お江戸幻想異聞録・金剛日記
(12)
襖の向うから、唇をついばむやさしげな音と、甘い声。
「光――。会いたかった…。」
「佐為さま…。」
振袖を脱いだのでしょう、衣桁のかたかたという音がいたしました。
「いままでお勤めだったのでしょう。疲れているのではないですか。」
「ううん…佐為さまと会ったら疲れたのなんて忘れた。」
「でも…無理をしてはいけませんよ。」
「…ね、佐為さま…早く抱いて。」
甘い囁きに、手前はいっとき襖に振り向き、そうっと襖のすきまから中を伺った
のでございます。
(13)
「あ…んぅ…」
畳の上に仰向けになった光の白い首筋に佐為さまはやさしく唇を落としました。
そうしながら、ちりめん友禅の豪奢な襦袢の前をゆるめますると、さくら餅より
白くやわらかい肌に桜の蕾が二つ。
佐為さまの細い指先がそのまわりでゆっくり円を描き、光は鳴き声を漏らして
佐為さまの指をつかんで、ふくらんだ蕾にそえさせました。
「あっ…ん…ここ…」
「ここ…?ここに触れてほしいのですか?」
「う…ん…」
佐為さまはうふふとお笑いになり、ひとさし指と中指の間に蕾を挟みました。
「あはぁっ…ああん…」
もがくように手指の先が震え、細いからだがしなります。佐為さまはなおも強く弱く
蕾をこね回し、そして南天の実ほどになったそれをそっと口に含みました。
(14)
「あっ…あっあっあっ…佐為さま…体が…溶けちゃうよ…」
「うふふ、光…お前さまはほんに素直でかわいらしいですね。お前さまを毎日
抱けたなら…」
「ねェ、こんど、二人で志乃ばず池の弁天さまへお参りしよ!それで…それで
いっしょになれるようお願いしようよッ」
佐為さまは光の細い髪をなでながら、からかうようにおっしゃいます。
「おや…。弁天さまは女の神様だから、きれいな子には嫉妬なさっていっしょ
にはしてくれないそうですよ。」
「あのね、おれんとこの部屋のとなりにある部屋の藤若って子がね、弁天さま
にお願いしたら、惚れた旦那が身請けしてくれたんだって…!ね、行こ!」
「そうですか。じゃあ、今度参りましょう。」
(15)
二人とも襦袢も何も脱ぎ捨てて素肌になると、一部の隙もないほどに抱きしめ
あい、唇をさぐりあいました。
「佐…為さま…」
「佐為でいいのですよ、光。」
「…さ…い…。ねぇ…早く来てよ…」
「ほかの殿方に抱かれたあとで辛くはないのですか。」
「つらくなんかない!ね、ほかの旦那のことなんかどうでもいいよ!忘れるぐらい
抱いて!」
「いいんですか光――。」
佐為さまは後ろから細身の体を抱きしめる、すらりと伸びたうなじ、蝶のごとくひら
ひらした耳に唇を落としたのでございます。
そうして光の肘と膝を立たせ、なだらかな尻を撫で上げながら、かたわらの香棚
からいちぶのりをとりあげると、それを口の中に湿し、塗りつけてやります。
「あ…んん…」
(16)
白く長い指がするりと菊座に入り、佐為さまは様子をたしかめながらゆっくり
ゆっくり出し入れなさいました。ひな鳥の啼くようなぴちぴちとした水音がひび
き、ときに細い体が揺れます。
「光…光や、痛くないですか?」
「ウウン。…ね、早く、佐為。」
「仕様がない子ですねえ。」
くすくす笑いながら、佐為さまは柳の腰を引き寄せ、切先を菊座に当てがいま
した。そうして、指とおなじように時をかけて魔羅を沈めていきます。
「う…ん…佐為…」
根元まで入れてしまうと、片腕に光を抱き、その背にぴったり裸の胸をつけた
まま、ジッとしていらっしゃいました。
「また一つになれましたよ、光…。これをどんなに待ち望んだか」
「佐為…」
光が身じろぎすると、佐為さまは片腕に力を込めてそれをお止めになります。
不安げに顔だけ向けた光にやさしく口付け、光を包み込むように抱きしめてもろ
とも布団の上に倒れこみます。