リレー小説 狼の宴
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「オイしんどー、Saiと打たせろ…」
突然背後から声がした。耳元で息を吹きかけられて思わずひゃっと声があがる。
今…佐為って言った!?
恐る恐る振りかえると酔っぱらった緒方十段碁聖がニヤニヤ笑いながら立っていた。
「おっ緒方せんせえ!何でいるんだよ!今日は若手だけの…ンンッ」
伸びたアキラの手がすぐさまヒカルの口を塞いだ。
『シッ…あれでもまだ若手だって言い張るんだ、この人。下手なことを言うな、何されるか分からない』
「ン…ンン〜」
こくこくうなずくヒカルが苦しそうにアキラの手をはずそうともがいている。
上目使いに「離して」と訴える姿はなんとも可愛らしかった。気付けば騒いでいた男達もそんな
ヒカルの様子に思わず辺りがシーンと静まりかえり、かわりにハアハアという怪しい鼻息が聞え始めた。
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(…進藤の唇がボクの手のひらに触れている)
アキラは離そうにもはなせなかった。ヒカルの唇が動き擽ったいが、それは同時にアキラの体を熱くさせた。
「ンンーッ!」
アキラをとがめるものはおらず、口を手で塞がれているという萌え萌えのシチュエーションを男達は満喫した。
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しかしそんな萌え萌えシチュエーションの中、
幹事よろしく厨房に行った越智は、シェフに
「この料理は全員酔っぱらった頃に出してくれ。
ただし、この皿だけは進藤に…前髪が金髪のやつに出してくれ」
と、用意周到に根回しをしていた…。
因にヒカルの分だけ催淫剤がはいっている。
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アキラにくちを封じられ、息が出来ずにもがいていると、別荘のドアが突然開いた。
飛行機の到着が遅れたため、送迎車に乗れなかった永夏が追い掛けて来たのだ。
「進藤に何するつもりだったんだ!塔矢!!」
来た早々永夏は怒っている。
アキラはチッと舌打ちして、しぶしぶヒカルをはなしたが、
自分の手のひらの、ヒカルの唇があたっていた部分をなめ廻す事は忘れなかった。
「よ、永夏じゃないか!ひさしぶりー!」
ヒカルは意外なパーティー参加者に喜び、そして緒方&アキラから逃げだせた安心からか、
おおはしゃぎで永夏に飛びつき、ひまわりの様な満面の笑みで出迎えた。
永夏はその場にいた日本の若手棋士全員に勝ち誇った様な笑みを寄越した。
次の瞬間、全員が見ている前でヒカルをその腕にすっぽりと抱き込んでしまったのだ。
ヒカルはただ、「外国の挨拶」程度にしか捕らえておらず、
無邪気に「会えて嬉しいぜー」などと、自ら永夏の背に腕をまわしてしまった。
それを見た全員が、ついにキレた!
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(…なんでこんなことになってんだよ…)
ヒカルは自分の両手首を押さえているアキラを
心底恨めしく思った。
永夏と“ガイジンの挨拶”とやらをしている
最中、いきなり宴会で大いに盛り上がっていた筈の
連中がヒカルに近寄ってきたのだった。
「しんどお…ハアハアハアハア」
「もう我慢出来ねえよ俺…」
何のことだかさっぱり理解出来ず戸惑うヒカルだが
お構いなしとばかりにいきなり男達はヒカルに
飛びかかっていったのだった。
「わっ!なんだよお前ら!」
越智が部屋の鍵を内側からかけるのを目のはしに捉える。
「いてぇっ!」
床にしたたかに打ち付けられた背中に一瞬
息が止まるかと思った。傍観気味だったアキラが
突然ヒカルに近寄り群がる男達をかきわけて間近に迫る。
「ボクが彼を押さえておきますから」
「え?なんのことだよ」
アキラは優しく微笑み、頭上に回っていきなり
ヒカルの両手首を床に強く押さえ付けた。