- 581 名前:風と木の名無しさん:2007/01/19(金) 17:01:23 ID:7h181if/0
- なんで遭難用の道具なのに
2週間経過後救出なんだろうか?
元から藤吾が打ち合わせていた遭難だったの?
- 582 名前:風と木の名無しさん:2007/01/19(金) 17:07:50 ID:vYoXAj4/0
- >>581
「十四日間経過後、お客様との打ち合わせ通り、ヘリを遣わせます。」
遭難自体は事故だが、遭難しそうな機会を探していたんだろう。
で、かねてより準備していた秘密兵器を使ったんだよ。
信号発信開始から14日後に来るってのが契約内容だった、と。
でもホントにそろそろしたらばに行った方が良さそうだね。
- 583 名前:醜い吸血鬼 3ー1:2007/01/20(土) 04:07:42 ID:30ARg730O
- キャベツはキャベツ畑に住んでいる。
畑の脇にぼろいハリエニシダの家があって、ずっと、ずっと、ずーっと独りで暮らしてる。
キャベツはキャベツしか食べない。だから、ちびでやせっぽっちだ。
膝がちょっと隠れるか隠れないかしかない、短くてつぎはぎだらけの
黒いチュニックをたった一着だけ持っている。
擦り切れた袖口からは細っこい手首が覗いてて、
手首の先には小枝みたいな、いまにも折れちまいそうな指のついた小っちぇえ手がある。
ほつれて糸がはみだしてる裾からは、ガリガリで骨張った棒きれみてぇーな裸足の脚がのぞいてる。
膝はいつもひび割れてて、肌はカサカサ。かかとはガサガサだ。
お日さまにあたれねー病気のせいで血色は悪いし、こけた頬と落ち窪んだ目は
友達、略してダチの俺から見てもキモい。
真っ白な顔に、真っ黒な白目のあんまねぇー目だけが、ぐりぐりしてる。
唇は冬じゃなくても荒れて乾いてるし、とにかくキモい。
背なんか俺様の肩より低いんだ。俺はいつもキャベツのつむじを見下ろしてる。
キャベツの長い髪は真っ黒でバザバサで薄汚いけど、つむじだけはカワイイ。
村のみんなは、森の奥の先に、キャベツ畑があることも、キャベツが住んでることも知らない。
俺とキャベツだけの秘密だ。ガキの頃、森で迷子になってキャベツに会った。
出会ったときは同じぐらいだった背も、いまじゃ俺のがずっと高い。
キャベツは、ちっとも大きくならない。ガリガリでやせっぽっちで、ちびのまんまだ。
- 584 名前:醜い吸血鬼 3ー2:2007/01/20(土) 04:09:11 ID:30ARg730O
- キャベツの家には大きな黒い煤けた鍋がひとつだけあって、
キャベツは細いからだで喘ぎながら汲み上げた、汲みたての澄んだ井戸水と
畑から抱えてきたキャベツをまるごとその鍋に入れて火にかける。
キャベツのキャベツ畑のキャベツはでかい!村一番のキャベツづくり名人(俺のおやじ)も
きっと「見事な結球だ!」って誉めるだろう。
鶏がらのスープもねえ。塩さえねえ。ただ真水でまるごと一個、ことこと茹でるだけ。
それだけなのに、超うまいのはなんでなんだろう。
キャベツらしいほんのりとした甘味が溶け込んだスープが◎。キャベツは芯まで喰えるんだ。
夜中、村を抜け出し会いにいくとキャベツは俺に、採れたてのキャベツを食わせてくれた。
食後のデザートは、すぅーっと吸い込むと胸がしんしん凍りそうな、でもそれがいい、氷菓子みてぇーな
冬の空気と、きらきら光る夜空のキャンディー。
キャベツ畑でふたりオリオンを見上げるのが超好きだった。
キャベツはあんまり、自分のことを話さない。
なんでそんなにキャベツが好きなのか尋ねたら、ミドリがキレイだからと小さくくすっと笑ってた。
ちらっと覗く八重歯に注目。醜い顔も笑うと、まあまあ見れた。
- 585 名前:醜い吸血鬼 3ー3:2007/01/20(土) 04:10:43 ID:30ARg730O
- 冬の終わり、街から吸血鬼狩りの一行がやって来た。
ハンターのダイスが森に吸血鬼が居るとゆれたとのこと。
森には近づくなと云われ、キャベツが心配になった。けどキャベツの小屋は森の外れだし、
あんな鶏ガラみたいなやせっぽっちには、吸血鬼もそそられないだろう。
一週間後、ハンターたちが安心しろ。吸血鬼はもう殺したと言って去って言った。
襲われてなんかねぇーとは思うけど、キャベツが吸血鬼の餌食になってないか気になって、
日が落ちてからキャベツ畑目指して駆けた。月の明るい夜だった。
小屋の戸を開けたら、やたらとニンニク臭かった。
部屋の隅にキャベツがうつぶせに倒れてて、捲れあがったチュニックから
肉のついてない平べったいケツがのぞいてた。ケツの割れ目にぶっとい杭が深々と刺さってる。
枯れ木みたいな手足は変な方向にボキボキ折れ曲がってて、
ガバッと顎が外れたみたいに開かされた口に、長い十字架がかまされてた。
まるでつっかえ棒だ。閉じたくても絶対に閉じられねぇー。
牙って呼ぶにはちびすぎる八重歯が見えてる。糞ッ!!
痛かったよな。苦しかったよな。きゅっと寄せられた眉間のしわ。
見開かれた真っ黒な目。涙の筋はきっともう乾いただけだろう。
木の床に残った爪痕や、爪と肉の隙間に入り込んでる木屑を見ていたら、
いっぱい泣いて、いっぱいもがいてたキャベツが見えた。
口の十字架を外して目蓋をおろし、ケツの杭を引き抜いた。
赤く腫れ上がって膿んでるキャベツの孔があまりにも痛々しかったから、口で膿を吸い出した。
吸って吸って全部、吸い出した。ちょっとでもキレイにしてやりたくて、擦過傷を舐めてたら、
孔の奥が臭った。むわぁ〜っと臭ってくる臭さに覚えがあった。もしかしてと思って指を忍ばせさぐったら、
いびつな白い塊がごろっと出てきた。ニンニクだ。
細っこいからだをギュッとしながら、ばさばさの黒い髪をただ撫でた。
おしまい
- 586 名前:風と木の名無しさん:2007/01/20(土) 06:08:52 ID:bCBGH/Tg0
- ちび吸血鬼タン、超GJ!
哀切で、いいですね。
いいと言うか、嫌と言うか。
悲しくなるつらいお話なので…。
で、ニアミスですが私も同じネタで↓
- 587 名前:ハント 1:2007/01/20(土) 06:09:33 ID:bCBGH/Tg0
- 慎重に口付けながら、私はミハイルの背中に手を回した。私の腕の中に
すっぽりと治まってしまうミハイルは、男相手に言うのもおかしいかも
しれないが、たおやかという言葉がしっくり来る。ミハイルもまた、
私の背中におずおずと手を回し、私たちの体は密着した。私は、昂ぶった
下半身をミハイルに押し付けた。今から、この華奢で美しい体を
我が物とできるのだ。私がどれほど感動しているか、ミハイルに
伝えようもないのがもどかしい。まして、その美しい体の内にある
ものこそが私を惹き付けて止まないのだとは。裏通りの安ホテルでことに
及ぶのがもったいない。こんな美しい生き物と一晩を過ごすのであれば、
町一番の高級ホテルのロイヤルスイートこそが似合いだろう。
だが今になってそんなことを嘆いてみても仕方ない。私たちはお互いを
食らうことに夢中で、セッティングに凝る余裕もなかったのだから。
私は唇をミハイルの柔らかな頬へ、そして耳へとずらしていく。
ミハイルが私の首筋に口付けようとしている。熱い息が首筋にかかった
その瞬間に、私は隠し持っていた銀の鎖をミハイルの首に巻きつけた。
ミハイルがはっと目を見開いた。素早く、驚くほどの力で私を
突き飛ばそうとする。だが私はそれを許さず、鎖を手繰ってミハイルを
床に引き倒した。ミハイルの愛らしい顔に浮かぶ驚愕と恐怖の表情が
いとおしい。大きく開いた口からのぞいているのは、歯と呼ぶには
あまりにも長い――牙が2本。
私の目に狂いはない。
- 588 名前:ハント 2:2007/01/20(土) 06:10:16 ID:bCBGH/Tg0
- ミハイルは逃れようと激しく身を捩った。銀の鎖が巻き付いている以上、
蝙蝠だの鼠だのに化けて逃げることは叶わない。単に力と力の勝負だ。
こうなれば、実年齢はともかく肉体的には未だ少年の域を出ないミハイルが
私に逆らっても、時間と体力の無駄でしかなかった。
私はミハイルに馬乗りになって素早く拘束を進めていった。
両手を背中の後ろに捩り上げて、銀の手錠で繋ぐ。それから、右の足首を
捕えて同様に銀の手錠で右手首に繋いだ。左足一本では反撃もできまい。
私は自分の迅速な仕事に満足して、笑みを浮かべながらミハイルを見下ろした。
深緑色をしていたはずのミハイルの目が、赤く光っている。美しい。
ミハイルの薄茶色の髪には、緑よりも赤がよく似合う。
「縛めを外せ!」
ミハイルが私に命じた。なんという気の強さだろう。こうでなくてはいけない。
酒場で私と「親しくなった」ミハイルは、場慣れしていない引込み思案の
仔兎だった。それはそれで男たちの食指を動かすに充分な魅力ではあったが、
私の好みではない。ではなぜ声をかけたかって?
彼が誇り高く冷徹なヴァンパイアであることを、私が知っていたからだ。
- 589 名前:ハント 3:2007/01/20(土) 06:11:10 ID:bCBGH/Tg0
- この国で幾人もの同性愛者が行方知れずになっている。そのうち幾人かは
変死体となって発見されている。そう私に連絡をしてきたのは、
旧い友人テオだった。だが、行方知れずになった彼らを誰も本気で探しては
くれないのだと、テオは電話の向こうで泣いていた。
どの国でも基本的には同じだが、ここ、森の彼方の国では、同性愛者は
ひどく肩身が狭い存在だった。人々は、それこそ吸血鬼を忌み嫌うのと
同じほどの悪意を込めて、我々を蔑んでいる。
それは別に構わない。心の葛藤は15年ほど前に済ませているし、だいたい、
ここは私の国ではないのだから。だが、テオからの便りを無視できるほど
私は孤高でもない。テオとは日が出ずる国で知り合った。私たちは、
その都の大変に開放的な町の2丁目で身を寄せ合い、お互いの青い春の
ひとときを捧げた仲なのだ。それに、テオと知り合わなかったら、
今の私はない。テオの国に残る伝説は、エメラルドの島の作家の妄想を通して、
世界中の人を魅了した。あれは良くできたフィクションで、私も楽しんだが――
決してただのお伽話ではないのだと教えてくれたのがテオだ。
そこから私の趣味と実益を兼ねた特殊技能開発が始まったと言える。
この国で過ごした何年かが、私の人生の岐路だったのだ。
- 590 名前:ハント 4:2007/01/20(土) 06:11:40 ID:bCBGH/Tg0
- 私はミハイルと名乗ったヴァンパイアの髪を掴んで引き摺り起こすと、
ベッドの上に放り投げた。弾んだ体が跳ね起きる前にのしかかり、
首の鎖をベッドヘッドに縛り付ける。左脚が蹴り上がってくるのを
ひょいと捕え、膝の上に座ってしまう。
ミハイルは赤い目を爛々と輝かせて私を睨み付けている。色々と、
不本意なのだろう。騙しているつもりで騙されていたことも、人間なんぞに
してやられたことも、捕らわれて体の自由を奪われたことも。
それに、どの国でもそうだと言うわけではないが、ここいらでは
ヴァンパイアは、よほど気に入った人間でなければ仲間にしないらしい。
おかげさまで、この辺りで私の獲物となってくれるのは揃いも揃って
気品ある美形ばかりだが、逆に言えば私がミハイルのお気に召すはずもない。
革のジャケットに擦り切れたジーンズといういでたちで、砂まみれになって
バイクを転がしている粗野な男など、虫けら以下の扱いだろう。
嬉しくて背筋がゾワゾワする。私の存在自体でもって彼を痛めつけることが
できるのだ。私は、腰の辺りまで足首を持ってこられているせいで
ストレッチでもしているかのように曲げられているミハイルの右脚に
手を伸ばした。膝からゆっくりと付け根まで撫で上げる。
「触るな! 下種!」
ミハイルが私に向かって唾を飛ばした。気の毒なことに、それは私にかからず
床に落ちていったが。
「触るなとは、随分ムチャを言う。私たちはこうすることを同意したはずだよ」
酒場で声をかけたのは私の方だ。彼に魅せられたという私をミハイルは
信じてくれた。いや、その言葉に嘘はないのだから、信じて当たり前なのだ。
私は今、ミハイルに猛烈に恋している。アンティークの硝子細工のような
ミハイル、冬の夜空から星を集めて練り固めたような不滅の存在。
君を汚して引き裂くことができる私は、世界一の幸せ者だ。
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