烈の答えがわかっていたのか、特に気を悪くした様子も無く、ジェイは穏やかに口元に笑みを浮かべていた。
「体質に合わない精気はたいして力にならないんだよ。だったら、一番体質に合ってる精気を持った、薔薇を育てた方が早かったんだ」
「重症だねぇ、その精気の偏食症も」
烈自身もそう思っていた。しかし、こればかりは自分でもどうしようもなく、少しずつ精気を吸い取るしか方法はない。
それに、烈はもう諦めていたのだ。自分の体質に合った『精気』を持つ者の存在を。
「!」
その時、何かが動く気配を感じ、二人は口を閉じた。草叢を掻き分けて、こちらに向かって来る気配がする。
この花畑は川と山に囲まれている為、用がある者はまず道に面した家の方角から訪ねて来るのが常だ。それを肯えて山を越えて来るとは、普通の用件ではありえない。
「人間だね。二十歳前後の男が一人、二人…三人かな?」
「いつもの事だよ。時々盗みに来る奴らが居るんだ」
「…こんな輩が頻繁に侵入するわけ?」
「時々ね。外来花は高値が付くから…」
「丁度いい獲物だね」
「確かに、あれだけ居れば当座の『精気』は補充できるけど…気が進まないな。これだけ餓えてると、下手したら殺してしまうかもしれないし」
「…可笑しなことを言うんだね。相手は人間だよ? 彼らは僕らの食料なのに、殺すことを躊躇うわけ?」
「………」
確かに、以前の烈だったら躊躇う事などなかったかもしれない。我と欲ばかり強い、愚かな生き物。烈は人間という生物が嫌いだったから。
けれど、豪を育てながら村や町の人々と交流してきた今は、そんな人間ばかりではないことを知っている。
なにより、無心に自分を慕う弟が人間であることは、烈の中の何かを変化させた。
情欲に満ちたものではなく、信頼と親愛に満ちた視線の心地よさは、空虚だった烈の心を温かく満たしてくれたから。
「まぁ、適当に相手をしてもらったら、帰ってもらうよ」
そう言って賊たちの方に向かっていく烈に、ジェイは深い溜め息を吐いた。
「…ほんと、わかってないなあ。あの王でさえ、君の魅力に御執心だったんだよ?。ただの人間に抑えることなんて、無理だと思うけど。…まぁ、お手並み拝見といきますか」
傍観者を決め込んだジェイは、気配を消し、烈の後に続いた。
「ここは私有地ですよ」
烈の静かな声音に、大柄な男たちが竦み上がる。
「なんだ、ガキじゃねぇか」
安堵の息を吐く男たちは、あきらかに堅気の風体ではなかった。どこか退廃した匂いのする、裏の世界の人間だ。
「僕の花たちに何か用ですか」
自分たちを前にしても全く怯む様子の無い烈に、男たちは少し戸惑っているようだった。