自己満足の殿堂 the小 説

【凍てつく季節】

2003/03/05





賑やかな表通りで一番大きな宿屋に部屋を取り、三人は話すこともなく時の過ぎるのを待つ。
夜も更け人々の眠りが深くなる丑三つ時、月が沈むのを見計らって雄三が城の下調べに出て行った。雅之助と半助の二人だけになると、半助はゴソゴソと雅之助の布団に潜り込んできた。


「お・・・・おい、よさんか半助。」
「何故。いつもやってる事じゃないか。」
「場所を考え・・・・」
「雄三殿が戻ってくるかも知れないから?」


雅之助の纏う空気が一瞬固まるがモゴモゴと誤魔化し背を向け寝直した。
半助は雅之助のはっきりしない態度に気分が収まらずしつこく食ってかかるが、雅之助は文字通りの狸寝入りを通している。
暫くは雅之助の肩を揺すったり髪を引いたりしていたが一向に相手にされる気配が無いので、仕方なく半助も自分の布団に入り目を閉じた。




夜明け前に雄三が音もなく部屋へ帰ってきた。
気配を感じ取った雅之助は起き上がり静かに雄三の側へ寄る。


「どうだった。」
「特にどうと言うことはない。」
「姫さんの部屋は。」
「三の丸の二階、東側。侍女が四人着いているだけで特に警備もしていなかった。」
「そうか。じゃぁ、ワシは昼間に半助と市中を見て廻る。」
「ああ、退路も見極めておけよ。私は寝る。」


雄三は忍装束を脱いで髪を解いた。
手櫛で髪を梳き、ちらりと雅之助を見ると目があった。雄三の瞳は何か言いたげな色をしたが、半助に視線を流すと素知らぬ顔をして横になった。






市で賑わう城下町を雅之助と半助は二人並んで見て回る。
三年近くも山暮らしをしていた半助の目に映るものはどれも新鮮に見えた。昔、自分の暮らしていた城にいた女達の着ていた着物と、今、店先に並べられている着物は随分と色柄模様が違っている。どれもこれも目新しく派手である。
女物の服を纏った大柄な男達が髪を高々と結い、目元に朱色を入れ顔を真っ白にしている。金色の帯を締め肩まで曝した女は昼間から格子窓を覗き込む侍の手を引き、皆大きな声でしゃべり高い声で笑っている。
藪に一歩踏み入ればクチナワの出る静まり返った山とは大違いの賑やかで華やかな街である。


「凄い人出だ。こんなに沢山の人間は見たこと無い。」
「そうか。戦場はもっとごたごたしとるがな。」
「ふうん・・・・。」
「よっしゃ、街中見て回ったし、そろそろ帰るかの。」
「え、あ・あぁ。うん。」


賑やかな街が物珍しく、あちこちに目を惹かれていた半助が名残惜しそうな返事をすると、雅之助はニッと笑って懐から金を出した。それを半助に渡すと街を見物して廻れと言った。


「見せ物小屋なら見て回れる。八つまでには宿に戻ってこいよ。」


半助は無表情を決め込んでいたが気持ちは浮かれていた。雅之助が背を向けて宿に戻って行くと半助も人混みへ溶けていった。


戦続きのこの国は廃れるどころか街は活気に満ちて、ありとあらゆる物資と人が集まり何でも売り買いされていた。食物、武器は当たり前、おおっぴらには出来ないが人も売り買いされている。

表通りから一つ入った裏通りに人集りの出来た見せ物小屋があった。中ではなにやら大勢の人の掛け声と女達の黄色い高笑いが外まで聞こえた。
あまりにも賑やかすぎるその小屋に興味を持った半助は中に入っていった。中は狭いうえに異様な興奮と熱気、それに人々の大合唱。
人波を掻き分け中へ突き進むと、其処では四つん這いになった女が肌も露わに自らの乳房を揉みしだき、後ろから覆い被さる男の男根に貫かれていた。

「ソレ突け、ヤレ突け!」
「ソレ突け、ヤレ突け!」

人々の掛け声に合わせ男は腰を突き入れ、女も態とらしい高い声をあげる。
その光景に驚いた半助が目を白黒させていると隣に立っていた女がにっこり微笑み、半助の袖を引いて小屋の外へ連れ出した。
其処は昼にも関わらず薄暗い裏路地だった。


「あんた、可愛いけどいい男ね。こんな処初めてなんだろう?ココがこの辺りじゃ一番安いんだよ。」
「な・・・なん、なん・・・・!」
「上なら二文、下なら五文だよ、どっち。」
「うえ?う・・・うえって・・・・。」
「アイヨ、上ね。」


女は早口で半助に喋りかけ屈み込むと、素早い手つきで半助の腰紐を解き中から男根を取りだし躊躇せず咥え込んだ。
驚く半助を余所に女の舌は絡みつき細かくうねる。
気を静め改めて回りを見回せば、暗闇の影では自分たちと同じ様な男女の姿がある。あの小屋は男女の絡みを見せ物にして、興奮した男が女を買う処だったのだと半助は気が付いた。その時既に半助は堅くなり女に扱かれていた。
商売女は男の身体を良く知っている。若い半助は弱いところを集中して責められ、ホンのあっと言う間に吐精してしまった。
口の中に吐かれた物をペッと吐き出すと、女は立ち上がり目の前に右手を出した。


「ハイ、お代。二文。」


呆っとした半助が言われるままに金を出すと、女はむしり取るように掴み取り去っていった。
あまりに突然で未だかつて無い経験に半助は暫くその場から動けなかった。
雅之助からそういう店もある、と話を聞いたことはあったものの、まさか初っぱな偶然入った小屋がそのような如何わしい処であったとは半助も運が悪かった。
雅之助との情交のように熱もへったくれもあったもので無く、ただ精を吐き出させるだけの女の行為。頭と身体が理解をしても心の中は落ち着かず、半助は顔で平常心を装っていたがおぼつかぬ足取りでゆらゆらと宿へ戻って行った。雅之助の言っていた時刻、八つまでには後二刻ほど間があった。




重い物を背中に引きずるように、半助は宿の廊下を部屋に向かって歩いていた。その時の半助は意図して気配を殺すではなく、無心で抜け殻のように歩いていた。機械的に足を運び、泊まっている部屋の戸に手を掛けようとしたとき、中の様子がおかしい事に気が付きハッと意識が覚醒した。
そして今度は意識的に気配を殺し中の様子をそっと伺ってみた。


「っく・・・・ぁっ、雅、もぅいい加減に・・・・。」
「お前から誘ったじゃろうが。半年ぶりなんだ、まだ足りん・・・・・雄三、やっぱお前は綺麗じゃの。」
「半助を・・・・可愛がっている癖に・・・っぁあっ!」
「拗ねるな雄三。お前だけだ・・・・。」


瞬間、目の前が真っ赤になり思わず声が出そうになった。
半助はグッと呼吸を飲み込み息を殺し、回りの空気にとけ込む如くに気配を潜ませる。それは雅之助に教えられた通りで、部屋の中に居る腕の立つ忍二人さえも気づかれぬ程だった。
 

 半助は金槌で頭を殴られたような気がした。
薄暗い部屋の中では良い体格をした大柄な男が二人、肌を露わに絡み合っている。
それがどういうことか良く知っている。半助は雅之助からいつもそうされていた。自分の細い腕とは違う太く傷だらけの腕で抱き寄せられ、半助の体重など無いかの如く跳ね上げる力強く逞しい腰。
自分だけの物だと思っていたその身体と心は、別の男に盗られている。
しかもその男は自分よりも美しい身体をしていて、常には白い肌は桜の花びらのような淡い色に染まっている。

雅之助の表情は半助が見る顔とは違っていた。無我夢中とはあんな表情なのだろうと半助は思った。今まで肌を合わせて来た中で見たことのない表情。はっきり言って情けない。でもそれは自分の手の届かないところにあるもの。

そして絡み合う二人の姿はなんと自然であるのだろうか。
大柄な男の絡みなど普通に想像すれば気色の良い物ではない。しかし目の前のこの二人は、まるで二人で一体の物であるかの如く自然体であった。そうしているのが当たり前でずっと昔から決まっていた理のようで、半助にはその間に入り込む余地などまるで与えられていないようだった。


半助だけがその空間に取り残されていた。


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主な登場人物』


大木雅之助・・・・・(二十二歳)
土井半助・・・・・・・(十四歳)
野村雄三・・・・・・・(二十三歳)


見せ物小屋の件で一言。
当時は実際あった見せ物だそうです。もちろん前張りなしです。
白黒ショー所の騒ぎではありませんネェ。

myドリーム、雅之助と雄三はほぼ同じくらいガタイがデカイ!





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