お江戸幻想異聞録・金剛日記

(其の四)中村屋茂蔵

(30)
「いやはや、久しぶりじゃのう。しばらく見ないうちにまた色気づいて、どな
たか惚れた旦那でもあったのかね。うふふふふ。」
「あっ…いえ…」
「お前さん、年はいくつだね。」
「…もうじき十五でございますが」
「おお、花盛りじゃのう、ささ、ぐぐっといきなされ」
中村屋の旦那はそう云うと、光に朱塗りの盃を持たせて酒をそそぎます。
「は…はい…」
光は下戸ではございませんが、旦那に肩を引き寄せられ、生暖かい息をふき
かけられながらとあってはひきつったお愛想笑いを浮かべるのが精一杯、
やっと意を決したように盃を傾け、一気にあおりました。

(31)
「おお、いい飲みっぷりじゃのう。ささ、もうひとつ。」
「えっ…旦那…」
「ええ、よいよい、酔いつぶれたらこの中村屋重蔵が介抱してやるわい。」
中村屋茂蔵さまは唐物や掛け軸などを扱う大店の主人にございました。
しかしその面がまえたるやまるで蝦蟇、その上、にせの物をつかませるという
よからぬ噂もございます。光はまえまえからこの旦那を嫌っておりますが、
おつとめとなればいたしかたなし、すすめられるままに盃をあけ、気がつけば
目のまわりと赤くしてはぁはぁと息をついておりました。
手前が鉄と示しあわせて佐為さまのご臨終を伏せることにしてちょうど七日、
光はあいかわらず明るくふるまっておりますが、光の心持ちが日ごとに重く沈
む様子が手に取るようにわかります。

(32)
大きな目をくるくる動かして笑いながら、ふと遠くを見つめる光に、いっそ
まことを告げてしまおうかと何度思ったことか。
あの日を境に光はまたお座敷と部屋の行ったり来たり、それに光はなんの
文句も不満も申しませんが、ひょっとするともうわかっているのかもしれませぬ。

「おお、ちと呑みすぎたかのう。どこもかしこも桃の色に染まって、いやこれは
絶景かな絶景かな」
中村屋さまは光の細い肩を抱き寄せ、大きく抜いた襟あしを見ながら舌なめずり、
はたから見れば光がしなだれかかっているようでございます。
「旦那さま…なんだか…体が…」
息の間からちいさく言葉をつぐ光に、中村屋さまはニタリと笑いました。
「ほう。意外と効きが早いものだな。」
ぎりりと睨み返した光の顎を持ち上げて云ったものでございます。
「南蛮渡来の色薬をさっきの酒にたっぷり入れておいた」
「…!!」

(33)
振袖のえりに手がかけられ、下の襦袢もろとも引きずりおろされました。
薄くて華奢な肩があらわになり、蝦蟇は鼻息もあらく太い指を首すじに這わ
せてのよろこびようでございます。
「ん…くぅっ…」
「ふふ、指一本ふれていないと云うに、紅梅のつぼみももう盛りだのう。」
「はぁぁああん!い…や…やめ…」
かれんな蕾を指ではじくと、光は狂おしげに声をあげておりました。
蝦蟇は光を抱き上げると軽々持ち上げ、すぐ後ろにのべた床に転がします。
赤い襦袢のすそとそこからはみだした白い足も生々しく、光はされるがままに
上身をはだけて息をついております。

(34)
蝦蟇はまるで有田の壷でも撫でまわすようにして目を細めながら肩から脇、脇
から腰へと両手を這わせました。
光の身の毛がよだち、鳥肌が立っているのがわかります。
「ふぁ…やっ…んん…」
蝦蟇のぶあつい手が光の胸を撫であげ、大きく丸を描いておりました。
光はといえば、唇を噛みしめて固く目を閉じております。
「唐の白磁などお前さんにくらぶればただのガラクタ、梅のつぼみが手のひらに
当たっていい塩梅。たまらんのう。」
「あ…ふぅん…んくっ…」
よくよく見れば、蝦蟇は毛むくじゃらな手を胸から浮かせ、手のひらで光の小さな
つぼみを転がしていたのでございます。

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル