「……“武士も食わねば腹が減る”」
「えっ……?」
「マミさんがここにいたら、75パーセントの確率でそう言うと思ったの……本当は“武士は食わねど高楊枝”だけどね」
そう言いながらサイバドール・ケイは眼鏡のブリッジを押さえ直し、フォークで自分の前のサイコロステーキを口に運んだ。
もみじ山市内にあるファミリーレストラン。早乙女和也はケイと夕食を共にしていた。
サラとの情事の後を谷かすみに見とがめられてから五日が経っていた。あれ以来かすみは和也と一言も口を利いていない。
意気消沈している和也を見かねたのか、ケイはおごるからと彼を食事に誘って一緒にここへ来た。
注文したものの、和也は運ばれてきたマカロニグラタンにあまり手を付けていなかった。
「すみません……やっぱり……あまり食欲なくて……」
「……まだこの間の事、気にしているのかしら?」
「…はい……ケイさんは……何故ああなったかはまだ知らない……ですよね?……」
激怒したものの、かすみはあの時何を目撃したかについては誰にも話さなかったらしい。
かすみが和也の部屋に寄り付きもしなくなった事をレナが不審に思い、和也に理由を尋ねてきた事があったが、当然話せるはずもない。
アパートの大家である谷千草も娘の様子がおかしい事に気付いているはずだが、今のところ彼女の方から和也に事情を聞いては来ない。
メイは今までと違う雰囲気に何か思うところがあるのかも知れないが、一応和也には普段どおりに接してくれている。
「詳細はね。でも断片的な情報でも過去の似たような事例を参照すれば、おおよその見当は付くわ」
「……ケイさんには敵[かな]わないな……」
「気が進まないでしょうけど食べておいた方がいいわよ。後でもう一件、あなたと寄りたい所があるの」
「……いいですけど……それならメイにもう少し遅くなるって電話しておかないと……」
「もうしておいたわ。あなたと大学を出る前にね」
「えっ?……でも……」
「大門君たちとの付き合いがあるからって……もちろん“和也くんの声”を使ってね」
そう言ってケイはイタズラっぽく微笑んだ。声帯模写などサイバドールには造作もない。和也は呆れ顔になった。
その“もう一件”をケイが指し示した時、さすがに和也は尻込みした。
そこは風俗街の一角にあるファッション・ホテル――以前はラブホテルと呼ばれていた建物だった。
「昔はこういう所に入るのを社会見学と言っていたらしいわね。こんな機会でもなきゃ和也くん来ないでしょ?」
「でも……僕はちょっと……」
「嫌なら帰ってもいいわよ。その代わりメイちゃんには和也くんとこういう所に入ろうとしたって言うから」
「それじゃ脅迫ですよ!……」
和也は渋々ケイの後に付いて行った。
「……さすがに牛乳は置いていないわね……ウーロン茶でいい?」
「何でもいいです……」
部屋に入った後、冷蔵庫を開けて訊ねるケイに和也はうわの空気味に答えた。
ソファーに腰掛ける彼の前には三畳敷きくらいの巨大なベッドがある。男女がどんな行為をしても簡単には落ちそうもない。
入り口の脇にはガラス張りの浴室がしつらえてあり、中には筏[いかだ]のような形のエアーマットレスが壁に立てかけてあった。
「はい、どうぞ」
ケイは和也の前のテーブルに缶入りのウーロン茶を置くと彼の右横に座り、自分用に持ってきた缶ビールを開けて一口飲んだ。
「……で、単刀直入に聞くわ。相手は誰?」
「……サラさんです……」
「やっぱりね……あの日、外出先から帰る途中でサラさんがかすみ荘の方からそそくさと歩いてくるのが見えたから……深刻そうな顔をしていたから声は掛けなかったけど」
「あの人に悪い事しちゃったな……あれから一度も顔を出していないし……僕に下心があったから……」
「でも誘ったのはサラさんでしょ? あなたから要求するなんてまず有り得ないわ」
そう言いながらケイは更にビールを一口あおった。
「それにしても悔しいわ。サラさんに先を越されるなんて……和也くんの初体験の相手は私のつもりだったのに……」
「え……!?」
「その為の準備をしていたのよ……ここ最近、私の帰りが遅いってメイちゃんから聞いていない?」
確かに数ヶ月くらい前にメイがそんな話をしていた憶えが和也にはあった。ケイは和也が受講しているゼミの教授の助手をしている。
その時は仕事がらみの事だろうと、大して気にも留めていなかったのだが。
「風俗のバイトをしていたのよ。趣味と実益を兼ねてね」
「ふ!? 風俗って……何をしていたんです?」
「ピンサロにテレクラ、ヘルスにソープ……男性の性的関心にまつわる市場調査よ。今はストリッパーをしているわ」
「ストリッパー!?」
「ここへ来る途中に女神座っていうストリップ劇場があったでしょう? あそこで踊り子をやっているのよ」
和也は記憶を辿った。おぼろげながら青いネオン管で“女神座”という文字をかたどった看板を見覚えていた。
「どうしてケイさんが踊り子なんて……」
「物理的刺激を得られるわけでもないのに、何故男の人たちが裸の女性の踊る姿を高いお金を払って見に来るのか、その心理を追求してみたかったの……でも実際に踊り子になってみると、むしろ踊り子の側に興味が湧いたわ」
「……」
「あそこの最年長の踊り子さん……アンジェラ・スズナリさんていうんだけど、もう44歳になるのにとってもきれいな体をしているの。フィットネス・クラブに通ったりして男性を惹きつけられる体を維持しているんですって。すごいと思わない?」
「……ソープ嬢もやってたんですか……」
「……やっぱりそういう方に関心があるのね」
当惑気味の和也の表情を見てケイはフッと微笑んだ。
「一ヶ月だけ勤めたわ。一日おきの出勤で一日に二人お客を取ってたから、30人のお相手をした事になるわね」
「数の事なんて聞いてませんよ!」
和也は頭を抱えつつ首を振った。ケイはそんな彼を見てキョトンとした。
「どうして和也くんがパニックを起こすの? あなたは私のマスターでも恋人でもないでしょう?」
「マスターとか、そういう事は関係ないんです! ケイさんが……その……何人もの男と……一体何の為に……」
「設定年齢20歳以上の女性型サイバドールは男性のマスターに“ご奉仕”する為の裏マニュアルをインストールされているわ。でもマニュアルは所詮マニュアル。より質の高いご奉仕をする為には実地体験も必要なの」
「だからって何も……」
「それもこれも和也くんに悦んでもらう為よ……」
ケイはそう言うとスカートを腰までたくし上げた。刺繍入りの白いショーツが顔を出す。何をするのかと和也は驚いた。
「手を出して……」
和也がためらいがちに差し出した右手を取ると、ケイは自分の股間と閉じた両太腿との間に出来た、三角形の小さな隙間に差し込んだ。
「ケ、ケイさん……」
「今までの事なら気にしなくていいわ。女性型サイバドールの性器には洗浄殺菌機能があるのよ」
「それはサラさんから聞いています……」
「そう? でもどのみちそんなに汚れていないわよ。私とセックスした男の人たちにはコンドームの着用を義務付けていたから……」
ケイは股間に差し込んだ和也の右手に自分の右手を重ね、上からじんわりと押さえた。
「誰も直に私の中には入っていないの……私の子宮部に精液を放出するのは和也くん……あなたが最初になるよ」
ケイにそう言われたものの和也の中には、彼女が見知らぬ複数の男たちと寝た事に対する拘りがあった。男として避けられぬ感情だった。
「……だけどケイさんにも初めての時があった訳でしょう?」
「男の人が処女性に拘るのは知っているわ。でも私に“初めての人”は存在しないの」
「え?……」
「私、自分の手で処女幕を破ったの。人肌に温めたビール瓶を使ってね」
和也は絶句した。すぐさま頭がその光景を想像した。
ケイが脚を広げて褐色の瓶を股間にあてがい、カリの開いた亀頭部のような瓶の口が彼女の秘部にズブズブと埋まっていく様を――。
“ああっ――!”
破瓜[はか]の痛みに声を上げるケイ――そこまで思い描いたところで和也は場違いな事を思った。
サイバドールは痛みの感覚をキャンセル出来るのだろうか。ロボットであるなら――。
「和也くん……?」
ケイは彼女に顔を向けながらあらぬ方を見ていた和也に声をかけた。和也は我に帰った。
「かすみちゃんもそうとは言わないけど、あなたに好意を持つ女性が全て処女とは限らないのよ。経験済みを理由にその人たちを拒絶できるの?」
「いえ、処女じゃないからとかじゃなくて……僕はただ……」
「……私は穢れを知らないお人形より、何でも教えてあげられる隣のお姉さんでありたいわ……あなたの為に……」
ケイはそう言って和也の唇にキスをした。思いがけない出来事に和也は身動きひとつ出来なかった。
「ふぅ……もらっちゃったわ……そういえば和也くん、初めてのキスもサラさんと?」
「いえ、サラさんとは一度も……初めてのキスは幼稚園の同じ組の女の子と……遊びで……」
「あら、これもなの? まあ、幼稚園の時じゃ仕方ないわね。じゃあ大人の女とは私が最初という事になるのね?」
「……はい……」
「それで納得するわ。それじゃあ、始めましょうか」
「始める…って……」
「バスルームへ行きましょ。あなたの為の修業の成果、見せてあげるわ」
そう言うとケイはいそいそとブラウスのボタンを外し始めた。
(……何かまた、すごい事になってきたな……)
服を脱ぎ全裸になった和也は浴室の戸口に立ち、下着姿で円形のバスタブに湯を溜めているケイの後ろ姿をまじまじと見つめた。
「このお風呂いいのよね〜、ソーププレイが出来るから……」
ケイのその言葉に和也は、壁に立てかけてあるエアーマットレスに視線を向けた。
(そういえばケイさん、テレクラもやっていたって言ってたな……)
このホテルの設備を知っているという事は、テレクラで知り合った男とこの部屋へ来た事があるのかも――和也はそう思った。
「さ、和也くん、こっちに来て」
「は、はいっ」
余計な想像をしかけていた和也は慌てて浴室内へ入り、ケイが差し出した椅子に腰掛けた。股間の下がえぐられた凹の字型の椅子だ。
「まずは大事な所を洗わないとね」
髪をアップにしたケイは眼鏡と脱いだ下着を壁の棚の上に置くと、その下にあるボトルからボディソープを手に取り、和也の後ろに回り込んだ。
「いよいよ和也くんのに触れられるのね……」
ボディソープを両手で泡立てながらケイは嬉しそうに和也に言った。どう答えてよいか分からず、和也は赤くなってうつむいた。
「失礼しまーす…」
自分の乳房に泡を塗りたくりながらケイはそう挨拶すると、和也の背中に胸を押し付けた。
「うわ、ケ、ケイさんっ……」
「感じる? “泡踊り”よ」
ケイは乳房を擦り付けながら上下左右に体を動かした。更に泡まみれの両手を前に回し、和也の胸や腹を撫で回す。
背中を這い回るケイの乳首とぬめる手による刺激が、和也に未知の快感をもたらす。
「ああ……何か……変な感じ……」
「気持ちいいでしょ……じゃあ、これはどうかしら?」
ケイは立ち上がると和也の肩を抱き、自分の下腹部を彼の背中に押し付けた。膝の屈伸運動の要領で体を上下に動かす。
「あ……ケイさんの……」
和也の背中に泡立つケイの陰毛がジョリジョリと擦れる感触が伝わる。
「これは“タワシ洗い”よ。普通は腕や太腿に擦り付けるんだけど、こうしてあげるのは和也くんが初めてね」
ケイの陰部が自分の背中を這い回っている――そう思う和也の股間に変化が現れた。ケイはそれを見逃さなかった。
腰を落としていったケイの右手の指がゆるゆると和也の下腹部を滑り降り、彼の逸物を包んだ。
「あっ……そこは……」
「大事な所をきれいにするって言ったでしょ……もうこんなに硬くなってるのね……」
ケイはペニスを握りシュッシュッとしごいた。泡まみれになったモノが更に硬くなり、ケイの手の中でビクビクと脈打っていた。
「ウフフ‥そう来なくっちゃ……それじゃ、こっちもね……」
ケイは和也の股間の奥に左手を伸ばし、肛門とその周りも泡でこすった。和也は思わず尻をキュッとしめた。
「駄目よ、力を抜いて……ここも綺麗にしないと」
「すみません……女の人にそんな所、触られた事ないから……ああっ!」
ケイに菊門に指を立てられ、ぐりぐりと捻られて和也は悲鳴にも似た声を上げた。
「中に入れちゃおうかしら……」
「そ、それは勘弁してください……」
情けなく訴える和也にケイは微笑を返し指を離した。そして更に奥に手を伸ばし、棹の下の袋を揉み始めた。
「まだまだこれからよ……」
「うわっ……あっ‥あっ……」
尻の肉が痙攣し、和也の腰が何度もわずかに浮き上がる。
「フフ……コロコロしてて可愛い……」
肉袋をなぶるケイの指の妖しい動きに刺激され、更にリズミカルにしごく右手によって和也のペニスはますますいきり立った。
愛液の如き泡のぬめりをまとったケイのしなやかな指は、微妙な強弱を付けながら握っている棹の部分を上下する。
うごめく女陰の肉壁に包まれながら抽送しているような感覚に、和也は次第に射精感が高まってくるのを感じた。
「……ケイさん……駄目だ……もう‥出そうです……」
「もう来た? いいわ……このまま射精して……」
「このまま……ですか?……は…恥ずかしいですよ……」
「マスターベーションみたいだから? 気にしないでいいわ。この目で見たいのよ、和也くんのペニスから精液が放出される所を……」
「そんなぁ……あっ…あっ……」
ケイは指に力を込めると更にピッチを上げて和也のペニスをしごいた。なす術もないまま和也はただ息だけを荒げ続けた。
「ああっ……はっ‥はっ‥はっ、はっ、ケ、ケイさんっ、でっ、射精[で]るっっ!!」
和也が息をつめた瞬間、彼のペニスの先端から勢いよく精液が飛び出した。
尿道の脈動に合わせて更に二度、三度と白濁汁が放たれ、放物線を描いてバスルームの床に滴り落ちて行く。
「すごいわ……1メートルは飛んだわね。この勢いと射出量なら子宮内にまんべんなく精液を行き渡らせられるわ」
「はぁ……はぁ……そう……ですか……?」
「ええ。相手の女性の子宮内壁に卵子が着床していたら高確率で妊娠させられそうよ……今度サンプルを採取して精子の活発度も調べなきゃ」
「今度って……今日だけじゃ……ないんですか……?」
「もちろんよ。あなたに性のレッスンを施して女性を満足させられる男になってもらいたいの」
「お気持ちはありがたいけど、そこまでしなくても……」
「男の人は摩擦の刺激があれば快感を得られるけど、女はそうはいかないの。男の人の強い積極性と快感を引き出すテクニックが必要なのよ」
「……」
「堅い話はこれくらいにして、次のサービスに行きましょうか。準備するからバスタブで温まってていて」
和也は言われるままバスタブに向かい、湯に浸かった。ケイはシャワーの湯で床に滴り落ちた和也の精液を洗い流し始めた。
(……ケイさん、もしかして僕とかすみちゃんを仲直りさせようとしているのかな……)
ケイの細身ながら滑らかな肌を持つ背中と、形の良い尻を目で追いながら和也はぼんやりそう思った。
しかしいくらテクニックを仕込まれたところで、かすみがその気にならなければ話にならない事は男女間の事に疎い和也にも分かる。
(かすみちゃん、僕を許してくれるのかな……でも許すも何も、僕たちはまだそんな関係じゃ……)
「和也くぅん? バスタブの中のローションのボトル出しておいてくれる?」
ケイの呼びかけに我に帰った和也は、自分の傍らに転がっているボトルを手に取った。
ケイが湯を張る時にあらかじめ沈めて温めておいたものである。
「これですか?」
「ええ。こっちも用意できたからそろそろ上がって」
先ほど和也が射精した場所にはエアーマットレスが敷かれ、枕に当たるふくらみにタオルが乗せられていた。
バスタブから上がった和也はケイに促されてマットにうつ伏せに横たわった。顎に当たるタオルの感触が心地良い。
ケイは和也の横にひざまずくとボトルから垂らしたローションを手に取り、和也の背中から脚にかけて塗りたくり始めた。
「ちょっと脚を開いて腰を浮かせてくれる?」
「はい……?」
いぶかしみながらも和也はケイの言う通りにした。ケイはローションをたっぷり取った手を和也の股間に潜り込ませた。
「うわっっ」
ケイはローションで和也の睾丸やペニスをぬめらせ、続いて硬くなりかけたペニスを彼の下腹部に貼り付ける位置に直した。
「ビックリさせてごめんなさいね……でもあなたのモノが勃起した時に変な方を向いてたら返って痛い思いをさせるから……」
「いえ、大丈夫です……」
和也は枕にしがみ付くとマットの膨らみと膨らみの谷間にペニスが落ち着くよう体の位置を調整した。
「それでいいわ……それじゃ行くわね……」
ケイは和也の腰に跨ると体を彼の背中に預けた。
「“ボディ洗い”を始めるわ……いっぱい硬くなってね……」
和也の耳元でそうささやくとケイは彼の肩を掴み、自分の体を前後に動かし始めた。
「んんっ……ケイさん……」
ケイの乳房、そして下腹部が和也の背中と腰の上を何度も滑る。やっている事は先程の泡踊りと変わらないが、密着度はずっと上だった。
彼女に言われるまでもなく、繰り返される刺激に和也の持ち物は彼の下腹部とマットの隙間で硬くなっていた。
「ああ……いい……さっきよりずっといい感じです……」
「それならもっと良くしてあげるわ……仰向けになって……」
ケイが体をどけると和也は身を捻り仰向けになった。そのままケイが覆い被さってくると思いきや、彼女は反対向きになって跨った。
和也の目の前にはケイの菊門と薄い陰毛に覆われた秘貝がさらけ出されていた。
「ケ、ケイさん!?」
「フフ……踊り子さんにはお手を触れないようお願いいたしま〜す」
ストリップ劇場のアナウンスよろしく和也に注意すると、ケイは再び体を彼の上で滑らせ始めた。
ローションで濡れたケイの乳房が和也の下腹部をつるっ、つるっと往復する。その度に彼女の股間は和也の頭上を行きつ戻りつした。
余りの光景に和也の目はくらくらした。しかも刺激はそれだけではない。
更に前へ移動したケイが体を前後させる度に、屹立した和也のペニスの先端が何かに擦られた。
ケイの胸の谷間が亀頭部を挟み込むようにタッチしているのだ。
「ふぁ……はぁっ……ケイ……さんっ……」
ローションまみれの乳房が接触する度に和也は切なそうな声を漏らした。
体の動きを止めるとケイは和也のペニスに手を添え頬ずりした。
「素敵よ、和也くんのバナナ……硬くて熱くてドクドク脈打ってて……とっても美味しそう……」
愛おしそうにそう言うとケイは和也のペニスをすっぽりと頬張った。
「んんっ……んっ……んむっ……うんっ……んっ……」
ケイの柔らかな唇がくぐもった吐息を漏らしつつ和也のペニスを包み込み、棹の部分を上下する。
湧き出す唾液を塗りたくられて和也の砲身は更にぬるぬるになった。
そのぬめりを潤滑剤にしてケイの頭はスムーズに上下していたが、しかし和也からはその様子は見えない。
彼が見ているのは愛液を滴らせている陰毛に覆われたケイの秘貝だった。
その光景に加え、すぼめられた唇と絡みつく舌の刺激で和也はいてもたってもいられなくなった。
「ケイさんっ……僕にも何かさせて下さいっ……」
「っぷはぁ……駄目よ。手を触れないでって言ったでしょ……和也くんは見るだけよ……」
ペニスから口を離したケイはやや鋭い口調で和也をたしなめた。
「そんな事言われても……」
「今日だけは指や舌でソコをイかされたくないの……あなたのモノを挿入してイきたいのよ……」
ケイはそう言うと再びフェラチオに没頭した。
「そんなに感じやすいんですか? ケイさん……ああっ!……そんなにされたら僕の方が……!」
和也の詰問を振り払うかのようにケイはペニスを強く吸ったりカリに舌を這わせる行為を交えながら激しく頭を上下させた。
「駄目だっ、ごめんなさいっ! で、射精[で]るっ!!」
下腹部の高まりを抑えきれなくなった和也は、ケイに頭を離すよう訴える暇もなく彼女の口腔内に白い粘液を放った。
喉の奥に二度、三度と精液を叩きつけられても構うことなくケイは肉棒からの射精が収まるまでしゃぶり続けた。
「はぁっ……はぁ……はぁ……ケイ……さん……」
和也の分身が力を無くし始めて、ようやくケイは口を離した。体を和也の方に向けた彼女の口は固く引き結ばれていた。
「……?」
和也がいぶかしんでいるとケイは両の手の平を合わせ、唇からトロトロと白い液を滴らせた。手の平いっぱいに液がたまると彼女はその両手で顔を覆った。手首の辺りからあふれた精液が流れ落ちていく。
「ああ……」
恍惚とした表情でケイは手を胸に持っていくと伝い落ちた雫[しずく]ごと乳房を揉み、更に腹の方まで精液を擦り付けていった。
「……はぁぁ……和也くんの精液……生臭くて気持ち悪い……」
「えっ……?」
悪しざまに言いながらも、しかしケイはうっとりと微笑み、顔に塗りつけた精液を指でぬぐって口に含んだ。
「……私、本当は精液を浴びたり飲んだりするの好きよ……あんな事を口走ったのは私の中のメイちゃんがそうさせたのかもね」
「メイが……?」
笑みを浮かべながら言うケイの言葉に和也は戸惑いを覚えた。
コンピューター・ウィルスに侵された和也のパソコンのマシン・トラブルによる接続ミス――。
それが和也とサイバドール達との出会いの発端だった。
誤って配送されたメイを回収すべくサラが、続いてレナが差し向けられたが、いずれも不首尾に終わった。
三人目の回収要員として赴いたケイは、メイのOSに異変が生じているのに気付き興味を持った。
スタンダード・グレードのメイ・タイプにはあり得ない“人間らしさ”を彼女は持っていた。
ケイはメイを半ば騙[だま]すようにしてOSの基本部分にアクセスし、解析の為にその一部を自分の中に取り込もうとした。
しかし自分の“胸の内”を覗かれたと感じたメイの強い拒絶反応に遭い、解析は失敗した。
その時ケイの中にはメイの和也を想う気持ちが焼き付けられ、彼に好意を持ったケイはレナと同様に任務を放棄して彼の元に居ついた――。
「んっ……はぁ……はぅ‥んっっ……」
壁際の間接照明だけが灯る薄暗くなった部屋の中、巨大なベッドの上では和也とケイが全裸でもつれ合っていた。
「はぁ……あっ……いいわ……もっと揉んで……」
ケイの上に乗った和也は言われるまま彼女の乳房を揉み、乳首を吸い、そのまま唇をケイの首筋に這わせて彼女にキスをした。
「んんっ……んっ……はぁ……」
「……んむっ……ん……んんっ……」
舌を絡め合い唇をむさぼり合った後、彼は再びケイの胸に頭を移し舌でこねるように乳房を舐め回した。
ひとしきりケイの胸肉をもてあそぶと和也は片手を彼女の下腹部へ這わせていった。しかし禁止されているので女性器には手を触れない。
彼は女性器の周辺を撫で回す――とりわけ両太腿の内側を重点的に攻めていた。これはケイのアドバイスによるものだった。
内腿を愛撫され続ければ、大抵の女は次第に男を迎え入れる気になると――。
そんな行為に没頭しながらも和也は先程のケイの言葉の意味を考え続けていた。
ケイの言う通りなら17歳と言う設定のメイは性行為のマニュアルを持っていない。ならば精液に不快感を抱いたとしても不思議ではない。
だがもしメイと結ばれた時、その事がネックになりはしないか――和也にはそんな懸念があった。
女性を侮辱する行為だと分かっていても、和也の心の奥底には顔面シャワーや口内射精に対する憧れがあった。
(ケイさんはああ言ったけど、ケイさんの中にメイの人格がそのまま入っている訳じゃないはずだし……本当にメイもあんな反応をするかな……でもやっぱり嫌がるかな……)
「何を考えているの?……手の動きが緩慢になっているわよ」
「え……い、いえ、何も考えてなんか……」
「分かっているわ。さっきの事でしょ? 大丈夫よ、メイちゃんにはそれとなくレクチャーしておくから」
余計な事をするなと言いたげに顔を上げた和也の唇にケイは人差し指を立てて制した。
「それと、セックスの時に他の女の事を考えるのは禁止行為よ……今は目の前の相手の事だけ考えて……」
「……はい……」
「……じゃあ、ちょっと下がってくれる?」
和也はケイから体を離すと彼女の足元に移動した。ケイは寝そべったまま膝を立て、太腿を大きく開いた。
「和也くん見て……私の股間に突起物はある?」
「いえ……割れ目……だけです……」
「そうよ……ここはオシッコを出す所……赤ちゃんが産まれてくる所……そして……男性のペニスを挿入する所よ……」
そう言いながら広げた脚の付け根を両手で撫で擦るケイ。その間の濡れそぼった陰毛の中から愛液が滲み出しアナルに向かって垂れていく。
「人間の女性の中には認めない人もいるけど……女のここは男性を迎え入れる為にあるの……」
ケイは陰毛の中に指をうずめ、スリットを左右に広げた。サラの時と同様、ピンク色に染まった秘貝の内側が顔を覗かせた。
「男性と繋がって……お互いに快感を与え合って……女は絶頂を……男の人は射精の気持ちよさを得るの……それがセックスよ……」
「……はい……」
ケイの講義を聴きながらも和也の目は理性を失わせるような光景に釘付けになっていた。
もう彼女の視線を気にする事もなく、待ちきれなさそうに股間の剛直をビン、ビンと弾ませていた。
「フフ……元気いっぱいね……いいわ、私も準備OKよ……体位は和也くんに任せるわ……おあずけを喰わたせめてものお詫びよ……」
「……それじゃあ……後ろからしていいですか?……」
「和也くんもやっぱり男ね……いいわ……来て……」
ケイは身を起こすと体を裏返し、手と膝をついて四つん這いになった。
誘うようにゆっくり振られる尻を和也は凝視した。アナルと性器を晒した無防備な媚態――。
和也はケイの後方ににじり寄り、彼女の開いた脚の間に立て膝で陣取った。
マットプレイでこの光景を見せ付けられた時からこうしたいと決めていた。
和也はペニスを握るとケイの陰毛に先端を押し付けた。ケイの腰がピクンと跳ねた。
「あんっ!……当たってる……和也くんの亀頭部……」
「これから入りますよ……」
和也のペニスがケイの中に分け入っていく。だがサラの時と同様、またしても先端が肉壁に阻まれた。(あれ……?)
焦りを覚えた和也は割れ目の中で亀頭部をゴリゴリさせた。
「ん……はぅんっ……」
切なそうな溜息を漏らしながらもケイはじれったそうに片手でシーツを撫で回している。
(……そうか!……今度は上下が逆になったから……)
気が付いた和也は亀頭部を上に滑らせ、ようやく膣口らしき部分を探り当てた。そのままゆっくりと腰を突き出して行く。
「ああ……っふぅ……入って来てる……和也くん……」
ぬるぬるの膣内に和也のペニスが潜り込んでゆく。ここで間違いない――。
そう思った和也は砲身半ばまで入れた所で止め、今度はまたゆっくりと戻していった。
「え?……どうするの?……待って、抜かないで……」
この行動は予想外だったのか、ケイにしては珍しくうろたえた声を出した。和也はわずかに勝利感を覚え微笑んだ。
「今更抜いたりしませんよ……ふんっ!」
ケイの腰を両手で掴むと和也は一気に下腹部を叩き付けた。衝撃でケイの尻の肉がぷるんっと波打った。
「あうんっ!!……ぁくぅ……」
和也からは見えないが、ケイは顔をしかめ歯を食いしばっていた。それはしかし、痛みを覚えたからではなかった。
今、自分の膣内が和也のペニスで満たされているという充実感に彼女は打ち震えていた。
「ああ……私の膣[なか]……和也くんでいっぱい……あっ! あっ!」
ケイの体が前後する。和也もまた、憧れのバックスタイルで彼女を犯しているという満足感を得ていた。
「あぁん、ずるい、こんなにっ、早いっ、ピッチでっ、あっ! あっ! あっ!」
和也が自分を乱暴に扱うはずがない――そんな侮りがあったのか、ケイは喘ぎながらも戸惑っていた。
しかし和也はケイのささやかな抗議に耳を貸さなかった。
「ケイさんが、悪いんです、よ……自分ばかり、僕のに、触って……僕には、見せつける、だけで……何も、させて、くれなく、て……」
ケイの尻を突き上げながら和也はなじった。
「今度は触らせてあげるからっ……言ったでしょっ……今日だけは和也くんのペニスでイきたいの……ペニスでイきたいのよぉ!!」
「やっぱりケイさん、すごく、感じやすいん、でしょっ?……だから事前に、触られたく、なかったん、でしょっ?」
「そうよ! 私、ヴァギナがっ、すごく感じるのっ! デチューンの必要があるくらいっ、敏感過ぎるのっ!」
「ケイさんなら、自分で、プログラム修正、出来るんじゃ、ないですかっ!? ワザとそのままに、してるんでしょっ!?」
「ええそうよ!! その方が男の人が悦ぶからっ……特に和也くんに悦んで欲しいからっ!! あっ!! あっ!! あんっ!!」
ケイの嬌声が更に激しくなる。普段は知的かつ深窓の令嬢然とした彼女が背中半ば程の長い髪を振り乱し、よがり狂っている後ろ姿を見ているうちに和也は複雑な気持ちになってきた。
この人は風俗嬢をやっていた。こんな姿を他の男たちに見せていた――。
和也に中に嫉妬と嗜虐心が膨らんできた。彼は抽送のピッチを落とすと今度はストロークを長く取り、力いっぱい腰を叩き付け始めた。
「ぅあんっっ!! あぐぅっ!! あうっっ!!」
ケイの嬌声に苦痛の様なものが混じり始めた。それを聞く和也の胸の内に更にサディスティックなものが頭をもたげて来た。
痛いと言え。やめてと言え――。
そんな和也の思惑とは裏腹にケイは快感をむさぼり続けた。
「ああんっ! あっ! あっ! ああっ!……いやっ、我慢できないっ……」
力を無くした様に肘を折るとケイは上半身を伏せた。それによってケイの尻は和也に向かってより突き出される格好になった。
和也が目を落とすとより上向きになった白い尻が視界に飛び込んできた。
アナルの下にぬらぬらと愛液をまとわり付かせた自分の分身が、ジュプジュプと音を立てながらケイの淫口を出入りしているのが見えた。
それを見るうちに和也は根元にじわじわと射精感が高まってくるのを覚えた。
「……ケイさん、僕を悦ばせたいんでしょう? 膣[なか]に出させてもらいますよ!」
「!?……射精するのね? いいわ、来て! ああっ! あっっ! ああっ! あんっ!」
和也は再びピッチを上げてケイの尻を引き寄せ、同時に自分からも腰を叩き付けた。
パンパンパンという音がこだまし、その度にケイの尻肉がぷるんぷるんと震えた。
和也の肉棒がしごき出される度に淫口から愛液が飛び散った。
「ああっああっああっああぁっ!! イっちゃう!! イっちゃううううう!!」
「うぉおおおおおああああああぁぁ!!」
ケイの顔がシーツに激しく擦られるのにも構わず、和也は嵐のような勢いで秘貝を突きまくった。
「いやああああああ!! もう駄目ぇぇぇ!! 出してぇぇ!! 私を支配してえええぇ!!」
「んぐぅうぅ……ぅああああっっ!!」
嬌声を超え、もはや叫びとなったケイの声を聞きながら和也はフィニッシュの一撃を送り込んだ。
子宮口に頭を突っ込んだ亀頭の鈴口から和也の熱い欲望がほとばしった。
「ああああああああああっっ!!……あっあああぁ……」
「あふ‥ふぅっ‥ふぅっ‥ふぅ……け……ケイ……さん……」
全ての熱情を送り込んだ和也は息も絶え絶えだった。
彼と繋がっている部分から愛液を滴らせ、荒い息のまま顔をシーツに押し付けていたケイは、腕を立てのろのろと起き上がろうとした。
だが力が入りきらなかったのか再び突っ伏し、和也もつられる様に体を重ねた。
汗で湿った肌を張り合わせたまま、呼吸が落ち着くまで二人ともしばらくじっとしていた。
先に動きを見せたのは和也だった。ケイの中でペニスがしぼんでいくのを感じた彼は身を起こそうとした。
「待って……まだこのままでいて……あなたの体重を感じていたいの……」
「……重くないですか?……」
「ううん…大丈夫……それにしてもCBDの性[さが]かしら……子宮内に直接精液を注がれると思った時、身も心も和也くんに捧げて構わないと思った気がしたわ……」
「……気にしないでいいですよ、そんな事……僕の言い成りになるケイさんなんて、ケイさんらしくないです……」
「……そうね……正式な契約じゃないものね……でもいっそ、そうなれた方が……」
「……すみません……あんなに乱暴にして……自分でも訳が分からなくなって……」
「いいのよ……後背位は男の人の征服欲をさらけ出させるから……和也くん、予想以上に逞[たくま]しかったわ……」
ケイは人間の行動を、将棋でいえば数百手先まで読む演算能力を持っている。
幾つかの読み違いはあったにせよ、ここまで来る事も彼女の計算の内に入っていたのだろうか――?
そうぼんやり思った和也だが、しかし今はそんな事はどうでも良かった。
「セックスで女の子に遠慮は禁物よ……もちろん積極的である事と、乱暴であったり無作法である事は違うけどね」
「やさしく、かつ積極的に……ですね」
「そう……それともう一つ……」
「何です?」
「さっきみたいに後背位の時に女性が上半身を伏せたら、それはもっと奥まで入れてというサインよ……これは憶えておくといいわ……」
ケイは汗に濡れた髪が頬に貼り付いたままの顔で振り向き、そう言いながら和也に微笑んだ。
(続く)
清楚なお嬢様風でいて、実はサイバドールの中で一番エロティックなシチュエーションがよく似合う――。
それがケイさんの魅力ですね。
本当はバスタブでの潜望鏡プレイや本格的なパイズリの描写も入れたかったのですが、長過ぎるかもと思ってこの位にまとめました。
ご満足いただけましたか?
さて次回の和也のお相手は……通好みの「あの人」です。