雨宿り

(41)
中国行きを少し遅らせたのは、久しぶりの日本が居心地良かったからではない。
北斗杯の選手の結果が気になったからだ。
息子のアキラはすでに別枠で選ばれている。誰が残りの枠をとるのか関心があった。だが二つ
のうちの一つは、もうかなり前から予想できていた。予想というよりも、強い確信だった。
その日、アキラは興奮を抑えるようにして、メンバーの名を言った。
(必ず来ると思っていた)
雨の中たたずんでいたあの場所から、歩きはじめたのだ。行洋は少年の成長が誇らしかった。
そしてそれ以上に、愛しくもあった。
本来なら、この感情は別の人間が抱くはずのものだろう。その人物とは、たった一度だけ自分
と対局をした、姿も名も知らぬ棋士だ――――
(あの者はどうしているのか……)
対面に置いた碁笥を見つめる。どうしているか、本当はどこかでわかっている。いや、正しく
はどうしたか、と言うべきかもしれない。
それを確かめないのは、自分のなかの弱さのせいなのだろうか。
ここのところ毎晩、こうして自問している。答えは出ない。
(私はかなわぬのだろうか)
おのれの腕のなかで求めるように叫んだ少年を思い出す。あの少年は自分が碁以外で望んだ、
初めてのものだった。そして手に入れることのできないものでもあった。
行洋は自分の指先を見つめた。あの感触は鮮明に憶えている。
心を一瞬にして過去に引きもどすほどに。

(42)
ゆっくりとなめらかな肌を行洋は飽きることなく撫でた。
息子と同じ年の少年に、こんなふうに触れることになるとは予想もできなかった。
行洋はヒカルを見ると心のなかが温かく濡れていくような気がした。これは妻や息子に対する
裏切りになるのかもしれない。だがどうしても、ヒカルを放すことはできなかった。
あの雨の日以来、会うたびに口づけを交わし、共に眠るようになった。と言っても行洋が本当
に寝ることはなく、ヒカルの顔をいつまでも見つめつづけるだけだった。
だが心は何度も葛藤していた。ヒカルに対して、罪深い衝動が行洋を駆り立てていた。それは
とうの昔に捨ててしまっていたはずものだった。
初めは髪に触れた。次は柔らかな頬を、そっと撫でた。指先に残る感触が行洋を惹き付ける。
顔の輪郭をなぞり、それだけでは我慢できずに唇を軽くつついた。
眠っているヒカルに、こんなことをしている自分に苛立ちを感じた。
了承のもと、行洋は何度もヒカルとキスをしている。だがそのときの感情は抑えられたものだ。
今こうしてヒカルの唇に触れる行洋は、自分のなかの欲望と対峙していた。
行洋の身体の中心は熱くたぎっていた。
それは悪戯心などではない。もっと切実な感情だった。相手が欲しくてたまらなかった。もし
もっと若ければ、力ずくで奪っていただろう。行洋は自分が老いたことにわずかに感謝した。
しかしどうせなら、こんな感情を抱かないほど枯れていたかった。
ヒカルがどういうつもりで、自分とキスをしているのかはわからない。だが性的なものが感じ
られないことから、おそらく幼子がぬくもりを求めるのと同じようなものだろうと推測した。
「んー……」
ヒカルは身じろぎをし、息を吐いた。開いた唇から赤い舌が見える。行洋は頬に手を当てた。
少しも気付いた様子はなく、ただ規則正しい呼吸を繰り返している。
ヒカルの眠りは深い。
そう考えた瞬間、行洋は自分を抑えられなかった。
ヒカルの唇をふさぎ、ついばんだ。起こしてしまうのではという恐れはなかった。ただ自分の
欲するままに、唇の感触を楽しんだ。そして舌をすべりこませていた。
ヒカルの口のなかは渇いていた。それを潤そうとするかのように、唾液を注ぎこんだ。のどが
小さく鳴り、ヒカルは飲み下していく。行洋はむさぼるのをやめなかった。
熱中していたあまり、ヒカルのまつげの先が細かく震えていたことに気付かなかった。

(43)
その日は外せない用事があったので、前もって行けない旨をヒカルに伝えていた。
だが誰といても、ヒカルのことばかりを考えていた。あまりにもぼんやりして見えたのだろう、
体調がすぐれないのかと心配され、早めに切り上げてもらえた。
急いでマンションに帰った。ヒカルはまだいるだろうか。音をたてないように鍵を開ける。
スニーカーが玄関に置かれていた。来ているのだと、行洋は息を吐いた。寝ているだろうから
足をしのばせて部屋のなかをうかがい見た。
ヒカルは布団のなかにいた。だが寝ていないのがわかった。ベッドが小さくきしんでいる。
どこか様子がおかしい。息遣いも変だ。行洋はいぶかしく思った。
「進藤くん?」
「……ぁ……え!? と、塔矢先生っ!?」
ヒカルがそれとわかるほどうろたえた。行洋が近付くと身体を縮こまらせた。まるで近寄って
ほしくないと、全身で訴えているかのようだった。行洋は少し気分を害した。
「きょ……今日は来れないんじゃなかったの?」
「私が来て困ることでもあるのかね」
ヒカルは勢いよく首を振って否定した。だが顔はまだおどおどとしている。どうしてこんな目
で見られなければならないのだ。腹立たしく思いながらも、行洋は羽織を椅子にかけた。
「疲れた。私も少し寝るとするよ」
「先生、あのちょっと待ってくだ……」
だが行洋はヒカルの言葉など聞かず、布団を持ち上げた。そして絶句した。
ヒカルは裸だったのだ。
よく見ると、ベッドの脇に学生服が散らばっている。何をしていたかはすぐに思い当たった。
股間のモノも隠しきれていない。
「ご、ごめんなさい! オレ、オレ……」
ヒカルは身体を丸めて、一生懸命謝っている。だが行洋はヒカルの裸体に目が釘付けとなり、
耳に言葉など入ってこなかった。手が勝手に伸びていく。
肩に触れると、ヒカルはびくりと反応した。行洋を見上げてくる。その目に、今までなかった
ものを行洋は見出した。ゆっくりと顔を近づけると、ヒカルは目を閉じた。
触れるだけの軽いキスをした。いつもなら、ここまでだった。
だが今日は、行洋はさらに奥深くまでヒカルを求めた。

(44)
行洋は自分の身体のまえにヒカルを座らせていた。
ヒカルが顔を見られたくないと言うので後ろ向きにしたのだ。だが見えなくても、その表情は
容易に想像することができた。
元気をなくしていたヒカルのモノを行洋はつつみ、しごきだした。ヒカルは逃げようとしたが
行洋は強くつかんで放さなかった。耳にはヒカルの言葉が甘く残っていた。
「塔矢先生のせいだ」――――――――
唇がはなれたあと、顔を赤らめてヒカルはそう言った。
「塔矢先生が、寝てるオレに、あんなことするから」
ヒカルは気付いていたのだ。行洋は激しい羞恥心を感じた。自分こそ謝りたかった。だが謝罪
の言葉を口にするまえに、ヒカルはつぶやいた。
「なんで、起きてるときに、してくれないんだよ……だからオレ、こんな……」
行洋の理性を飛ばすなど、それで充分だった。ヒカルは抵抗しなかった。もし抵抗していたと
しても、行洋は自分を律することはできなかっただろう。
「はぁっ……ぁ、ぁあ……んんくっ……」
手のなかで快感に震えるヒカルを行洋は恍惚として抱きしめていた。他人の性器を触ったこと
などなかったし、触りたいと思ったことさえなかった。しかし行洋は今、ヒカルのそれを躊躇
することなく愛撫していた。
「せんせっ……で、るから、はなしてっ……!」
ヒカルのモノはびくびくと脈打っている。行洋はヒカルの肩越しにのぞき見る。未発達の性器
だが、行洋の興奮を誘ってやまない。自分のなかのどろどろとたぎったものが、噴き出ようと
している。行洋はそれを抑えることができなかった。
「……気にせずに、出しなさい」
「はっ! ぁああッ――――」
先端にほんの少し刺激を与えただけで達した。ぐったりとしたヒカルをベッドに寝かせ、その
顔を見た。薄紅い頬に、さらに艶めいた胸の突起が、行洋の気持ちを乱れさせる。
行洋はヒカルと目を合わせながら、濡れた指先を舐めてみせた。ヒカルは驚いたような表情を
したが、すぐにいたたまれなさそうに目を伏せた。
その仕草が行洋を煽る。

(45)
汗ばんでしっとりとしている足を行洋は撫で上げた。ヒカルはその刺激に小さな声をあげる。
行洋の動きにはまだ迷いがあった。指は肌の上をうかがうように彷徨う。するとヒカルが両手
を伸ばしてきた。身をかがめると、首を強く抱きしめられた。
「せんせぇ……」
息詰まるような苦しさを感じた。若いにおいを吸い込む。自分にどこまで許されるか、行洋は
ためしたくなった。行洋はヒカルを抱えたまま、指を足のあいだに入れた。ヒカルは動かない。
そのまま周辺を撫でていたが、さらに奥まで侵入させた。
「あ……」
後孔のあたりをさりげなく触ると、さすがにヒカルも身じろぎした。ここで拒絶されていれば
この先はなかった。まだそのくらいの自制心は行洋にも残っていた。しかしヒカルは行洋の首
にすがりついたまま、それを許した。
「身体の力を抜いていたまえ」
自分の声が興奮のため震えていた。
「や!? あっ! っだ、やだ、せんせっ……!」
行洋はヒカルのなかに指を沈めていた。ヒカルは怯えたように自分を見てくる。逃れようと、
身体を何度もねじっている。しかしためらいがあり、押しのけるほどの強さはなかった。
「ぁっ、ん!」
突如、瞳の色が変わった。ヒカルは背をのけぞらせ、声をあげた。
それは嬌声であった。
「ここが良いのかね」
「あ、いや、だっ、あ、あっ、や……っ、あッ……」
戸惑いと幼さの混じった声音だった。再びヒカルは自分の首に手をまわしてきた。すがりつく
少年はどこか哀れに見えた。慰めるかのように、行洋はヒカルを抱きしめた。
「く……っ、ん」
ヒカルのモノが勃ちあがっているのに気付いた。引っ掻くようにこすると、ヒカルのそこは指
を締めつけてきた。そして性器はそれに呼応して雫をこぼしている。
「ゃ、あ、はぁ……ぁあっ! あぁ――――!!」
行洋は前には触れずに、ヒカルを二度目の絶頂に追い上げていた。

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