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トラック 02
Lは「老獪な人物」、という印象をメロは持っていた。直接話したことがないからかもしれないが、ネット越しでの彼の話ぶり、物事に対する批評の辛辣なことからそう判断した。子どもだったころには『怖い』と思ったこともあった。
しかし、Lに直接会い共同捜査にあたっていた模木は、ひどく懐かしそうに語る。総じて好意的に接していたようで、恐らくは模木よりも若い人物だったのだろう。
極端な偏食家で、口にするのはほぼ菓子類のみ、坐る時はいつでも膝を抱えた格好で、小さな子どものようによく爪を噛んでいた、というところまで聞いたころには、今までもっていたイメージは半分くらいは崩れ去ってしまっていた。しかしそれは、メロにとっては残念に思うようなことではなかった。
携帯電話の着信音が鳴った。メロのものからだった。
「…ああ、話はついた。共同戦線をはる」
「代表か?」
マットの言葉に頷くことで答えた。電話の向こうの人物は、もうこの協力体制が決定事項として動いているようで、すぐさま用件を切りだした。
『全員揃っているなら、そこから今から指示する場所へ移動してくれ。東京での場所は確保した』
「早いな、さすが『ワタリ』」
『日本警察は今、各地の同時突然死の件で人員を取られている。そして夜神は予想通り、倉庫での重傷者だった。意識不明というから好都合だ。今のうちに体勢を整える。ああ、分かっているだろうが全員といってもバラで来いよ。それでは向こうで会おう』
自分の用件だけ言い終えると唐突に切った。メロは呆れて自分の携帯電話を見やったが、気を取り直してふり返った。
「我らがスポンサー殿が新たな場所を確保した。これからそっちへ移動してくれとさ」
「メロ、『ワタリ』というのは? キルシュ・ワイミーの…」
模木が不思議そうに尋ねた。
「代表は、キラであり二代目Lの夜神に当てつけるために、これからは自分のことをワタリと呼べ、と言っている。まあ、この件のカタがつくまで本名を晒さないほうがいいだろうし」
「二代目の『ワタリ』は各国捜査機関がLと連絡をつけるためのコード名だろ。どんな反応するのかちょっと楽しみだな」
マットがにやりと笑う。恐らく混乱を来すだろうが、相手が身動きできないうちに『顧客』をさらうことができればいいのだ。
「それでもって、ニアの無事を確認。どうせ魅上ってのが連れ出したんだよな」
「そうだろうな…京都か、遠いな」
レスターが困り果てたようにため息をつくそばで、ジェパンニはつい先日までいた街のことを思い、やはり同様にため息をついた。
「心配だろうけどさ、ニアだって子どもじゃないんだから」
マットはSPKの二人のあまりに落ち込む様子に思わず慰めていた。
「子どもじゃない…それはそうなんだが…」
「…怪我をしているかもしれない、体調が心配だ。あの場にいた夜神が重傷なら、ニアも」
ニアの指揮下で動いていたという男二人の様子は、さながら小さな子どもを心配するそれだった。
マットは、ハウスにいた頃のニアしか知らない。あの子ども然として無口ではあったが、大人しいとは言えないしたたかな面と、自分より年下の面倒はそれなりにみていたことを知っているから、おかしな気分だった。
「倉庫の様子は、じきに分かるわ。そのとき、夜神以外の血液反応が出ないことを祈りましょう」
リドナーの言葉に二人は頷くと、立上った。
それぞれが目的地へ移動するための準備に部屋をでていくのを眺めながら、マットは口を開いた。
「…メロ、あの人ら、ニアのことをなんか誤解しているような気がする」
「ニアが自分のことを話していないなら、年齢だろ、勘違いしてるのは」
リドナーからは、ニアがある時期からよく体調を崩すようになったことは聞いていた。体力を温存するために、座り込んでいただけだったのが、寝転がるようにもなったとも。
「ああ、そうか。四年も会ってないけど、相変わらずちびっこいのかな」
「お前を呼びだす前に会ったけど、あまり変わってなかったな」
「お前はすっかり変わっちまったのになあ…病院行けよ〜」
七、八歳ごろだったか、一度だけ、メロはニアと取っ組みあいの喧嘩をしたことがある。あの頃はお互いが小さな身体だったために怪我もせずに済んだが、大人しいとばかり思っていたニアの激しい剣幕にたじろいだことがあった。
あの場にもいたマットは当然覚えているだろう。自分よりもニアと仲が良かったマットは、ニアの変調の原因の一端は自分にあることを知れば、一発か二発は殴ってくるだろうか。
「どうした、メロ?」
「…いや、向こうに行ってから言うわ…」
どうせ病院に行くのなら、怪我はまとめておいたほうがいいだろう、とくだらないことを考えて、上着を羽織った。
08.12.02
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