「あ…イイ、気持ちいいよ…恵……」  
上半身を起こして両足を大きく開いている僕は、そのあまりの快感に身震いし、思わず甘えた声を漏ら 
していた。  
目の前には、僕のモノを右手で優しくしごきあげながら、すぼまりに舌を這わせている恵がいる。  
「ん…。んっ……。雅幸さま…私も…私も気持ちよくさせてください…」  
恵は顔をあげ、消え入るような声で僕に話しかけてきた。その顔は真っ赤に染まっている。  
「う……うん、いいよ。恵…」  
「よい…しょ…っ。ん…あ…あんっ」  
恵の言葉に僕は震える声で答え、コクンと頷きながらゆっくりと横になる。  
すると恵は体の向きを入れ替えて僕にまたがってきた。僕の目の前に、丁度恵の割れ目がくる姿勢にな 
った。  
思わず僕は、恵の割れ目のヒダをくちびるで軽く咥えた。すると、恵は下半身をピクリと震わせ、軽く 
声をあげていた。  
「ん……。んっ…くっ…くっ…んっ…」  
恵は僕のモノを咥えながら、ゆっくりと顔を上下に動かし始める。  
ちゅぱちゅぱと湿り気を帯びた音が部屋に響き渡り、同時に下半身が痺れるような快感が僕に襲い掛か 
る。  
「ああっ! あん…あんっ!」  
僕は快感になんとか抗おうと、目の前にある恵の割れ目を両手で押し広げ、中に舌を潜り込ませた。  
同時に腰を大きく震わせ、モノから口を離して喘ぎ声をあげる恵。  
その声に興奮した僕は、両腕で恵の太股を抱え込み、割れ目に舌を出し入れさせる。  
「あん…っ…雅幸さま…気持ち…気持ちいいです…! 気持ちいいですぅ!」  
「恵…僕も…僕も気持ちいいよ…」  
甲高い叫び声をあげながら、僕のモノを今までよりもピッチをあげてしごきだす恵。  
そのあまりの快感に、僕は思わず割れ目から顔を話してつぶやいていた。  
 
「く…っ…ん゛…ん゛っ……ん゛ん゛っ…」  
再び僕のモノを咥え込む恵。今度は顔を動かさずに、舌をモノに絡ませる。  
特に亀頭の根元部分を丹念になぞられ、思わず背筋に寒気が走り身震いしてしまう。  
一方の僕は、恵の割れ目に人差し指を潜らせ前後に動かしていた。  
にちゃにちゃという音と共に割れ目から蜜が溢れ、僕はそれを音をたててすすっていた。  
「はあ…はあ……気持ち…いい…ですぅ…。あっ! ああんっ!」  
顔をゆらりとあげて恵がつぶやく。と、恵の左腕が縮み、それに合わせて右腕が伸び始める。ま、まさ 
か……。  
これから起こる展開に期待して、心臓の鼓動が早くなるのが分かる。同時に、割れ目の中に中指も潜り 
込ませた。  
すでに蜜で濡れそぼっている割れ目は、やすやすと僕の指を飲み込む。僕は夢中で指を動かし続けた。  
「あ…う……」  
すぼまりから全身を駆け巡る刺激がこみあげ、思わず声が漏れる。そう、恵がすぼまりに指を潜り込ま 
せていたのだ。  
「はあ…んっ…。んっ…んっ……」  
「あふぅ…ああっ…うっ…」  
恵は再び僕のモノを咥えて顔を上下にリズミカルに動かす。それにシンクロするように指を動かし始め 
る。  
僕はその襲いくる快感に抗うことができるはずもなく、恵の割れ目から顔を離してしまった。  
「あうっ!?」  
思わず情けない声をあげてしまう。恵が突然、モノから顔を離し、すぼまりからも指を抜いてしまった 
からだ。  
「雅幸さま…ずるいです……。私も…私ももっと気持ちよくさせてください……」  
「う…うん……。ご、ごめん……む…むぶうっ!?」  
上半身を起こし、振り向き様に僕を恨めしげに見下ろしながらつぶやく恵。  
まるで蛇ににらまれた蛙のように、僕は詫びの言葉を述べるが、最後まで言うことができなかった。  
恵が僕の顔に下腹部を完全に乗せてきたからだ。…って、窒息しちゃうってば……。  
僕は必死になって恵の太股をピタピタと叩きながら、割れ目に舌を潜り込ませるしかなかった。  
 
「あっ! あん…雅幸さま…気持ちいい…気持ちいいです…雅幸さま……れろ…れろれろっ…」  
僕の名を呼びながら、モノに舌をのばす恵。すでに先端からは先走り液がしとどに溢れている。  
それをおいしそうに舐め取りながら、右手はすぼまり周辺をさわさわと撫で回している。  
思わず僕は腰を上に突き出し、同時に恵の割れ目の先端にちょこんと突き出ていたクリトリスに軽く歯 
をたてた。  
「あっ! ああっ! あんっ! 雅幸さまっ! 気持ちいい! 気持ちイイですっ!!」  
「恵…お願い…僕にも…僕にも挿れて……」  
同時に今までよりもひときわ大きな叫び声をあげる恵。一方で僕は途切れ途切れな声で恵に懇願してい 
た。  
「雅幸さま…雅幸さま…気持ちイイです…」  
「あくうっ!」  
僕の声が聞こえたかどうか、恵はうわごとのようにつぶやいたかと思うと、再びすぼまりに指を潜り込 
ませてきた。  
予告無しの突然の挿入に不意を突かれた僕は、全身をビクンと震わせるしかなかった。  
 
「ふう…あふう…ふう……」  
僕は喘ぎ声をあげながら、恵の割れ目に指を潜り込ませている――はずだった。  
と、いうのも、下腹部から伝わる刺激が強すぎて、脳が麻痺して何も考えられる状態ではなかったから 
だ。  
ただ、手を休めると途端に離れるから、少なくとも恵の機嫌は損ねていないみたいだ。  
それくらい、恵の愛撫は心地良かった。  
「雅幸さま…気持ち……気持ちいいですか?…」  
「う…うん……」  
恵が僕に質問してくる。僕は反射的に頷くしかなかった。  
「そうですか…。私も…私も気持ちイイです…っ…」  
僕の答えに満足したように優しくつぶやき、僕のモノを咥えだす恵。  
「ぐ…ぐうっ…? ん…んん…んっ」  
その瞬間、今までよりも大きな快感がこみあげ、僕は警告をあげる余裕もなく、恵の口中で果ててしま 
った。  
恵は、不意を突かれて一瞬、咽喉を詰まらせたようだがすぐに落ち着いて、咽喉を鳴らしながらモノを 
優しくしごいてきた。  
僕は絶頂のあとに続く刺激に全身を震わせ、恵に身を任せるしかなかった。  
 
 
「気持ち…よかったですか?」  
「うん…最高だよ…恵…」  
僕の腕枕で、しばらくじっとしていた恵が顔をあげ、僕に尋ねてくる。僕はまだ少し、快感で痺れる頭 
でそう答えた。  
「そうですか…。私、幸せです……」  
恵は僕の答えに嬉しそうに微笑んで、そっと頬にくちづけをしながら僕に身を預けてきた。  
僕は何も言わずに恵を抱き寄せていた。ああ、恵の体ってあったかいなあ…人間と何も変わりないじゃ 
ないの……。  
 
恵は実は人間ではなく河童なのだ。何故ここに住んでいるのかというと、卵である尻子玉を川に置いて 
きたから。  
何でも、河童は一ヶ所に一人しか暮らせないらしい。で、そのときは…ごにょごにょ。  
胸はあまり無いけれど、僕は巨乳趣味じゃないし、エッチに関してはすさまじいものがあるし、  
それに何より、おしとやかで優しいんだ。できれば、ずっと一緒に暮らしていたいな……。  
でも、そんな恵だけれど、ひとつだけ欠点があってね……。  
 
そんなことを考えているうちに、いつしか僕は眠りの世界に入っていた――  
 
 
「おは…ようございます…。雅幸さま…」  
恵が僕を揺り起こす。…何だか申し訳なさそうな声。…って、何だ? 焦げ臭いぞ!  
思わずがばっと跳ね起きた僕をじっと見つめる恵。……その顔は今にも泣き出しそうだ。ま、まさか… 
…。  
「申し訳ございません…また、やってしまいました……」  
視線を落としながら台所を指差す恵。そこでは、フライパンが黒煙をあげている。  
そう、恵の唯一と言っていい欠点って、炊事洗濯がまるでダメなんだ。  
ま、ずっと人里離れた山奥で暮らしていたんだから、当たり前だと思うんだけど、ね。  
「ま…まあ仕方ないよ。それより…怪我とか火傷とかなかった?」  
「え、ええ。私は大丈夫です。でも、お料理が……」  
僕は下を向いたままの恵の手を取りながら聞くが、恵はすっかりしょげてしまって、顔をあげようとも 
せずに答えた。  
「気にすることないってば。物ならまた買いなおせばいいんだから、恵に何かあったほうが大変だよ」  
「すみま…せん…。ん…んんっ…」  
しょげたままの恵の顔を無理矢理あげさせ、そっとくちづけをする。  
恵は一瞬体を強ばらせるが、すぐに力を抜いて僕にもたれかかってきた。  
「大丈夫だってば。それより、いつまでも沈んだままの恵を見ているほうが、僕は心配だよ」  
「あ…ありがとうございます……ありがとうございます…」  
くちびるを離して話しかける僕の胸に顔をうずめ、肩を震わせながらひたすら謝り続ける恵。  
僕はぽんぽんと恵の肩を叩きながら、頭を撫でていた。  
 
「じゃ、行ってくるね。今日は定時で帰ってくるから」  
「い…行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」  
玄関で靴を履きながら恵に言う。恵は靴を履き終えた僕にカバンを渡しながらつぶやいた。  
ううん…何だか、心配だ…。  
「分かった、ありがとう。…恵、大好きだよ」  
「ありがとうございます…。私も、私も雅幸さまが大好きです…」  
軽く恵の頬っぺたにキスをして、玄関の扉を開ける。そのときやっと、恵がにっこり微笑んでくれた。  
「うん、やっぱり笑顔が一番似合ってるよ。それじゃあねっ」  
「もうっ、雅幸さまったら…」  
僕がそう言うと、顔を真っ赤にさせながら口を尖らせる恵。さって、これでひと安心っと。  
 
「でも…どうしようかな?」  
通勤の電車の中で、僕は独り言をつぶやきながら考えた。恵が僕の家で暮らすことには、なんら問題は 
ない。  
むしろ、僕のほうが彼女から離れられないくらいだ。………いや、夜の生活以外も、さ。  
だが、彼女は炊事洗濯がまるでダメということから分かるように、かなり世間離れした生活を送ってい 
た。  
それだけなら僕がフォローすればいい話なのだけれど、生憎と僕は働いていて、四六時中そばにいるわ 
けにはいかない。  
悪いことに、同僚が一人辞めてしまって、仕事も結構てんぱってきだした。  
…いきなり教師になるって何考えてるんだ、あいつは? まあ、同僚のことはどうでもいい。問題は恵、 
だ。  
僕が働いている間は家でじっとしているだけだろう。それは決して、彼女の精神衛生的によくない。  
しかも、結構思いつめるタイプみたいだから、いつ僕の元を離れてしまうか、これが怖かった。  
どうにかして、彼女が人間の世界になじめればいいんだけれども……。  
 
「何してんのよ、このタコォッ!!」  
ゲシィッ!  
 
電車が駅についたと同時に、電車内で怒号と同時にもの凄い音が響く。  
ふとその方向を見ると、ホームでは見事に頭がハゲあがったオヤジを含め、何人かが転がっている。  
車内では…女子高生がひとり、鼻息も荒く仁王立ちしている。  
周囲の人間は思い切り引いた目で彼女を見つめ、明らかに一歩ひいている。  
さながら、満員電車にぽっかりできたミステリーサークルの様相を呈していた。…何があったんだ、い 
ったい?  
 
 
「……こんな感じだわ。ここまでやったらあとは一人でもできるよな。じゃ、今日はここまでやっとけ 
や」  
定時になった僕は、後輩に仕事を任せて会社をあとにする。さて…急いで帰らなくちゃ。恵が待ってい 
るんだから。  
 
「ふ〜う。…って、何だこれ?」  
僕は帰りの駅を降りて、ある広告に目を奪われた。  
「”悪魔のお料理教室”……?」  
近寄ってよく見てみた。手書きの広告で、週に2回くらい、近所の公民館を借りて料理の仕方を教えて 
くれるらしい。  
でも、それにしても見出しの”悪魔”ってのはなんだよ? そう思った僕は内容を見て吹き出していた。  
 
☆何が”悪魔”なのか!?  
・この料理教室に入れば、悪魔的に料理が上手くなります!  
・この料理教室では悪魔的に美人な先生が優しく指導してくれます!(もしかしたら本当に”悪魔”か 
もしれませんが)  
 
なるほど、悪魔ってそういうことか…。そりゃそうだよね、本物の悪魔なんてこの世にいるワケないし。  
そんなことを考えながら僕は、最後の一文に目を奪われた。  
 
・包丁を握ったことが無い方から、料理の○人もビックリのプロの方までどなたでもご自由にどうぞ!  
みんなで楽しく料理を覚えましょう!  
 
包丁を握ったことが無い…か。これって恵にピッタリかも。  
料理教室をきっかけに友人とかが出来たら、僕が仕事中でも寂しい思いをすることがないし。  
そう思った僕は、備え付けの申し込み用チラシをカバンに仕舞い、家路についた。  
 
 
「は〜い、それでは皆さん、かき混ぜ終わりましたか?」  
両手をパンパンと叩きながら、先生が様子を見て回る。ああ、もうダメ。何回やっても、玉子の殻が中 
に入っちゃう…。  
雅幸さまがチラシを持ってきたお料理教室に来たのですが、とことん不器用な私。  
オムレツという物を作るらしいのですが、私だけ玉子が上手く割れずに大幅に遅れ、途方に暮れていた。  
「あらあ? どうしました、河合さん? 上手くいかないですか?」  
不意に背後から私を呼ぶ声。ぎょっとして振り向くと、そこには先生のアイリスさんがいる。  
外国の方らしいですが、日本語も上手いし料理も上手。私は彼女に対して強烈な劣等感を抱いていた。  
「大丈夫ですよ、誰だって最初は初めてなんですから。そこで止まるのではなくて、前に進まなくちゃ。  
で、皆さんもどうしてもダメ、と思ったときは出来上がった料理を最初に食べさせたい人を思い浮かべ 
てください。  
そうすると、料理の味も変わってきますよ」  
明るい声で私を慰めながら、みんなにも声を掛ける彼女。  
…最初に食べさせたい人…ですか。私はもちろん、真っ先に雅幸さまの優しい笑顔を思い浮かべていた。  
そうですね。これしきで挫けてはいられません。私は気を取り直して玉子の殻を取り始めた。  
 
「さって、今日はここまでです。次の料理は、牡蠣のシチューに挑戦です。それでは木曜日に――」  
時間が経ち、アイリスさんが終了の挨拶をする。他の方たちが帰り始める中、私はその場に残っていた。  
「あら? 河合さん、どうかしたのですか?」  
そんな私を見て、アイリスさんが怪訝そうな顔をして近寄ってきた。  
「あの…実は私…見ての通り、全然お料理がダメでして…でも、どうしても雅幸さまに喜んでいただき 
たいんです!  
もう少し…教えていただいてもよろしいですか?」  
「えっと…そうですねえ、…っと、まだ時間もあるし、よろしいですよ」  
思い切って声を掛ける私に、にっこりと微笑むアイリスさん。  
ああ、よかった。下手に劣等感なんて持つものじゃないですね。  
 
――10分後。  
 
「う〜ん。今日はご主人サマに、どんな玉子料理を食べさせようかな?」  
呆れ気味な声でポツリとつぶやくアイリスさん。目の前には、ボウル3つに一杯の割った玉子がある。  
「あ! …す、すみません! すみませんです!」  
「ん〜。別に河合さんを責めてるわけじゃないから、気にしなくていいよ。  
それにしても、あなた力を入れすぎなのよ。こうやって……」  
必死に頭を下げる私に、微笑みながら答えるアイリスさん。私の後ろに回り、両手を私の手に添えて玉 
子を手に取る。  
軽く角でコンコンと叩くと軽くヒビが入る。そのヒビに親指を掛け、軽く人差し指に力を入れて同時に 
親指を開くと――  
 
パカッ  
 
あっけないくらいに簡単に、しかも真っ二つに割れた。…そうか、こんな簡単だったんだ……。  
「そ。何事も最初だからって力を入れなければいいのよ。もう少し肩の力を抜いて、ね…」  
補助付きとはいえ、生まれて初めて綺麗に玉子が割れたことに感動している私に、耳元でアイリスさん 
がささやく。  
と、  
「あなた、人間じゃないわね」  
バレた!? 私は身じろぎするが、アイリスさんが背後から私をがっしりと捕まえていた――  
 
 
「さて…と。いったい…何をしに来たのかな? …………きゃっ!?」  
耳元に息を吹きかけながら囁くアイリスさん。その手は私の胸と下腹部に伸びている。  
思わず背筋がぞくりとした私は、腰を落としてアイリスさんの両手を捕まえ、そのまま前方に投げ飛ば 
した。  
同時にアイリスさんの悲鳴が聞こえる。…………? だが、おかしい。  
途中で急に軽くなり、アイリスさんが地面についた音がしないのだ。いったいどうして…?  
「ひっ!?」  
顔をあげた私は思わず、息を呑んだ悲鳴をあげていた。そこには、翼を生やして宙に浮くアイリスさん 
がいたのだ。  
「まったく……。いきなり実力行使に出るとは大したものね。ま、そちらがそうならこちらも容赦しな 
いわよ。  
あなたが何者か、ゆっくり体に聞いてあげるわ……βγμεχψαλξ」  
悠然とした表情でアイリスさんを見つめながら語りかけ、何事か理解できない言葉を唱えるアイリスさ 
ん。  
その目は怪しく光っている。  
私はすっかり混乱した頭で、それでも今の状況は危険だということを本能で感じ取り、ゆっくりと後ず 
さろうとする。  
ところが恐怖のためか、私の体はピクリとも動かすことができなかった。  
「うふふっ。動けないでしょ? でも大丈夫、怖いことなんて何もないわよ……んっ」  
そんな私の目の前に、アイリスさんが優しく微笑みながら近づいてきたかと思うと、いきなりくちびる 
を奪ってきた。  
「うんっ……んっ…」  
さらに、口の中に柔らかいものが入り込んでくる感触がある。  
それが、アイリスさんの舌だと気がつくのには、しばらく時間がかかった。  
アイリスさんの舌は、そのまま私の舌を優しく絡めとリ、私の口中を蹂躙している。  
「くすっ…もしかして、初めてなのかな? か〜わいいっ」  
くちびるを離し、アイリスさんがひとこと。確かに雅幸さんとは毎日くちづけを交わしてはいるが、  
こんな魂を吸い取られるような、刺激的なくちづけは生まれて初めてだった。  
 
私の頭の中は真っ白でアイリスさんに返事をする余裕も無く、  
今の状況を、どこか遠くで起きている出来事のように認知していたが、  
アイリスさんの手がゆっくりとスカートを捲りあげたとき、急に理性が戻ってきた。  
「な! 何を…!」  
反射的に叫んでしまう。だが体の自由が利かない私は、何をすることもできない。  
そんな私を見て、嬉しそうにアイリスさんは微笑みながら私を抱えあげ、  
ゆっくりとテーブルの上に寝かせながら、私の上にそうっと覆いかぶさってきた。  
私はこれから起こるであろう出来事を想像して、震えが止まらなかった。  
「あらら。震えてるの? でも大丈夫…。怖いことなんて何も無いのよ……んっ…」  
そんな私を見て、アイリスさんは両手で私の頬を押さえて、優しく語りかけたかと思うと再びくちびる 
を奪ってきた。  
「ん…んっ。固くなっちゃダメ…もう少し、力を抜いて……」  
くちびるを離しながらアイリスさんが、さっきと同じようなことを言う。だが、今の私にそんな余裕な 
どあるはずがなかった。  
 
プチ…プチッ…  
 
「ひゃっ」  
エプロンを上までたくしあげ、ブラウスのボタンを外したかと思うと、アイリスさんの手がブラジャー 
の中に潜り込んできた。  
くすぐったいような、微妙な感触に思わず悲鳴をあげてしまう。  
「くすっ、ホントかわいい…ちゅっ」  
「あんっ」  
アイリスさんは微笑みを浮かべながらブラジャーをめくり、そっとくちづけをしてくる。  
私は身悶えしようとするが、それも出来ずに、ただくちびるから声を漏らすだけだった。  
 
「れろ…れろれろ……。ちゅっ…んっ…れろっ…れろれろ…っ……」  
「はあ…あん…んっ……。ああっ…あん…っ……」  
アイリスさんは私の胸を舐め回し、乳首を軽く吸い上げたかと思うと、舌を乳首に絡ませ小刻みに動か 
し続ける。  
その優しい刺激と身動きが出来ないという状況で、私自身も興奮していたのかもしれない。  
私はアイリスさんの舌使いに反応して、あられもない声を出し続けていた。  
「くすっ…ホント、か〜わいい。感度も良好だし、ね」  
「あ…あんっ」  
舌を離し、代わりに親指と人差し指で、私の乳首を軽く摘まみ上げながら微笑むアイリスさん。  
その妖しい微笑みに、頭の中で警報が鳴り響くものの、甘い刺激には抗えずに吐息が漏れてしまう。  
「さ〜ってと…。それじゃ、本題に入ろうかっ。…あなたは何者で、ここにいったい何をしに来たのか 
しら?」  
「きゃうんっ! わ…私は…河童の恵と言います…。ここには…雅幸さまに勧められて、お料理の勉強 
に…痛っ!」  
人差し指で、私の乳首をピンと弾きながら体を起こし、着ている物を脱ぎ始めるアイリスさん。  
同時に大きな胸がぷるんと震え、その存在を誇示していた。…何だか、羨ましいな。  
そんな場違いな感想を抱きつつ、私は乳首から全身に伝わる快感をこらえながら、  
正直に、今までのいきさつを話そうとした。だがしかし、その言葉も乳首に伝わる痛みによって中断し 
てしまう。  
痛みの正体は突然アイリスさんが、私の乳首に歯を立てたからだった。  
「そんな表向きの理由はどうでもいいのよ。私はね、あなたがここに来た、本当の理由を知りたいのよ」  
チロチロと乳首を舐めあげながら、アイリスさんは私に問い掛けてきた。…彼女が舐めまわすたび、乳 
首に痛みが走る。  
かなり強く噛まれたから、切れちゃったのかも。それに何だか…彼女、口調が変わってきたみたい…。  
「お…おも……」  
表向きの理由も何も、私がここに来た本当の理由はそうなんですよ。そう言いたかった。  
だが、恐怖と痛みと羞恥心と快感がないまぜになり、うまく言葉に出来ない。  
「ほんっと強情ねえ。…女の子を食べるのは趣味じゃないんだけれども……っと」  
私の態度に業を煮やしたアイリスさんは、ゆっくりと体を起こし、私のスカートに手を掛け、一気にず 
りおろした。  
 
「あらあら。ずいぶんと可愛いパンティを穿いているのね。いったい誰の趣味かしら?」  
「あ…その…」  
私が可愛いな、と思って買ったテレビアニメのキャラクター物の下着を見て、アイリスさんがひとこと。  
特に誰の趣味、というわけでもないのだが、改めてそう言われると顔がかあっと熱くなる。  
何を言っていいのか分からず、思わず口ごもってしまう。  
「ま、いっか。こちらは…どうかなあ?」  
「ひゃ…ああ…」  
両足を大きく開かされ、ゆっくりと割れ目に沿って指でなぞられる。  
胸とは違った、全身を駆け巡る刺激と快感に声が漏れる。  
「くふふっ、胸もこっちも感じやすいんだ。もう濡れ濡れだよ♪」  
「いや…いやあっ!」  
アイリスさんの言葉に思わず反応し、抵抗の声をあげるが、彼女は嬉しそうに言葉を続ける。  
「いやって言われてもねえ。このパンティぐしょぐしょだよ。このままじゃこのコも可愛そうでしょ?  
脱がないと、ね?」  
微笑んだまま、下着のキャラクター部分をつんつんと指で突っつき、ゆっくりと両手を下着の裾に手を 
かける。  
「い…いや、いやああっ!」  
「うふふっ。だったら本当のこと、話してくれてもいいでしょ? ね、悪いようにはしないから、さ」  
私が悲鳴をあげると、半分ほど下着をずらしたところでピタリと動きを止め、私をじっと見つめながら 
妖しく微笑む。  
「さっき…さっき言ったじゃ…ない…ですか…。私は…私は河童の恵…きゃあっ!」  
途切れ途切れになりながらも、私は声を絞り出してアイリスさんに言った。  
だがその途中で、アイリスさんは私の下着を何も言わずに引き摺り下ろした。思わず声が悲鳴に変わっ 
ていた。  
「まったく…本当に強情なのね。ま、それでこそ私もいじめがいがあるんだけれど、ね」  
「い…いや、いや…」  
アイリスさんの目はまるで、猫が獲物をいたぶるような光をたたえていた。  
私は、どうにか動かすことのできる首だけを振りながら、弱々しくつぶやくことしかできなかった。  
「さあって……と、……ん…あんっ」  
「ああ……あっ」  
アイリスさんが私の両足を大きく広げ、私の股間に彼女自身の股間を擦りつけてきた。  
同時に、割れ目の先端から飛び出している肉芽から刺激が伝わり、  
まるで彼女の声に合わせるかのように声をあげてしまう。  
「あっ…んっ…はあっ……ああっ…んんっ…恵ちゃん…くす…可愛い……可愛い胸…んっ」  
「……っ。…く…うっ……あ…あっ…ああんっ……。そ…そん…なあ…あっ!」  
私の右足にまたがり、左足を自らの右腕で抱え込みながら、ゆっくりと腰を前後に動かすアイリスさん。  
恍惚とした表情で喘ぎ声を出しながら、さらに空いている左手で私の右胸を撫で回し、優しく語りかけ 
てくる。  
私もまた、こらえ切れずにはしたない声をあげ続けたが、可愛い胸、という言葉に、  
小ささを指摘されたみたいで、別の声をあげていた。  
 
どれくらいそうしていたか、段々、段々頭がぼうっとしてきて何を考えていいか分からなくなってきた。  
「あは…あっ。気持ちイイ…気持ちイイよ……恵ちゃん…そろそろ…本番、イこうか……んっ…」  
「あああっ…あん………。ほん…ば…ん? ……んんんっ…」  
あえぎながら、私に優しく微笑みかけるアイリスさん。その言葉に一瞬だけ理性が戻る。  
だが、言ってる意味が分からないので、虚ろな顔ながらも問い返したけれど、  
覆いかぶさってきたアイリスさんにくちびるをふさがれ、彼女の柔らかい舌が口中に入り込んできたと 
き、再び頭がぼうっとしてきて、考えるのを放棄しようとした。が、  
「んふふ…ホント……かっわいいっ…っと…あら? 恵ちゃん、こっちはまだなんだ?」  
「? …ん? あ、ああっ、い…いやあっ、ま、雅幸さまっ!」  
割れ目の中に、何かが潜り込んでこようとする感触を覚え、アイリスさんの意外そうな口調の声を聞い 
たとき、私の意識は現実に戻り、思わず叫び声をあげていた。  
 
「雅幸さま…ねえ。さっきからその名前を口走ってるけれど、いったい誰のことなのかな? …あんっ」  
「あの…その…雅幸さまは……はあっ、私が尻子玉を…抜いて……あ、ああんっ……」  
アイリスさんは私に覆いかぶさったまま、体を前後に揺らしながら耳元で問い掛けてきた。  
時々胸の頂が、彼女のそれと擦れあい、その微妙な刺激に吐息を漏らしながらも、  
今度はどうにか最後まで、雅幸さまとの関係を説明することができた。  
すなわち、私が河童であること、尻子玉を求めるために雅幸さまと出会ったこと、  
住んでた場所から離れて雅幸さまと一緒に暮らしていること、ここに来た理由は、雅幸さまに勧められ 
たことなどを。  
私が話している間中、アイリスさんは体を前後に揺らしたまま、時々喘ぎ声を出してはいたが、  
さっきみたいに乱暴なことはしようとせず、最後まで聞いてくれていた。  
「ふうん、そうだったんだ…あっ。…で、その雅幸さまって人は、…んっ…あなたを抱こうとはしない 
わけ? …はふぅ」  
「そ…それは…その……。少し…ああん…は…恥ずかしいのですが……」  
アイリスさんの再度の質問に、私は顔を真っ赤に染めながらも、  
まるで何かに操られているかのように、雅幸さまとの夜の生活を話した。  
 
「へ〜え、毎日…ねえ。まったく…うちの御主人サマも見習って欲しいものだわ…ああっ…。  
で、さ。その雅幸さんがハマったあなたの指使いって…ん…んんっ……私にも、味あわせてくれる…… 
?」  
「は…はい…で、でも……う、腕…が……」  
アイリスさんが、興味津々といった目つきで、私の耳たぶをしゃぶりながらささやいてくる。  
そう、今は首以外、指一本動かすことができなかったのだ。  
「あ。そうそう、ゴメンなさいね…っ……αλξψχεμγβ…………。さて、これで腕は動くでしょ? はあん…っ」  
「は……はい…。……っと……」  
ぺろりと舌を出したかと思うと、さっきみたいに何事かつぶやくアイリスさん。  
すると、彼女の言葉どおりに腕は動くようになった。私は右腕をアイリスさんのお尻のほうに伸ばして 
いった。  
「あ…ああん…っ…。は…はや……くっ…」  
どうしても目で見てるわけではないので、正確なお尻の場所が分からない。  
間違えて割れ目をなぞっていると、アイリスさんから艶っぽい声で催促の言葉がくる。  
あ……あった。私は思い切って一息に、彼女のお尻の穴に人差し指を差し入れた。  
 
「あん…ああん! あっ! アアッ!」  
私が指を挿れたと同時に、アイリスさんは膝をガクガク震わせて、これまでとは一転して声を裏返させ 
ている。  
「な…何…、何この感覚……こ、こんなの…こんなの……私…私…ア…アアッ…アアアッ!」  
アイリスさんは上半身を仰け反らせながら絶叫している。私はそっと指を動かし始めた。  
「あ! ああ! く…っ…。も……あは…すご…イイっ……」  
目はうつろで、口からはひとすじの光る糸を垂らしながら叫ぶアイリスさん。背中の羽がピンと大きく 
張っている。  
「もう…もう我慢……我慢できなひ…っ……」  
「あ!! ああんっ!」  
アイリスさんが首をガクガク震わせたながら、独り言のように喘いだかと思うと、今度は私が叫んでい 
た。  
何故なら、肉芽にさっきまでとは比べ物にならない刺激を感じ、全身が痺れていたからだ。  
にゅちゅっ…ぐ…ちゅっ…ぢゅぷ…ぎゅっ…  
下腹部から湿った音が響き渡る。  
首をどうにか起こして音の方向を見ると、擦れあっているアイリスさんと私の股間の隙間から、  
何やら黒いものが前後に激しく動いているのが見えた。それが肉芽を刺激しているのだが…いったい何、 
アレ?  
 
「あふんっ!」  
そう思った私はアイリスさんのお尻から指を抜いた。同時にアイリスさんから悲鳴とも喘ぎとも、とれ 
るような声が聞こえる。  
……雅幸さまといい、アイリスさんといい、何故お尻から指を抜くとそんな声を出すのだろう?  
そんなことを考えながら、私は黒いものを握り締めた。  
「ああ! ダ、ダメッ! ヤ、ヤメテッ!!」  
同時にアイリスさんから懇願するような声。いったい、何を止めていいのか分からず、私は黒い物を指 
で擦りはじめた。  
「ダ…ダメだってば…お、お願い…、は、離して、尻尾、手、離してええっっ!」  
アイリスさんは私の腕を掴み、途切れ途切れに叫ぶ。…?? 手を離す…尻尾?  
「じゃあ…これって……」  
「わ…私の……私の尻尾なの! お願い! 離して! それより…それよりお尻に、お尻に指ちょうだ 
いいっ!!」  
私のつぶやきに、涙をポロポロこぼしながら懇願してくるアイリスさん。  
何となく納得したような気がする私は、尻尾から手を離してアイリスさんが誘導するままに、お尻に指 
を潜り込ませる。  
「あ…イイ! ほんとイイッ!!」  
「あはっ…あっ! き…気持ちイイです! 私も…私も気持ちイイです!」  
アイリスさんは叫びながら覆いかぶさり、私の胸に舌を這わせてくる。  
私は胸と肉芽から感じる刺激の波状攻撃に、ただただ快感に身を委ね始めていた。  
「あ…はっ! ダメ…もう…もう、イッちゃう! イッちゃうっ! イッちゃうううっ!!」  
アイリスさんが、今までよりもひと際大きな叫び声をあげた。それが合図だったかのように、私は意識 
を失っていた。  
 
 
「ふう…」  
少し…やりすぎたかな? 快感に痺れる体をどうにか起こし、目の前の恵ちゃんをじっと見つめる。  
どうやら完全に失神したようで、ピクリとも動かない。  
まさか……あんなに気持ちがイイなんて……。正直、想像もしてなかった。  
 
でも――お互い、忘れなければね。ゆっくりと服を着ながら思う。  
あの刺激には、少々未練があるが、仕方がない。  
そもそも、自分が彼女の正体を疑ったのが、今回の原因なのだ。  
続きは、頼りないし物足りないかもしれないけれど、ご主人サマで我慢しよう。  
そんなことを考えながら、私は恵ちゃんの頬っぺたに手を当てながら、呪文を唱え始めた――  
 
「え…っと!?」  
「どうしたんですか、河合さん? 玉子を割れたのが、そんなに嬉しいの?」  
驚きの声をあげる私に、背後からアイリスさんが声を掛ける。  
そうか…私、初めて綺麗に玉子を割れたんだ……。  
……でも、おかしいな? 何だか別のコトをしていた気もするんだけれど…?  
「さてさて、ぼうっとしてる時間は無いよ。お次は割った玉子をかき混ぜなくっちゃ」  
あ、そうだった。アイリスさんに言われて思い出した私は、慌てて玉子をかき混ぜ始めた。  
 
――20分後。  
 
「ううん。まあまあじゃないのかな?」  
あれから、フライパンに油を敷くのを忘れそうになったり、玉子をかえすタイミングを間違えかけたり 
したけれど、アイリスさんが付きっ切りで教えてくれたおかげで、どうにか完成にこぎつけた。  
その完成品を見て、アイリスさんがひとことつぶやきながら、ひとかけら摘まみ上げ、口に運ぶ。  
私はその様子を、固唾を飲んでじっと見つめていた。  
「うん、お味も上出来。あとは落ち着いて、何度も言ってるとおり、力を抜けば大丈夫。  
……さって、そろそろ時間だし、今日のところはこれで終わり、だね」  
「あ、は、はい! ど、どうもありがとうございました! わざわざ遅くまで!」  
オムレツを口にして、指でオーケーのサインを作りながら微笑むアイリスさん。  
私は嬉しくって、思い切り頭を下げながら礼を言った。  
「なあに、気にしなくていいよ。私も元々好きでやってることなんだから。  
それよりも、大事な雅幸さんに食べさせてあげるんでしょ? 頑張んなさいね♪」  
「は、はい! 早速お家でも頑張ります!」  
アイリスさんの言葉に、思わず顔が熱くなるのを感じながら、うわずった声で答えていた。  
 
「ただいま〜」  
「あ、お帰りなさい、雅幸さま! お疲れ様でした!」  
玄関のカギを開けて家に入ると、キャラクター物のエプロン姿の恵が僕を出迎えた。…ん? 何だかい 
い香りがする。  
「今日はですね、オムレツを作ってみたんです! お口に合うかどうか分かりませんが、召し上がって 
くださいね!」  
「へえ、そうなんだ。おいしそうな香りだよ。早く食べたいな」  
「はい! 分かりました!」  
僕からカバンを受け取り、もう片方の手で僕の手を取りながら、満面の笑みを浮かべる恵。  
一方僕は、漂う香りに期待と多少の不安を胸に抱き、歩き出した。  
 
「わ、おいしそう」  
ネクタイを解いて食卓についた僕は、料理を見て言った。ご飯とオムレツ、それにスープ。  
さすがにスープはインスタントみたいだけれど、ホカホカと湯気をあげてるオムレツは正真正銘、お手 
製の焼きたてだ。  
「はい、あ〜ん」  
「ん? ん、……むぐ…むぐ…ごく。うん、美味しい。美味しいよ、恵」  
恵がオムレツを切り分け、僕に向けてきた。僕は多少恥ずかしさを感じながらも、オムレツを口にして 
感想を述べた。  
同時に恵の顔がぱっと輝く。  
「そうですか! よかったです! 私、頑張りましたから、たくさんたくさん、食べてくださいね!」  
ああ、こんなに明るい可愛い笑顔になってくれるのなら、料理教室を勧めて正解だったかな?  
僕はそう思いながら、恵の初めての手料理の味を噛み締めていた。  
河童、恵編へ続く 
 
 
「ふう。やっと帰ってきたよ、まったく」  
「あ、お帰り。遅かったな。夕食、食べるだろ?」  
仕事をどうにか片付けて家に帰ってきた僕に、エプロンとチャイナドレス姿のアイリスが言った。  
両手はおかずを持った皿で埋まり、声もぶっきらぼうだが、尻尾をパタパタ振って出迎えてくれている。  
姿格好と言動には多少難があるけれど、垣間見える何気ない仕草がアイリスのいいところ、なんだよね。  
「ん? ああ。…って、何だこの量は…?」  
僕は返事をしながらテーブルの前に座り込み…声を失った。  
テーブルには、炒飯、カニ玉、小エビと玉子の炒めもの、豚肉細切りと玉子の炒めもの、玉子スープが 
並んでいた。  
今日は中華か…。そうか、それでチャイナドレスを着ていたのか。…って、そこでなくて。これ、玉子 
何個分だ?  
「えっと…まあ、ね。ちょっと玉子を大量に出しちゃったから、それを片づける意味で……あはは」  
頭を掻きながら、乾いた笑い声をあげている。  
「それにしても…何だか夕食というより、酒の肴って感じがしてきたよ」  
「大丈夫、ちゃんとビールも冷えているから♪」  
僕の言葉に待ってましたとばかりに、コップとビールを取り出すアイリス。  
コップを手に取って、お酌するアイリスを見ながら思った。ま、たまにはいい…か。  
 
「ふ〜う、食べた食べた〜」  
「はいはい、お粗末さまでした。……ありがと、綺麗に平らげてくれてっ。…んっ」  
後ろのソファーに上半身をもたれかかりながらつぶやく。お腹はパンパンで動きたくなかった。  
……いや。多分動けないのって、少し酔ったせいもあるんだろうけど。  
アイリスは笑顔を浮かべながら、僕の頬にキスをしてきた。  
「さあって、と。お片づけお片づけ♪」  
すっくと立ち上がったかと思うと、上機嫌で食器を片づけ始めるアイリス。  
後ろ姿をぼうっと見ていると、鼻歌に合わせて尻尾がリズミカルに動いている。  
余程機嫌がいいみたい……。そんなことを思いながら、いつしか気持ちよく眠りの世界に入っていた――  
 
悪魔、アイリス編へ続く 
 

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