秋の陽射しが優しい、魔術師ギルドのヒースの部屋。  
ヒースの誕生日の祝いの後、お昼寝になだれこんだ、ヒースのベッド。  
隣で眠るイリーナの姿を、ヒースは眺めていた。  
…可愛いと思った。  
素直に口に出すことは決してなくとも、ずっと…そう思っていた。  
柔かい栗色の髪。長い睫毛。  
強い意志を秘めた、大きな茶色の瞳は今は伏せられ、  
普段より一層、イリーナの印象を柔かいものにしている。  
そっと指先で、イリーナの赤い唇をつついてみる。  
ぷよぷよとして、柔らかく温かい。  
(キスを…してもいいだろうか?)  
ヒースはそうしたいと思ってしまった己れの感情に、戸惑う。  
眠っているイリーナに接吻をする。…それは卑怯な事。  
しかし、起きている時のイリーナにキスができる程の覚悟と度胸は、まだなかった。  
『イリーナごとき眼中にナイ』  
そんな態度をずっとヒースは、とり続けてきた。  
本当は、常軌を外れて健康的過ぎる少女に対する『少しは女らしくしろ』という遠回しな『いい聞かせ』だった。  
言葉を『額面通り』に受けとる鈍感なイリーナには、まったく届いてはいないようだったが。  
苦笑する。  
いつもいつも、俺はお前に振り回されてばかりだ。  
それが悔しくて、俺は自分を少し変えた。  
イリーナの兄の様に。天邪鬼に、ひねくれた物言いに。  
お前を逆に、振り回してやりたくて。困らせてやりたくて。  
……それなら、いいだろうか。  
キスをして、戸惑い困るイリーナの顔が見れるなら。  
イリーナの顔に、顔を寄せる。  
息がかかるくらい間近に、瞳を閉じたイリーナの顔がある。  
赤い唇にかかる一房の栗色の髪を、そっと払って、ほんの少しの躊躇いの後。  
その僅かな距離を……埋めた。無に、した。  
触れる──感触。  
重ねた唇は、柔らかかった。  
薄く目を開けイリーナの様子を伺いながら、もう一度──した。  
それでも目を覚まさないイリーナに、ほんの少しダケ、ヒースは調子にのった。  
そのまま離さずに、イリーナの柔らかな唇に舌を、這わせた。  
『愛しい』  
もっと──シタイ。  
もっと…感じたい。触れていたい。  
普段は押し隠している欲望に、火が、ついた。  
両手をイリーナの枕元について。  
慎重にイリーナの様子を伺い続けながら、唇を頬から耳元へと移動させた。  
イリーナの髪の匂いが鼻孔を擽る。  
右手は無意識のうちに、イリーナの胸元へと伸びていた。  
 
普段は押し隠している欲望に、火が、ついた。  
手の平に柔らかい胸の感触を感じる。いつのまにか僅かに汗ばんだ掌。  
少し小さいが少女の身体は柔らかく、ムニムニとした膨らみをヒースの掌に伝えてくる…。  
 
「──っ!?」  
 
ヒースの顔が一瞬にして真っ赤になった。  
それに気づいて、ヒースの心臓が早鐘のように鳴る。  
イリーナのぷよぷよと柔かい胸に当てた、手の平に感じる、ひと粒の堅いシコリ。  
イリーナの乳首が…立っていた。  
下半身が、疼く。血が集中する。劣情が──止まりそうにない。  
ヤバイ。  
ダメだ…イリーナに、嫌われたく──ナイ。  
欲望に満ちた邪な目で、イリーナを見ていると、知られたくなかった。  
じゃれあいでイリーナの身体の、男の身体とは明らかに違う柔かさに欲望を覚えては、その度ごとにその己れの感情に気付かなかったフリをしてきた。  
まだ精神的に幼いイリーナにとってヒースは『兄』でしかナイコトを……知っていたから。  
だがヒースにとってイリーナは妹であると同時に、出来るコトなら抱いてしまいたい──女だった。  
ズリネタに、何度もイリーナを頭の中で犯していた。  
頭の中で何度もイリーナを裸に剥いて、足を広げさせた。  
その股間に顔を埋め口づけ、イリーナの処女を奪い、イリーナを犯して、汚して果てる。  
そんなコト。そんな浅ましい妄想を。  
──…イリーナには、絶対に、知られたくなかった。  
イリーナに軽蔑され嫌悪されて、距離を置かれる…。  
──考えたくもなかった。  
…ダメだ…ヤメろ。  
───欲望ヲ、抑エロ。  
イリーナ…イリーナ…俺は…。  
 
「……兄さん」  
 
ビクリとヒースの身体が強張り、跳ねた。  
イリーナの茶色い瞳が見開かれ、ヒースを下から見上げていた。  
身体の上に半ば、ヒースがのしかかるようにイリーナを覆って。  
ヒースのその手はイリーナ胸を覆っている。  
その顔に朱がさして、困ったように恥ずかしげに……ヒースを見上げた。  
 
その時ヒースの顔は、、きっと泣きそうだったに違いない。  
羞恥、後悔、希望、哀願。…かろうじて作りだして見せる、皮肉気な……笑い。  
ああ。と、深い溜め息と感慨とともに、ヒースは理解した。  
イリーナが、少なくとも嫌がっていない事を。  
イリーナの瞳には、困惑と羞恥と……僅かな怒り。  
ヒースがイリーナに、これ程までに密着し触れているのに、イリーナの表情からは…怖れや嫌悪の色が…見て取れなかった。  
(イリーナ。期待シテモ、イイのか…? 俺は、お前にとって…?)  
声を、絞りだす。  
 
「──なんだ?」  
 
なんだ、もナイと自分で愚かしく思う。  
ただ、イリーナの次の言葉を、反応を待つしかなかった。  
 
「……兄さんは邪悪ですか?」  
 
顔を赤らめたまま、イリーナはヒースを睨んだ。  
 
「──そうかもな」  
 
再び顔を、イリーナの顔に寄せる。  
顔の輪郭を確かめるように、つうっと、指先をイリーナの頬に這わせる。  
今度は真っ直ぐな茶色の視線が、逃れられずに、絡む。  
普段は強いその視線が、揺れた。  
顔が近づく。イリーナは、逃げなかった。  
触れた。唇が──重なる。  
ヒースの唇を、イリーナは感じた。背が、ヒクリと跳ねる。  
 
「ン…ふ。に、兄さんっ…やっ、ヤメ…」  
 
しかし、そのヒースを押し退けようとする腕の力は、本来のイリーナのものではなかった。  
弱々しい──抵抗。  
さらに、した。唇を、重ねる。重ね、続ける。  
イリーナの吐息を感じる。身体の温み、柔かさ。  
その背に腕を回し、イリーナを強く抱き寄せた。  
 
 
○無理強いは、したくない…。→未遂エンド【最初の一歩】 
 
●欲望が止められない…。お前が、欲しい…。→えちぃエンド【赤い真珠】 
 
 

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