リレー小説 狼の宴
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その時、厨房からシェフがパーティーの様子を覗きに来た。
しかし、その異様な光景を見て「全員酔ってる」と思い込み、
のん気に料理を持ってきた。
「さあさ、ぼっちゃん、みなさん特別メニューですよ〜」
その声に全員ハッと我に返る。アキラも慌ててヒカルを開放した。
正直、ヒカルは助かったと思った。
「い、いやあ冗談冗談」
「今夜はパーティーだし無礼講だしな!」
「うまそーな料理だな」
等と、口々にその場を誤魔化し始めた。
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「…なっ…」
当のヒカルはまだ混乱したままだった。いきなり押し倒され
たのだから当たり前だが、アキラが優しく微笑み言った。
「進藤、さっきはごめんよ。みんなキミが大好きなんだ。だから、つい…ね」
「ついって何だよついって!」
「そうだぜ進藤!お前取っ組み合いとか友達としたりするだろ、それだよ」
兄弟が多くいつもどら焼きを賭けて取っ組み合いしていた和谷
が懐かしそうに付け加える。ヒカルは態度を軟化させ、あっさりとうなずいてくれた。
「なーんだ。オレてっきりまた変な事されちゃうのかと思ってさ」
疑って悪かったよと笑うヒカル。しかし、さりげなくヒカルが
雫した『また』の意味は?
「また、って…」
誰かが尋ねると、ヒカルは慌ててなんでもないと手を振った。
(言えねえよな。ハアハアうるさい男達に変なことされたなんてさ)
ハアハア息の荒くむさくるしい男達は自分達を「ハアハアメイツ」
だとか名乗っていた気がする。そしてヒカルを「ヒカルたん」
と呼び、いろんな服を着せられ写真を撮られ、しまいには
下着をとられ「これを家宝にする」と言われ、そのあとは…
とてもじゃないが口に出せないようなことをされた。
まあ、ちょっと気持良かったけれど。
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まだその時のことをしっかり体が記憶している矢先にだった
から、つい勘違いしてしまった。ヒカルは友人らを疑った
自分を叱った。せっかく楽しい雰囲気のパーティーを台無しに
してはいけない。自分も何かして盛り上げるかと意気込んだ。
「よーししんどーヒカル、いっきます!」
突然立ち上がり、近くのグラスを持ちもう片手でフライドチキン
をつかむ。チキンにむしゃぶりつきながら、みんなが
はやしたてる声に乗せられヒカルはグラスの中身(シャンパン)
を一気にごくごくと飲み干した。
「いいぞ進藤ー!」
「もっといけー飲めー」
「やらせろー」
「次は日本酒だー」
ヒカルはどうやら酒に強い体質らしく、はやし立てられるまま
飲み干していく。気付けばみなそれぞれ酒にまみれ会場は
完全に無礼講の場と化していた。そんな様子をアキラは
ただ一人緑茶を飲みうかがっている。何故か口元には
不気味な笑みをたたえていた。
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そのアキラの笑みを横目で見やり、永夏は確信した。
(あの日本酒に例の媚薬が入っているのか)
そんな事もつゆ知らず、ヒカルたんはシャンパンと同様に
その日本酒を煽る。
「…んん゛っ!?」
飲み干してからゲホゴホと激しく咳き込むヒカルたんに
冴木は駆寄り背中をさすった。
「日本酒の一気飲みはさすがにキツいだろハァハァ」
「門脇さんだよ渡したの、僕見てたよハァハァ」
「あはははハァハァ」
料理を口にしながら盛り上げる面々に、ヒカルたんは
「違うよー、この日本酒なんか苦えんだもん…」
と涙目で訴えた。
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高級料理にがっついていた碁メイツは、あまりのヒカルたんの
可愛らしさに箸をポロリと落とした。
また一方では手にしたグラスを傾けたままで
自分のズボンを濡らしているのにも気付かないでいた。
「うう…俺酔っぱらったのかなあ?なんか熱くなってきたあ…」
パタパタと仰ぐTシャツは汗ばみ、薄らとピンクの粒が透けていた。