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 トラック  03


 ワタリが指示した物件は、あまり大きくはないオフィスビルだった。繁華街にほど近く、表の通りには多くの人が行き交う。観光客なのか、外国人も頻繁に見掛けるこの場所は、人の流れにすぐ紛れ込めて案外行動しやすいかもしれない。
 機材の手配があるSPKと模木とはいったん別れ、メロとマットは目的地へ向った。
 充分用心しての移動だったが、警察は全世界に広がる未曾有の大量突然死事件の対応に追われ不審な外国人など目もくれていないようで、あっけなく到着した。
「…ほんとに動くなら今って感じだなあ」
 ビルの前で見上げたマットは感心したようにつぶやく。道すがら、ずっとイヤホンと通信機を弄っていたメロも顔を上げた。
「ちっ、やっぱり死んでないか。丈夫な奴だ」
「夜神か?」
 右往左往する警察の無線を傍受していたが、倉庫炎上の情報が入ったのだ。軽傷の者が多数出てはいるが今のところ、重傷は一人しかいない。そしてその者は背中に重度の火傷を負ったものの生死を彷徨うものではないとあったのだ。そのやり取りをする警官の一人が安堵したように、「一人でも残ってよかった」と応えている。キラ対策本部全員が攻撃を受けたという前提で話しているのなら、倉庫炎上と捜査員三人の死もキラの仕業としているのかもしれない。
 ビルの中に入り、メロが傍受した内容を話すとマットは辿り着いたエレベーターのボタンを押して振り返った。
「じゃあ模木ってひとはどうなるんだ?」
「容疑が消えても、うかつに出ていけないだろうな」
「夜神がなにか仕掛けるかもしれない、か。あ、そうだ」
「なんだ?」
 上昇するエレベーターはすぐに目的のフロアに着いた。ドアが開ききらないうちに出た。
「夜神の顔、オレ知らない」
「俺も知らん」
 指定の部屋の前に来た。ドアは開いている。覗くと、まだ何もないがらんとしたなかに男が一人いた。窓からの光が逆光になっているからか表情が入口からでは判別できないが、黒い髪をしていた。老人の格好を解いたワイミーズ・ハウスの創設者代理にして現代表だ。会った当初から変装だということを聞いていたから構わず二人は声をかけた。
「来たぜ、ワタリ」
「うわ、年齢不詳! いぇででで……」
 マットのすっとんきょうな声と不躾な言葉の一瞬後、男は彼の両頬をひねり上げていた。
「ダイレクトにおっさん呼ばわりされるより腹が立つのはなんでだろうな〜、不思議だな〜、おい」
「おえんなひゃい〜〜〜〜〜」
 メロもマットと同じ感想だったのだが、口に出さなくて助かったと内心安堵した。最初に老人の姿を見ているせいか、まだハウスにいたころに見かけた姿よりも若いと思う。
 目の色も黒いが、強い光をはらんでいて、一見すると気難しい印象だった。
「で、とりあえずは拠点としてここを使うが」
「悪くないけどな…ここ他の人間もいるだろう、運送屋の看板があったぞ」
「ああ、心配するな。それは数年前に立ち上げた私の会社だ」
 マットの頬をひっぱりまわしながら、事も無げに言う。マットは相手の手首を掴んで抵抗しているが、力の差かまったく効果がない。
「数年前? なんで日本で」
 とりあえず、マットのことは置いておくことにしたメロは、代表を見上げた。
「アジア方面の施設の様子も見なきゃならんから、この国に行動拠点を作ったのさ。配達業の運営は、ハウスの運営資金にいくらか足しにするつもりだったって程度だが」
 今度は足で反撃しようとしたマットを、重心を後に倒させることであっさりと封じながら受け答える。相当に器用な人間なのかもしれない。マットは後に倒れそうになるのを必死で堪えていた。
「…まあ一番の理由は、墓守かね。ミスターワイミーとLはこの国で死んで、墓がここにある…花を手向ける人間が必要だろう」
 ようやくマットから手を放した。マットは放された頬を両手で押えながら涙目になっていた。
「あんた、あの二人の縁者かなにかなのか」
 メロが尋ね、赤くなった頬をさすりながらマットも口を開いた。
「あいてててて…、あんた、Lに似てるよな、猫背じゃないけど。兄弟?」
 何故か、二人の質問に複雑な表情をみせた。口元に手をやり、考え込む仕草を見せた。
「私も孤児だから違うと思うんだがな……いくらミスターワイミーでもこの方面は素人だと…いや、あれはオールラウンドいけたか」
 ぶつぶつとごちるような独り言のあとに続けた。
「Lがまだ三歳の頃、その頃はまだ名前がなかったが、とにかくあれと似た容姿だということで、子守りに抜擢されたことからの付き合いだから、兄弟みたいなものかもしれない」
「小さい頃のLを知っているのか…Lが実在していることを死んでから実感するのもへんな気分だ…」
 メロがしみじみと言うのを、マットが頷きながら受ける。
「模木って人もLと仕事したそうだし。二人だけでも知っている人間がいたってことが、そもそも不思議だ」
 いったいミスターワイミーやLは、ワイミーズ・ハウスの子どもたちにどんな認識を植え付けていたのか、その方が代表にとっては不可解だったが、マットの言葉を少し訂正した。
「LがLとして接していた人間がもう一人いるだろう」
「へ?」
「夜神月」
 即答したメロに、代表、ワタリはゆっくりと向き直った。

08.12.27

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