8話 孤独な夢を想い続ける


 家の前に立つ。
 入りたくない気持ちが物凄く勝っている。だが、このまま突っ立っている訳にもいかない。
 ポケットに手を突っ込むが、目的のものはなかった。
 家の鍵。
 それさえあれば、ここで呼び鈴を鳴らすことなく家に入ることができるのだが、家を飛び出したわけだからそんなものはあるはずがなかった。
 俺は意を決した。
 ピンポーン。
 ガチャ。
 僅か数秒という短い時間だった。
 俺はドアを開ける。
「ただいま」
「彰人。お帰りなさい」
 玄関で待ち構えていた奈津美だった。
「夕食の用意をするから、少し待っていて」
 それだけを言うと、奈津美は背を向けた。
 俺はその後を歩く。
 奈津美は何も言わなかった。だが、それが逆に苦しかった。
 どうせなら、何か言ってくれた方がよかった。
 奈津美はキッチンへ、俺は手を洗ってから、リビングへ行く。

 俺はリビングにあるソファに座り、キッチンで食事の用意をしている奈津美の様子を伺っていた。
 機嫌は悪くないように見える。だが、良くないようにも見える。つまり見ようによってはどちらでも取れる感じだった。
 俺は完全に怒っているものだと思っていた。それなのに今の奈津美はその逆のようにも見える。必死に隠している。それが今の奈津美なんだと思う。
 夕食も普通に終わってしまった。
 言及されると身構えていたのに、それがなかった為なのか、一気に気を緩めてしまった。
 ソファに完全に寛ぐ。
 テレビを見る。今、見ている番組はいつも見ているわけじゃない。いろいろとチャンネルを変えたのだが、これと言って面白そうなものがなかった。だから、適当に良さそうなものをつけているだけだった。
 それもいつもと同じ。
 俺は特定の番組を見ることはあまりない。
「彰人。隣いい?」
 夕食の後片付けを終えたのだろう。
 エプロンを外した奈津美はこちらにやってきた。
「ああ」
 これも『いつも』のことだったから、何の警戒もしていなかった。
 奈津美は俺の隣に座る。いつもより俺に引っ付くように座ったのだが、不快感など全くといって良いほどない。逆に心休まるのだから。
 俺が何も言ってこないからなのか、次は体をこちらに傾けてくる。
「どうしたんだ?」
 言ってから思った。
 今の今まで聞いてこなかった。それはもう聞く気がなかったわけじゃなく、この時に言うと決めていたからなのかもしれない。
 それなのに奈津美は黙ったまま、俯いていた。
 俺は少し前に屈み、奈津美の顔を覗き込んだ。
「ずっと一緒、だよね」
 唐突だった。
「不安、なの」
 奈津美は俺にしがみつく。でも、俺が手を払えば簡単に解けてしまうぐらいにすごく弱々しかった。
「姉さん」
「優しい言葉なんて、いらないから。強く抱き締めて。それだけで安心するから」
 俺は言われるがままに強く抱き締めた。
「私、何度も言うけど、彰人のことが大好きなの」
「俺だって、姉さんのことは好きだよ」
 奈津美は何も言わない。
 何か考えているようにも見えるのだが、本当のところはわからない。
 目を伏せ、俺と視線を合わせないようにしている。
 奈津美は顔を上げた。
「なら、ずっと一緒だって、安心させて」
 目を閉じ、顔が近づいてくる。
 俺は奈津美にキスをする。
 軽いキス。
 そして一度離した後は深い、深いキスをする。
「はぁ、んっ」
 息が漏れる。
「ねえ。一緒に、ね」
 俺は頷いた。

 奈津美にとって一緒に風呂に入るのは特別なことらしい。
 今回も結局ずるずると一緒に風呂に入る羽目になってしまった。
「彰人。つまらなそう」
「そんなこと、言われても」
 俺は奈津美の体を見ないように、壁を見る。
 ちなみに壁との距離は僅か5センチ。
「ほら。背中、流してあげるから、こっちに座って」
「いいよ、しなくても」
「そう」
 あっさりと引き下がった。
 それが逆に怖かった。
「姉さん?」
 俺は振り返って、奈津美の様子を伺う。
「やっぱり背中を流して欲しいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
「そう」
 奈津美は一歩俺に近づく。
 俺は一歩後ろに下がる。
 奈津美はもう一歩近づく。
 もう一歩下がろうとしたが、すでに壁があって、下がることなんてできなかった。
 俺は奈津美の目を見ていたのだが、すっと横に視線を奈津美は移した。
 俺もつられて、その視線の先を見てしまった。
 しまったと思った時にはもう遅い。
 奈津美は俺の腰に手を回し、一気に壁に押し付ける。
 体を密着させられ、身動きが取れない。
 狭い空間で思いっきり暴れるわけにもいかない。
「姉さん。離れてよ」
「いや」
 胸を押し付けられているだけなのに、俺のものは大きくなっていく。
「あれ?」
 奈津美はそれに気づいたようだ。
「気持ちいいの?」
 押し付けていただけなのに、今度はこすり付けるように体を動かす。
「だ、だめだって」
 慌てて腰を引いたが腰に手を回されているので、さほど腰を引くことができなかった。逆にその手を利用して奈津美は俺の腰を突き出させるように抱き締める。
 思った以上に力がある奈津美が相手では抵抗したところで最終的には無駄に終わるだろう。
 俺は抵抗をやめる。
「っぁ、んっ」
 耳元で小さく聞こえる奈津美の喘ぎ声と股間をぐりぐりと刺激される。
「やばいって」
「もう限界なの?」
「ああ」
「なら、気にせずこのまま出して」
「ちょっと」
 奈津美を止めようとした途端、射精感が高まる。
「っく」
 どくどくと俺と奈津美の間に白い液が飛び出る。
「気持ちよかった?」
 すっと奈津美は離れる。
「べとべと」
 腹にかかったものを手に取る。
 人差し指と親指で捏ねて遊んでいる。
 そういうので遊ぶのはやめようよ、とは流石に言えなかった。

 流石に浴槽でやるのは前回で拙いことはわかっていた。
 だからなのか、俺も奈津美も湯に浸かろうとしなかった。
 さっきので精液で汚れた体を洗っているのは奈津美。俺はなぜか突っ立っている。
 お互いが意識している。
 先に動いたのは奈津美だった。
「彰人」
 急に甘えた声で後ろから抱き締められる。自分の胸を押し付け、それを俺に感じてもらうかのようなそんな動きをする。
「姉さん?」
 俺の中途半端な疑問系で、奈津美の雰囲気ががらっと変わった。
「わかっているんでしょう。どうして何もしてくれないのよ」
 ご立腹だった。
「私からしないとしてくれないの?」
「そういうわけじゃないんだが……」
 奈津美はすでに抵抗感なんてないようだけど、俺にはまだ強かった。
「今更じゃない」
「そうなんだけど……」
「はっきりしなさい!」
「はい!」
 強気に出られるとどうにも敵わないのは相手が姉だからだろうか。少し考え込んでしまう。
「で、どっちなの」
 ぐりぐりと胸を動かす奈津美だった。
 明らかに俺を挑発しているのはわかるんだが、それに乗ってしまってもいいものかと考えてしまう。
 それこそ『今更』なんかもしれないけど、俺は一線を飛び越えても、自分からしたいなどと言えなかった。
「答えないのなら、私の好きなように捉えるよ」
 俺は何も答えない。
 完全に受けに回っていると思われてもいい。
 背後にいる奈津美が怒っていることなんて見なくてもわかる。
 奈津美の手が動く。
 それがどこに向かっているのかがわかると俺は慌てた。
「ちょ、姉さん」
「じっとしてなさい!」
「はいっ!」
 強く言われると逆らえないのはどうにかしないといけない、と思っているのだが、条件反射で頷いてしまう。
 奈津美は俺のものを握り締める。
 恥ずかしい。
 今すぐここから逃げ出したかった。
 ゆっくりとだが、奈津美は手を動かす。
「彰人。気持ちいい?」
 表情が良く見えないからだろう。そんなことを奈津美は聞いてきた。
「だめだって」
 俺は逃げようと体を捩る。
「いいじゃない。ほら、こんなに大きくなってきた」
 嬉しいのか、楽しいのか、扱く。これでもかと、扱く。
「本当にだめだって」
「そんなことを言われると、余計にしたくなる」
 さらに火がついたように強く扱き始める。
「っぁ」
 声が漏れる。
 俺は必死になって声を出さないようにしていた。
「彰人ぉ」
 奈津美は俺の耳元で囁く。
「本当に出るって」
「なら、もう一度出して」
 男は何回も出すと、1回目より2回目、2回目より3回目と疲労感が物凄く蓄積していく。それを理解して欲しい。どうせこの後、して欲しいとねだるに決まっているのだから。
「っく」
 もう我慢できなかった。
 奈津美の手に白い液がかかる。
「ほら、見て。こんなにいっぱい」
 くちゃくちゃと手で混ぜる。
 だからさっきも思ったんだが、そういうので遊ぶのはどうかと思う。
「今度は私がしてもらう番だね」
 当たり前のように言ってくるので、否定ができなかった。
 今日はやめにしないか、と言いたいのを堪える。
「わかったよ」
 完全に俺のものは萎えてしまっている。
 どうしたものかと考える。
「まさかいきなり挿入れるつもりじゃないでしょうね」
 ほのかとしていると前座なんて必要ないからだろうか。すっかり忘れていた。
「そうだった、そうだった」
 今更ながら、ほのかの異常性を実感してしまった。
「彰人。今、他の女のことを考えたでしょう」
 まるで俺の心を読んだかのようなタイミングだった。
「考えてないって」
「なら、いいけど」
 奈津美は壁に手をつく。
「お願い」
 尻をこちらに向ける。
 これで今日は何度目だろうか。
 朝から考えるととんでもない数になるので、数えるのを6になった時点でやめた。
 ここですでに2回しているのだから、最低でも8回なんてことを考えてしまった。
 もちろん射精してしまった数だ。
 身も心もへとへとなのだが、それを許してくれそうもない。
 やけっぱちは1日1回で十分なのに、またここで……。
「彰人」
「わかったよ」
 こうなったら、とことんやってやる。
「っぁん、ああぁっ」
 胸を鷲掴む。
「痛いってば」
「ごめん」
 少しばかり力を入れすぎてしまったようだ。
 ほのかの時と同じぐらいの力でやったんだが、奈津美は痛がってしまった。
「彰人。また何か考えてるでしょ」
「考えてないって」
 やばい。これはもう鋭いの域を超えている。
 第六感かもしれない。
 何も言わせないために俺はさっさと次の行動に移す。
「はぁ、っん」
 手の平で軽く胸を揉み、手の先で乳首に触れる。
 もう片手で奈津美の中へ入れる。
「っぁ、はぁぁっ」
 このまま終わらせてしまおうかと、ちょっと強引に指を動かす。
「はぁっ、くぅっ、いや、あぁっ……」
 奈津美は俺の手を止めようとするのがわかったので、指を奥深くに入れる。
「あぁぁぁっ」
 大きな喘ぎ声を上げる。
「彰人っ!!」
「なに?」
「わかってるんでしょう」
「わかってるけど」
「もうっ!!!」
 今のも殴りかかろうとしている奈津美を何とか抑える。
「わかった。わかったから」
「私としたくないんだったら、無理にしなくてもいいんだよ」
 そんなことを言っているくせに、物凄く悲しそうに俺を見つめるのは反則だった。
「そんなことはない」
 そっと奈津美のものへあてがう。
「もう大丈夫だから」
 俺は後ろから奈津美の中へ入れる。
「ああぁっ」
 ゆっくりと奈津美の中へ入れた。
「彰人、彰人ぉ」
 これでもか、と奥深くまで突く。
「っぁん、ああぁっ、はぁっ」
 思った以上に限界が早かった。
「あああぁっっ!」
 ぎりぎりのところで引き抜く。
 白濁した液が奈津美の背中にかかる。
 奈津美は力が抜けたのか、しゃがみこんでしまっていた。
 俺も力尽きて、倒れたかった。

 自室のベッドで寝転がっている。
 少しだけ気だるい。さっきまでやりすぎで気分すら悪かったのに、ちょっと横になっただけで体調はよくなっていった。
 今頃、思った以上に回復力があることに気づいた。
 ベッドで寝転がっていると、奈津美は俺の部屋に入ってきた。
 俺は何も言わない。
 それが当たり前だというようなそんな態度でいた。
 俺は少し角によって、奈津美が布団の中に入れるようにする。
「ありがと」
 布団の中に入ると同時に、俺にキスをした。
「姉さん」
「こういうのもいいでしょ」
 奈津美は凄くご機嫌だった。
 奈津美は俺に引っ付く。
「もう少しだけ離れてくれると嬉しいんだけど」
 こんなにべったりとくっ付かれると身動き一つできないから辛かった。
「嫌なの?」
 悲しそうに、そして寂しそうに俺を見る奈津美に居た堪れない気持ちになる。
「そんなわけないだろ」
 奈津美はぎゅっと俺にしがみ付く。
「あったかい」
 俺は奈津美の髪を梳く。
「……彰人。大好き」
「俺も好きだよ」
 夜が深まっていく。
 2人は姉弟だけど、恋人のように寄り添っていた。


次回予告!
千 夏「本当に私たちの出番って皆無なの、さやか」
さやか「そうなんじゃないかな」
千 夏「……もう、いや」
さやか「千夏、いくら何でも泣かなくても」
千 夏「(涙)」
さやか「そんな姿見せても、嘘泣きにしか見え……ごめんなさい」
千 夏「わかればいいの」
さやか「でも、次回から私たちの出番もあるみたいだよ」
千 夏「え? 本当?」
さやか「ということで、次回予告!」

千 夏「『学校でしよう』」
さやか「そんなことを言ってしまった彰人は次の日後悔することになる」
千 夏「ほのかは登校してきた彰人にいきなり『その場所はどこですか?』」
さやか「朝からやる気オーラ全開のほのかに彰人はたじたじ」
千 夏「ほのかの願いを叶える為に向かった先は」
さやか「以前深雪と健二の行為を見た場所だった」
千 夏「その教室のドアが開いていることに不安になる彰人」
さやか「思い切って開けてみると、そこには全裸の深雪が彰人の名を呼んで、自分を慰めていた」
千 夏「9話『同朋の仲間はたったの二人』」
さやか「『有坂』」
千 夏「『今は何も言わないで』」
さやか「こうご期待」

千 夏「私の出番は?」
さやか「しっかりあるって。この先のことは言えないから、って書いてある」
千 夏「そんなことより、やっぱりあの露出狂がメインを……くそったれ!!」
さやか「いや、9話『濡れ場担当→有坂深雪』って書いてあるけど」
千 夏「いいもん。私も頑張っちゃうから。あんあん(嬌声のつもり)」
さやか「千夏、自分を捨てちゃだめ。千夏のことも書いてあるから」
千 夏「なんて書いてあるの?」
さやか「残り全話『キ○ガイ担当→桜井千夏』」
千 夏「うきぃぃぃぃぃぃぃ(びりびりびり)」
さやか「あ〜あ」
千 夏「私はキ○ガイなんかじゃない!!」
さやか「ないぞ〜、多分」
千 夏「多分って何!? さやか、まだ私のことがわかってないよう……」
さやか「千夏、口調が元に戻ってるよ」
千 夏「……にゃはは」
さやか「はあ。疲れる。さっさと終わって」
千 夏「お後がよろしく……ない。私はまとも(んがんが)」
さやか「お後がよろしいようで(こんなんでいいのかな)」




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