初めての体験 ヒカル祭り
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瞬間、どよめきが起こった。さすがに反省したのかと思ったが、それは甘い考えだった。
「でた―――――(゚∀゚)―――――!ヒカルたんの生“帰る!”」
「初めて聞いたよ…」
「俺、このイベントに参加して本当によかった…」
どこまでも人をバカにした連中だ!
「バカにするのも―――――――!?」
いい加減にしろ―――――そう言おうとしたヒカルの身体を誰かが引き寄せ、畳の上に引き倒した。
「―――?え?」
ヒカルは仰向けにころんと転がされ、茫然と目を見開いた。真上から、男達が目をぎらつかせ、
ヒカルを覗き込んでいる。自分をぐるりと取り囲んで、
「ちょっと、着てくれるだけでいいんだ…」
「そうだよ…きっと綺麗だよ…」
と、四方から腕が伸びてきた。ヒカルは悲鳴を上げて、身体を縮こまらせた。
その時、輪の外の方から「ちょっと待った!」と、抗議の声が上がった。ヒカルは半泣き顔で、
声の方に首をねじ曲げた。一人の青年が、人垣をかき分けて自分の方へやってくる。
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助かった―――――――
ホッと安堵の息を吐き、全身から力が抜けた。
だが―――――――
「十二単は着付けに時間がかかる!先にセーラー服を着せてくれ!」
ヒカルは耳を疑った。
『ああ…オレのバカ…そうだよ…こういう奴らだよ…』
もう逆らう気力もなかった。
「ええ!?みんなで決めただろ!何自分勝手なこと言ってるんだよ!」
「そうだよ。俺だって、ミツバチの着ぐるみ我慢してるんだぞ!」
黄色と黒の縞模様、背中には透明な羽まで付いている衣装を見せながら、それを来たヒカルが
いかに可憐で愛らしいかを力説する男。
「桃の節句なら振り袖着て、オプションに赤い杯を掲げて欲しい!」
薄い紅色に、花を散らした長い袖。襦袢の色は緋色ですか…そうですか…
「いや!生足万歳!ミニスカポリスだ!」
紺のスーツに、ハイヒール。ストッキングは網でよろしく。
「絶対ウェディングドレス!新郎役はオレが!」
フリルの入った白のミニワンピ。ベールは長く、ブーケは黄色い小花で可愛くまとめてみました。
まじめに悩むのもバカらしくなってくる。男達は聞くに堪えない醜い争いを続けていた。
『男のオレに女装させて…着ぐるみ着せて…』
ヒカルの中で何かが切れた。人はそれを堪忍袋と呼ぶ。
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「だ――――――――――――――――――っっ!」
ヒカルは目一杯大きな声で喝を入れた。男達の動きがぴたりと止まった。
「なんだ??」
「イノキ?」
ヒカルは身体をしならせ、バネ仕掛けの人形のようにぴょんと飛び起きた。
「うっせ――――――――!!」
今度は忍び笑いも「可愛い」コールも起こらない。男達は吃驚して、固まっていた。
「そこに座れヘンタイども!」
ヒカルの剣幕の飲まれ、しおしおとその場に正座する。
「ヘンタイ!スケベヤロウ!バカ!」
思いつく限りの罵詈雑言を投げつける。気が済むまで、怒鳴った。怒鳴りすぎて喉が痛い。
ヒカルがゼエゼエと息を吐く音に混じって、なにやらハアハアする息づかいが聞こえてきた。
ゆっくり周囲を見渡すと、男達が前屈みになって呻いていた。
「ヒカルタン…もっと罵ってくれ…(;´Д`)ハァハァ 」
「ヒカルたんの罵倒…最高だよ…(;´Д`)ハァハァ 」
「このヒールを履いて、踏みつけてくれないか?(;´Д`)ハァハァ 」
目の前に赤いピンヒールを差し出され、ヒカルはがっくりと肩を落とした。
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「それで結局どうしたの?」
ヒカルの身体を引き寄せながら、アキラは囁いた。さっきヒカルの中に出したばかりだというのに、
またソレが熱く硬くなり始めていた。
「ん…?恥ずかしいからナイショ…」
その言葉で、どうなったのかだいたいの想像はつく。
セーラー服や十二単を着たのだろうか?ミツバチの着ぐるみだって?ふざけるな!
ボクにも見せろ!
アキラはヒカルの胸をまさぐりながら、彼の耳を軽く噛んだ。
「や…やめろよ…」
アキラを押しのけようとするが、ほとんど力は入っていない。それをいいことに、悪戯を続けた。
「ん…んふ…やだ…てばぁ…」
「進藤…セーラー服…着たの?」
ヒカルは小さく首を振った。それはアキラに対する答えではなく、快感に呑まれるを
必死に堪えているのだとすぐにわかった。
―――――進藤のセーラー服…進藤のミニスカ…
アキラの頭の中は今やヒカルのコスプレのことでいっぱいだった。可憐なヒカルには
清楚な白いのセーラー服が似合うだろう…だが、ヒカルのすらりと細い足…その白い太ももには
紺のミニスカートが映えそうだ…
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「進藤…進藤おぉぉ!」
アキラはヒカルの太ももを抱え上げ、自分の身体を割り込ませた。
「や…!なに!?ちょ…あぁ!」
進藤のコスプレ…進藤のコスプレ…
「と…おや…ダメ…だよ…オレ………あぁ…」
進藤のセーラー服
進藤のミニスカポリス
進藤の着ぐるみ…十二単衣……
「や!あ!」
「進藤おおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっ!!」
「大丈夫?」
青い顔でぐったりとしているヒカルの顔をアキラは覗き込んだ。閉じられていた瞼が億劫そうに
持ち上がり、そこに自分の心配そうな顔が映された。
ヒカルは黙って頷くと、アキラの方へ身体をすり寄せてきた。
「塔矢怒ったの?」
「え?何で?」
訊き返すと彼はか細い声で「だって…」と言った。
「だって…オレが…」
それ以上言葉は続かなかったが、ヒカルが女装をした―本人ははっきりと言わなかったが―ことに
腹を立てていると思っているらしい。彼は、アキラの腕の中で身体を縮こまらせている。