6話 初めての土曜日は更なる波乱の幕開け


 朝、起きると奈津美が俺を見つめていた。
 すでに起きていたらしい。
「おはよう」
 目を覚ますとすべてが満ち足りた奈津美の声を聞いた。
 奈津美はあまりにも自然に俺にキスをする。すでにそこには姉弟という関係から外れていた。

 目覚ましが鳴る前に起きてしまったので、目覚ましの設置を止める。
 どこにも違和感なんてなく、ごく普通の行動のはずだったが、奈津美だけは違った。俺は休日の場合、目覚ましなんてセットしない。
「目覚ましなんてセットしたの?」
「ああ」
 ここで嘘なんて言ったところで意味はない。
「ちょっと出かけるから」
 その一言だけで奈津美は俺の肩を持つ。まだ押さえつけてはいない。握っているだけだが、その肩が痛かった。
「行かせない」
 誰と会うのか、すでに奈津美はわかっているのだろう。
 俺は押し倒された。
 いきなりのことで、俺もどうしていいのか分からない。
 その俺に奈津美は抱きついた。
 俺は、奈津美だけが抱き締める格好でベッドに押さえつけられた。
 体をがっちりと抱え込まれてしまっている為、そう簡単に離れられない。
「姉さん。わかって」
「どうせ結城と、でしょう。だから、行かせない」
「もう約束したから」
「そんなの断ればいいでしょ」
 言い合っていたら、結局、待ち合わせには遅れるだろう。
「姉さん」
 少し強めに言い聞かせる。
「今日は二人だけで一緒にいよう」
「だめだって言ったらどうするんだ?」
「どうもしない。行きたければ行けばいいじゃない。私は必死に引き止めるけど」
 どんな手を使うつもりか知らないが、ろくな手じゃないのは分かりきっている。
「お願いだから」
 なら、と奈津美が出した提案に乗るしかなかった。

 彼氏彼女になって、初めての土曜日。
 もちろんデート、ということになる。思えばこれが初デートだ。
 普通、デートとかしてから、やるんじゃないのか、と俺は思うのだが、周りにいる人たちはそんなことなど無視していきなりするのだから、逆に俺の考えが普通ではない、と思ってしまうのは仕方がないことだろう。
 俺はほのかと待ち合わせた駅前の喫茶店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
 ウエイトレスは俺が入ってきたことを確認するとこちらに来る。
「お二人様ですか?」
 なぜ二人なのかというと、もうすぐわかるので説明はいらないだろう。
「一人、待ち合わせている人がいるので」
「埼君」
 席を立ち上がったほのかは俺に向けてにっこりと微笑んだ。しかし0.1秒も満たない間に凄い(鬼とも言う)形相に変わる。
 俺は嫌な汗が流れたが、ほのかのその反応を無視した。
 それにしても、昨日、やってしまったことを考えると心配になってくるのだが、ほのかは至って普通だった。
 ウエイトレスはにっこりと微笑み、ほのかのいる席へ進める。
 俺はゆっくりとほのかの側に行った。
「……どういうこと?」
 ほのかは敵対心を露にしている。それもそのはずで、俺の隣には奈津美が引っ付いていた。
「どうしてもって言うから」
 奈津美はあまり喋らない。
 昨日のことをどう思っているのか、どう考えているのか、そこまで俺はわからなかったが、今まで以上に俺に肌を合わせるようになっている。
 本当にべったりとくっついているのでとても歩きにくかったのだが、それでも俺は何も言わずに、奈津美の好きなようにさせていた。
 ほのかはそんな俺たちを見ていた。
 時間にして、5秒だった。
 その間に決着がついたのか、一瞬にして目つきが柔らかくなる。
「お姉さん。どこに行きますか? 私と埼君はただその辺を見て回るつもりですけど」
「彰人と一緒にいる」
「そう。なら、私はお姉さんの逆側に」
 ほのかは空いている俺の左腕を取る。
「べたべたとくっつくな」
「お姉さんはよくて、私はだめですか」
 鋭い棘があった。
 水を持ってきたウエイトレスと目が合った。
 面白そうに俺たちのことを見ていたので、少しはほっとした。だが、このまま立ったままでは迷惑だろう。
「とにかく座ろうか」
「はい」
 ほのかはすっと離れる。ほのかの方が引き際を見極めている気がしてきた。そのほのかは席に戻った。俺はほのかの前に座り、その俺の隣に奈津美が座った。
 俺はコーヒーとトーストを頼み、奈津美は紅茶を頼んだ。
「埼君。今度から連れてくる時は連絡してください」
 連絡? そういえば、電話番号を知らない。
「そういえば、私の携帯の番号を教えてなかったですね」
「埼君。携帯を貸してください。登録しますから」
 ほのかは知っているのか、知らないのか、手を出してくる。
 実を言うと、携帯なんて持っていなかった。どうせ携帯なんて持っていなくても、連絡をしようと思えばできる。それに電話をかけてくるのは、どうせ深雪か健二、千夏にさやかだろう。それなら俺に用事があるなら、家か、奈津美の携帯に、と言ってある。
 それに俺が携帯なんか持ち出したら、深雪が変な電話をしてくるに違いない。深雪はそういう人だ。
「……もしかして、持ってないの?」
「そんなところ」
「埼君。いくらなんでも携帯ぐらいは持たないと」
「いいじゃないか。どうせ持っていたとしても、電話してくるのはあいつらだけだし」
「そうかもしれないけど、私は埼君といつでも声が聞きたい」
 恥ずかしいことを平気で言うほのかだった。
 俺は困っていた。
 携帯を持っていないのは事実だ。だからと言って、携帯を持てないわけじゃない。
 高校入学前、奈津美から『携帯、いる?』と聞かれたことがあった。その時は『必要ないだろ』と言った。
「なら、今日は携帯を買いに行こう」
 ほのかは今日のプランを完全に決めてしまったようだ。
「いいよ。携帯なんて必要ないし」
「埼君。携帯を持ってくれないと昨日のことを事細かに」
「ああ! わかった、わかったから」
 奈津美がいるのだから、その話は避けて欲しい。
「結城」
「お金の心配をしているのですか?」
 奈津美はそんなことを言いたいのではないのだろう。
「そうね」
 とりあえず頷く。
 これが奈津美の失敗だった。まだ『結城ほのか』のことを知らなかった。
「うーん。そっか。なら、名義は私で。埼君のなら払っても構わないし」
 ほのかは本気だ。
「そんなこと、しなくていいから」
 俺は必死の止める。
「どうせそのお金、親のでしょう」
 しかし、奈津美は引っ掻き回す。
「お姉さん。一応、言っておきますけど、親が社長で、しかもお金持ちだからといって、その子供が必ず『お金』を持っているわけじゃないです。お小遣いすらくれない親ですから、携帯だって、自分で稼いだお金で払っています」
 言い返すはずが、逆に言い返されたからだろう。今度こそ奈津美は何も言わなくなる。
 俺もその事実を知って、驚いていた。
 ほのかはすでに頼んであった紅茶を飲む。
「お待たせしました」
 ちょうどその時、俺と奈津美が頼んだ料理が来た。
「すみません。紅茶、もう一杯ください」
「はい」
 ウエイトレスは微笑んだ。
 ほのかが頼んだ紅茶はすぐに来た。
 その紅茶をほのかは飲んでいる。
 そしてほのかは何かを思い出したかのように、俺を見た。
「お姉さんとはどうでした? 私とどっちがよかったですか?」
「ごほっ、ごほっ……」
 あまりにもど真ん中に的が当たってしまった為、むせてしまった。
「別にいいですけど」
 ほのかは俺の反応が面白かったのか、少し笑っている。
 笑うところじゃないような気がするのだが、咎められないだけよかった。
「今日は私にしてもらいますから」
 待て、今日『も』だろ。
 突っ込みたかったが、突っ込めなかった。
 多分、わざとだ。
「気にしなくていいですよ。埼君がお姉さんとしたところで、私は今、十分幸せですし、思ったんですけど、あまり独占欲は強くないみたいですから。それに他の人が黙っているわけがないから」
 多分、千夏とさやかのことを言っているのだと思う。
「そういえば、埼君って年上の人にも人気がありますね」
『にも』というのは訳がある。
 中学3年の時、俺はとても人気があった。もちろん3年ということもあるから、殆どが下級生から人気だった。3年の時はどんどん成績がよくなっていくから、余計に人気が出てしまったらしい。部活にも入っていない俺があんなに人気が出る理由がわからなかったが、とにかく人気はあった。
 今もあまりあの時のことは思い出したくない。
 だけど年上とはどういうことか、わからなかった。
「知らないの? お姉さんも意地悪ですね」
 ほのかは微笑んだだけで、それ以上教えてくれなかった。奈津美も何も言わない。
「埼君。おはよう」
 いきなり挨拶されたので驚いた。
「挨拶してないでしょう」
「そうだったな。おはよ」
 朝食を食べるだけなのに、一日の体力を使い切ってしまったぐらいに疲れていた。

「埼君。どれがいい?」
 携帯ショップで俺は『何か』わからない携帯を見ている。
 どれがどうで、何が違うのか、全くわからない。
 形、色が違うのはわかるが、機能の違いまで分かるわけがない。
「本当に買うのか?」
「当たり前じゃない。いいでしょう。私が払うんだから」
 だから、そういうことを言っているわけじゃなくて、と言いたいのだが、すでに何度言ったので、意味がないだろう。
「埼君。今、断ったところで、私が一人で携帯を買いに行くよ」
 いきなり学校で『埼君。携帯を買って来ました』と手渡しで渡された日には周りからなんて言われるか。
「ああ。わかった。俺で払うから、買おうか」
「彰人」
 隣にいる奈津美が止める。
「言い出したら、聞かないだろ」
 奈津美は無言だ。言い返せないからだろう。
「……むかついたから、私が払う。月々の使用料金も払ってあげる」
「いや、それは流石に……」
「もう決めたから」
 月々の使用料金は、いろんな意味でやばいだろ。この年でヒモは嫌だ。
「それにいくら親からお小遣いを貰っていなくても、埼君よりは持っているつもりだから」
「でも……」
「気にするんだったら、そのお金でどこかに連れてって」
 だめだ。
 どんなに押しても、押し返される。
 というより、何も言えてない。
「彰人。このままでいいの」
 咎める奈津美だが、ほのかを止めることはできそうにない。
「ほのかがそれでいいなら、しょうがないだろ」
「話はすんだ? なら、そんなところにいないで、こっちでじっくり見ようよ」
 ほのかは俺の『空いている』手を取り、引っ張っていく。
「わかったから、引っ張るなよ」
「お姉さんがいるんだから、しょうがないだろ。ですか」
 ほのかは俺がさっき言った科白を真似した。
 でも、奈津美のことをとやかく言うつもりはないようだ。
「折角だから、お姉さんも決めてあげてください。埼君、『優柔不断』ですから」
 酷い。
 確かに否定なんてできない。結局、俺が『これ』と決めたのは1時間も後だった。しかもその後の手続きにさらに時間がかかった。
 その間、ぐちぐちと『埼君がさっさと決めないから、こんなに時間が……』と何度も言われた。
 俺が何をした。

 新しい携帯を持ちながら、俺は思案する。
 ……。
 ……。
 俺にどうしろと。結局その答えに辿り着いた。
 携帯のメモリには『ほのちゃん』『なっちゃん』がある。とりあえず簡単な操作方法をほのかから教えてもらった。メールはともかく電話はこれでかけられるはずだ。
「あのさ」
「ん?」
 ほのかは楽しくて仕方ないのか、さっきから跳ね上がっているように見える。
「このなっちゃんってなに?」
「埼君のお姉さん。私がほのちゃんなら、って思って」
「無理にあわせる必要なんてないだろ」
 奈津美は何一つ文句を言わず、自分の携帯番号を登録していたっけ。
「みゆちゃんたちにも連絡してあげないと」
「有坂だけは嫌だ」
「どうして?」
 俺がなぜ嫌がっているのか、わかっていないらしい。
「有坂に携帯番号なんて教えたりしたら……」
 これ以上は言えなかった。
「そっか。みゆちゃんってそういう人だもんね」
 ほのかは何でもわかってます、といった感じだ。
「でも、いいんじゃない。勝手にかかってきたものなんだから、それをどうしようと埼君の勝手でしょう」
「俺はよくない」
「断れない性格だものね」
 ほのかは少しだけ目を細める。
 俺を咎めているわけじゃなく、逆にそれが嬉しそうな感じでもあった。
「断れないんじゃなくて、断らないだけだ」
 いや、待てよ。その方が余計太刀が悪い気がした。
「そういうことにしておいてあげる」
「姉さんからも何か言ってくれよ」
「え? なに?」
 全く話を聞いていなかったらしい。
 奈津美はきょとんとしていた。
 今日の奈津美は一日中、こんな感じだった。

 すでに夕方。
 楽しい時はあっという間だとはよく言ったものだ。
「彰人。私、先に帰るね」
「え?」
 驚いたのはほのかだった。
「いいの。邪魔だったみたいだから、もう帰る」
「今日はどこでエッチする?」
 帰ろうとする奈津美に対して、ほのかは唐突に言ったから、俺は呆然としてしまった。
 奈津美は一瞬『視線で人を殺せてしまう』鋭さで睨んだ。
 ほのかは平然としている。
 先に視線を外したのは奈津美だった・
 そして踵を返し、さっさと帰ってしまった。
「姉さん」
 すでにいなくなってしまった奈津美を、今更ながら呼んでいた。
「つまらない。あの時の勢いはどうしたんだろ」
 そんなほのかの呟きが聞こえた。

 ありふれた普通のデートをしていた、と思う。
 奈津美がいても、一緒に楽しめるような、デートだった。
 比較対照できるのが深雪と健二のカップルなんだから、そもそもまともじゃないだろう。
 前に聞いたデートの実態に絶句した。
『商店街』→『映画館』→『公園』
 これを聞いた時には『有坂にしては普通だな』なんて笑ったりもしたが、本当の意味を健二が言った時には言葉を失うほどだった。
 デートコースというより、エッチコースだった。
 商店街ではリモコンバイブで気持ちよくしてもらい、そしてそのまま映画館でエッチ。そして公園で野外露出だった。
 もう何も言わないことにした。勝手にやってくれ、本当に。
 ということで、俺とほのか、奈津美も一緒にいたが、それなりに普通のカップルがやっているようなデートコースで、それでいて楽しかった。
 それなのにほのかときたら、奈津美がいなくなった途端、態度を変えてきた。

 ほのかが言うには一度はやってみたかったらしい。
 だからと言って、折角の初デートでそんなことをしないでほしかったのだが、押し切られてしまった。
 ほのかはいつも通りだった。
 逆に俺はハラハラドキドキである。
 明らかに短いスカートに、上はTシャツを1枚着ているだけ。いくらなんでも4月の半ばの服装じゃない。それにノーブラなのはすぐにわかる。下はわからないだろうが、もちろんノーパンだ。なぜかその下着を俺が持っているのだから、謎は深まるばかり。もちろん鞄なんて俺が持っているはずもなく、携帯を買ったときにもらった紙袋の中に入れてある。服は流石に入らないのでほのかの鞄の中だ。
「ちょっと寒い」
 ほのかはそれに後悔していたらしい。
「当たり前だ。いきなり『露出』してみたい、なんて言い出すから、何をするかと思えば」
「みゆちゃんが気持ちいいって教えてくれたから、試してみたかっただけ」
「有坂の真似なんてしなくていい。というか、しないでくれ」
「でも、試してみたかったから。ほら。お姫様を守ってくれる王子様がいないとこんなことできないじゃない」
「あのな。露出っていうのは、そもそもみんなに見られるだけじゃなくて、そこの場所では相応しくない格好でいることが、だな……」
 ふと何講義しているんだろう、と気づいたので、やめた。
「それってみゆちゃんから聞いたの?」
「ああ」
「ふうん」
 ほのかは周りにいる男たちの視線を感じているはずだ。
 俺は少しだけため息をした。
「埼君。こういうの嫌い?」
「嫌い、というか、苦手だ」
「そう。私は別に普通。ちょっと周りの視線が鬱陶しいけど」
「なら、やめてくれ」
 それが鬱陶しいと思うのなら、そもそも露出の意味がない。
「もうちょっとだけ。もう少しでわかるかもしれないから」
 何がわかるのか、知らない。
 だけど、きっちり3分後にほのかは歩みを止めた。
「やっぱり感じない」
 ほのかはちょっとショックを受けているようだった。
「そりゃ、そう……」
 だろ、と言う筈だった。
「あれ。ほのちゃんじゃない。どうしたの、そんな格好で」
 俺の言葉をかき消すように深雪が現れた。
「ちょっと、ね」
 ほのかは深雪から視線を外した。
「恥ずかしいの?」
 深雪は意外な反応を見せたほのかが面白いのか、『嫌』な笑みを浮かべていた。
「彰人。どうしたのっていうのは、聞く方が馬鹿だね」
 深雪は俺とほのかを交互に見る。
「どっちが主導者?」
「さあな」
「だめだよ。彰人は気が乗らないかもしれないけど、こういう時は言葉でなじってあげないと」
 どっちが言い出しっぺなのか、わかっているらしい。
 深雪はいつも通りの格好なので、俺には違和感がない。
 そう。つまり今のほのかと何ら変わりはない格好に近い。深雪の場合は寒くないように上だけは何枚か着ている。
 おまえの差し金か、と思いっきり叫んでやりたい。
 ほのかは学校の次期プリンセス。深雪は背が低いが、胸だけが大きいというアンバランスな格好に、それでいて童顔で可愛らしさがある。
 冗談抜きに注目されていた。
「ここは立ち去った方がいいね」
 深雪はさっさと決断し、俺の手を引っ張っていく。
「こういうのは段階を踏まないと拒絶反応が大きいんだよ。ほのちゃん」
 俺の手を握っているくせに、俺の後ろについてきているほのかに声をかける。
 ほのかは何も言わずについてきた。

「到着」
 深雪に連れてこられたのは公園だった。
 この公園は地元では、有名だった。
 なぜか夕方を過ぎると誰もいなくなるという曰くありげな公園。
 もちろん事件とか、そういったものがあったわけじゃない。ただ夕方になると極端に人がいなくなることで有名である。だからなのか、余計に人がいなくなるという循環である。
 この公園にいるのは俺とほのかと深雪だけだった。
 多分、この公園の広さも問題なんだろう。
 狭い公園でもなく、広い公園でもなく、ただその辺にある公園よりは広い公園だった。
 深雪はどんどん進んでいき、ベンチにゆっくりと腰を下ろした。
「こんなところで何するんだ」
「ほのちゃんの調教」
 にこりと微笑む深雪が、何故か別人に見えた。
「さっきは拒絶反応とか言っちゃったけど、ほのちゃんの場合は周りを気にしなさ過ぎる。それなら周りを意識させるしかない。それで何の反応もなかったら、ほのちゃんに露出癖はなかったってことだし」
「変な性癖を身につけさせないでくれ。大変なんだから」
「彰人って受身体質だから、もし私が強引に迫ったら、彰人はしちゃうでしょう」
「断る」
「でも、本気で私が迫ったらするでしょう。そういうことを言っているの。試してみる?」
 元々あるものを目覚めさせるだけだと言いたいらしい。
「みゆちゃん」
 ほのかの低い声が響く。
「冗談だから、首を締めようとするのはやめてくれるかな」
 ほのかはすぐに深雪の首から手を離す。
「本調子じゃないみたいだね。いつもなら完全に決めてるのに」
 ほのかは深雪の視線から逃れようと俺の後ろに隠れる。
「ほのちゃん。隣に座ってくれる?」
 いつものほのかじゃなかった。俺の後ろに隠れるようにいる。
「なら、彰人が座って」
「ああ」
 ほのかは深雪から隠れるようにして俺の隣に座る。もちろん深雪とは逆の方向に、だ。
「彰人」
 深雪は俺の目を見る。
 意思疎通、というわけじゃないが、深雪が何をして欲しいのか、理解した。
 こうなったら、とことん付き合うしかない。
「悪いな」
 少しの間だけほのかを押さえつけた。
「ちょ、埼君。あとで覚えておきなさい」
 暴れるほのかだが、ほのか程度の力で俺から逃げれるわけがない。
 その間に深雪がほのかの前に立つ。
「ありがとう、彰人。中途半端に教えてしまったその続きを今からするだけだから、もうちょっと待っていて」
 押さえつける必要がなくなった俺は隣で座っているしかない、のか?
 待っていて、ということは、つまり『待っていろ』ってことだろう。
 俺には聞こえないように深雪はほのかの耳元で囁いている。
 ほのかは俺を見たかと思えば、すぐに視線を外す。そしてまた俺を見る。その繰り返しだった。
 いったい、何を言っているのか、俺には到底わかるわけもない。
 数分もしたら、深雪は満足したらしい。
「彰人。次は面白い反応が見れるから、楽しみにしてて」
 で、深雪は立ち去るんだろうと思い込んでいた。
「ところで彰人。さっきから気になっていたんだけど、その紙袋の中は何が入っているの」
「ほのかの下着だ」
「そうじゃなくて。もともと何が入っていたものなの?」
 ……回避できそうにない。
「みゆちゃん。今日、埼君の携帯を買ったから、その説明書が入っている」
「そう、なんだ」
 ちょ、ちょっと待て。
 その嬉しそうな表情をまずやめてくれ。
 だけど、深雪が気づかなかったことにほっとした。
 ほのかは深雪に感づかせるつもりらしい。『埼君の携帯を買った』なんて言ったら、ほのかが買ったみたいじゃないか。事実、そうなのだから、否定は出来ないし、月々の支払いもほのかなのだから、俺は何一つ言えない。
「番号、教えて」
「いやだ」
「どうして!」
「有坂に番号を教えたら、絶対に変な電話をかけてくるだろ」
「……番号、教えて」
「頼むから否定してくれ」
 深雪は微笑んでいるだけだった。
「いいじゃない。教えてあげたって。私は構わないから」
 この後、俺はとても後悔することになる。こんなことなら、さっさと教えるべきだった。
「ほら。ほのちゃんからも了承を得たんだし」
「でも……」
「埼君。その携帯は誰が払うんだっけ」
 俺が渋っていると、ほのかは容赦ない一言ですべてを終わらせた。
 深雪は一瞬、理解できなかったらしい。だが、理解した瞬間、俺を意外そうな、それでいて、当たり前か、とでも言いたそうな目をしている。
 頼む。そんな目で見ないでくれ。居た堪れないから。
「有坂。言いたいことはよくわかる。だが、俺だって出そうとしたんだ。わかるか。わかっているか。なあ、わかるって言ってくれ」
「払ってもらうことには変わりないじゃない」
 撃沈した。
「ほら。早く教えてよ」
「みゆちゃん。埼君に聞いても、番号なんて出てこないから。どうせ覚えてないだろうし、携帯の操作だってわからないから」
 俺はぐうの音も出なかった。
「そうだね」
「納得するな」
「なら、教えてよ」
「だから教えたくないって言っているだろ」
「みゆちゃんを仲間はずれにするなんてかわいそうじゃない。それに携帯番号は私が教えてあげるつもりだったし」
 どうせ教えるのだから、自分から教えろと言いたいらしい。言えないことをわかっているくせに。
 ここまで来ると引くに引けない。
「俺は、絶対、教えない」
 一言一言区切るようにはっきりと言ってやった。
 すっきりしたのだが、深雪が無表情になっていた。
「……あの。有坂。言いたいことはよくわかる。うん。よくわかっているから、俺の前に仁王立ちするのだけはやめてくれないか。ああ、そうか。うん。俺が悪いって言いたいんだな。確かに俺も言いすぎたところがあったかもしれない。それは素直に謝ろう。すまん」
 焦ったり、やましいことがあったりすると、余計なことをベラベラ喋ると言うのは本当だ。やけに口数が多いことに気づいているのに、とめることができない。
 とにかく俺はここから場所を移動したい。だが立ち上がろうとすると深雪が邪魔になる。だからと言って、強引にどかせようとすると何か『スイッチ』でも押してしまいかねない。どんなことをされても振り払えることはできるだろうが、その後が怖いから何もできなかった。
 動けない。
 十秒ぐらい経った後だろう。
 完全に視界に入っていなかったほのかの腕が俺の首に巻きつけてきた。
「ちょ、待て。ほのか」
「さっきの仕返し。みゆちゃん、今回は許してあげる」
 このほのかの一声で深雪のスイッチが切り替わったのか、深雪の表情が今までと違っていた。
 こんなにも一瞬で表情が変わったことに驚きつつ、その表情の意味を知った。
 悦楽。すでに快楽に溺れていた。
「ま、待て。有坂には健二がいるだろうが」
「わかってるよ……はぁ」
 全然わかっていない顔で言われても、困る。しかも最後の艶の入った息は何なんだ。
「健二ったら、私の趣味に『乗り気』じゃないんだよ。それで知り合ったっていうのに」
 努めて冷静な深雪に俺は空恐ろしいものを感じる。
「彰人は、私のこの趣味を理解してくれているから、嬉しいんだよ」
 深雪は自らスカートを捲し上げる。
 わかっていたことだが、ノーパンだった。
 それだけならまだいい。健二だって理解はできるだろう。
 でも、これは見た瞬間、引くぞ。
 俺から見える範囲で2つのローターが深雪の中で入っている。一つは陰部、もう一つは陰核に固定していた。その2つのローターはスイッチを入れていないようだ。それなのに、すでに深雪の秘所は濡れ、しかも太腿にまで伝わっている。
「ねえ、彰人。これ、使って。そして私を見て」
 と、渡されたリモコンが4つ。
「あ、有坂」
「みゆちゃん。一体、どこにそんなにつけているの?」
 あまり答える余裕はないらしい。
「み、見る?」
 震えた声で尋ねてくる深雪に俺は頷いた。
 深雪は嬉しいらしく、スカートを完全に捲し上げる。俺の位置からは見えないが、お尻まで完全に外に晒されている。
 これで後ろに誰かが通ったとしても、深雪が何をしているのか丸見えだろう。
 そして深雪はぐるっと後ろを向く。
「なっ!」
「みゆちゃん。凄すぎ」
 感心しているほのかだが、俺は驚くことしかできなかった。
 初めて見たのだが、そこにはアナルパールを入れていた。
「待て。どうやってさっき座ったんだ?」
「声に出さないの、大変だったんだから」
「そう、か」
 ちょっと待て。
「それ、リモコンは関係ないだろう」
 ほのかもそれに気づいたらしい。
「当たり前じゃない」
 深雪はスカートを捲りあげた状態でしばらく考え込んでいた。
 そして動き始めたら、スカートを下ろしてしまった。
「最後の2つは、ここ」
 深雪は何枚か着ている服を一気に捲り上げる。
 深雪の膨やかな胸の両方の乳頭にローターを固定していた。
 たくさん服を着ていた理由がわかった俺は……何も言う気が起こらなかった。
「ねえ、彰人。見てる? 私を見てる?」
 隣にほのかがいるというのに、全く無視して俺に話し掛ける。
「あ、ああ」
「埼君。ほら、入れてあげないと」
 ほのかは気にした様子もなく、一つのリモコンのスイッチを指差す。
 止、弱、中、強。
「埼君の好きな強さで」
 ほのかに操られるように、俺はリモコンを強にした。
 うぃぃぃん。
「きゃ、ひゃぁん……だめ、ああぁっ……と……あぅ……と、めて……」
 動き出したのはどれなのか、よくわからないが、秘所のどちらかだと思う。
「じゃ、次ね」
 ほのかは俺が止めようとしたリモコンを奪い、後ろに放り投げた。
「おい。投げるなよ。壊れたらどうするんだ」
「ん? そうだね。埼君が止めようとしなかったら、投げないから」
 これまたリモコンを手渡す。
 止、弱、中、強。
 さあ、選択だ。
 このまま『止』では許してくれそうもないので、『弱』にした。
「んっ! ……くぅ……ああぁっ……」
 外と言うこともあるのか、深雪は必死に声を押えようとしているのだが、あまり効果がない。ある程度まで近寄れば、深雪の喘ぎ声が聞こえることだろう。
「貸して」
 と、俺は普通にほのかに手渡してしまった。
「ぽちっとな」
 変な掛け声共に、ほのかは『弱』だったものを『強』に変更した。
「だ、だめぇ……もう、……ああっ……あああぁぁぁぁっ!!」
 がくがくと足が振るえ、最後は尻餅を付いた。
 体がびくっと動いた深雪だったが、すぐに我に戻った。
「ほ、ほのちゃん……」
 少しは冷静になったのか、落ち着いていた。
「なに?」
「彰人に押させてよ」
「しょうがない。ほら、彰人。ご指名だから」
 残り2つのリモコンが手渡される。
 というより、いつの間に全部持っていたんだか。
「ああ」
 俺はもう押さなくてもいいんじゃないのか、と思うのだが、深雪はベンチに座っている俺を見上げるように見つめている。
 目を潤ませ、今か今かと待っているのがわかる。
「はぁ……あぁ……くぅ……ん……」
 それでも未だ深雪の刺激させ続けている。
「もう、なんで俺がこんなことを」
 一つのリモコンをぽちっと強にしてやった。
「ああぁっ……ぅ……ぁ……」
 初めだけ声をあげたが、すぐに抑えた。
 どうやら胸の方だったらしい。直接的な刺激じゃない分、ある程度余裕があるように見える。
 俺は最後のリモコンを押すに押せず、そのままにしていた。
「んん……あぁ……ぃ……っ……ああ……」
 ほのかはそのままにしておくのがつまらなかったらしく、立ち上がった。
 しゃがみ込んでいる深雪の隣にしゃがむ。
「誰か見てるかもしれない公園で、そんなによがり狂って」
 ほのかは深雪の口周りの涎を自分の手で拭くように指につける。
 それをほのかは舐めた。
「みゆちゃん。ほら、立ち上がって」
 ほのかは深雪の脇に下に腕を通すと、そのまま強引に起こす。
 たまに思うが、ほのかの力は結構あると思う。
 深雪の背は低いとはいえ、女の子が軽々と持ち上げられるほどの体重ではない。40キロ程度だと思うのだが、正確な数値は知らない。
「みゆちゃん。前を見て。埼君が見てるよ」
「ああぁ……彰人……はぁ……あうっ……ふぅん……」
 焦点が合っていない目で俺を見る。
「ふう。ちょっと疲れた」
 ほのかは深雪を持ち上げていた手を下ろす。
 既に足に全く力が入らない深雪はそのままストンと尻餅を突く。
「あああっっ」
 ピクピクと体を振るわせる。
「あれ? またいっちゃったの」
 凄いノリノリのほのかに俺は置いていかれた。
「こんなに涎をたらして、恥ずかしいと思わないの?」
 ほのかの言っている涎とは口周りについている涎じゃない。
 ほのかはみゆきの膣に入っているローターを手で動かす。
 くちゃ。と音がした。
「いやぁ……ほのちゃん……ああっ……や、やめてぇ」
「思った以上に凄い振動なんだね」
 直接、ローターを持ったのか、そんな感想をもらした。
「でも、こっちのローターは動いてないじゃない」
 陰核につけられたローターを動かす。
「ぎゃぁっ」
 喘ぎ声というより、叫び声みたいな声をあげた。
「埼君。ちょっと貸して」
 俺は最後のリモコンをほのかに渡してしまった。
「ぽちっとな」
 また変な掛け声と共にスイッチを入れた。
「あぁぁっ……ほ、ほんとに……くぅ……はぁ……あぅっ……だ、だめ……」
 声を抑えることすら、もうできないようだ。公園中に響き渡っているのではないかというぐらい、大きな声で喘ぐ。
「と、とめて……ああっ……また、また……ああああああぁぁ」
 ぐったりとして動かなくなった深雪に俺は慌てた。
「お、おい。大丈夫か?」
「大丈夫でしょう。気絶するぐらい気持ちよかったみたいだし。埼君。ここに2つの選択肢があります」
 ほのかは2の指で作る。
「じゃあ、1つ目」
 1の指を作ったほのかはとんでもないことを言い出す。
「私も今、とてもしたい気分になったから、このままホテルに入って速攻やる。もちろんみゆちゃんはこのまま放置ね。こんなの背負って街中歩けないでしょう」
「あ、ああ」
 とりあえず頷いた。
 そして2の指。
「ここでするか。さあどっち?」
 深雪を放置と言ったら、本当にこのまま放置するのがほのかだ。
 だからと言って、ここでする気にもなれない。
「もし選ばなかったら、その両方を実行するから」
「わかった。ここでやればいいんだろうが」
「嫌なら別にホテルまで行ってもいいんだけど」
「有坂を放って置くわけにはいかないだろう」
「そうだね。とりあえずここに放置しておくわけにもいかないから、木陰に連れて行きましょう」
 ほのかはずんずん先へ行ってしまう。
「俺が運ぶのか?」
 声に出したが、その通りなのだろう。
 俺は深雪を背負おうとしてやめた。先に地面に落ちていたスカートを拾っておく。そして捲れあがっている服を下ろした。これで上半身だけは大丈夫だろう。あと、携帯の説明書とほのかの下着が入っている袋を持つ。
 意識がなく、倒れている人を1人で背負うのはかなり骨が折れそうなので、お姫様抱っこみたいに抱え上げる。
 それで気づいたのだが、ローターがまだ動いていた。
 リモコンを探そうと辺りを見渡したが、どこにも見当たらなかった。仕方がないので、ほのかを追うことにした。

 広いだけあって、いい感じに隠れられるような木が何本も立っているところを見つけた。
 元よりほのかはここに一直線に向かっていたのだから、ここのことを知っていたのだろう。
「なんだか、体が熱い。私も脱いじゃおうかな」
「勝手にしてくれ」
 深雪を木の下に下ろした俺は軽く伸びをする。
「あっ! いいこと思いついた。埼君。シャツ、貸して」
「ああ」
「なら、さっさと脱いで」
「わかったよ」
 もうあれこれ抵抗する気力がなかった。
 素直に上半身裸になった俺はシャツを渡す。
「ちょっとくしゃくしゃになるけど、いい?」
「いいが、何をするつもりだ?」
「これでみゆちゃんの手を縛る」
「はあ?」
 ほのかは手際よく深雪の手を後ろで縛る。
 そしてハンカチを取り出し、それで目隠しをさせた。
「大きなハンカチだな」
 個人的な感想を漏らした。
「大きければ、何かと都合がいいじゃない」
 何がどう都合がいいのか、全くわからない。
「このままどこかに行こうか? その方が面白いかも」
「かもな」
 ほのかは黙って俺を見た後、
「本当に人が来ちゃう前にやらないとね」
 と、笑顔で返してきた。
 ほのかはさっさと上と下を脱ぐ。1枚しかないので、あっという間に素っ裸になった。
 もう少し恥じらいをもったらどうだ、と言いたいが、無駄だろう。
「ほら。触って」
 ほのかは俺の手を持ち、その手を自分の秘所へと導く。
「んっ……ほら、見て……こんなにも濡れてる。どうしてか、わかる?」
 ほのかは俺の股間を擦る。
「埼君のここが大きくなってるから」
 一向にやる気を出さない俺に怒り出したほのかは俺のズボンを脱がしていく。
「ば、ばかか。やるよ、やればいいんだろ」
 ほのかの口の中に強引に舌を入れる。
 キスといえるものじゃない。ただ強引に貪っているだけ。
「んっぁ……ちゅっ……ちゅぁ……さ、埼君。お願い、して」
「ああ」
 ほのかは深雪がもたれている木に手をつけ、こちらに尻を突き出す。
 俺はファスナーを下ろし、自分のものを外に晒す。
 そしてほのかの腰を持ち、ほのかの秘所へ突き入れる。
「あああぁっ」
「んっ……」
 深雪はその声で目覚めたらしい。
 目隠していているので、実際に目を開けたかどうかまでわからない。
「ほのちゃん。いるんでしょう。前が……んっぁ、ぁ……見えないんだけど」
 シーとほのかは口を抑える。
 喋るな、ということらしい。
「ほのちゃん?」
 少し不安そうな声だった。
 すまない。ほのか。目茶目茶悪戯したい気分になってきた。
 ゆっくりと腰を動かす。
「んっ……ぁっ……さ、埼君」
「ほのかが黙っていれば、聞こえないだろ」
 小声で話す。
「ぁ……っ……」
 必死に声を抑えようとしているが、深雪に気づかれたらしい。
 深雪は結構、耳がいいらしい。
「ほのちゃん、いるんでしょ」
「うん」
 さっさと認めたほのかだったが、この程度で終わらせるほのかでもない。
「……ぁっ……と、とめてくれない?」
「だめ」
「ほのちゃん……ああっ……持ってるんでしょう……ぅ……いい加減、とめて」
「だめだって。ほら、埼君。動いて」
「わかった」
 俺は再び動き出す。だが、さっきみたいにゆっくりではなく、激しく突いた。
「ああぁ……ふぁっ……いいよぉ、埼君……もっとぉ……」
 ほのかは目の前に深雪がいるというのに、気にもせず声を上げる。
「ほのちゃん……あとで覚えて……ああぁ……もう、とめて」
「だ〜め……んっぁ……そんな、泣きそうな……顔をしてもとめてあげない」
 深雪は気づいていない。
 ほのかはリモコンなんて、持っていない。
『どこに』隠したやら。
「んっぁ……ふあぁぁっ……埼君。外に出したら……ぁ……許さないから」
 脅迫だった。
「知らないぞ」
「大丈夫。埼君のなら」
 やっぱりやめておこう。
「もし外に……あぁ……出したら、出してもらうまで、やる……ふぁっ……から」
 本当に押し倒されかねないので、素直に従うことにした。
「本当に知らないからな」
「うん。いいよ」
「彰人も、後で……ぁぁっ……覚えておきなさい」
 そんな深雪の科白は無視した。
「ああぁ……埼君……いいよ……もっとぉ、もっと」
「ほのか。もう……」
「いいよ。出して。ああ……ふぁ……あ、あああぁぁっ」
 ドクドクとほのかの中に注ぎ込む。
 俺とほのかはそのままぐったりと横になった。
 ……深雪は未だに喘いでいるが、どうにかしてあげる気力はなかった。

 3人ともとりあえず服は着たのだが、会話がなかった。
 正確には俺とほのかは普通なのだが、深雪だけが怒っている。
「みんなに見られるって気持ちことなんだね。やっとわかったよ、みゆちゃん」
 その科白で空気を和らげた深雪は少しだけ頭をかいた。
 それにしても、みんなっていうか、俺と目隠ししていた深雪しかいないだろ。
 頼むから、こういうことに俺を巻き込まないでくれ。
「ほのちゃん。怒る気力なんてなくなっちゃったから、何もしないけど」
「なに?」
「今度やったら、許さないから」
「同じことは二度もやらないのが私の主義だから、安心して」
 ピースしているほのかに『それは違うだろ』と言ってやりたい。
 その姿に呆れたらしく、深雪は軽くため息をついた。
「これからどうするの?」
 深雪はさっさとこの状況から抜け出したいらしい。
「埼君はこんな感じだし、もう無理かな。あと2回ぐらいはやりたかったんだけど、昨日の今日だとこのぐらいが限界みたいだし」
 ほのかだって昨日の今日だろうが。
 というと、このまま第2ラウンドに突入しかねないので黙っていた。
「ほのちゃん。……元気なんだね」
 直接、やってはいないとはいえ、深雪も自分の玩具で絶頂にあった。
「そう? このぐらい普通だと思うんだけど」
「彰人。これから大変だね」
 全ての気力をさっきのアレに持っていかれてしまい脱力してしまっている。しばらくは動けそうにない。
 何で俺がこんなにぐったりとしないといけないのか。
「埼君。これからどうする?」
「ちょっと休ませてくれ」
「私はそろそろ帰るから。二人の邪魔しちゃ悪いし」
 なら、初めから邪魔しないでくれ、と思うのは俺だけだった。
「そんなことないから」
「いいの?」
「よくない。さっさと帰りやがれ」
 しっしと俺は追い払う。
「彰人もそう言っているから」
 深雪は立ち上がり「じゃあね」と去っていった。
 まるで嵐が通り過ぎていったかのようだ。

 この後は一緒に夕食を食べたりしたり、普通のデートの続きだった。
 今日はこのままお開きとなったので、俺はほのかを家まで送った。
 俺は寄り道もせず、そのまま真っ直ぐ家に帰る。
「ただいま」
 小さな声でドアを開ける。
 あの時と同じ。家中が真っ暗だった。
 ……もしかして、昨日の繰り返しか?
「姉さん」
 今度は余裕があるのか、声をしっかりと出すことが出来た。
 前みたいに襲われようとも、一度してしまったのだから、開き直ってしまったのかもしれない。
 相変わらず返事はない。
 俺は仕方なく、部屋に戻って休むことにした。
 とりあえず荷物ぐらい置いてから、風呂に入って、寝ることにしよう。
 俺は自分の部屋のドアを開けた。
「彰人ぉ……」
 と同時に閉めた。
 奈津美は俺のベッドで自慰に耽っていた。
 頼むから、人のベッドでやらないで欲しい。
 それより、リビングに戻ることにしよう。荷物ぐらいそこに置いておけばいいだろう。
 …………。
 ………。
 ……。
 待て。追ってこない。
 俺が入ったことに気づかない奈津美じゃない。
 リビングに荷物を置いた俺はとても不安になってきた。
 荷物と言っても、ほのかがある意味強引にもたせた携帯関係のものだった。取り扱い説明書は分厚いから読む気にはなれない。もしわからなかったら、ほのかに聞けばいいか。
 とりあえず俺の部屋にいるであろう奈津美のことを考えるのをやめた。
 どうせ風呂から出れば行くことになるのだから、今考えたところでどうにもならない。
 とにかくさっさと風呂に入ろう。

 温かいはずのシャワーを浴びているのに、寒気がする。
 今から逃げ出そうと出て行ったところで、ここに押し込まれる気がする。
「姉さん。いるんだろ」
「……ばれた?」
 ガラガラっと開く。
 奈津美が入ってきたことはすぐにわかるので、確認なんてしない。俺はずっと背中を向けることにした。
「勝手に入ってくるなよ」
「勝手じゃないよ。今から了承を取るんだから」
 奈津美は後ろから抱きしめる。
「ひやっ」
「彰人。どうして部屋に入ってきてくれなかったの? ずっと待っていたのに」
「姉さん。ちょ、離れて」
「い〜や」
 奈津美は逃げようとする俺をさらに強く抱きしめる。
「うっ、わかった。わかったから」
「何がわかったの?」
 そっと耳元で囁いたかと思ったら、ふぅっと息を吹きかけられた。
 ゾクゾクと体が震える。
 それと同時に奈津美の手が俺の体のあちこちを触る。
「ああ。もう。触るな」
 軽く振り払ったつもりだが、思いのほか強く振り払ってしまったらしく、奈津美はバランスを崩して、倒れてしまった。
「大丈夫か」
「……痛い」
「悪かった」
 起き上がらせようと手を差し出したが、その手を奈津美は思いっきり引っ張った。
「ば、ばか」
 奈津美に覆い被さるように倒れてしまった。
「彰人……大好き」
 キスをする。
「ほら。背中、流してあげるから。起きて」
「あ、ああ」
 俺は起き上がり、背中を流してもらった。

 湯につかる。
 俺の家の浴槽はそれなりに広い。
 俺でも十分足を伸ばせるぐらいの余裕はある。
 奈津美は俺が入ったのを確認してから、入ってくる。
 ざばぁぁぁっと湯が溢れる。
「彰人。今度から最初に私が入るから」
 湯が溢れることを気にしたらしい。太っていると見えるのかもしれない。
「姉さんは別に太ってないじゃないか」
「そうだけど、やっぱり嫌だから」
「ちょっと待て。また一緒に入るのか?」
「嫌なの?」
「そんなことは言ってないだろ。確認しただけだ」
「ねえ、彰人。ぎゅって抱きしめて」
 俺は抱きしめる。
 奈津美はそれだけでは物足りないらしく、体を少し動かす。
「彰人のが大きくなってる」
 奈津美のお尻に当たっているのがわかるのだろう。
「こんなこと、されれば」
「彰人……お願い」
 奈津美の悲しそうな顔を見たら、断れなかった。
「ああ」
「はぁ……あっ……」
 声を出さないようにしている奈津美の胸をゆっくりと揉んでいく。
「……んっ……ぅ……」
「こうしているんだから、声を聞かせて」
 耳元で息を吹きかけるように囁く。
 自分でも凄い気分が乗ってしまっているのがわかる。
 実の姉なのに、こんなことをしていることに、異様に興奮してしまっていた。
「彰人。彰人ぉ……んっ……」
 完全に勃起し始めた乳首を摘まむ。
「んっ!!」
 それでも声を出そうとしない奈津美に俺は一気に責め立てる。
 乳首を摘まんで、離し、摘まんで、離し、それを繰り返す。
「だ、だめ……このままだと……くぅん……」
「このままだと?」
 俺は一旦手を止める。
「はぁはぁ」
「このままだと何?」
 俺は奈津美の胸をきゅっと握る。
「んっ。彰人ぉ。このままだと先に私がいっちゃうから」
 別に俺はそれでもいいのだが、奈津美が嫌がった。
「私はもう大丈夫だから」
 そう言って奈津美は腰をあげる。
「いいのか?」
「うん。昨日だってしたじゃない」
「わかった」
「う、うん」
「大丈夫だから」
 俺は自分のものをしっかりと固定しながら、奈津美の膣に入れていく。
「んんんっ」
 奈津美はくぐもった声を出す。
「いいから、動いて」
 まだ痛いのか、少しだけ苦痛に顔をゆがめる。
「でも」
 痛がるぐらいなら俺はしたくはなかったのだが、奈津美は目に涙を浮かべながら、俺に懇願する。
「お願い、だから」
「……わかった」
 俺は腰を動かす。
「ああぁっ……あん……」
 ばしゃばしゃと浴槽から湯がこぼれていく。
 湯はどんどんなくなっていくのに、それでもまだこぼれていく。
 激しさが増していく。
「彰人。彰人ぉ……ああっ……いいっ」
「ね、姉さん。そろそろ」
「うん。いいよ」
「ああっ……はぁっ……くぅっ……ああぁ……」
「姉さん」
「いいよぉ……あ、ああああああっ」
 俺は寸前のところで引き抜く。
 精液が奈津美にかかる。
 俺も奈津美も脱力してしまい、そのまま座り込む。
「……彰人」
「……なんだ」
「やるときは、せめて浴槽から出ないとまずいね」
「ああ」
 完全にのぼせていた。
 立ち上がろうとしても、世界がグルグル回っていて、立ち上がれない。そのまま湯船に浸かったままではまずいので、這い蹲りながら、浴槽から出る。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見える?」
「全然。とにかく出よう」

 リビングのソファに座って、熱を冷ます。
 奈津美はすでに眩暈はなくなったらしい。
「見てもいい?」
 と、俺が何かを言う前に、携帯の説明書を出そうとする。
 ……あっ。そういえば、ほのかの下着が入っている。
 一気に目覚める。
「姉さん!」
 時すでに遅し。奈津美の手にはほのかの下着がある。
 逃げよう。
 俺の動きは速かった。
「彰人!」
 そのときにはすでに階段を駆け上がっていた。
 待て。逃げたら余計に状況を悪化させるだけだ。
 と思っても、もう遅い。
 後ろからドタドタと奈津美が追いかけてくる。
 俺は部屋に入り、鍵をかける。
「彰人。覚悟はいい? 本気になればその程度のドアなんて壊せるんだから」
 見えていないのに、奈津美が僅かに微笑しているのがわかる。
「姉さんが怒っていないなら、開ける」
 奈津美の返事はない。
「彰人。あと3秒」
 え?
「2秒」
 ちょ、ちょっと。
「1秒」
「わかった、わかったから」
 とても開けたくない。
 そんなことを考えていたら、何秒か経ってしまった。
「彰人。残り1秒」
 ……。とにかく隠れよう。
 今の奈津美はいろんな意味で危険だ。
 もうドアは破壊されようが構わない。
 とにかく時間がない。
「0」
 ドンっ!
 鈍い音が響き渡る。
「あれ? ちょっと手を抜きすぎちゃった。彰人。最終警告だよ」
 わざと壊さなかったに違いない。
 隠れるなら今しかない。
 俺は……。
 隠れる場所がないことに今更ながら気づくことになった。
 こうなったら、こっちだって意地だ。
「俺は断固、抗議する。あれは不可抗力で」
 ドンっ!!
「彰人。私、物を壊したくないんだけど」
「どうせ壊せないくせに」
 ……しまった。
 奈津美が無言になった。
 隠れようとして、結局隠れた場所が、ベッド、つまり布団の中だ。
「そう。なら、壊してあげる」
 バンっ!!
 本当に壊しやがった。
 カランカラン、と金具の音さえ聞こえてくる。
「彰人。私は説明して欲しかっただけなんだけど、こうまで抵抗されるなんて思わなかったな」
 奈津美は一直線にこっちに向かってくる。
 バレバレらしい。
 俺は布団を握るが、それもむなしく簡単に布団を剥ぎ取られてしまった。
「これ、なに?」
 2つの下着が俺の頭上にある。
「俺もよくわからない」
 このまま寝転がっては奈津美の思うままになってしまうので、起き上がろうとするが、奈津美はその下着を持った手で俺の顔を抑え込む。
 まずい。怒り頂点だ。
「とにかく落ち着いてくれないかな」
「私は落ち着いているよ」
 全然落ち着いてない。
 腸が煮え繰り返っている。
「姉さん」
「なに?」
「普通に俺の上に跨るのはどうかと思うんだけど」
 すでにベッドの上に乗っている。
「別にいいじゃない」
 どこから用意したのか、奈津美の手には縄があった。
「じょ、冗談だろ」
「どうだろ」
 そんなことを言いつつ、素で俺の手を縛ろうとする奈津美に俺は慌てた。
「悪かった。俺が悪かったから」
「本当にそう思ってる?」
 珍しく譲歩してくれるらしい。
「ああ」
 こうなったら、先手必勝だ。
「姉さん。一緒に寝よう」
「いいの?」
 昨日だって一緒に寝たんだし、拒むことはしない。それに俺だって奈津美と一緒の布団で寝るのは嫌いじゃない。
「当たり前だろ」
「うん」
 俺の上からどいた奈津美はもぞもぞと布団の中に入ってくる。
 こういうしおらしいところだってあるのに、縄を使って縛ろうとするのも奈津美だった。
「彰人」
「なんだ」
「今度、こんなことがあったら許さないから」
「ああ。ほのかには言っておくから」
 奈津美は俺にキスをする。

 この日も一つの布団で、二つの体を寄せ合い、お互いに体を温めながら、眠ることになった。


次回予告!
千 夏「なに、このエロ描写の多さは」
さやか「暴走したからじゃない」
千 夏「あの露出狂がっ!」
さやか「本当なら奈津美との縛りも入れるつもりだったらしいし」
千 夏「え?」
さやか「他にも削除した場面がかなりあるらしいから」
千 夏「私の出番が、削除されて……」
さやか「そんなわけないって、作者から」
千 夏「うがぁぁぁ」
さやか「はいはい。千夏、大人しくしてね」
千 夏「どうして恋人がいるあの露出狂があんなに出番があるの!」
さやか「多分、凄い裏設定があるからじゃない」
千 夏「なに、それ」
さやか「さあ」
千 夏「もう我慢できない」
さやか「千夏?」
千 夏「うがぁぁぁぁぁぁ。私を出せ〜〜〜〜!!」
さやか「仕方ないよ。多分、私たちの出番なんてここぐらいしかないから」
千 夏「なら、今から作者のところまで言って、脅してくる」
さやか「え?」
千 夏「泣いて許しを請うまで、やめないから。どんな声で泣いてくれるのかな」
さやか「本編に全然でてないのに、千夏の本性がはっきりしてきたね」
千 夏「『彰人君。一緒に帰ろう』」
さやか「きもっ」
千 夏「何、いいじゃない。1話では可憐なロリッ娘だったのに」
さやか「そんなの猫被っただけじゃない」
千 夏「さやか。私、怒るよ」
さやか「(無視して、次回予告のペーパーを読んでいる)げっ!」
千 夏「どうしたの?」
さやか「これ見て」
千 夏「うわっ」
さやか「ついに登場かぁ」

さやか「その日はほのかの家でお楽しみだった」
千 夏「そんな真っ最中の時、ほのかの妹、あずさがほのかの部屋に入ってきた」
さやか「『お姉ちゃん。楽しそうだね。私も混ぜてくれる?』」
千 夏「そこで妹のあずさから明かされるほのかの小遣い稼ぎ」
さやか「信じられない事実に彰人は唖然とする」
千 夏「最強の妹が登場する7話『恋人の妹は女王様?』」
さやか「『お兄さん。可愛い声で泣いて』」
千 夏「こうご期待」

千 夏「エロ描写が多くなりそうな展開だね(怒)」
さやか「そうなの? 気づかなかった」
千 夏「だって、お楽しみのところって」
さやか「ただ遊んでいただけでしょう」
千 夏「………そうなの?」
さやか「さあ。それよりこの話ってする意味あるの? だってこの小説は姉の話なのに」
千 夏「日曜日をどうやって埋めようか、考えた結果じゃない。だったら、姉を出せばいいのに」
さやか「そんなことをしたら、面倒だって」
千 夏「単発キャラ? でも、私とあずさはさやかと……ふふふっ」
さやか「(ぞくぞく)お、思い出させないで」
千 夏「楽しみDA!」
さやか「二人がかりは嫌なの」
千 夏「お後がよろしいようで」
さやか「こんな終わり方、もう嫌」




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