3話 戦いの後は仲良く手を繋ぐ


 奈津美は激怒して、ほのかを見る。
 千夏は悲しくなったのか、涙を今にも流しそうだった。
 さやかは呆れているようだ。
「今日から埼君と付き合うことになりましたので、よろしくお願いしますね。お姉さん」
 ほのかは挑発していた。
 ほのかは俺に抱きついたままだし、奈津美は本気で怒っているし、千夏は泣き出したし、さやかは千夏を慰めている。
「あの奈津美さんを挑発するなんて……」
 深雪はなぜか感心していた。
 健二は成り行きを見守るらしい。
 俺はただ困っていた。
「誰だか知らないけど、私に挑戦するなんて」
 奈津美が震えている。
 まずい。本気モードに切り替わってる。
「弟を取られちゃって寂しいですか?」
 か、勘弁して。
 どうして火に油を注ぐんだよ。
 しかもわざわざ『弟』の部分を強調して言うなんて。
「私を本気で怒らせたね」
「ブラコンの先輩に言われても、怖くありませんから」
 禁句だった。
「言ったね」
「何度でも言いましょうか。ブラコン、ブラコン、ブラコン、ブラコン」
 奈津美は地を蹴った。
 一気に距離を縮め、ほのかを俺から引き剥がす為、制服を掴む。
「ううっ」
 掴んだ所が襟の部分だった為、それを引っ張れると首を締められたような感覚を襲うだろう。
 我慢できなくなったほのかは俺から手を離し、地面に転がる。
「ごほっ…ごほっ」
 咳を二回ほどする。
 その隙を逃す奈津美ではない。
「姉さん、やめろ」
 俺の制止を無視していた。もう声なんて聞こえてない。
 俺は奈津美を止めるため、羽交い絞めにする。
 だが、暴れられてすぐにほどけてしまった。
 その時、奈津美の肘がもろに顎に直撃した。
 がくんと力が抜け、体がいうことをきかなくなる。
 奈津美はほのかに迫った。
 ほのかはすでに恐怖で戦いている。
「大丈夫?」
 深雪が俺の側にくる。
「俺は何とか。でもまずいな」
「うん」
「しばらく立てそうもない」
 情けないことに足ががくがくだった。
『健二』
「だめ、勝てるわけない」
 俺と深雪は健二に助けを求めるが、俺も深雪も勝てるとは思ってない。
 がっちりした体格の癖に、喧嘩は滅法弱い。女の奈津美に敵わないぐらいだった。
 俺が本気を出せば奈津美を止めることができるのだが、怪我なんてさせたくなかったから力を弱めるしかなかった。そうすると、やられる。
 今日、何度目の参った。
「きゃあ」
 制服を脱がそうとしている奈津美。それをやめさせようとするほのか。
 だが、奈津美は未だに寝転がっているほのかの股間を蹴った。
 男なら致命傷だが、幸い痛いだけで終わったようだ。
 奈津美は力が弱まったのを見計らって、制服を剥ぎ取った。
 俺はほっとした。
 制服の下は、体操服だった。
 それにしても本当によかった。スカートも剥ぎ取られたけど、ブルマだったので大したことにはならないだろう。
「何、ほっとしてるの?」
「有坂だったら、100%上下とも下着だろうが」
「あはははは」
 健二と同じ笑い方をするな。
「でも、何もつけてない時だってあるよ」
「この露出狂が」
「もっと言って」
 呆れて、何も言う気が起こらなかった。
 俺は深雪を相手にするのをやめた。
「千夏ちゃん、木野崎さん。姉さんを止めてくれ」
「いや」
 千夏は首を横に振った。
「むかつくから、この人」
「千夏ちゃん。お願い」
 千夏が動かないと、さやかが動かない。
 さやかを動かす為には、千夏を動かすしかないのだ。
「マジで脱がしちゃうから。お願い。そういうのは有坂だけで十分だから」
「酷い言い様」
 深雪は突っ込むが、無視した。
「千夏、どうする?」
 さやかが聞いてくる。
「彰人君を取ろうとする人は嫌いだもん」
「千夏の答えでした。ちなみに私も同意見。でも、いいじゃない。私が手を下すわけじゃないから」
 もう勘弁してくれ。
 でも確かにさやかが本気になるとこんな程度ではすまないだろう。みんなは奈津美を怒らせてはならない、と思っているだろうけど、一番怒らせてはならないのは、さやかだったりする。
「姉さん。俺は悪くないからな」
 何とか回復した体を起こして、奈津美に向かってタックルした。
 いくら奈津美の方が少しだけだが背が大きい。とはいえ、男と女。力の差はあまりにも大きいはず。
 ドン。
 それでも、少しよろけるだけで終わってしまった。
「しまった。力、弱めちゃった」
 だけど、効果はあったようだ。
 奈津美がどんどん正気に戻っていく。
「彰人。この子がそんなにいいの?」
「いい、悪いじゃなくて、暴力は嫌いだよ」
「ごめん、なさい」
 わかってくれたようだ。
 俺は床に落ちているほのかの制服を拾い、それを手渡した。
「怪我とかない?」
「ありがとう。私は大丈夫だから」
 平気そうだった。
 嫌な予感がする。あの余裕がどこから出てくるのか、わからない。
 大抵の場合、奈津美にあれほどやられたのなら、怖くなって俺から逃げていくことが多いのに。
「ねえ、お姉さん。手加減してくれたのでしょ」
 うわっ。まだ火が鎮火してないのに、油を注ぐつもりなのか。
 もう俺はとめないぞ。いや、とめられないぞ。
「気に入った、ほのちゃん」
 深雪はほのかを抱き締めた。
「ほ、ほのちゃん?」
「うん。ほのちゃん」
 まずい。俺たちのメンバーに派閥が出来そうだ。
 奈津美、千夏、さやかグループと、深雪、ほのかグループ。簡単に言えば、奈津美派、深雪派。
「みゆちゃんって呼んでもいいかな」
 ていうか、ほのかは順応が速すぎだってば。
「うん」
「きゃ、どこ触ってるんですか」
 深雪の手が妖しくほのかの胸を触っている。
「おっぱい」
 すぐ止めると思っていた。
 深雪の手が体操服を脱がせようとする。
「だ、だめ」
「大丈夫だから」
 頭が痛くなってきた。
 それにしてもいい加減、止めないと今度は深雪が最後までやってしまうかもしれない。
 あれ?
 いつの間にか体操服がそこに転がってる。
「脱がすなよ」
「彰人。いいじゃない。みんなに見せてあげようよ」
 体操服を脱がせた深雪はブラジャーを脱がせようとはせず、その上からゆっくりと愛撫する。
「……ああっ……」
 嬌声があがる。
 みんなが一斉に固まった気がした。
 男子生徒なんて、その光景をまばたきせず見ている。
 女子生徒たちは『脱がせ、脱がせ』とはやし立てている。
 誰かが携帯を取り出していた。
「有坂、やめろ」
「……しょうがないね」
 流石に写真を取られそうになったので、深雪はすぐにやめた。
「ごめん」
「謝るなら、俺じゃなくてほのかだろ」
「うん。……ごめんなさい」
 深雪は頭を下げた。
 体操服を着たほのかは首を振った。
「気にしてないから。それに、少し気持ちよかった」
 そういう問題じゃないだろ。
 ほのかがそれでいいのなら、俺は何も言わないことにした。
 やっぱり俺の側にいる人たちはどこか強かった。あんな程度ではへこたれないというか、気にしないというか、とにかく平気そうだった。
「埼君」
 体操服にブルマ姿のほのかは紅潮させていた。
「私、ずっと埼君についていくから。何されても、どんなことをされても、大丈夫だから」
 紅くなって言うことじゃない。しかもそんな格好で言うことでもない。
 頼むから制服を着て欲しかった。みんな、制服を着ているのに、たった一人だけ体操服にブルマ姿のほのか。
「埼君の言うことなら何だって聞けるから」
 頼むからそういうことを人のいる前ではっきりと言わないで欲しい。
 なぜか知らないが、歓声まであがっている。
 中には男子生徒の悲鳴もあるが、気にしないでおこう。
 深雪は俺の側に近寄ってきた。
「彰人。『ここで体操服を脱いで』って言ってみてよ」
 誰が言うか。
「なら有坂が脱げ。素っ裸で歩き回れ」
 深雪の顔を見た瞬間、冷や汗が出た。
「冗談だ。だからそんな顔をするな」
 危うく本気で脱ぎだすところだった。
 ほっとしたのも束の間、ほのかは俺に抱きしめてくる。
 頭が痛くなってきた。こんなに頭が痛くなるなんて、俺の周りだけ酸素が薄いのかもしれない。
 ……頼むから、普通の高校生活を送らせてくれ。
「彰人君に近寄らないで」
 千夏は叫んだ。
 さやかは冷ややかな目で俺を見つめている。
 深雪は面白いのか、隣で笑顔を浮かべている。
 そして、奈津美は面白くないのか、握りこぶしを作り、今にもほのかに殴りかかりそうだった。
 ちなみに健二は隅の方で状況を見守っていた。

 俺の右に奈津美。
 俺の左にほのか。
 二人とも俺の腕にしがみついている。
「で、ゲーセンは行かないの?」
 深雪はマイペースだった。
 この空気が読めないらしい。
「もう行く気がしない」
「え〜!」
 不満な声をあげるが、誰一人として深雪につくものはいない。健二もこういう時は何も言わない。多分、奈津美とさやかを敵に回すのが怖いと見える。
「折角、ほのちゃんと友達になったのに」
「また今度な」
「そっか。今日は彼氏彼女になった記念に、初エッチするんだね」
 深雪の科白はその場を凍らせた。そのことに気づいているはずなのに、無視して言葉を続ける。
「彰人。いくら初めてだからって、緊張のあまり勃たないことのないようにね。女の子に恥をかかせちゃだめだぞぉ」
「深雪!」
 健二が声をあげる。
 珍しく怒っているようだ。
 だが、そんな程度でびびる深雪でもない。
「何、怒ってるの? 私は彰人にアドバイスをしただけだよ」
 物凄く挑発的に健二を見た。
 俺は何となくだが、昼放課の時に言っていた『健二が怒るから言わない』の内容がわかってしまった。
 多分、健二がそうだったんだろう。
「有坂」
「……ごめん。言い過ぎだったね」
 今日はみんな、どこにも寄らず、帰ることにした。
 ほのかを家まで送ろうとしたのだが、ほのかは『思いっきり』断ったので奈津美と帰ることになった。今、奈津美と一緒にいたくなかった。黙り込んだままの奈津美が異様で、怖かった。
 なぜほのかが断ったのか、奈津美を見ればわかる気がした。やっぱり奈津美はいろいろな意味で有名人だから、同じ中学に通っていた人たちはその怖さを十分知っているからだと思う。

 家に着いた途端、俺は押し倒されそうになったので、慌てて逃げた。
 靴を脱ぎ捨て、走り出す。階段を駆け上がり、部屋に閉じこもった。
 ぎりぎりのところで部屋の鍵をかけることができた。
 それでも奈津美は容赦せず、鍵を壊す勢いで開けようとしている。ドアが軋んでいる。
 まずい。壊されるのも時間の問題だった。
「姉さん! わかった。わかったから。今、開けるから、壊そうとしないで」
 止まった。
 開けるなら今しかない。
 ガチャ。
 鍵を開けた途端、バンっと勢いよく開けられ、奈津美は俺に抱きついてきた。
 そのままの勢いで、俺にキスをする。舌を入れ、俺の舌と絡ませる。
 くちゅくちゅっと卑猥な音だけがしていた。
 息がしにくい。
 だけど俺も興奮してきた。
 奈津美はドンドン俺を押してきた。よろよろと後ろに下がり、壁に当たった。
 安心したのも束の間、今度は俺の股間を押し付けてきた。
 ぐりぐりと振動させる。
 まずい。
 完全に勃起してしまったのに、このまま射精でもさせるつもりなのかやめる気配がない。
 いつも以上にやばい。
 ここまでやってきたのは数えるほどしかなかった。
 このまま犯すなんて思いもしなかったから、油断していた。
 舌が蠢いている。まともに喋れない。
 まずい。まずい。
 射精が近づいている。
「……んんっ……はあ……ちゅぅぅぅ」
 舌を絡ませるだけじゃなく、今度は吸ってきた。
 それがゾクゾクと快感が走った。
 だ、だめ。出る。
 そう思った瞬間、奈津美の動きが止まった。
 射精することもなく、その一歩手前で止まった。
 口周りがテカテカと光っている。唾液ですでにべとべとの奈津美は、
「いいよね。彰人」
 とだけ言って、俺の返事を待たずにベルトを外し、ファスナーを開けた。
 奈津美が少し離れているので、ジャラっと音を立てて落ちた。
 パンツだけになった俺は慌てたのだが、どうしてか逃げれなかった。理由はわかっている。俺が本気で逃げようとしてないからだった。
 奈津美は了承と受け取った。
 そして最後のパンツまで脱がし、俺の勃起したものが露出した。
 それを奈津美はどこかうっとりするように見つめ、それを握った。そして上下に擦る。
 あまりにも直接的な行為に限界はすぐにやってきた。なのに、奈津美は俺の限界を見たのか、すぐに止めた。
 やめないで欲しかった。そのまま最後までやってほしかった。
 それを理解しているのか、奈津美はキスを続行した。
 段々わけがわからなくなる。
 たまに愛撫される刺激に苦しくなる。
 俺は舌を絡ませる。
 目を開けると奈津美が俺のことを見ていた。
 官能を帯びた目で俺を見る。
 奈津美は俺のものを握っている手とは逆の手で俺の手を持ち、自分自身のモノへ導く。
 すでに濡れていた。それに触れた瞬間、奈津美は震えた。
 俺は少しだけ指を動かす。
 奈津美はさっきまで舌が動いていたのに、すでに止まっていた。快楽に取り込まれていた。
 長い長い口づけが終わり、奈津美はついに嬌声を上げた。
「ああっ……んんっ……彰人……もっと、もっとして。もっと動かして」
 俺はそれに答えるように動かした。どうやったらいいのか、わからないけど、ショーツごしにゆっくりと上下に動かす。
「……ああっん……ああっ……だめ……」
 力が抜けてくるのか、俺の首に手を回し、それで何とか立っていた。それでも片手はしっかりと俺のものを握っていた。すでに動かすことを忘れている。
 俺は要領を得てきた。
 今度はショーツをずらした。
 スカートを履いているので見えてはいないが、びしょびしょに濡れていた。
 俺は人差し指を入れる。
「……ああっ!」
 今までにない声の大きさだった。
 近所に聞こえてはまずい。
 俺は奈津美の口を塞いだ。自らの口で塞ぎ、今度は俺から舌を入れた。
 ゆっくりと愛撫する。
 壊れ物を扱うように、ただゆっくりと。
 俺は目を開け、奈津美の顔をじっと見ていた。
 目を閉じ、身を委ねている奈津美だったが、数分しても俺がゆっくりゆっくりと愛撫するのが我慢ならなくなったのか、憂いの目で俺を見つめていた。
 もっと、激しく。
 目を見ただけでわかった。だけど、俺はそれに従わなかった。
 本当に優しく愛撫する。
 奈津美はもっともっとと腰を振る。けど、俺は手を止めた。
 どうして?
 と聞きたいらしい。
 だけど奈津美は自分の握っているものに気づいたのか、それを扱き始めた。
 奈津美の手はすでに俺の先走り汁で白いものがついていた。
 少し手が濡れているのか、ぬるっと滑るような感覚がとても気持ちよかった。
 そして今度は俺も手を動かした。
 さっきまでと違う。
 強引に動かした。でも深くは入れなかった。
 動かしていると尖ったものが手に触れた。
 それに触れた途端、奈津美はビクビクっと体を振るわせた。その間、手が止まっていたけど、すぐに動かし始めた。
 限界が近い。もともと限界だったんだ。
 そして奈津美もそろそろ限界らしい。
 一層激しく扱く奈津美の手から、音がする。そして俺たちはキスをし、舌を絡ませるから音がする。
 くちゅくちゅといろんなところから音がする。
 俺も動かした。
 尖ったところを中心に責めた。
 だ、だめ。
 そう思った瞬間、
「んんんんんんんんっ!!」
 声が出せないのか、曇った声で奈津美は達した。
 そして俺も射精していた。
 奈津美は力がぐったりと抜けたらしく、座り込んでしまった。
 それでも俺の精液は止まらなかった。
 止まらない。止まらないから、座り込んでしまった奈津美の顔にかかった。
「ああああ……」
 余韻に浸っているのか、奈津美は動かなかった。
 それよりも俺は顔にかけてしまったことに慌ててしまった。
「ごめん。姉さん」
「ううん。いいよ。彰人のなら」
 そう言って、奈津美は顔についた精液を手で取り、口に入れた。
「……おいしくないね」
 どこで得た知識なのか、そんなことをした奈津美だった。

 奈津美は精液で汚れた制服、スカートを洗濯機に入れて、洗うことにした。
 すでに着替えた俺と奈津美はソファでゆっくりと寛いでいた。
 奈津美はほのかのことなんて忘れてしまったかのように、機嫌がよかった。
 でも、それが続かないことなんて、わかっていた。




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