「今日はどこにも行かないよね」 朝食を食べているとき、唐突に奈津美は切り出した。 「ん? あ、ああ」 その科白を行った瞬間。 ジリリリリリ。 黒電話の着信音が響く。 携帯を肌身離さず持っていることに苦笑してしまいそうだが、思っている以上に嬉しかったみたいで、こうして朝食の時も部屋に置いておかず持ち歩いていた。 携帯には『ほのちゃん』と表示されていた。 「もしもし」 「埼君。おはよう」 「ああ。おはよう」 「昨日、言い忘れちゃったから。今から私の家に来てね」 プープープープー。 俺の返事はなしですか。 「えっと、姉さん。……行ってく……んんっ」 さっきまで前に座っていたのに、いつの間にか隣にいた奈津美は俺の唇を塞ぐ。 椅子が傾きそうなぐらい俺に体重を預ける。 いくらなんでもこのままだと後ろに倒れかねないので、俺は奈津美を押し返した。 「彰人」 奈津美の表情を見たら、胸が締め付けられた。今にも泣きそうで、それでも笑顔を作っていた。そんな姿を見せられたら、このままほのかの家に行くことなどできない。 「姉さん」 「いいの。行ってきて」 奈津美は慌てて言葉を紡ぎ、俺から視線を外す。 「でも」 「なら、一緒にいてくれる?」 俺は何も言えない。 「……はぁ……行くなら、早く行って。じゃないと、一歩も外に出させないようにするよ」 奈津美は本気だった。 どんな手段を使うのか知らないが、余程の事をしてくるに違いない。 俺はすぐに立ち上がり、家を飛び出した。 目の前に巨大な家が建っている。 ……引き返そう。 やっぱり来るべきではない。 だからといって、今更家に帰ることもできない。家にいるはずの奈津美が少しだけ怖かった。 「埼君。帰るつもりなの」 いつの間にかほのかは俺の前に立っていた。 「なっ。驚かすな」 「今、帰ろうとしたでしょう。家に帰って何するの? お姉さんとあま〜いひとときでも過ごすつもり」 ほのかは俺の手を握り締める。 「んっ……ふっ……ふう、埼君。ほら、触って」 ほのかは俺の手を自分の胸に当てる。 「……もう! やる気が感じられない」 「俺は、人が見ていそうなところでやらない!」 「見られなければいいなら、家に入って」 ほのかにヤルことしか考えてないのか、と聞きたい。 「逃げようとしたら、ここでするから」 俺なら平気でほのかから逃げられる。それを理解しているほのかはとんでもないことを言い出した。 「ここで埼君の名前を叫びながら、エッチするから。……考えただけで興奮してきた」 俺は思う。 俺の近くにいる人たちはどこかネジが緩んでいるか、外れている。 それが真実だと本当に理解するのは、数時間後だった。 いや、まあ、なんていうか。 こういう展開は予想できた。 ほのかの部屋に入った途端、俺はベッドに座らされた。今考えれば、すぐに押し倒されなかっただけましだろう。 『朝』からパワー全開のほのかに俺は敵わなかった。 とにかく何ていうか、最終的には押し倒されたわけだ。 俺は抵抗した……はずだ。 まったく。金、土、日とこれでやりっぱなしじゃないか。しかも日は朝からだ。 そんなことを考えながら、ほのかを見ていた。寝転がっている俺をほのかはすでに妖艶に微笑んでいる。 もう何も言っても無駄だろう。 「ほら、見て」 ほのかはスカートを捲し上げる。 すでに予想はしていたが、何も身に着けてなかった。 深雪の影響を完全に受けてしまっていた。 「埼君のことを考えていたら、こんなんになっちゃったんだから」 責任を取って、と言わんばかりに、迫ってくる。 うっすらと湿っているそこを凝視していた俺は我に返り、迫ってくるほのかの肩に手を置いた。 「ちょっと待ってくれ」 「何?」 「準備というものがあるだろ」 待て。何言っているんだ、俺は。 いくら焦っているとはいえ、この言い方はまずい。 準備じゃなく、段階と言いたかった。つまり朝っぱらからやるのはどうかと言いたいのだ。 「???」 ほのかは言っていることがわからないらしく、頭の上に『?』マークを飛ばしているのが見える。 「だから」 俺が言い直そうとしたら、ほのかは俺の股間に手を置く。 「準備万端でしょ」 負けた。これ以上言い合っても、押し切られるだろう。 「ねえ」 ほのかは軽くキスをしてきた。 俺はただ流されるだけだった。 朝っぱらから何しているんだろう、と思いつつ、俺は腰を突き上げる。 「っん……ああぁ……いい……埼君……いいのぉ……」 それにほのかは俺のことなんてお構いなしに腰を振る。 ベッドがギシギシというより、悲鳴をあげているような音がしている。 バン! 勢いよくドアが開いた。 俺は完全に動きが止まる。 ほのかは気にしていないのか、動きを止めない。 「お姉ちゃん。楽しそうだね。私も混ぜてくれる?」 長身でほっそりとした体に、腰まで伸ばしている長い髪に目を奪われる。 「はあ……んっ……埼、くん……うごい、て」 ほのかは無視している。 誰か、わかっているのかもしれない。 「ちょっと、ほのか。ストップ」 「だめ……ぅぁ……できない」 「ふ〜ん」 誰か知らないが、俺の間近で座り込み、顔を覗き込む。 「射精する顔、見ていてあげる」 そして何を血迷ったのか、触れるだけのキスをした。 心拍数があがる。 キスされただけで心拍数をあげているんだ、と自分を嘆いた。 横をみると視線が交わった。本気で見ていた。 隣の人のことを忘れる為、俺はほのかだけを見た。 一心不乱に、やることだけを考える。 気持ちいいし、こういうのは嫌いではない。 今はそれだけに集中する。 「あぁっ……ふぁっ……いいよぉ、埼君」 ほのかはだらしなく涎を流している。そんなことなど気にもせず、ほのかも動き続ける。 「そ、そろそろ」 「うん……いいよ……あ、ああぁ……このまま」 返事をする余裕がないので、スパートをかけた。 「あっ……んっぁ……ぁっ……ああああぁっ」 ドクドクとほのかの中に注ぎ込む。って中に出してしまったが、ほのかは全然気にした様子がない。とてもやばい気がするが、今は大丈夫だと信じるしかない。 そのほのかは俺の胸に手をつき、息を整えている。 1回では俺のものは萎えてくれなかったので、今もまだ繋がったままだ。そんな状態に嫌な予感がするので、さっさと俺の上からどいてもらおう。 「ほのか。とりあえず、どいてくれないかな」 どうして、という表情をしたほのかだったが、俺の側に人がいるのに気づいたようだ。 「そうだね」 ほのかは腰を上げる。 ぬちゃ、という音が聞こえた。 「はい。お姉ちゃん」 いきなり部屋に入り込んだ人はほのかにティッシュを渡す。 「ありがと」 何枚か取り出し、こぼれようとしている精液をふき取った。 なぜか俺からはっきりと見える位置でやるものだから、目をそらすしかない。 ほのかはわざとやっているに違いない。 「埼君。ここまでしてあげてるんだから」 ぼやいているが無視することにした。 それにさっきからずっと見られているのが気になってならない。 俺はほのかがどいたら、すぐに服を着た。 落ち着いた頃、こほん、とほのかは堰をした。 「紹介するね。妹のあずさ。無駄に背だけ伸びたかなり『ばか』な妹だから」 い、妹か! 噂(?)通り、イカレた中学生だということはわかった。 中学3年生である結城あずさは俺たちのセックスを見たというのに、普通に俺の前に座っている。 この根性は俺も見習いたい。 「お姉ちゃんにばかなんて言われなくないね。中学2年まで成績は地を潜っていた人に」 「なら、私だって言わせてもらうけど」 「お兄さん」 ほのかを面白いほど無視したあずさは俺の目を見つめる。 「何かな?」 「お姉ちゃんとは別れることをお勧めします。絶対に幸せなんてなりませんから」 こんなにはっきりと言い切ったあずさに感服してしまった。 「あずさ。今のはいくらなんでも怒るよ」 「冗談に決まってるじゃない」 どこから本気で、どこから冗談なのか、わからない。もしかしたら全部本気でいっているのかもしれない。 「それでお兄さん。お姉ちゃんの中は気持ちよかったですか?」 ぶっ。 と、何か飲んでいたら吐いていたところだ。 「あ、あずさ!」 ほのかは必死になって、あずさを止めようとしているが、畳み掛けるように詰め寄ってくる。 「どうなんですか? 男の人って誰とでも気持ちよくなれるって言うから」 ちょっと待て。 ここで『気持ちよかった』なんて言ったら『誰とでも』を含んでしまうのは気のせいだろうか。 だからと言って『そんなことは……』と茶を濁すようなことを言うとほのかが悲しむのは目に見えている。 「悩むってことは『あまり気持ちよくなかった』ってことですよね」 まっすぐ俺の目を見るあずさに俺はたじろいだ。 目線を外す。 その先にほのかがいた。ほのかは物凄く落ち込んでいるのがわかる。 ここで違う、と言ってやりたかった。だけどその前にあずさに押し倒されてしまった。さすがに全体重をかけて、押されれば倒れる。 体を起こそうとしたら、俺の体の上にあずさは座り込んできた。 ……まさかこれはほのかの時にやられたマウントポジションだった。 あずさは俺を見下ろすように、いや、見下している。 「私が気持ちよくしてあげようか」 凄く挑発的に俺の頬を撫ぜる。それより逃げようとしているのに、肩を押さえつけている力が尋常じゃない。男である俺が動けない。 「お姉ちゃんより上手だから」 「あずさ!!!」 落ち込んでいる場合じゃないほのかはあずさを止めようと後ろから羽交い絞めにした。 「冗談だって、お姉ちゃん」 立ち上がったあずさは俺の頭を蹴り飛ばした。 の、脳が揺れる。 「埼君、大丈夫?」 「な、何とか」 「あずさ! 何てことするの?」 「別に普通じゃない。私に蹴られて喜ぶ人だっているんだから。もしかして喜んでくれなかった? あははっ」 こ、こええ。もしかしてS? いや、Sで確定だ。 「あずさ。そんなことばかりしているといつか本当に痛い目に」 「はいはい。わかってます。お姉ちゃん」 絶対にわかってない。 にしても、俺のことを嫌な視線で見てくるあずさから逃げたかった。 「あずさ? どうしたの?」 あずさの体が震えていた。 「ごめん。お姉ちゃん」 ほのかの後ろに回ったあずさは手を取って、どこから取り出したのか、紐で縛った。 「あずさ!」 「少しだけ黙っていてね。お姉ちゃん」 ハンカチを取り出したあずさはそれで口の中に入れる。 「ん〜〜」 「そういうのは俺がいない時に二人でやってくれないかなぁ」 あずさがほのかには手を出さないことをわかっていたから、言える科白だった。 「お兄さん。私は男の人の喘ぐ声が……凄く気持ちいいの。それに去年、中学で名を馳せた埼彰人なら、尚更」 やっぱり俺は有名人のようだ。 中学の時はばか騒ぎばかりしていたから、仕方ないのかもしれない。3年になって大人しくしたつもりだが、伝説は語り継がれているみたいだった。 それに下級生には人気があるというのを証明してしまったみたいで嫌だった。だが、言っておくけどこんなことをしようとするのはあずさが初めてだ。 「なら、俺が素直に従うと思うのか」 「それがいいじゃない。無理やり泣かせてあげる」 面白い。ほのかの妹だろうが関係ない。 「ん〜〜〜〜!!」 ほのかは首を振っている。あずさに怪我をさせるつもりなんてない。少しだけ痛い思いをしてもらうだけだ。 あずさに飛びかかろうとした瞬間、俺の足が止まった。いきなり危険を感じたから、飛び込めなくなってしまった。 「お前……」 「かかってこないのなら、私からいきますよ。お兄さん」 くそっ。 速い。 即KOでも狙うつもりなのか、ハイキックが俺の頭を襲う。 バックステップでそれを避けたが、俺の後ろはベッドがあった。 倒れるようにベッドに横になった俺の上に覆い被さろうと近寄ってきたあずさの腹を蹴る。 しかし、それは空振りした。 「しまった」 迂闊な攻撃だった。 「残念でした」 次の瞬間、目が霞み、最後は落ちた。 「お兄さん。おはよう」 目が覚めた時、今の状況に慌てた。 俺は全て脱がされ、両手両足を縛られている。というか、ベッドに大の字になっているのだけど、これは一体どういうことでしょう。とすでに裸になっているあずさに聞きたい。ほのかはさっきと変わらない服を着たままだった。 叫ぶのに疲れてしまったのか、俺たちの様子を見守るようになってしまっていた。 逃げようとごそごそと動くが解けることはなかった。 「無駄なことはしないでください」 いくら背が高いとはいえ、胸はそれほど発育していない。 すでに目の色が変わってしまっているあずさの手には鞭があった。 「お兄さん。可愛い声で泣いて」 あずさは振りかぶり、俺は目を瞑った。 見ないですむのなら、目を瞑っていたいからだ。 「埼君。助けて欲しい?」 やや大きな声であずさの動きを止めた。 「お姉ちゃん!」 いつの間にか口の中に詰め込まれていたハンカチを吐き出していた。大人しくしていたのはこの為だったらしい。 「もちろん」 「わかった」 どうやったのか知らないが、見事に紐が切れていた。 「あずさ、死んでもらう」 ほのかは飛び出し式のナイフを持っていた。 は? ほのかの動きは鈍い。だが、いきなりナイフを突きつけられようとしたら、体が竦んだりするだろう。それなのにあずさは悠然としている。 その目が本気だった。 俺の時とは違う。射抜くような目だった。 もしかして日常茶飯事か? 「素手相手に武器を使うなんて……」 あずさは構える。 突き出されたナイフを避け、そして叩き落とそうとしたらしいが、ほのかはそれを交わした。 明らかにほのかの動きは鈍いはずなのに、あずさの鋭い動きについていっている。 「相変わらず、わけわからない動きをするね」 あずさは明らかに手を抜いていた。それだけはわかる。 「埼君。もう少し待っててね」 それなのにほのかは余裕だった。 余程負けない自信があるらしい。 「実力差っていうのがわかってないね。お姉ちゃん」 「ほら、言うじゃない。愛は強し……」 ほのかの口から聞くと、とても嫌な風に聞こえる。 あずさはほのかが喋っている隙に攻撃した。 容赦ない回し蹴りがほのかの横っ腹を直撃した。 「ぁっ」 声にならない声が出る。 「ほのか!」 ほのかは数メートル吹き飛ばされ、壁に激突した。 「……ごほっ……喋ってる時に蹴るなんて反則だよ、あずさ。もし戦隊モノのヒーローが変身中に攻撃されたら、呆気なく倒せるのにそれをしないのが敵役なんだから」 「はいはい。お姉ちゃんの打たれ強さはわかってるつもり。早く立ち上がったら?」 「そんな風に迫ったら、埼君に嫌われちゃうよ。SMみたいなことをしたって本当に喜ぶ人は少ないんだから」 あずさは考え込んだ。それこそほのかの狙いだった。 ほのかは壁を叩く。 何かのスイッチだったらしく、あずさの右足の床が開いた。っておい、ここは忍者屋敷か。 ちょっとした落とし穴程度の穴が開き、バランスを崩したあずさにほのかは襲い掛かる。 容赦ないタックルの後、ほのかはあずさの後頭部目掛けて、殴った。もちろん両手を組んで殴るものだから、そうとう痛いだろう。 ほのかは気絶したあずさを踏んだ。あ、胸を押しつぶしてる。 「WIN」 ブイサインを俺に向けている。 違うだろ、ほのか。 そう言ってやりたかった。 「これでOK」 今度はほのかがあずさを縛った。しかもあずさ以上に頑丈に縛っている。 「解けるのか、それ」 椅子に括り付けているのだが、とても解けそうな縛り方じゃなかった。 「解けなくたっていいじゃない。私のことじゃないし」 ほのかは敵に回さないでおこう。そう誓った日だった。 「ところで何するんだ?」 「オナニーショウといきたいところだけど、勢いで手まで縛っちゃったから、今考えているところ」 「それとさ。さっき何か飲ませていたけど、あれってまさか」 「あれ? 前に私が飲んだ媚薬。とても効果があるからいいかなって」 俺はすでにほのかによって解放されている。 「そろそろ目覚める頃だから。耳でも塞いでおいて」 ほのかは机の中をごそごそ何かを探している。 「あった」 なんで、そんなところにあるかわからないが、デジタルカメラならぬ、デジタルビデオだった。 三脚もなぜかすでに用意されていて、あずさが座る前にセットする。 「お姉ちゃんの為に頑張ってね」 今、聞いてはならない言葉を聞いてしまった。 「俺はここにいないとだめなのか?」 「当たり前じゃない。あずさにはしっかりと罰は受けてもらわないと」 俺はあずさよりほのかの方が今は怖かった。 あずさは目を覚ました。 「お姉ちゃん!!」 近所迷惑になりそうなぐらい大きな声だったが、結城家の周りは庭なので近所といっても、聞こえないだろう。 「どうしたの?」 どうしたの、とは白々しいにも程がある。 あずさは無理やり解こうとしているので、手に痛々しいほど痣ができていた。 「無理無理。いくらあずさでもそれは解けないでしょ。それに暴れると倒れるよ」 ほのかの性格を熟知しているあずさは抵抗をやめた。 「そうそう。それでいいよ」 「お姉ちゃん。後で覚えておきなさい」 「覚えておくよ。闇討ちは怖いからね」 この姉妹をどうにかしてほしい。 あずさは目の前にあるビデオに注目した。 「もしかして撮ってる?」 「当たり前じゃない。ちょうど小遣いが欲しかったところだから」 「お姉ちゃん!!」 「うるさいよ、あずさ」 「妹を売るつもり」 「私は売らないよ。あずさが自分から売るんだから。埼君。私の家はお金持ちかもしれないけど、私自身は全然お金は持っていないの。親が言うには『金ぐらい自分で稼げや。その内、学費も返してもらうからな、うっしっし』と言われる始末だし。毎月の小遣いはこうして稼ぐのが一番楽……」 「お姉ちゃん!!」 「もう一度、言うけど、うるさいよ。あずさって、背が高くても、胸はないし。せめて背が低ければ、ロリ好きな男たちが買ってくれるのに」 これをさやかが聞いていたら、暴動が起きるに違いない。 「極悪人。お姉ちゃんはお金がなくなったら、自分の下着を売っていたくせに」 は? 話の展開についていけない。 「そんなことするわけないじゃない。あれはあずさのだよ」 「な。なんですって」 「気づかなかった? 数が減っていることに」 「うっ。確かに、減っていたけど。でも、1枚か、2枚じゃない」 1枚か、2枚なら売られても平気なのか、と言ってしまうところだった。 「ほら。不用になったものとか、あったでしょう」 「うん。……ま、まさか」 「それを売ったから。あずさの写真を添えて」 「あ、あ、あ」 声が出せないようだ。 「2万だったかな。なかなか高額……だと思うんだけど」 ほのかは俺の顔を見る。 「俺に聞くなよ」 「お兄さん。これを解いてください。今すぐそこの女を殺しますから」 本気で怒っているのに、ほのかは気にもしない。 「それにあずさだってお金がなくなったら、その辺の男を捕まえて、いろいろと買ってもらうじゃない。最後はホテルに入って、男が風呂に入っている時に財布からお金を抜き出すなんて手段を使うんだから。それなら、自分でオナニーしている写真とか売った方がもう少しお金になる。ということで、頑張ってね」 うわっ。この姉妹かなりあっちの世界へいっているような気がします。 俺は変な女に捕まったのかもしれない。今更ながら、そんなことを考えていた。 「お姉ちゃん。死にたい?」 とても静かに、本気で怒っていた。 「怒っても全然怖くないから」 ほのかは意に介さずのほほんとしていた。 「あ」 何か思い出したかのような声を出したほのかは俺に向かってとんでもないことを言い出す。 「埼君だったら、いくらでも私の上げるから。なんだったら、今着ているものをお持ち帰りしても」 ほのかは脱ごうとする。 「もう持って帰ったじゃないか。あれで俺は酷い目にあったんだから、勘弁してくれ」 「昨日のあれ? いいじゃない。そのおかげで、お姉さんは迫ってきてくれたんでしょう」 確信犯だった。 「お兄さん、お姉ちゃんはこんな人ですから、すぐに別れることをお勧めします」 「考えておくよ」 本当にほのかの性格だけはどうにかならないものかと本気で考えているところだったので、そう答えてしまった。 「埼君。私の初めてを奪っておきながら、そんなことを言うんだ」 ほのかは俺にキスをする。 「お兄さん。少しは抵抗しないとつけあがります」 「ああ」 「でも、お兄さんもお兄さんですね。私を助けてくれないなんて」 「あんなことをされそうになったんだから、助けるわけないだろ」 「言えてますね」 さっきからあずさの様子がおかしい。 頬が赤くなり、息が少し荒い。 「お姉ちゃん。何かした?」 「大丈夫。あずさのものだから」 これで会話になっているのだから凄いものだ。 「あれ、お姉ちゃんが盗んだの?」 「盗んだなんて、人聞きの悪い。借りただけだだって。それにしても、あまりにも効き目抜群だったから、驚いちゃった」 「効き目がありすぎるから、隠しておいたのに」 「そう。じゃあ、あずさ。一人で頑張ってね」 「え?」 「このままあずさの部屋まで運んでもいいんだけど、面倒だからいいよね」 「……うん」 悩んだ挙句、頷いたあずさだった。 「埼君。お待たせ」 すでにあずさのことは頭にないらしい。 「さっき、埼君の体を見たら、もう我慢できなくて」 だから、初めての時もそうだったけど、勝手に一人で盛り上がらないで欲しい。 俺もあずさの裸とか見ていたりして、準備万端なのだから、今回は何も言えない。 「あずさを見て、こんなになってるんだ」 ほのかはズボンの上から撫でるように擦りつける。 「大きくなった」 嬉しそうにほのかは俺のズボンを脱がしていく。 「今からは私だけを見て」 ほのかはスカートを脱がずにショーツだけ脱ぎ捨てる。 殆ど着たままの状態だった。 「お姉ちゃん。もっとムードを大切にした方が……」 あずさは余計なアドバイスをしていた。そもそもあずさもムードも減った暮れもなかったはずだが、そんなことに突っ込みをいれない。余計なことは言わないほうが身の為だ。 「着たままの方が萌えるでしょう」 「俺に聞くな」 「はいはい。埼君。寝てくれるかな」 ほのかはどうしてこんなに騎乗位が好きなんだろう。 「お姉ちゃん。私も何かして欲しい」 「だめ。今日はずっと放置だから」 もぞもぞとあずさは動いているがそれだけでは快楽は得られないのだろう。 ほのかは俺のものを自分のものへ宛がう。そしてそのままストンっと腰を下ろした。 「あああっ……気持ちいい」 って言うか、前座なしだった。 「……ぁぁっ……動いて」 ほのかは俺の胸に手を置き、腰を動かす。さすがに2度目だからなのか、動きは鈍かった。 俺は腰が振る気力がない。 このままではほのかが何かしてくるかもしれないので、俺は先手を打つ。 ほのかの腰を持ち、動かす。 「いやぁ……さ、埼君」 ほのかが満足するように動かす。 「さ、埼君。だ、だめ……」 だめ、と言っているが、やめるわけがない。 ほのかは俺の胸に手をつくだけで、何もしていない。俺が動かしているのに身を委ねるだけだった。 「あっ、んっ……あ、あああっ」 ほのかはゆっくりと俺の体に倒れる。 「キスして」 触れるだけのキスをした。 「お姉ちゃん。もう我慢できない。お願いだから、触って」 「……だからだめって言ってるでしょう」 息を整えたほのかは容赦なく言い放った。 「おかしくなっちゃうから」 「もともとおかしいでしょう」 実の妹に向かって『おかしい』とはっきりという姉も珍しい。いや、事実なのだから、いいのかもしれない。 「あずさ。もう二度とあんな風に埼君に迫らないなら、考えてあげる」 「うん。もうしないから。だから早く」 「あともう一つだけ。自力でそれを抜け出したらいいよ」 無茶苦茶なことを言って、ほのかは俺にキスをした。 「そんな」 あずさは今までにないぐらいに暴れ始めた。 ガタガタと椅子が揺れる。 もちろんそんなに暴れるものだから、椅子が後ろに倒れた。 「あずさ!」 ほのかは倒れているあずさを助けた。 何だかんだ言っても、姉妹だった。 「お姉ちゃん。もう、だめ。解かなくていいから、触って」 手首は見ているものが驚くほど、赤くなっていた。 「あずさ。いいからじっとして」 ほのかの手にはナイフが握られていた。 「埼君。あずさの手を動かないようにして」 俺は倒れてしまった椅子を起こし、あずさの手を動かないようにしっかりと握る。 「ああっ」 あずさの嬌声だった。 「もっと、もっと触って」 ほのかはあずさの声が届いていないぐらいに、集中していた。紐にナイフの刃を当て、そして一瞬にして引く。あまりの速さに俺が驚くぐらいだった。もちろん誤ってあずさを切らないように、椅子の足があるところでやっているのだが、椅子は無傷だったところに驚いていた。 見事に紐だけが切れた。 すぐに俺は逆の手も同じように止める。 しかし片手が自由になったことで、あずさは自分の手を動かす。 「あずさ。もうちょっと我慢して。そうしたら、思う存分してあげるから」 「でも」 「そのままだとやりにくいでしょ」 「……はやくして」 ほのかはさっきより早く、右足、左足の紐を解く。 最後の片手が解放されたあずさは手で自分を慰めようとするが、それをやめさせたのはほのかだった。 そのやめさせ方が凄かった。 あずさを俺に向かって突き飛ばした。 「きゃっ」 「ちょ、ほのか」 抱きしめてしまったあずさの身体はかなり熱かった。 「オナニーショーにしたかったけど、それじゃあつまらないじゃない」 やっぱりほのかはあずさのことを思って、助けたわけじゃなかった。 「お兄さん」 あずさと目が合った。 その瞬間、あずさにキスをされた。 いきなり舌が俺の中に入り込む。 やばい。俺は今、裸だ。 俺の反応を隠せなかった。 全体重をこちらに傾け、俺は抵抗しつつも、横になってしまった。 あずさは貪るように、俺のだ液を吸い上げていく。そして今度は自分のだ液を流し込んでくる。 俺より年下の女の子に完全に押さえつけられた状態だった。 どう押さえつけられているのか知らないが、抜け出せない。 ほのかに助けを求めようと視線を送った。 「昨日も言ったでしょう。私、あまり独占欲ってないみたいだから。埼君が誰としていようが、全然構わない。もちろんこそこそやっていたら、許さないけどね」 死の宣告だった。 「お姉ちゃんもそう言ってるから」 あずさは俺の肩を持つ。 ……ん、待て。 徐々に痛くなってきた。 「痛いんだけど」 「痛くなければ意味ないでしょう」 あずさは今まで以上に痛めつけてくる。 「もう我慢できない」 こっちも痛くて、我慢できない。 「ねえ、いいでしょう」 とにかく痛かったので、勢いよく頷いてしまった。 「今のなし」 もう遅い。 あずさは俺のものを握り締め、自分のものへと導いていく。 「さっさとやる!」 ほのかはあずさの後ろから蹴り飛ばした。 「ひゃぁっ……ああぁぁっ」 見事に奥まで入った勢いで、達してくれたらしい。俺は少しだけほっとした。 あずさはいきなり入れられたことに驚いたらしくすぐに後ろを見た。 それにしても今はやばかった。勢いあまってではないが、出してしまうところだった。 「あの……避妊ぐらいした方が」 場を白けさせるというのは、こういうことを言うのか、と実感した。 「残念でした。場を白けさせても、私はとにかくやりたいだけだから」 あずさは気分など萎えないらしい。 「で、でも」 「だったら、終わるまで我慢して」 どうしてこんなに強気なのかわからないが、あずさは腰を浮かした。ストンと腰をおろす。 「ああぁっ」 だから何で俺の上に乗るのか、それを知りたい。 永遠の謎、ということにしておいた方がいいかもしれない。それを聞いたら、ショックで立ち直れそうもないから。 そんなことを考えていたのに、いきなりやばい状態になってしまった。このままでは中に出してしまいかねない。 「待った。待った」 「ふぁ……んぁっ……あぁ、ふぁっ……ああっ」 聞こえてない。 あずさは獣のように腰を振っている。 これからは絶対に薬は駄目だ、と言い聞かせないといけない。 「ふぁ、ああぁぁぁっ」 締め付けられる。 我慢の限界だった俺は今日何度目かをあずさの中に注ぎ込んでしまった。 「はぁ……はぁ」 気力ゼロだ。 何も考えられない。 あずさのことも後回しだ。 「お兄さん。もっと頑張ってよ。私まだ……したい」 もう萎えてしまった俺のものをあずさは何とか勃たせようとする。 邪魔だからどいてくれ、と言いたいが、その前にほのかが嫌な笑みを浮かべていることに気づいた。 「埼君、もう限界なの?」 「あのな。3日連続だぞ。しかも今日、何回目だと思ってるんだ。体が持つわけないだろ」 すでに脱力していた。 「しょうがない。あずさ、手伝ってあげる」 折角着た服をまた脱いだほのかは俺の頭の上に跨る。 「嫌な予感がするんだけど」 「私の舐めてね」 俺の頭の上に本当に座ったほのかは 「ごめん」 とだけ言って少しだけ腰を浮かした。 「怒るぞ、俺は」 「お姉ちゃん。大きくなった」 「埼君。私を気持ちよくさせて」 「この結城姉妹が」 人の話ぐらい聞いてほしい。それに前にも言ったが、勝手に盛り上がるな、と言いたい。 「あずさと一緒にされるのは、許せない」 「だから、……」 座るな、と言う前に塞がれてしまった。 「埼君。聞こえているでしょう。しっかりと私を気持ちよくさせてくれたら、どいてあげるから」 「お姉ちゃん……」 そのあとには言葉は続かなかった。 俺のことを労わってくれているらしい。 「私も脱ぐね」 俺は全く見えないが、ほのかは上の服を脱ぎ捨てた。 「あずさ? 動かないの?」 「動きたいんだけど、腰に力が入らなくなってきて」 「そう。埼君。動いてあげたら?」 聞こえているのに、喋られないのは拷問だ。 ほのかは俺が動かないのを確かめてから、俺の顔の上に完全に座る。今まで加減していたことがよくわかった。息が何一つ出来なくなる。 やばい。一瞬、意識を失いそうになる。 俺はほのかの足をぽんぽんと2回叩く。 「どいてほしかったら、動いてあげて」 くそったれ。 あずさにSMがどうだとかいっておきながら、ほのかが一番酷かった。 俺はやけくそで腰を突き上げる。 「ああぁっ」 今のでばてそうになる。 「も、もっと」 3秒ほど止まってしまっていた。 だから、限界なんだってば。 「埼君、大丈夫?」 ほのかはようやく心配そうに声をかけてくれた。 「無理」 「でも、萎えてないじゃない」 無理やりはしんどいことをわかってくれない。 「だからといって、私としているわけじゃないから、強要しない」 解放されそうだ。 それに少しだけ安心してしまった。 「お姉ちゃん」 俺からはどうなったのかわからないが、ほのかは俺の顔に思いっきり座った。 「満足するまでこうするから」 「あずさ。わかったから、抱きつくのをやめて。埼君がやばいことに」 まじでやばい。 何度も意識が飛びそうになる。 「うん」 少し腰を浮かせてくれたほのかは 「頑張って」 と、容赦ない一言で片付けられた。 もうやけっぱちだった。 あれから2時間ぐらい経っただろうか。 とにかくそんな頃にやっと終わった。 体中、汗まみれ。それに付け加え、あちこちがべたべたしている。 「ほのか」 ほのかはすでにシャワーを浴びて、すっきりとしている。ちなみに今はあずさが風呂を占拠している。 「なに?」 「『埼君の為なら何だってできます。してあげられます』って言っていた癖に、逆に俺ばかり何かしてあげてばかりじゃないか?」 「あれ? そんなこと、思っていたの?」 そんなことと仰いましたか。 「私はいつだって埼君がしたいことをさせてあげるよ。どんなことだって、構わないから」 「どんなことって、どんなことでも?」 「うん。浣腸させたいっていうなら、してもいいし、1日中ローターを入れて、私の悶える姿を見たいっていうなら、喜んでしてあげる。あと……」 「もういい」 つまりエッチなことなら、何でもしてあげる、と言いたいらしい。 「それとも」 まだ言うつもりらしい。 「口移しで昼食をずっと食べさせてあげてもいいんだから」 「やめてくれ。あれ、まずいんだから」 「でも、あの時、埼君のここ、凄く大きくなってた」 ほのかは昔を思い出すような遠い目をしていた。 「口移しでご飯を食べながら、エッチ。気持ち良さそう」 「勝手にやってろ」 「いいの? しても? 勝手にやるよ」 時計を見る。1時過ぎだった。だからなのか、腹が減ってきた。 「ごめん。俺が悪かった」 なんで謝っているのか、不思議でならない。 もうどうにでもなれ。 「あの〜。私、いるんだけど」 いつ戻ってきたのか知らないが、タオルで髪を拭いているあずさが側にいた。 「あずさ。いたの?」 「いるよ。折角、お兄さんが来てくれたんだもの。にしても、そんな赤裸々のえっち体験を告白してくれるとは思わなかった」 「あずさはそういう話聞かせてくれないよね」 「当たり前でしょ。何が楽しくて、お姉ちゃんに体験話をしなくちゃいけない」 「私は楽しんだけど」 ぽんと手を叩いたほのかは今の今まで存在すら忘れていたデジタルビデオカメラからテープを取り出す。 「あげる」 「……は?」 ニホンゴが理解できなかった。 「あげるって。あずさもいいでしょ」 「売るんじゃなかったの?」 「そんなことするわけないじゃない」 軽くほのかは笑った。 「そう。私はいいよ。お兄さんなら何度でも見てもらいたいから」 あずさはにやりと嫌な笑みを浮かべる。 「それに私とお兄さんとの初体験じゃない」 頭痛がしてきた。 本当にこの2人をどうにかしてほしい。 この後、ほのかは昼食を作りに、俺は風呂に入ることにした。 今、昼食を作っているほのかは部屋を出て行ってしまっている。 俺は風呂を出た後、手伝おうかと思ったのだが、ほのかに『そんな必要ないから、部屋で待っていて』と言われてしまった。 そして今、ほのかの部屋に俺となぜかあずさがまだいる。 この状況で俺はどうしろというのだ。 今日会ったばかりなのに、セックスしてしまっている。 いくら同意があったとはいえ、こんなことを俺は望んでいない。 「お兄さん」 「なに?」 「どうしてお姉ちゃんなんですか? お兄さんなら、他にもたくさん言い寄ってきた人はいるでしょう」 ほのかを選んだ理由を知りたいらしい。 考えてみれば、どうしてほのかだったのだろう。 「そうだな」 考える。 だが、答えは見つからなかった。 それでもこれだけは言えることがあった。 「多分、姉さんにあれこれされても、耐えられたからじゃないか」 「なるほど。お姉ちゃん、変人ですから」 あずさもな、と言いたいが、言う必要もないだろう。 「今、私もそうだろ、と言いたそうな顔をしましたね」 自覚していたのか、それとも本当に顔に出してしまったのか知らないが、すぐに切り替えした。 「事実だろ」 「変わった趣向を持っている、と言ってくださいよ」 「それを変人というんじゃないのか」 「そういう考えもありますね」 にやり、とあずさは微笑んだ。 「埼君。昼食、できたよ」 下からほのかの声が聞こえた。 ナイスタイミング、と言いたいぐらいに、タイミングがよかった。 今はとにかくあずさから離れたかった。 ダイニングに行くと、料理が並べられていた。 「嘘だ。絶対に嘘だ」 昼食ということもあって、軽いものばかりだが、どれもおいしそうに見える。 「お兄さん。疑いたい気持ちもわかりますが、これが事実ですから」 あずさは知っていた。 目の前に並べられている料理はすべてほのかが作ったものだった。 考えてみれば、あのお弁当だってほのかが作ったものだったみたいだから、この状況は考えられることだった。 「お姉ちゃんの唯一の取り柄だった料理です。今では『テストで最高点を取る』も含まれてますが」 あずさは妙な言い回しで、姉のほのかを称える。 「ほら。早く食べよう。私、もうお腹ペコペコで」 俺たち3人は早速食べ始める。 「おいしい」 ほのかの作った昼食はとてもおいしかった。だけど、好みで言うなら、奈津美が一番だった。そのことは誰にも言わなかった。 そろそろ4時を過ぎる。 まったりと過ごしていた。 朝の乱交は何だったのか、と思うぐらいのんびりとしていた。 昼食を食べた後、あずさは自分の部屋に戻り、俺とほのかは部屋で喋っていた。 たわいもないことばかりだった。 急に話す話題もなくなった。 肩が触れ合うように隣に座っているほのかの視線を感じた。 「埼君」 何をして欲しいのか、わかる。 「ほのか」 ゆっくりと俺は顔を近づけ…… 「お兄さん」 バン、と勢いよく扉が開く。 せめてノックぐらいしようよ、と思うのは俺だけだろうか。 「あ……ごめんなさい」 朝のときは謝りもしなかったのに、今に限って謝った。 その理由は『ほのかが怒っている』からだろう。 目を細め、ほのかはあずさを睨んでいる。 「……ごゆっくりどうぞ」 扉が閉まる。 だが、気配が全く消せてない。 扉の向こうにいることはわかる。 ほのかは少しだけため息をついた。 「あずさ。そんなところに突っ立っていられても困るから、入るなら入ってきて」 今度はゆっくりとドアが開いた。 あずさは申し訳なさそうにしている。 「何?」 あずさの手には飲み物とお菓子があった。 「いいじゃないか」 少しだけわかった。 ほのかは『こういう』ところに邪魔が入ると、本気で怒るらしい。 「埼君がそういうなら、いいよ」 「おいで。ちょうど喉が渇いていたんだ」 嘘ではない。だからといって、何かを飲みたいほどでもなかった。 俺は手招きし、あずさをこっちに来るようにするのだが、なかなか来てくれない。 「ほのか。いいだろ」 もう一度だけ、言う。これでほのかがふてくされるようなら、あずさには退散してもらおう。 「もう!」 ほのかは二人っきりになりたかったようだ。 「ほら、あずさ。そんなところに突っ立ってないで、早く来る」 「うん」 しおらしいところもあるんだな、と思った。 この後は俺とほのか、そしてほのかの妹のあずさの3人で、過ごした。 日も沈み、辺りが暗くなった頃、俺は家に帰ることにした。 すでにあずさのお見送りも終わり、今はほのかと二人っきりだ。 「ごめんなさい」 「いいよ。もう」 「本当にごめんなさい」 「だから、いいって。でも、過激な妹だね」 ついでにほのかも、と心の中で付け加えておいた。 「うん。私が男の人を連れてくるなんて埼君が初めてだし、それにあずさは前から埼君に憧れていたみたいだから」 初耳だ。しかしあんなことをされそうになったから『憧れていた』なんて聞かされると過去のことのようだ。 「ああ。違うの。今も多分、憧れているんじゃないかな。だって、今日のあずさ、嬉しそうだった」 「さっきまた連れてきて、なんて言われちゃった」 「正直、もう来たくないな」 ほのかが助けてくれなかったら、どうなっていたか考えると怖い。しかもその後のほのかの仕返しをなぜか俺がまともに受けてしまった気がしてならない。 「そう、だよね」 悲しそうなほのかだった。 「別にほのかの家じゃなくたって、いいだろ」 「外でするの?」 「有坂と一緒にするな」 「埼君の家に行ってもいいけど、私が痛い目を見そうで怖いよ」 奈津美か。 ほのかの家に行くとあずさがいる。 俺の家に行くと奈津美がいる。だから外でって言ったわけか。 俺としてはもう外でしたくはなかった。他の考えがすぐに浮かび上がる。 「なら、学校でしようか。誰にもばれない場所、知ってるから」 正確に言うなら、深雪と健二以外は、だったが、言うこともないだろう。 「うん。楽しみにしてる」 ほのかは軽く背伸びをし、俺にキスをした。 だが、その言葉がまた俺をエキセントリックな世界へ導いてくれるなんて思いもしなかった。 次回予告! 千 夏「…………」 さやか「…………」 千 夏「今からボイコットします」 さやか「え? どうしたの千夏」 千 夏「私が出ない小説なんて、腐れ外道だ」 さやか「意味わからないから」 千 夏「腐れ外道っていうのはサムスピの……」 さやか「説明しなくていいから」 千 夏「はあ」 さやか「どうしたの?」 千 夏「私たちの出番は?」 さやか「今回、延長したらしいから今日の続きらしいよ」 千 夏「ありえない」 さやか「では、お馴染みの次回予告」 さやか「家で待っている奈津美は彰人の帰りをずっと待っていた」 千 夏「たった一人で寂しく待つ奈津美」 さやか「そこに帰ってきた彰人に奈津美は優しく出迎える」 千 夏「『彰人。お帰りなさい』」 さやか「次回、8話『孤独な夢を想い続ける』」 千 夏「『ずっと一緒、だよね』」 さやか「こうご期待」 千 夏「私たちの出番っていつあるの?」 さやか「次の次ぐらいじゃない」 千 夏「そうなの」 さやか「た、多分」 千 夏「……」 さやか「……」 千 夏「(諦めムード)お後がよろしいようで」 さやか「千夏。いつか出番がある(と思いたい)から、あきらめちゃだめ」 |