リレー小説 狼の宴
(6)
「あ、ハァハァ工務店さんですか?塔矢です。
急に頼んでしまってすいません・・はい、はい…」
アキラは越智の別荘に近い工務店に電話をしたのだ。
「それで、工事はいつくらいから出来るんでしょうか?
クリスマス前には終わらせないといけないので急ぎたいんですけど」
アキラはなにやら越智家の別荘に細工を施したいのだ。
集まった棋士全員を欺き、出し抜いて、思う存分ヒカルとまぐわう為に。
そんなアキラの計画も平行して進む中、
ある者はタッグを組んでヒカルを含めて3Pをしようと画策し、
またある者は後から楽しめるように、
隠しカメラの設置場所の検討に余念が無かった。
そうして迎えた12月23日、待ち合わせ場所に全員集合し、
越智家から回された送迎車に乗り込み、別荘に到着した。
狂乱の狼の宴(生贄はヒカルたん)はついに幕をあけたのだった。
(7)
その青年は成田空港の到着ロビーに颯爽と現れた。
白いスーツ、オレンジがかった明るい髪をなびかせて、
近距離からの来日なのであろうか、小ぶりのトランクを携えていた。
海外から多様な人々が集まる国際空港の中でも、彼の姿は
ひときわ輝く美貌とその存在感で、周囲の女性たちの多くを立ち止まらせるほどだ。
「塔矢…何を企んでいるんだ。
悪いが進藤は渡さない。彼の涙を間近で見る権利は
この俺にしかないのだからな」
その男、高永夏。
まずは日本棋院へ向かい、お決まり通りの挨拶を終えた後、
事務員に、塔矢アキラのスケジュールをさりげなく聞き出した。
すると23日に、塔矢、進藤を含む若手棋士数人が休みを合わせており、
やはりとある若手棋士の別荘でパーティーを催す計画だという。
「…そういうことか…」
彼の美しく整った薄い唇の端がにやりと上げられた。
(8)
「うっわー、すげぇ〜!」
初めて足を踏み入れる”別荘”なるものにヒカルは目を輝かせて
くるくると落ち着きの無い子犬のようにはしゃぎまわっている。
「なんか、旅館つーかホテルみたいだな。
やっぱばあやとか執事とかいるわけ?」
「屋敷の管理をしてもらう使用人ならいるよ」
「あ、この壷も高いんだろ?お宝ってやつだな」
玄関ロビーに飾ってある大きな壷をぺたぺたと撫でまわす。
「おい進藤、あんま触んなよ〜。壊したら大変だぞ」
和谷が止めに入った。
「その壷はたぶん進藤の給料じゃ弁償できないほどの額だろうけどね、
でもいいよ、壊しても。体で払ってもらえばいいから」
越智のさり気ない発言に、ヒカル以外の全員に険しい空気が走る。
『越智め…』『ねらってやがったか…』
「えー?オレ越智の家の使用人になるのやだぜー」
ヒカルの天然ボケが場の緊張を解いた。
「キミはトラブルメーカーになりかねないからね、
広い屋敷で迷子になっても困る。ボクから離れるなよ」
アキラがヒカルの手を握って体を引き寄せた。
ヒカルは自分だけのものと宣言するかのように。
(9)
和谷も負けじとヒカルの体を背中から羽交い絞めにした。
「そーそー。おまえは危険物だからじっとしてろ」
ヒカルの柔らかそうな後ろ髪が降りる白いうなじに
顔を埋め、息を吹きかけるようにささやく。
「離せよー、くすぐってーよ、和谷〜」
ヒカルを取られまいと、アキラはヒカルの腕を強く引いた。
「痛いって!塔矢」
アキラに手を引かれ、和谷に後ろから抱きしめられ、
ヒカルは身動きが取れなくなってしまった。
「みんな、そのへんで解放してやれよ。進藤も痛がってるし」
伊角の一言で二人は我に返った。
こんなところでヒカルの取り合いをしても始まらない。
すべては今宵が勝負なのだ。
「伊角さーん…」
アキラと和谷から逃れたヒカルは、伊角のもとへ泣きつきに行った。
よしよし、とヒカルの頭を撫でてやる伊角。
みながヒカルの無邪気な姿を前に、今宵の彼を想像し思いをめぐらせていた。
今宵繰り広げられるであろう狂乱の宴の生贄、ヒカル。
どんな声で泣き、どんな甘い吐息で喘ぎ、どんな顔でイクのだろう。
その肌の味は、そしてヒカルの中はどんなに気持ちがよいのだろう。
「みんななにハァハァしてんの?疲れた?早く部屋に入ろうぜ」
(10)
「えーまずは乾杯でもしようか。」
洋式の建物にはあまりにつかない畳張りの大きな宴会場。
若手なのか微妙なところだが、必死に自分は若いと主張する門脇がまず乾杯の音頭をとった。
乾杯!の言葉に合わせみなグラスを当てあい、一気に中身を飲み干す。もちろん人によっては中身が酒だったりしたが
ヒカルはまだ17歳だったので、大好きなCCレモンで乾杯した。
料理が次々と運ばれた。越智は財力にものを言わせ、行き着けの料亭からわざわざ料理人を呼び、
みなの前には小洒落た創作料理が並べられた。母親がどら焼きすらも値切る姿を思いだし和谷は少し複雑だった…。