お江戸幻想異聞録・五月雨(さみだれ)

(其の弐)

(10)
 端午の節句が終われば、曇りがちな日々が続く。表の庭では、光が空模様を
眺めながら、せっせと洗濯物を取り込んでいた。
「おーい、光。ここに来て茶でも飲まんか。」
「うん、これが終わったら行くからもうちょっと待って、じいちゃん。」
いつものように、塔矢行洋のところから帰ってくるや否や、こまごまと働く光に
平八郎は目を細めた。そんなもの、下女にでも任せておけばとも思ったが、
光はいっときでもじっとしていられないらしい。
 進藤平八郎はもともと凄腕の同心であったが、今は小さな道場で近隣の侍た
ちに一刀流を教えている。一男一女、それに孫がいたものの、息子は不慮の事
故にて亡くなり、残された嫁と孫は明和の大火に巻き込まれて失くした。
 去年の師走のことを思い返す。かねてから囲碁を通しての知己であった碁所、
塔矢行洋がじきじきに平八郎の庵を訪ねてきて、わけありの子どもをしばらく
預かってほしいという。きけば男たちに体を売るかげまであったという。
 碁の才に長けた子だが、直接、行洋が受け入れたのでは素性がすぐに知れて
あらぬ噂を立てられかねず、また本人も辛かろう、それで一旦、よく知っている
平八郎のもとで浮世の垢を落としてから通いの弟子という形を取るほうがいい
という考えであった。平八郎の人徳を信じて深々と頭を下げた行洋に平八郎は
二つ返事で受けたが、はじめて光を見たときは腰を抜かさんばかりに驚いた。

(11)
 女とみまごうばかりの白い肌と細い腕にくわえ、愛らしくも妖艶にて、若衆
遊びを趣味にする者がいることは知っていたが、なるほどこれなら溺れるのも
合点がいった。
 はじめは井戸の水汲みさえおぼつかず、はらはらし通しであったが、見かけ
によらず光は負けず嫌いで、多少のつらいことでも音をあげずどうにかやりと
おし、教えてやれば何でもしたし、教えないこともまわりを見てこなすように
なった。
剣術を教えて、細い体は次第に肉がつきそれなりに少年らしくなってきたし、
意外に筋のよさもある。なにしろ、砂が水を吸うごとくに貪欲に学ぼうとする
ひたむきさと素直さに感服し、平八郎はほどなくして光を正式に養子として受
けたいとわざわざ行洋に申し出たほどである。失くした孫をなぞるように愛お
しさすら感じるようになってきたのだった。
「今日は明殿は一緒ではないのか?」
「ああ、あいつ、今日は手合でいないよ。」
 やっと洗濯物を取り込み終わって縁側にあがりこんだ光と平八郎は向かい
合って茶を啜る。
「行洋先生も光を弟子にしてよかったと感謝しきりじゃったぞ。」
「本当?」

(12)
「先生の奥様もたいそう喜んでいらっしゃるそうじゃし、明殿も光が来てから
人が変わったように生き生きとしているってな。」
「ふぅん――。」
このわずか半年にあったことは、長かったようで過ぎてみればなんともせわし
ない。

 ある日、藪から棒に身請けの話をされ、そして…佐為のことについては誰も何
も語ってはくれなかった。
おそらく…佐為は京に戻ったまま、親族にとがめられたのだろうと思った。当然
のことだ。なにしろ、京のお公家さまがこともあろうに大枚をはたいて淫売、
それも男に体を売るかげまと一緒になるなど、反対しないほうがおかしいとい
うものだ。
 身請けの話が出る前の晩に佐為が夢枕に立ったのも、身請け金を預かったと
いう緒方精十郎や身請け人の塔矢行洋、それに娼屋の主人である鉄も何も云わな
いのはそうしたわけに違いないと思った。
それならば、己は江戸一番の碁打ちになって、御所の帝の前で行われる碁会に
出られるようになればいい。どこに住んでいるのかさえわからないが、京に行
けば必ず佐為に会えるはずだ――。
 そんな漠然とした夢を打ち砕くかのように、豊かな黒髪と聡明な瞳を持つ少年に
二目負けを喫した。かの塔矢行洋の一人息子、明之丞だった。

(13)
 己と同じ年の者に負けとに、光は呆然とした。おまけに名前まで似ているの
もなんとはなしに癪で、光は精一杯、明之丞をねめつけたのだった。
だが、勝ったはずの明之丞も整った顔立ちを鋭くゆがませ、こちらをにらみ付
けていた。
 はじめはそんな物騒な出会いだったはずが、三日もしないうちに明之丞が
光にくっついて離れなくなり、ひと月もしないうちに二人の云い争いは弟子の間
では毎日の光景となった。
「――ヘンなやつ…。」
どこか遠くからゴロゴロと雷鳴らしきものが聞こえる。この調子では一雨来そうだ。
茶わんを片付けながら、光はぼんやりともの思いに耽る。
ときおり、無性に佐為の手のぬくもりが思い出される。青みがかったやさしい眼
差し、透き通るような肌、そして…火のように熱いものが光の体に入ってくるとき
の心持。
 平八郎とゆっくり夕餉を取ったあと、自分の部屋で布団を敷いて潜り込む。
晩方からパタパタと降り始めた雨が屋根を叩く音にかくれ、布団の中でこっそりと
自分を慰めてしまう。
「あ…ぁ…佐為ぃ…。」
浴衣の裾から手をしのばせていって、熱くなりかけた魔羅に触れると、すでに先か
らねっとりとした液が染み出している。

(14)
かつて、そうされていたように脚を大きく割り、膝が胸につかんばかりに尻を
持ち上げる。
「ふぅ…ふう…はぁ…は…ん…。」
そろそろと手を伸ばすと、ぷるんとした袋が手に当たる。
手のひらで円を描くがごとく撫で回していると、切ない痺れが体の隅々にまで
いきわたっていく。
「あ…んんっ…」
扱きたいのをぐっと堪えていると、雫が竿を伝って流れ落ち、いくばくの毛も
ない脚の間に小さな水溜りをこしらえた。
ふぐりからさらに下の溝に指を這わせていくと、強い快感の波が押し寄せて
きた。
「あ…あぁ…!」
濡れた舌でそこを舐め上げられている時の記憶がまざまざと炙り出される。
――だが、それはなぜか佐為ではなかった。そもそも、佐為はそんな焦らして
羞恥をあおるような真似はしたことがない。

光の脳裏に、逞しい男が浮かび上がった。

――あの男に抱かれたい…。
あの男に次々と淫らな格好を取らされ、執拗な焦らしに泣いて懇願したい。そ
んな思いが胸の奥底から湧き上がってきて、どうにも制御しがたい。

(15)
『――いやらしい子だ。こんなはしたない姿で…。』
男は耳元でそう囁き、舐めるように光の体に視線を這わせていった。
「ア…!」
背中がびくん、と波打つ。
『さあ、もっと淫らな姿を見せておくれ。自分でするのだよ…。』
男が柔らかく囁いた。
光は右の指を唾液でたっぷりぬらすと、うずく菊門にあてがった。左手は膝を
かかえながら、ぼたぼたと雫を垂らす魔羅へと添えられた。
「ん…っ…。」
菊門をこじあけるようにして指を一本、押し込む。
入り口を浅く出し入れしているうちにもっと欲しくなって二本、さらには三本と
増やし、奥をかきむしる。
「ア…ア…ァ…いい…。」
左手で雁首を擦りながら、右の指で菊座を犯すと、そこはきつくきつく指に絡
んできて、もう少し奥まで指が届けば、焼け付く快楽にたどりつくはずだった。

いつしか、様々な形の張り型で腰が砕けるほどに責められたことを思い返す。
せめてあの張り型があれば、この体の渇きもおさまるのに…。
「んはっ…ハッ…はぁっ…!あ――!!!」
激しく扱いた魔羅からとろとろと精が溢れ、足のつま先まで鋭い痺れが走り
回った。

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