前回までのあらすじ 
『伝説の桜花バトル』 初出:【水着の】武装錬金萌えスレPart19【恍惚】  
桜花の病院にお見舞いに来た、カズキととっきゅん。  
扉越しに、カズキが桜花に告白して卑猥な行為にいたるのを聞くとっきゅん。  
錯乱するが、勘違いだった。  
とっきゅんのアライメント、ややカオス寄りに。  
 
『タクティクス桜花』 初出:【ぶかぶか】武装練金萌えスレPart20【学ラン】  
また扉越しに、カズキが斗貴子さんのこと好きだと告白しているのを聞くとっきゅん。  
舞い上がるが、やっぱり勘違いだった。  
とっきゅんのアライメント、とてもカオス寄りに。  
 
 
1、00:40 PM  
ココは銀成学園高校屋上。私のお気に入りの場所だ。  
…いや、お気に入りの場所だった、と言っておこうか。  
あの空に手が届きそうなほど、静寂と安息と解放感に溢れていたこの場所も、今は…  
「ね〜斗貴子さ〜ん」  
「桜花先輩の手料理は、いつ食っても旨いよ!」  
「カズキおい から揚げ全部食うなって!」  
私とカズキ、まひろ、三馬鹿、そして早坂桜花の七人で、昼食戦争の真っ最中だ…。  
ふぅ…。  
 
<桜花バトル64>  
 
「ね〜。斗貴子さぁ〜ん。ね〜ね〜」  
前回の手作りのお菓子は、カズキ達に非常に好評だった。  
…それに味をしめたのだろうな。  
桜花はあれ以来、何かと手料理を作って来るようになった。  
『ついうっかり、秋水クンの分まで作りすぎてしまって…』  
とか、どう考えても種類豊富なおかずの山だったり。  
それで褒められては調子にのって、ほら、今日などはお重のような弁当箱だ。  
 
「ね〜、斗貴子さんってばー! …無視するよぉ〜。おねぇーちゃーーん!」  
馬鹿少年どもは、今も欠食児童のように桜花の料理に群がり、褒め称えている。  
まったく…そんなに賞賛を受けたいものなのか?と思えてくる。  
特にカズキにはよくない要素だ。  
つまり、現在特訓中のカズキには、栄養のバランスの面からも配慮が必要だということだ。  
武装錬金においては身体能力以上に、特性を操る感覚器官の鋭敏さが鍵となる。  
あのようなタンパク質や炭水化物より、各種ビタミン等を多く摂取するべきなのだ…。  
 
「とーきーこーさんっ!」  
目の前にずいっと、卵焼きが現れた。  
「な、なんだ?まひろ?」  
「はーい、あ〜んっ!」  
「…」  
「あ〜んっ!」  
まったく、このコは…。  
「いい、私はいいっ! っていうか、なんでそうなる?!」  
「だって〜。斗貴子さんさっきから、おにぎりばっかりぱくぱく食べてー。  
 ちゃんバランスよく食べないと、身体に良くないよぉ!」  
…。  
「それに、ちゃんと食べれば、胸だってばーんって。えへへ…」  
…なんで胸の話になる…? まあ、まひろが言うと妙に説得力があるが…。  
と、とりあえず胸のことなど関係ない。ともかく鬱陶しい。  
しかしこのコのことだ。  
一度だけでも言うとおりにしておかないと、いつまでも目の前で卵焼きを振り回し続けるだろう。  
仕方ない…む、胸のことなどどうでもいいが、一度だけ…。  
ぱくっ…。  
…。  
だし巻き卵というよりも、ほのかに甘くふっくらと焼いた卵焼きだった。  
ずっとずっと、遠い昔に。  
何も恐れていなかった…何も憎んでいなかったあの頃に。  
どこかで食べたことがあるような、そんな懐かしい味…。  
…母親の味…だ。  
…。  
まひろの振り回す箸の向う側には、馬鹿少年どもに愛想を振りまく桜花の姿。  
いかにも腹黒そうなその微笑みも、どことなく儚げで…。  
そのまま霞んでいってしまいそうな、そんな脆さがあった。  
「ね? おいしいでしょ〜、桜花先輩の卵焼き?」  
…。う、まあ、なかなかじゃないかな。  
私の口は、再びおにぎりを処理し始めた。  
 
 
2、00:50 PM  
それにしても…普段は一人で、食事をとることが多い私であったのに。  
この街に来てからというもの、随分賑やかに食事をするようになったと思う。  
まあ、ひとえにカズキの影響によるものだけどな。ホントに不思議なコだ…フフ。  
…とは言え、七人で弁当を囲んでいると…大所帯だからなァ。  
なんというか、落ち着いて食事ができないのも事実だ。  
 
三馬鹿ども―  
女子の手料理を口にして、感激のあまり目を光らせながら嗚咽するエロス。  
地味ながら気の優しい大浜は、おかずを一つ食べては丁寧にその感想を述べている。  
無表情のまま口を動かしているかと思えば、突然頷きだす謎な六枡。  
まぁいつも通りの三人の盛り上がりが、私の隣から聞こえてくる。  
 
私はといえば―  
「ねー、ときこさん、今度は私のばん〜。はいっ、あーん。…あーん!」  
阿呆みたいに口をあけてねだるこのコに、まとわりつかれている…。  
ええい、そんなにひっつくなってばっ!  
 
そして大きなお重弁当箱を挟んだ、私の向う側では―  
「あ、このきんぴらごぼう、昨日と味付け違うねっ?」  
「だって…武藤クン昨日、ちょっとからそうな顔してたから…」  
「…や、やだなぁ先輩。そんなところまで見てたのぉ?   
 昨日のも旨かったよっ! でも…」  
「…ぁ…」  
「今日のは、もっと旨い!!」  
「やだぁ…///。」  
「先輩って、ホントに『細やかな気遣いのお姉さん』ってタイプだよなー。  
 いいなぁー、秋水先輩が羨ましいなぁー」  
「あらあら、もう…」  
…なにをやっているんだ…アイツらは!  
ええい今日のおにぎりは不味い。苛々してくる。  
頬張りすぎたおにぎりを流し込むため、私はお茶のペットボトルを開けた。  
 
んぐ、ゴク、ゴク…  
「あらあら…。武藤クン、ケチャップ、ついてるわよ・・・うふふふ」  
 
だいたいカズキは、私達の立場をわきまえていないんじゃないか?  
早坂桜花は現在私達の保護監視下にあるが、その一方で今も核鉄の所持が許可されている。  
その理由の一つに、桜花を味方に取り込もうという上層部の思惑があるようだ。  
 
ゴク、ゴク…  
「そこ。口の右側。…もう〜」  
 
しかし。いや、だからこそ。  
私達は冷静に早坂桜花の動向を観察し、安全かどうかの判断をしなければいけないというのに!  
キミがいい加減なせいで! 私がキミの分まで! 細やかな気遣いをしなければならないというのに!  
 
ゴク、ゴク…  
「…あ、先輩いいって!ハンカチ汚れちゃ…。あ…」  
「ホラ。うふふふ。…弟がもう一人できたみたい…」  
「…///」  
ゴブッ!! けほっ、けほっ。  
「だ、だからぁっ! そんなにひっつくなっ!!」  
 
お茶をこぼしながら叫んだ私に、その場にいる全員が頭に「?」を浮かべて注目する。  
…あ…。  
い、いや、これは…えっと…。  
「ひ、ひっつくな、まひろ!」  
くるっと、隣でやきそばパンと格闘しているまひろの方を向いて、言い放つ。  
「え゙ー、わたしー!? なんで? なんで!?」  
私に無視され、諦めて黙々と口を動かしていたまひろが、驚いてキョロキョロする。  
だが、効果はてきめんだ。皆は、やれやれまたか…といった顔で、食事を再開する。  
なーんーで〜〜!?と目を回しながら抱きついて来るまひろ。  
うっとうしいぞ、静かに食べろ。  
あぁ…なんだか今日の食事は、苛々してばかりだ…。ふぅ…。  
 
 
3、01:00 PM  
「ごっそさん、先輩! それじゃあ、そろそろ教室に戻るか。いくぜカズキ」  
「あ〜、オレちょっと。あとで戻るよ」  
??  
「あ〜! わたし次の時間体育だ着替えないと。それじゃごちそうさまでした〜。  
 斗貴子さーん、またあとでね〜!」  
あとでじゃない。  
 
ばたばたばた…  
昼休みも残り少なくなり、屋上には人影がなくなった。私とカズキと、桜花以外は。  
「…それじゃ、桜花先輩?」  
昼食の片付けを終えて立ち上がる桜花に、カズキが促す。  
なんだ…? わけが分からない。  
というより、私の知らないところで話が進んでいるのが、なにか…気にくわない。  
 
「…武装…れんきん…」  
にこにこと眺めるカズキに、なぜか桜花は少し恥ずかしそうにして、核鉄を胸に抱いて呟く。  
ぴこッ。小さな光を発して現れたのは、…桜花の武装錬金・エンゼル御前だ。  
「よう!カズキン〜、昼下がりの団地妻のようなツラだな〜」  
ふよふよふよ…とカズキの方に飛んできて、ちょこんと頭の上にのる。  
「ゴゼン様ご機嫌よろしゅ〜、って、降りろーっ! このこのっ!」  
そのままきゃっきゃと、二匹の子犬のように遊び始めた。毒舌を吐き合いながら、ではあるが。  
 
…なるほど、そういうことか…  
以前、病院に桜花の見舞いに行った際のことだ。  
桜花はカズキに、エンゼル御前の遊び相手をしてやって欲しいと頼んでいた。  
それを真に受けて…カズキも律儀なことだ。やれやれ。  
 
「も、もぉ〜、エンゼル様はしゃぎすぎっ!」  
あたふたと慌てる桜花をよそに、本格的にカズキに絡み始めるエンゼル。  
「ちょ、ちょっと、くすぐったいよっ、ゴゼン様!!  
 そんなとこに入り込むなって!! あっ、この〜コイツめ〜」  
「ぶはっ! んー、ナイスダイビング〜」  
カズキのシャツの中に潜り込み、ごそごそやっていたエンゼル。襟口から首を出す。  
ぴょこっとでたハート型の尻尾を、カズキがこちょこちょとくすぐりはじめる。  
 
そんなじゃれあいの向こう側、カズキ達の背中を見つめる桜花の姿に、妙なものを感じた。  
―顔が真っ赤だ。俯いているが、ここからでも分かる。  
両手を掻き抱くように胸に添えて、ひどく恥ずかしくしているような、うっとりしているような。  
?  
どうした? 病み上がりで武装錬金を発動したから…でもあるまいし…?  
首を傾げながら…ふと、武装錬金・エンゼル御前の特性について聞いたことを思い出す。  
エンゼル御前は、もう一人の早坂桜花であり、表裏一体の存在であると。  
彼女らは意識を共有しあい、その精神・感覚はリンクしあっていると…  
 
…。  
……。  
………。  
そ、そんなことよりも、だ。  
さ、さっきからずっと気になっていたこと、言わなければと思っていたことがある!  
「カズキ! 二人とも! 武装錬金で遊ぶんじゃない!」  
そ、そうだ。それが言いたかったんだ。  
「いいか? それは一般には絶対に知られてはいけない、貴重なものだ。  
 こんなところで、みだりに発動して良いものではない。しまいなさい!」  
「…ゴ、ゴメン…!」  
「……も、もうしわけありません…」  
桜花が慌てて、武装錬金を解除する  
「なんだよ〜、このヒス! ブラックストマックおん……」  
エンゼル御前が、最後まで毒づききれずに消える。  
「ハハ…」「…」  
…。  
な、なんだ…。 妙に…気まずい…。  
これでは、私がなにか…悪いことをしたみたいじゃないか!  
私は錬金の戦士として、当然の常識を口にしただけのことで!  
私は…わたしは…。  
 
カラーン、カラーン…  
救いの音のように、チャイムが鳴り響く。  
「あ…いけない! 先輩、ご馳走様!」  
行こう?と、カズキが笑顔で呼びかけてくる。  
ほんの少し…ほんの少しいつもよりも強張った笑顔で。  
…違う…私は…単に…  
単に…。  
 
 
4、04:50 PM  
ぷらん、ぷらん  
給水塔の端に腰掛けた、私の足が揺れる。  
「じゃ、斗貴子さん。本当に…今日の特訓はお休みでいいの?」  
「…ああ」  
ぷらん、ぷらん  
 
「…あのさ、斗貴子さん。俺…」  
「…いいから。帰りなさい。たまには友人と一緒に帰ってやれ」  
ぷらん、ぷらん   
 
「う、うん。それじゃ…」   
バタン  
 
ぷらん、ぷらん、ぷらん  
ぷらん、ぷらん、ぷらん  
 
しばらくそのまま、揺れる靴先を眺めていた。  
靴下の白い十字架の向こう側、遥か眼下の校庭に、下校していくカズキの姿が見て取れる。  
その隣には、長い黒髪の女生徒…たぶん早坂桜花だろう。  
二人は並んで校門まで歩いていき…、そして視界から見えなくなった。  
 
ぱたん  
そのまま、給水塔の上に仰向けに倒れる。  
視界が反転し、目の前にはまだ高い空…青、青、青。  
なにか解放されたような心地で、ふぅっと今日何度目かの溜息をついた。  
 
「…からまわりしてる、な…」  
ここのところ、ずっとそうだ。  
勘違い、苛つき、勘違い、苛つき…。  
今さっきだってそうだ。校門を出る時カズキが一瞬、こちらを見たような気がした。  
これまでの経験によれば、きっとそれも勘違いにちがいない。  
みんな勘違い。あれも、これも、どれも勘違い。  
なんだか、疲れた…。  
いつもの任務なら、こうではなかった。  
ただ戦って、化け物を殺して、去る。この繰り返しでOKだ。単純明快。  
だがこの街では違う。駐在が長期化し、人間関係の形成が必要になった。  
普通の高校生活を送る。それがかくも、疲労を伴うことであったとは…。  
 
「ブチ撒けたいなー…」  
…どこかに適当な化け物一匹、ころがってないかしら?  
普段の私なら…奴らを憎み、皆殺しにすることを使命とする私なら…  
絶対に考えないような妄想まで浮かんできている。相当参っている。  
いま…何も考えずにただ、あの憎いホムンクルス共の臓物をブチ撒けられたら…。  
どんなに気持ちがいいんだろう?  
 
ああ、ブチ撒けたい…  
そう、ブチ撒け。私のスタンスだった。  
化け物共への憎しみ、あの日の悲しみ、願い…私の中に渦巻く感情を全てぶつけて、前に進む…。  
いっそ今のこのわだかまりもこの感情も、ブチ撒けられたら…。  
大体誰のせいで、私がこんなにも悩まなければならないのだ?  
 
ころんと横向きになり、膝を抱える。いま屋上は無人だ。スカートの中の心配はいらない。  
 
そう、カズキが ―カズキがいけないんだ。  
L・X・Eとの戦いが終わったあとは、いつもいい加減で。  
桜花とへらへら遊んでばっかりで。  
紛らわしい行動ばっかりするから、こういうことになるのだ。  
だから私も、色々勘違いをするのだ!  
桜花と淫らなことしているんじゃないかとか、カズキが私のことを好きなんじゃないかとか―  
…あの時のことを思い出して、顔が赤くなるのが分かる。…フン…。  
 
そうだ…。みんなみんな、カズキが悪いんだ…。カズキのせいだ…。  
今頃…桜花と二人でどんなことを話しながら、帰途についているのだろうか…。  
どこかに寄って、二人で遊んでいたり…するのだろうか…?  
 
ときゅん…  
胸の中で、黒い感情が渦巻いているのが分かる。  
もう大きく根付いていたそれは、さすがの私にもその正体を悟らせるのに、  
充分な存在感をもっていた。  
私は…。私はきっと、カズキを…。  
…。  
――違う。   
違う。違う!!   
そんなの嘘だ! 私にそんな感情なんてない!  
私は戦士だ! 私は錬金の戦士だ!  
私は、わたしは…憎いホムンクルス共を殺すんだ! 根絶やしにしてやるんだ!  
こんな感情いらないっ! こんな感情、必要ないっ!  
 
目も耳もふさぐ。丸まった自分の小ささに、どうしようもない孤独感を感じる。  
もういや。こんな風に悩むのはたくさんだ…。どこか違う所に行きたい。  
ホムンクルス共をブチ殺せれば、それで満足していた頃に戻りたい…。  
カズキが憎い…私をこんな風に変えてしまったカズキが、憎い…。  
「カズキ…」  
 
「…斗貴子さん?」  
 
 
5、05:50 PM  
興奮していたからだろうか。  
迂闊にも私は、非常扉が開いたことにも、給水塔の下に誰かが来たことにも気づかなかった。  
「斗貴子さん? まだそこにいるんだよね?」  
唐突に下から聞こえてきたカズキの声に、ガバッと跳ね起きる。  
ななな、なんでココにぃ?! さっき帰ったんぢゃあ?!  
そうこうしているうちにも、カズキはコッコッコッと給水塔のはしごを上ってくる。  
ちょ、ちょっと― だめ…。  
突然の展開に、心臓が早鐘をうち頭が真っ白になる。  
今、カズキの顔を見られない…。今カズキの顔を見たら、わたし…。  
 
私は急いではしごの方に背を向けて座り直す。ついでにスカートも整えた。  
コツ  
すぐ背後にカズキが立っているのが、気配で感じ取れる。  
「斗貴子さんに話したいことがあって、引き返してきたんだ」  
私の顔はたぶん今、真っ赤なのだろう。熱くて、冷静に頭が働かない。  
 
「さっき桜花先輩と一緒にいて、気づいたんだ。分かったんだ。オレやっぱり…」  
「ま、待って…」  
カズキが何を言おうとしているかは分からない。そこまで頭が回らない。  
でももう、勘違いはたくさんだ。思い違いはたくさんだ。  
言わなきゃいけないことがあるなら、伝えたいことがあるなら、自分からブチ撒けてしまおう。  
なにもかも。全ての想いを、わだかまりを。  
こんな苦しみから、もう解放されたいから…。  
その後のことなんて、もう、考えれらないから…。  
 
「聞いてくれ、カズキ…」  
「え? あ、うん」  
気勢を殺がれて、カズキの声色が裏返る。  
「カズキ…、私はその…命を救った」  
「うん、そう!! 斗貴子さんが救ってくれたんだよっ!」  
それが言いたかったんだよ!とでもいう勢いで、カズキが同意してくる。  
「その時は、その…飛び出してきたりして、『えっ?』って感じだった。  
 どうしようもない奴だな、と思った…」  
「そうだね…邪魔になるのに…迷惑にも飛び出してた。そう思われても仕方ないよ…。  
 オレ自身が、今だってそう思うぐらいだから…」  
ホントに、無茶ばかりして…危なかしくて守ってやらなきゃって感じのコだったのに…。  
 
「…でも…一緒に戦っていて、頼りにしている自分に気づいたんだ…」  
「そ、そんなにたいしたことしてないと思うけど…。うん、でも頑張ったよ!」  
キミは立派だった…。いつもあんなに、自分ばかり傷だらけになって…。  
 
「色々あったし…その…本気で…傷つけようと戦ったこともあった」  
「…それも昔のことだよ。斗貴子さんも誰も、悪くない…」  
早坂姉弟の処置を巡り、カズキと対決したときの情景が脳裏をよぎる。  
下唇を噛んだ。  
真っ直ぐな、そして全ての生命に優しいカズキに比べて。  
私はなんと禍々しいのだろう。なんと醜いのだろう。  
 
「私は…ホラ、色々と…普通じゃないから…」  
自嘲気味に言い捨てる。傷だけじゃない…。私は…こんなに醜い女だから…。  
「そんなことないっ!! そんなこと言ったら、俺だってっ!!」  
…カズキなら、そう返してくると思っていた。  
胸の中に暖かいものが染み渡ると同時に、視界が霞み涙が一気に溢れそうになる。  
まだだめ。もうちょっとだけ頑張るんだ。  
まだ、一番大切なことを告げてない…。  
 
 
6、桜花バトルサーガ  
「そ、それじゃあ…、大丈夫かな…? こんなこと言っても…困らないかぁ…?」  
失敗した。声が上ずっている。  
「大丈夫だよ。心配ない」  
あと一息。あと一息だ。  
「わ、私…わたし、わあぁ…」  
 
「…す、好き…なんだって…、一緒にいたいって…言っても、いいの…かぁ…?」  
…言って…しまった…。  
飛び降りた時みたいにふわふわしている。身体が羽にでもなったかのような、虚な感覚。  
あれだけ決壊寸前だった涙腺が、なぜか不思議にもピタリと止んでいる。  
はやく、はやく何か言って欲しい。全否定でも、なんでもいいから。心臓が耐えられない…。  
 
「…オレ…オレ…。スッゲー嬉しい!!  
 だって、だってオレも好きだもん!!だからオレ今、スッゲー嬉しいよ、斗貴子さん!」  
…あ…は…。  
退いていたはずの水流が、再び解き放たれる瞬間を求めて戻ってきた。  
こんなに…こんなに単純なことだったんだ…。  
わだかまりも、なにもかも。私の想いも、キミの想いも…。  
―そうだ、このまま、とびっきりの笑顔で振り向いてやろう。  
傷顔だし、そんな表情したこともないから、怖い顔になるかもしれないけれど。  
でもキミは、そんな私でも良いと言ってくれたから。  
そしてその後、キミのシャツをぐしゃぐしゃに濡らしてやろう。  
私がこれだけ悩んだんだから、カズキだって少しは困るべきだ。いい気味だ。   
よしっ!  
私はスッ立ち上がって。  
気持ちの全てをのせて。  
ありのままの私を、キミに見せて…。  
 
振り向いた先にあるのは…  
夕日の中で、はにかんでいるカズキ…  
     ……が差し出している、赤面したエンゼル御前。  
 
…。  
……。  
………。  
ハァ?  
 
「オレ、ホントに嬉しいよ! オレもコイツのこと好きだし、ホントに嬉しいよ!  
 今日ずっと悩んでたんだ…でも同じこと、斗貴子さんも悩んでいてくれてたなんて…!  
 オレ、昼の一件で、斗貴子さんはきっとゴゼン様のこと嫌いなんだなって思って…。  
 それも仕方ないし…。斗貴子さんは特に、最初にゴゼン様と戦ったからさ。矢飛ばしてたし。  
 いきなり飛び出して顔にへばりついたりしたし。どうしようもない奴と思っても仕方ない!  
 オレもさ…最初の頃は変なやつだなって思ってたんだ。『え』ってなんだよって今でも思うよ…。  
 だから斗貴子さんはおかしくない!斗貴子さんは普通だ! …でも勿体ないと思ってたんだ。  
 斗貴子さんがゴゼン様と桜花先輩の命を救ったっていうのに、仲良くなれないのは…。  
 けど、決戦の時のゴゼン様の道案内と援護を、斗貴子さんがそんなに頼りにしてたなんて!  
 だから大丈夫、心配ない! 斗貴子さんも仲良くなれる! 一緒にいられる!  
 いざ遊んでやってると可愛くて憎めない奴だから。  
 …それに…斗貴子さんもゴゼン様のこと、本当は好きなんだからさっ!」  
 
まくしたてるカズキの言葉は、半分も頭に入らなかった。  
カズキは、目をうるうるさせているエンゼル御前を、満面の笑みで私の頭に載せて―  
そして軽やかに靴音を立てながら、給水塔から降りていって―  
いつの間に来ていたのか、  
非常扉の前には、桜花がこれまた満面の笑みを浮かべて立っていて―  
二人は頷きあうと『あとは若い者同士に任せて』と言わんばかりの爽やかさで、屋上を出て行った。  
 
あとに残されたのは、夕日に照らされ放心している私と。  
赤面して目を潤ませながら、私の顔をちり紙で拭いている白い浮遊物体のみだった。  
 
 
―スタッフロール―  
―――  
――  
―  
 
 
心身ともに疲れきった私が、寄宿舎に帰りついたのは七時過ぎ。  
夕食なんて食べる気がしない。このまま寝てしまおう…。  
身体をひきずるようにして廊下を歩いていると、まひろとすれ違った。  
「あれぇ〜。斗貴子さん、なにか背中に貼りついているよぉ〜?」  
ハッとして、背中に手を回してみると、紙が張ってあった。  
     『はなたれ女』  
もういい。もういいから死なせて。  
私にはもう、その場に座り込むことしかできなかった…。  
 
 
 
おのれエンゼル御前! おのれ!おのれぇッ!!  
…いや、違う。  
本当の敵は…真の黒幕は…、奴などではない。  
私の脳裏に、にっくきエンゼルの影で高笑いをする、長い髪のシルエットがよぎる。  
あの女…侮れん…!  
真に倒すべき敵の名は―早坂桜花。  
 
津村斗貴子の本当の戦いは、今、始まったばかりだ。  
 

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