり言ってこの三人のつるむ理由が分からない。藤吾は教師の視点から思った。
「先生、足の方は大丈夫ですか」国山少年は藤吾を見た。
「後、コiーラのフタ、開けておいたんです。炭酸抜けたから、これならどうかと思って」
屈み込む少年の瞳は、光の加減か青く澄んで見えた。藤吾はつい見入った。
視線に気付いたのか苦笑いし、少年は小さく、クォーターなんです、と答える。
職員の噂で聞いたことはなかったが、別段目立つハーフ、帰国子女の類でもない。
目の色程度なら、噂にものぼらないだろう。
それはとにかく、半日放置した炭酸も、藤吾は受け付けなかった。
弱まった二酸化炭素の泡は、それでも喉の奥をチクチクと刺した。
吐き出して苦しむ藤吾の背中を、国山少年は優しく撫でた。
振って気が抜けるのを早め、数時間おきに試して、藤吾の渇きを癒そうとしてくれた。
熱く焼け付く喉に苛まれながら、白濁の液体だけしか喉を下す手段がない藤吾に、
それでも国山少年は、心を潤してくれるオアシス的存在であった。
- 477 名前:テュランの筏〜海市9/12:2007/01/15(月) 12:14:11 ID:QLszGM7g0
- 土曜日の、まだ夜も明けていない早朝。
藤吾の恐れていた事態は、黒髪の榊少年の言によって引き起こされた。
「なぁ、おっさん。おっさんが偏差値最低ラインの
ここの教師になったのって……あの噂ほんとうなのか?
配属先を決める担当が『女子生徒が多い学校だと、問題が起こりそうだから』って」
興味津々な三人の少年が、それとなく藤吾に視線を向けた。
藤吾は目を閉じ、答えなかった。疲れていた。返事する気力もなかった。
自分がどんな美の水準にあるかなど、考えた事もなかったし、興味もなかった。
無機質な鏡に映る像で、己に評価を下すのなどは馬鹿らしかった。
ただ、人に「センスが良い」と言われたことはあった。
こだわるブランド等はないが、無意識に自分を高める品を選択する内に、
装飾品により自分が「洗練」されていたのかもしれない。
そういう雰囲気で好かれるのなら……元から持っている素材ではなく、
自分の伸ばした才能が認められるようで、嬉しく思えない事もない。
だが、そんな誇りも、次の一言で打ち砕かれる。
「その担当の気づかいも、ムダだったわけだ。
だっておっさん、俺たちに向けても、放射してるよ? フェロモンってヤツ」
ハッと顔を上げる藤吾の瞳に映ったのは、欲望をギラギラと目に灯して立ち上がる、
制服姿の少年だった。
「国山、首と足解いて、腕を押さえろ」
- 478 名前:テュランの筏〜海市10/12:2007/01/15(月) 12:15:09 ID:QLszGM7g0
- 榊の命令に、国山少年は明らかに戸惑っていた。
だが、二度目の命が荒々しく下されると、泣く寸前の表情で、藤吾の縄をほどき、
地面にあお向けに倒すと、両手首を頭上で押さえた。
「……っく、先生、ごめん、ごめんっ……」
しばらく放心していた藤吾は、ボロボロと顔にこぼれ落ちる涙で、現状を把握した。
抵抗すべきか……しかし縛られたままの足は痺れ、重い荷物のようだった。
ならば教師として、説得すべきか……だがざらついた喉は、呼吸すらも苛んでいた。
ならせめて、目の前で泣く一人の少年の、心を癒すくらいは出来ないだろうか。
彼は、自分の為に泣いてくれているのだから……
教師としての理念、使命。それは今や薄れ、被害者と加害者と、
その中間で苦しむ少年を、ただただ案じる気持ちに陥った時。
唐突に下着ごとスラックスを剥がれ、両足を持ち上げられ、その間に制服姿の少年が割って入った。
榊は舌なめずりしながらボトルを傾ける。藤吾の股間に気泡の感覚が降り注いで、弾けた。
奇妙な感覚に思わず身を捩る。
さらさらした液体は、手近な後孔へと流れ込み、腸内でまたあぶくが弾けた。
「……ッ! ……ッグ」
目に涙を浮べて、内側の痛痒感に耐える藤吾を、にやにやと榊は見下ろす。
「そっちからなら、飲めるじゃん。炭酸飲料。んじゃ、こっちもよろしくー」
すでにたぎっていたペニスを、榊は飲料のぬめった糖分に乗せて、挿れる。
「……ッ……ァァ……ァ゙ア゙!」
瞳を限界まで見開き、枯れた喉から吐き出す悲鳴は、しわがれていた。
身体が裂けるほどの強い痛みを逃がすには、全く足りない。
- 479 名前:テュランの筏〜海市11/12:2007/01/15(月) 12:19:01 ID:QLszGM7g0
- 榊はしっかりと両足を掴み、国山少年も命令に忠実に固定しつづけた。
藤吾が出来るのは、ただ乾いた歯を噛み、神経を遮断しようと努力する事だけだった。
だがそれもむなしく、押し広げる少年のペニスは、藤吾の努力が間に合わない速さで膨張した。
炭酸の残りかすを纏いながら、乱暴に動かされる。
奥のくぐもった水音の中に、泡のはじける音が響き……まもなく吐き出される熱いドロッとした塊に、支配された。
藤吾はおぞましい感覚に、瞳の色を失い……それを見て愉快そうに榊は腰を引いた。
「次、ヨウだろ。最後は国山、お前だ」
細目の少年が、頭の後ろで組んでいた手をほどき、立ち上がる。
彼もすでに股間をたぎらせており、そして国山少年は、ひたすら涙をこぼしつづけた。
絶望より、痛みよりその熱い飛沫が、何より藤吾に印象深かった。
三人にまとめて陵辱されたのは、それ一度きりであった。
後は各自が、気が向いた時、その時の気分で口か尻か、犯されるのかが決まった。
黒髪と細目と、どちらが多かったかなど、意識が朦朧としていた藤吾は、覚えていない。
けれど、命令されて嫌々ながら、行為に取り掛かる国山少年。
犯しながらも泣きじゃくる、青い目の少年だけは、強く記憶していた。
- 480 名前:テュランの筏〜海市12/12:2007/01/15(月) 12:19:49 ID:QLszGM7g0
- 時間は…土曜日と日曜日の間くらいだろう。他二人の少年は毛布にくるまり眠っていた。
国山は藤吾のために、必死にボトルを振っていた。
ほとんど出ない唾液で舌を湿らし、藤吾は尋ねてみた。
どうしてあの二人と、行動を共にしているのか。脅されているのなら、教師に相談してみるといい、と。自分は空き時間、進路相談室に詰めている、とも。
声は枯れ、途切れ途切れで、たっぷり時間がかかった。
それがかえって、国山少年の心を解いたのだろう。薄幸そうな笑みを浮べる。
「他に、僕と話してくれる人、いないから。あの二人だけです。相手してくれるのは」
悲しそうに横を向く。
ランプに照らされ淡く光る青い眼は、この一種族しか存在しない島国での苦難を容易に想像させた。
閉鎖された学校という場ならば、なおさら。
藤吾は決意を秘めた瞳で、国山が差し出したボトルを、飲んだ。
一口だけでも、喉が未だピリピリするが、我慢して飲み下した。
「私が、手助け出来る事なら、なんでもしよう。私は、教師だから。
教えるのが仕事だから。いや……使命、だからだ。
ここから脱出したら、もう一度相談に来るがいい。
教えるのは君じゃない……固定観念に縛られ、異物は排除しようとする、
島国根性を持つ輩……それは遠く、果てしなく長い教育になるだろうが……」
ゼイゼイと喘ぎながら理念を喋る藤吾に、国山は目を細めた。
笑みではなかった。目尻からポロ、と水滴が流れ落ちたが、それは悲しみでもなかった。
* * *
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