自己満足の殿堂 the小 説


 【香り立つ季節】

2003/1/14




雅之助は頭を抱えて悩んでいる。
こんなに悩んだのは生まれて初めてであった。
理由はただ一つ。

「半助・・・・・か。はぁ〜っ・・・・。」

柄にも無く深い溜息も吐いてみた。

「失言・・・・だったかなぁ・・・・・しかし・・・・嘘・・・・・でも無いようなあるような・・・とは言え、本心・・・・・とも・・・・何とも・・・・・。
 ああああっワシゃっ、ワシゃっっっっ!!」


両膝の間に頭を垂れてばりばりと頭を掻きむしり自問自答しながら悶える姿は、端から見ていると不気味である。
郷の外れの小山で雅之助は一人悩み苦しんでいる。
原因を作ったのは山鹿であったが火に油を注ぐような事をしたのは他ならぬ自分である。あの時・・・・。


「ワシともあろう者が・・・・、惑わされた。」



苦し紛れに吐いた言葉は半助を宥めるための物だった。忍たる者、口先一つで人を動かし事を成す術を持っている。迫り来る危険や予期せぬ出来事に対し、如何様にも対処出来る技量と経験がある。
憚りながら忍びの腕は確かであると自他共に認めている。なのに。
半助にすがられて雅之助はどう言い含めることも出来ず、事の成り行きに任せ流されてしまった。

確かに嘘ではなかった。半助は今や雅之助にとっては家族であると言って良い。我が侭で愛想のなく、何処か他人と一線を引く可愛げの無い所はあるが悪人ではない。
雅之助の教授は全て受け入れ見事にこなし、弟子としての教え甲斐がある。長年暮らしていればもちろん情も湧いてくる、とは言え。


「やっぱ抱いちまうってのは拙かった・・・・かなぁ・・・・はぁぁぁぁぁ・・・。」



雅之助は半助と身体の関係を持ってしまった。

雅之助も色事については修行と趣味を兼ね重ねていた。
女を知らぬ若造でもあるまいし、自分の下半身の制御くらい造作もないはずだった。
にも関わらず。


「彼奴の眼、態とか?そこらの遊女より艶っぽかったぞ。」


半助に見つめられた雅之助は未だかつて無い欲を覚えた。
別に半助が擦り寄って雅之助の身体を刺激したのではない。半助は頬を紅潮させその大きな瞳でじっと雅之助を見つめただけである。ただそれだけだったのに雅之助は魔性に魅入られ誘われたように半助を抱きしめ口づけし、肌を隈無く愛撫して身体を押し開いた。
半助の桃色の息が、高く上がる声が、また自分を押し包む熱く灼けるような快感がたまらなく欲しくて正に無我夢中で半助を抱いた。


「ありゃ天性のもんだろうか。人を寄せ付けねぇ癖に引き込むモンがあるな。情けねぇがあん時のワシは我を無くしておった。」


昨夜の半助の姿を想い出すと未だに股間のうずきが蘇るようで、慌てて頭を振った。
両腕を抱え込み蹲ってゴロゴロのた打ち廻っていたが、しばらくするとケロリとした顔で立ち上がりその場を去っていった。


「やっちまったモンは仕方がねぇ。孕むわけでもないし何とかなるだろう。」


済んだことをクヨクヨと思い悩まないのは雅之助の長所と言えた。




その次の日から半助が変わった。
相変わらず愛想は無く誰に媚びを売るではないが、人の温もりを身を以て知った半助はある種の雰囲気を纏うようになった。男を誘う女の持つ色香とはひと味違う、人を惹き付ける魅力が身の奥から湧き出ている。
それは一人の人間に対し警戒線を解き自分の内部に招き入れたことで、それまでの刺々しく冷めた感じが幾分か和らいだのであろうが、それが仇となった。
近寄り難い雰囲気が幾分か和らぐと、半助に多少ならずとも興味を抱いていた郷の若い者たちが言い寄ってきた。
始めは一人、二人の数であったのだが半助が全く靡かぬと見ると五・六人の徒党となり半助を襲うようになった。すると半助も手加減無く反撃しけが人も出るようになった。
何度も雅之助ら目上の者から厳しい注意、警告があったのだが、ちょっと眼を離すと直ぐにでも騒動が起きる始末。
半助の保護者たる雅之助共々、郷の年長者達はほとほと困っていた。



これが春から雅之助と半助が只ならぬ仲となってから始まった騒動である。




雅之助は半助に求められれば抱く。時には半助と眼が合いジッと見つめられるだけで落ち着かなくなる。
どうしてもあの大きな黒い瞳に下から見上げられると無下にも出来ず、拒否も出来ない。詰まるところ自分の節操のなさがさせるのかは雅之助自身にも解らない。
だがこのまま半助との関係を続けるのもどうかと思っているのも事実である。
ワシを誘っているのかと訊いてみたこともある。しかし半助は目線を反らし僅かに微笑むと「私が誘っているのではない、あなたが求めているんだ。」と返してきた。
求めているのはどちらなのか、それとも双方なのか判断はつかない。
そうしてずるずると半年ばかりが過ぎ、季節は秋から冬へ入ろうとしていた。


頭の元へ火急の用件と使者がやって来た。長いこと甲賀の郷と懇意にしている稲生城の使いだった。
使いの者が帰って行くと入れ替わりに雅之助と雄三、それに半助が頭に呼ばれた。


「雅之助、雄三と共に丹生城に入ってくれ。半助、お前は繋ぎ役で着いて行け。」

半助を一人郷に残してはまた騒動の種になると踏んだのか、頭は半助を初めて仕事に出した。実戦経験のない半助にも繋ぎ役ならば丁度良い経験になると、雅之助も雄三も反対しなかった。翌朝早くに3人は丹生城へ向かい出立した。

丹生城は甲賀の郷から一日半の所にある。
要塞さながらの城はこの辺り一帯の平野を見渡せる山に築かれており、難攻不落とされている。好戦的な城主は幾つもの城と和平と姻戚関係を結ぶが、半年もするとその興和は破られ戦が起こる。その繰り返しで丹生城はこの数年で大きくなった。
そして今回眼を付けられたのが稲生である。和睦と称して城主の妹が輿入れしたが、いつ戦を仕掛けられるか解らない。ならば密かに丹生まで進行し、やられる前に先に戦を仕掛けようと稲生は決めたのだが、現城主の妹に対する愛情は只ならぬ物で是が非でも救い出せと言うのが今回の役目である。


「出来てンのかね、兄と妹で。」
「私たちには関係ない。ただ妹御を密かに連れ出せば良いだけだ。」
「でも、おかしいぞ。このご時世にゃ嫁に行った姫は戦が始まりゃ殺されるってなぁ当たり前だぞ。そりゃ身内だから助けたいってのはよく解るけどさ。姫さんの名前は何ってたっけ・・・・・ああ、ゆう殿だ。おお、お前と同じ名だなぁ、雄ちゃん。」
「私を女の名で呼ぶなと何度も言っているだろう!」
「雅之助はいつ女の名で雄三殿を呼んでいるの。」


瞬間二人が固まった。
雅之助は雄三と横に並び、その後ろを半助が着いて歩いていた。稲生城主の妹御に対する執着は只ならぬとは世間でも良く知られていたことだ。無駄話をしていた雅之助の話を後ろで聞いていた半助の問いかけに対し雅之助と雄三は内心ドキリとしたが、そんなことは面に出さずただすらりと言い逃れた。
半助の眉間が僅かに動いたが、こちらも表情は出すことはなかった。


それから丹生の城下に着くまで、雅之助のギクシャクとした取り留めのない話だけが続いていた。半助は始終黙ったままだった。









〜つづく〜





2003/01
                 


  Cへ戻る     Eへ続く

『主な登場人物』


大木雅之助・・・・・(二十二歳)
土井半助・・・・・・・(十四歳)
野村雄三・・・・・・・(二十三歳)
頭・・・・・・・・・・・・・(年齢不詳)




半助ストーリーとか言いながら、雅之助ばっかりが出てるなぁ。
だって〜、雅之助が好きなんだモン〜vv





小説の間へ戻る

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!