【点、ポイント】 |
クスクスと、相模は楽しそうな笑みを浮かべ雷蔵の胸を撫でさする。優しく穏やかな口調で語りかけながら、慣れた手つきで服を少しずつ脱がせ、今や雷蔵の身体には手足の戒めたる縄だけしか残っていない。 数日前の恐怖が心と身体に蘇り雷蔵はガタガタと身を震わす。 あの時は相模をある意味合いの上で信頼していた。身体を交えることでお互い共通の秘密を持ち、三郎を救うことができると思っていた。相模は三郎を口実に自分の身体を望んでいるのだとも思った。 だが相模にとって自分の存在など紙切れに等しいと判ると、更に深い恐怖に襲われた。 力の入らない身体は相模の思うままに扱われ中心部に熱が集まる。 肩の幅よりも更に大きく足を開かれ、付け根の最奥に指を立てられ優しく動かされると不覚にも声が漏れた。 脱力した身体は進入してくる指を拒むことも出来ずすんなりと受け入れる。 「おや、あの時はそんなに好い声は聞かせて貰えなかったのに。三郎様ったら、彼方をこんなにしてしまって。全く、色んな意味で恐ろしい人だ。クックック・・・・。」 その反応を愉しむように相模は指で雷蔵の身体を掻き乱す。 僅かな期間で三郎に慣らされた身体は素直に快感に身を震わせ、雷蔵の思いも寄らぬ処で勝手な反応をする。 不意に漏れる声に自らを恥じた雷蔵の瞳から涙がこぼれ落ち、頬を紅く染める。 相模は雷蔵の体内に埋めた指の数を増やし激しく雷蔵を追いつめた。快感に押し流され限界を迎えそうな身体が、相模の指をキュウッと締め付け更に声に色が染まった時、閉じられた障子の向こう側から冷ややかな声が聞こえた。 「変な癖を付けられちゃ困る。雷蔵を其処まで仕込んだのは俺なんだから。」 地獄の判官のような抑揚のない腹の底に響く低い声。だが雷蔵にとっては天の救いの声だった。その声の主を同時に判断した二人は互いに違う表情を示した。 相模にとっては一番会いたくない人間。 「お早いお着きで、三郎様。」 「さ・・・ろぉ。」 「人ン家で人の恋人に手を付けるとはいい度胸だ、相模。」 雷蔵と、覆い被さっていた相模との間を苦無が飛んだ。それを除ける相模は雷蔵から離れ飛ぶ。続けざまに投げられた手裏剣は空を切って壁に刺さり、相模は除けながら素早く外へと逃げた。三郎もそれを追い外へ飛び出し、部屋の中には雷蔵だけが取り残された。 遠くで金物のぶつかり合う音と、宝禄火矢の爆音が続いていた。 薬で未だ身体は動かせず、人形の様にごろりと横になったままの雷蔵は、三郎の還ってくるのをじっと待った。 一刻ほど続いた轟音と金属音は何時の間にか止み、静かになっていた。まさか三郎がやられはしないだろうが、やはり気になる。相模は三郎を敬っていたが傷つけないとは限らない。 忍術学園の教師として迎えられた程ならば腕も立つはず。何しろさっきの苦無、あれは確実に相模の首を狙って撃たれた物だったのに、いとも簡単に除けられていた。 腕前が互角でも年の功と強かさでは相模の方が上に思え、心配で生きた心地もしない。 落ちた陽に替わり月が昇ってきた。 月光に照らされ部屋の入り口に立った影は三郎だった。 「スマンな雷蔵。待ったか。」 「さ・・・ろぅ。」 「怖かったか。寒くなかったか。」 「・・・ぅ・・・ん。」 「すまなかった。」 三郎は跪いて雷蔵を抱きしめる。 両腕で絞め殺さんばかりに抱きしめて胸の中に抱え込み、雷蔵の髪の匂いを胸一杯に吸い込むと、にわかにその指先が雷蔵の尻をツツっと滑った。 「さぶ・・・ろぅ?ぁっ・・・・ふぅっ・・・ン。」 「もうその気になってただろう?続き、してやる。気にすんな、俺ンちだ。」 さっきまで泣きそうな顔で雷蔵を抱きしめていたのに、今はもう悪戯に充ちた顔で嬉々として身体をまさぐっている。 時と場合を考えろと一言言って張り飛ばしたいのは山々だが、まだ薬の効いている身体では思うように口もまめらず、力も入らない。第一、身体のほうはせっぱ詰まった状態で放り出されていたのだから、熱の放出を求めて仕方がない。 雷蔵は全てを三郎に任せて身体の力を抜いた。 脱力し余計な力が入らない分鋭い快感が身体を駆け抜け、雷蔵は三郎の手練によって程なく意識を手放した。 次に雷蔵が目を覚ました時は月が頂点に掛かっていた。 未だ身体に怠さが残るが腕はゆっくりと動き、身体は多少の痛みを残しているだけだった。遠くで怒鳴り声が聞こえる。それは学園内では聞くことのない、おそらくは雷蔵だけが知りうる三郎の地声だった。 三郎の怒りを治めたくてその場に行こうとしたが、其処までは身体が動かなかった。 雷蔵がゴロゴロ、モゾモゾと身を動かしているとその気配を感じ取ったのか、すぐさま三郎が飛んできた。 「雷蔵、起きたか。大丈夫か?動くな、まだ薬が抜けていないだろう。」 「う・・・ん、大分動く・・・。三郎、何を怒っているの?」 先程の怒鳴り声とは打って変わって、子供をあやすような猫なで声で三郎が擦り寄ってきた。起きあがろうとする雷蔵の身体を気遣い、やれ水だ、やれ薬を呑めだ、下にも置かない構い方はいつにも増しての過保護ぶりである。 三郎にしてみれば今回雷蔵の身に降りかかった全ての諸悪の根元が自分の父親であると判って雷蔵に申し訳ないやら、また、自分の存在までも呪わしく思われ、目を合わすこともせず雷蔵を抱き寄せて口付けた。 これが三郎なりの精一杯の謝罪の方法と、雷蔵もゆっくりと三郎の背に手を廻し抱きしめた。 月の出ている明るい夜道を、実家から失敬した馬に二人は跨り学園への道をゆっくり進んでいた。夜の空気は冷たく頬を刺すが、くっついていればさほど気にならぬ程であった。 怠さの残る身体を支えられない雷蔵は、しっかりと三郎に抱き留められていた。 未だ雷蔵の身体から薬は抜けきっていないが、忌々しい場所で休むわけにもいかず早々に実家を後にした。 「三郎、お父様は・・・・何か・・・・。」 「何もクソもねぇ、あの野郎、相模とつるんでやがったくせにそんな奴ぁ知らんとぬかしやがった・・・・!」 「ハハ・・・さすがは君のお父様(神経の図太さは父親譲りだ)・・・・。でも、それも君を心配してのことなんだろう?詳しくは知らないけどそんなに怒らなくても・・・。」 「怒るなだと?俺の親父はお前を殺せと相模に命令していたんだぞ!俺の将来に邪魔だからって。お前が相模に、その・・・・なんだ・・・・・・噛みつかれたのだって・・、俺の出方を見るとかなんとか・・・たったそれだけの理由でだ。なのにあの野郎、証拠がないのを良いことに相模など知らん、そいつが勝手にお前を連れてきたのだろうなどと、我が親とは言いながら見下げ果てた奴だ!」 「ね・・・ぇ、相模先生は?どうしたの。」 「なんだよ・・・気になるのか・・・。」 三郎はたった今まで興奮して自分の親の悪口を言っていたが、雷蔵が相模の行方を尋ねた途端一気に冷めた声に変わった。 特に気になったのでは無い、ただ激しい戦闘の顛末を知りたいだけであったのだが、三郎にとって相模の行方を知りたがる雷蔵は面白くない。お互い相模に対して痼りがあるから尚更である。 相模に惚れているのか、未練でもあるのかと三郎は雷蔵を問いつめ、雷蔵がどんなに否定してもそれでもなおしつこく取りすがる。 普段の雷蔵であれば突き放してげんこつの一つもくれて戒めの言葉を突きつけるのだが、今の身体は三郎にしっかりしがみついていなければ落馬してしまう。 雷蔵はいい加減面倒になってきて、この如何ともしがたい状況をどう打破すべきか考えを巡らせ、仕方なく最終手段を用いることにした。 「さぶろぅ、口付け・・・して。」 「なっ・・・・・お前・・・誤魔化そうたって・・・っ。」 「さぶろぅ・・・・・。」 あっけなく三郎は陥落し、辺りは再び月明かりのみの静かな夜になった。 「柘植の刀禰の話では、学園に派遣した相模源作の容貌は、背は低く骨太でがっしりした三十代後半の色黒の男である、と。」 「先週末まで学園にいた相模源作は長身で色白、三十代前半の優男でしたから・・・・。」 「む・・・・・。まぁ、良い。生徒は無事に戻ったことだ。鉢屋殿にも信書を送って居るから暫くはおとなしいじゃろう。」 『信書って・・・・。』 『脅迫状のことだよ。』 使いに出した六年生の報告を聞いた学園長は暫く腕組みをし眉間に皺を寄せていたが、何でもなかったように茶を啜っていた。 学園長にとって生徒が無事に戻りさえすれば学園に損失はなく、あとは柘植と鉢屋の郷で諍いが起ころうとどうでも良いことである。 六年生が部屋を退出した後、土井半助が音もなく天井から舞い降りた。 「相模源作なる男、鉢屋の郷に現れる以前、並びにその後の行方一切知れません。引き続き大木先生が調査を進めておりますが見通しは暗いようです。」 「そうか、ご苦労。捕らえた方は何か喋ったか。」 「奴は途中で相模に雇われた甲賀の抜け忍でそれ以上は何も知りません。甲賀には遣いを出しましたので引き取りに来るでしょう。」 「今ここでとどめを刺した方が親切ではないか?」 「決まりですから。」 事務的に言うと半助は去っていった。 学園長は再び茶を口にして深く一息吐いた。 天気の良い昼下がり。 二人だけの静かな図書室で、雷蔵は三郎と書庫整理に勤しんでいた。 雷蔵は仕掛かりだった破れた本の修繕をしている。そして背中にはべったり雷蔵にくっついている、と言うより取り憑いている三郎の姿がある。 三郎は雷蔵の仕事を邪魔しているつもりはないのだが、雷蔵にしてみれば邪魔で仕方がない。しかも、後ろから恨みがましい声でずっと話しかけてくるのである。 「雷蔵〜、ホントに指だけか?ホントにホントにそれだけだったのか?他に変なコトされてないか。」 「ホントだって・・・・。もう、いいじゃない。」 「良いわけ無いだろう、あの野郎がお前に変な癖付けていたら大変じゃないか。」 「それは、もう・・・・(十二分に確かめた癖に)。」 「指以外で変なコトされなかったか?」 「他に・・・・あ、そうだ。『こんな所に痕を残して』って言ってけど、一体何処に何が残っていたんだろう?」 その時の台詞を思い出しながら雷蔵は考える。自分は身体が動かなかったので、こんな所が何処なのか確認できなかった。すると三郎が「あっ」と言ってにっこり微笑み、雷蔵の右足を押し広げた。袴の脇から手を差し入れもぞもぞと内股の奥まで進み入り、足の付け根部分をまさぐりぷにぷにと摘んだ。 「ココに印を着けといたんだ。」 いつの間に・・・と言いかけて雷蔵は口ごもる。まさかそんな処に印を付けられていたとは思ってもみなかった。顔を赤らめながら俯かせ、無言のままに手だけ忙しく動かしていた。 思い立ったように三郎が耳元に口を寄せそっと囁くと、俯いた顔は机に着くほど垂れ下がり、更に雷蔵の顔は赤く染まり耳まで真っ赤に変わる。 雷蔵の反応を見て嬉しそうに笑った三郎は立ち上がり、軽く手を振り図書室を出ていった。 三郎が何を囁いたのかは雷蔵のみが知るところであるが、動く手とはうらはらに、本の修繕は一向に進んでいなかった。 *〜fin〜* 2003/02 |
| *〜*言い訳*〜* 『すごく怖い(+α)三郎を!!相手がプロであろうとも・・・火の中水の中雷蔵のためならエンヤコーラエンヤコーラっ!最後は相手が酷い事にっ!ヒィィーっ(長っ)みたいな三郎。』 当家の17000カウントをお踏みあそばしたsukai様より賜りましたリクエストは上記の通りでございました。 そして出来上がったのが↑これでございますが。最初に申し上げます。ゴメンナサイ。 sukai様のお題をみて「ヒッヒッヒ。こりゃ楽しそうじゃワイ。」と思い直ぐ書けるであろうと思っていたのがこの有様。 だって、三郎が勝手に動いて行くんです。私の思惑とはうらはらに。 仕方なかったんです。全て三郎が悪いんです。そう、三郎が・・・・。 そんでもってこの小説は、以前に他のサイト様へ捧げた小説の続きと言う形をとりました。 相模なるオリキャラは、私の中でお気に入りキャラとなっており、いつかまたこいつを使った小説を書きたいなと思っていたところへsukai様のリクエストがございましたので、そのご相伴に預かったというか・・・。 相模は三郎と同じくらい「いい性格といい腕」をした正体不明の忍びですが、今現在では三郎よりちょっと強い、てな感じで、そんでもって雷ちんを三郎より先に喰っていたりして・・・。 ちなみに相模の名前ですが、最初は無かったんです。「相模」だけだったのですが、小説を書いている途中にラジオから「ゴムじゃないコンドーム、サガミオリジナル」というCMが。 (サガミ=相模+オリジナル=原作=源作)(相模源作) と、命名された次第です。 |