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トラック 04
「人形が足りない」
レスターの言葉にジェパンニが振り返った。
新たな拠点に移動するための機材をまとめていた時だった。レスターはニアの持ち物、量は多くはないが大半がおもちゃで、それらを段ボール箱に詰めていたのだ。
「…これは…ニアの手作りですか」
「ああ。セットのものはだいたい何かが欠けているんだが、この指人形はつい先日までニアが作っていたものなんだ」
昨日の早朝に再合流したジェパンニにとっては初めて見る人形だった。その小さな人形は、自分たちSPKやニア本人のものと思われる人形のほかに、キラ事件に関わる者たちが象られている人形が、塗料ケースのなかにあった。本来の中身の塗料は外に散らばっている。
「ほんとに器用だな、それもこんなにたくさん…それで足りないというのは?」
「メロのだ。一昨日作っているのをみたが…ニアが持っていると考えていいだろう」
ジェパンニはニア本人を象った人形をつまみあげた。目が丸く飛び出したようなユニークな顔立ちは、似ているとはとてもいえないし、作りも他のものより粗い。おそらくこれが最初に作られたものだろう。同じ顔立ちのものがもう一つあった。胸に(L)とある。
自分の仕事を終えたリドナーと模木も人形が置かれているテーブルの周りに集まった。
「メロの…ここにあるものからすると、また凝った作りでしょうね」
「顔の傷まできちんとつけて一番上手にできて………危ないわね、ちょっと」
テーブルに手をつき、転がる人形を見下ろしたリドナーは深刻な表情になっていた。
「……まずいですね、魅上は顔を見るだけで名前がわかると言ってませんでしたか」
「よく描かれている似顔絵でも名前は分からないと聞いているから、人形は大丈夫だろうが…」
模木は日本捜査本部の面々を象った人形を手に取っていたが、顔をあげて言葉を続けた。
「その人形が特徴をよく模しているというのなら、それを手がかりに探しだすということも可能だろう」
顔に大傷を負った欧米人というだけで、日本では、外国人が観光、商用、そして暮らす者も多数いる都市圏でも目立つだろう。
押し黙り、テーブルの上に転がった人形へ全員の視線が降りた。
二手に分かれ、レスターとリドナーが先に、遅れてジェパンニと模木が指定のビルへ向った。
繁華街近くの、そう大きくないありふれた外観のオフィスビルだった。一階が配送会社となっている。
裏手から地下の駐車場への入口がある。入ると、思った以上に広い空間に配送会社のトラックが整然と並び、その中に先行していたレスターたちの車が止めてあった。運転していたジェパンニは、その隣へハンドルを切る。
すぐに降り立った二人は建物への入口を兼ねているエレベータへ向ったが、二人同時に足を止めた。
「子どもが入り込んでいる」
奥の非常階段の中段ほどに、五歳ほどの男の子がちょこんと坐っていたのだ。こちらに気付くと、立上って上に上っていった。薄暗さのせいで判然としないが、金属製の階段を登る際の音のやわらかい響きが、この寒空に靴を履いていないのではないかと思わせた。
「……セキュリティがまだ整っていないのかな」
「近所に住む子だろうが、車も多いのに危ないな」
模木の言葉に頷きながら、ジェパンニはニアもあまり靴を履かなかったことを思いだした。いつも靴下のままフロアを歩き回っていた。ところかまわず座り込んだり寝転んだりしているのでかえって靴が邪魔なのだと、いつか言っていた。
「ニアは、本当に大丈夫だろうか…」
パジャマ然とした薄い服のまま、どこかへ監禁されていると思うと心が更に焦りだす。
「………」
二人は再び歩き出した。
09.03.18
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