お江戸幻想異聞録・金剛日記
(93)
すわっている、というのは手前の早合点でございました。
よくよく見ると、昼間、芹澤さまの横についていた村上が、背中から光を抱き
ながら、耳元でなにごとかささやいております。
光が体をよじりましたものの、いとも簡単に抱きすくめられ、するとどこから
か手が伸びて、衿の中に差し入れられました。
光のすぐ脇におりますのは、おそらく飯島と云う三人目の弟子でございましょ
うか、ほかの弟子よりいくぶん年若なそれは乱れる息を詰めながら光の胸を
まさぐっておりました。
薄明かりの中で浮かぶ光の目はとろりとして胸を上下させ、浅く息をついてお
りました。
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「ん…ふぅ…」
背中から抱きかかえている村上が光の細い顎を持ち上げ、その唇を吸いはじめ
ました。光はされるがままに体を預けて唇を吸われ、その濡れた音も生々しく、
すそからは足が投げ出されて、ときおり足の指がひきつるように動いておりま
した。
ふと、芹澤さまが紙の上に走らせていた筆を置き、筆筒の中から白い隅取筆を
とりあげました。綿の花のごとくふんわりと広がったそれを手に、光の前に座り
ますと、二本の腕が衿にかかって白い肩をむき出しにします。
「…う…うっ…!」
光は喉をのけぞらせてうめき、見ると筆先が首筋を這い回っておりました。
上から下へ、そして下から上へと筆先が撫でさすりますと、光の唇から艶めい
た声が漏れます。
「あぁん…はぁッ…ん…。」
後ろからは羽交い絞めにされて身動きもきかず、光は首を振り動かしておりま
す。首筋から肩へ、そして白い胸へとなまめかしく動く筆は光の肌を紅に染め
ていきました。
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いつしか光の右肩は袖から抜かれて、細い肩から腕、そして胸の上につましく
咲いた赤いつぼみまであらわになっておりました。
芹澤さまは白い筆を持ちなおしますと、光の体に覆いかぶさるようにして、蕾に
筆を走らせました。
「あ…あ…あっ…あふっ…」
光の上身がのけ反り、見ると白い筆先がつぼみをついばんでおりました。それ
は色を刷くようにゆるりと丸を描いていたかと思うと、形をなしてうす紅に熟れた
粒を白い毛先でなぶりあげます。
右のつぼみから左のつぼみへ、そしてまた右のつぼみへ、白い筆はいく度もやわ
らかな肌の上をなぞっていきました。
「はぁ…はぁ…はぁ…んん…」
光は声を上げまいと必死にこらえておりますが、筆がつぼみをかすめるたび、
白い喉がひるがえり、身体がヒクンとふるえて抱きかかえている村上の腕から
すべり落ちそうになります。
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小袖の前がわずかにもちあがり、光はそれを悟られまいと腰をねじりながら両
足をすりあわせますが、気づいた飯島が光の左足をおさえつけて、小袖の細帯
をするりと抜いてしまいました。
「あ…いやッ…!」
小さく叫んだものの、帯が抜かれると柳腰もあらわに、かわいらしい魔羅が
ちょこんと頭をもたげております。
「ほう。」
芹澤さまは息をつくと、うしろにある筆筒へ手を伸ばしました。
その振り向いた刹那、襖のすきまに鼻づらを押し込んでいる辻岡と手前に気づ
いてしまいました。
「辻岡。」
芹澤さまは静かに辻岡を呼ぶと、辻岡はうつむいてへどもどいたしております。
「は、はい。」
「何をしておる。」
「い、いえ…。」
「いすみ殿をこちらに。」
静かに云われる芹澤さまを前に、手前は身の縮む思いでおりましたが、いたし
かたなく、のろのろと部屋に入りました。
辻岡に促されるままに芹澤さまのそばにまいりますと、目を大きく見開いた光が
こちらに気付いて、声をあげました。
「いすみさん…?」
しかし、それも村上に頭をひきよせられ、あの男の腕に隠れてしまいました。
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「聞けば金剛とはかげまに色ごとを仕込むそうですが…。」
芹澤さまは腕を組み、あごをひねりながら、手前と光を交互に見回しました。
「…そう云う者もおりますが、手前はただ身の回りの世話をするのみの金剛に
ございます。」
「ほう――。なら、いすみ殿は光を抱かれたことは?」
手前はぶるぶると首を振りました。
「これほどの色子を前に抱かぬとは、いすみ殿はよほどの強いお心がけをお持
ちの方とお見受けいたします。」
芹澤さまはそう云われますと、光のほうへと向きなおりました。
「では、私がいすみ殿にまたとないみだれ絵をお見せいたしましょう。」
光は背中から抱きかかえられたまま、両脇にいる弟子たちに膝とほっそりした
足首を持ちあげられ、体を開かれておりました。身じろぎいたしましても、男
二人に両膝をつかまれましてはあらがうすべもございません。
紅色に染まった魔羅がひくひくとふるえてその下の毛すじ一つないふぐりまで
さらされます。
芹澤さまは頭をもたげたそれをジッと見ますと、筆筒の中からまた新たに毛先
を丸く切った筆をとり、根元から雁首までするするとやわらかい毛で撫で上げ
ました。
「んぁッ…!」
「これは先ごろようやく手に入れた栗鼠の毛にて作られし筆。やわらかくこし
があり、色を刷くにはまことによろしい。」
芹澤さまはそう云いながら、下から上へ、下から上へとためすようになぞった
のち、ぐるり雁首をひとまわりさせました。